貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(175)

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 これ以上の事を令嬢達とこの場で話しても仕方がない。

 ――また後日改めて彼女達に連絡を取り協力を仰ぐべきです。色々と使えましょう。

 そのようにコロンボ子爵に耳打ちされ、ルイージはもっともな意見だと思う。
 エリザベルとラヴィンヌを元の大広間までエスコートすると、謝意と共にさも名残惜しげに見えるよう、気持ち長めに手に口付けを落とす。

 「先程は、色々と教えて下さり感謝いたします。私は妃候補を探して暫くこの国に滞在するつもりですが、またお会いできるでしょうか?」

 その数十分後――

 「いやー、先刻はお見事でしたな。姫君達は皆揃って殿下の意味ありげな微笑みに頬を染めておりましたぞ」

 あれからルイージ達は再び大広間を巡り、ガリア王国としての必要最低限の社交をこなした後で宮殿内の一室に舞い戻って来ていた。

 今度はルイージと側近達だけでの作戦会議である。

 「おべっかは要らぬ、子爵」

 揶揄うコロンボ子爵を軽く流してルイージは溜息を吐いてソファに沈み込んだ。
 ルイージとて、必要とあらば心にもない美辞麗句を女に囁く位の事はする。

 お疲れですか? との言葉にルイージはじろりとコロンボ子爵を見遣った。

 「……そなたが考えている事は分かる。彼女達を懐柔して利用せよ、ということだろう? それも――ガリア王太子妃の地位を餌にして」

 「流石はルイージ殿下、その通りにございます。あの姫君達とそのご実家の協力が得られれば、随分とやりやすくなるかと」

 聖女に近付く危険性を知ってしまった今、聖女やその夫に警戒心を抱かせないように立ちまわる必要がある、とコロンボ子爵は言う。

 「ファウスト……俺がガリアの王太子である事が、何故かトラス貴族中で噂になっていたといったな」

 「はい。噂の出所までは分かりませんでしたが……」

 頷くボスコ伯爵令息ファウスト
 ルイージはふん、と鼻を鳴らした。

 「それを仕掛けた奴の目星はついているが、ここ敢えて策に乗ってやろう」

 先程大広間で見た限り、マーリオは何故か席まで用意され聖女の歓待を受けていた。ならば、自分はマーリオを懐柔して動かすまでのこと。

 「噂を流せ。ガリア王太子ルイージは、トラス貴族令嬢と満更でもなさそうだ、とな」

 「殿下の醜聞に繋がりかねませんが、宜しいのですか?」

 心配するファウストに、ルイージは笑みを浮かべる。

 「何、決定的な言葉を避けて言質を取られなければ問題無かろう」

 多少の危険リスクを冒さなければ得られぬものもある。
 聖女には興味ないという素振りを見せてあの赤髪の男を油断させつつ、エリザベル達を色恋で利用して更なる情報を集める。
 その一方で馬鹿なマーリオをせっついて聖女との親交を深めさせ、カラスの居ない時を見計らって聖女と接触する機会を得て、そうして金鉱山の交渉を持ち掛けるのだ。

 砂糖の出所も気にはなるが、その情報はついでに得られれば僥倖、という程度。金鉱山の方が重要度はずっと高い。

 そのように今後の方針を固めた彼らが大広間に戻った時――

 「聖女様! 我ら山岳国家ヘルヴェティアは、今この時を以って聖女様を元首に頂き、その庇護を受ける事を宣言致します!」

 丁度山岳国家ヘルヴェティアの代表者が聖女を元首に頂く事を表明していたところだった。

 ――やはり。

 ルイージ達は顔を見合わせた。


***


 諦めてくれたのなら、それはそれで大歓迎なんだけど……。

 そんなことを考えながら、大広間を行き交う貴族達の中にガリア王太子の姿を僕は探す。

 だけど、そう簡単に行くのだろうか。
 僕を睨んで来たあの表情からすると、あっさり引くとは到底思えない。

 もし僕がガリア王太子だったら――この状況を逆に利用するだろう。
 ガリア王太子の両腕にべったりと纏わりついていたのは元第二王子派の令嬢達、ネマランシ伯爵家のラヴィンヌとムーランス伯爵家のエリザベルの二人だ。
 先だっての小さな政変で領地替えや降爵処分をされてはいたが、それでも第二王子派はまだ一定の勢力を保っている。
 ムーランス伯爵家は元よりキャンディ伯爵家と険悪な関係にあり、ネマランシ伯爵家はエミリュノの横領の件が記憶に新しい。
 その背後にはドルトン侯爵家。
 ガリア王太子がそこまで味方として抱き込み、良からぬ画策をしたならば逆に厄介な事態になった可能性がある。
 そう考えるに至り、ナーテにワインを頼む振りをしてガリア王太子が気になると伝える。ナーテは一時離席した後、ワインを持って来て僕に渡しがてら「万事抜かりなく」と囁いた。

 「心配無用ですとカールが。王家の影と共同で見張っておりますから、後で情報共有頂けると思います」

 後ろを振り向くと、カールがにこりと微笑む。
 それなら今は時を待つ事にしよう。
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