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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(170)

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 「そうですが、貴女方は……」

 ルイージの問いに、先頭に居た一際美しい二人の令嬢達が前に進み出て、それぞれ淑女の礼を取る。

 「はしたなくもお声掛けしてしまい、大変失礼致しましたわ。お初にお目にかかります、私はネマランシ伯爵家のラヴィンヌと申します。あんまり素敵な方でいらっしゃるから、是非お話をしたいと思いましたの」

 「私もですわ。私はムーランス伯爵家のエリザベルと申します。私達、メテオーラ様の祖国ガリア王国には大変興味がございますわ。色々と教えて下さいまし」

 それを皮切りに、続々と名乗っていく令嬢達。
 ルイージが仕方なくガリアの王太子だと名乗ると、令嬢達は一斉に色めき立った。

 「まあ、やはり! 初めてお見掛けした時から、佇まいからして獅子のように凛々しくてハンサムなお方だと思っておりましたのよ!」

 「素敵……ガリアの方って情熱的だと聞いておりますわ」

 きゃあきゃあ、と黄色い声で騒がれ、ルイージは面食らう。
 気が付くと、女性達に周りをぐるりと囲まれてしまっていた。
 左右の腕には最初に名乗ったラヴィンヌとエリザベルの二人が腕を絡めて陣取っている。祖国と違い、ルイージは無理に振りほどく事も出来ず身動きが取れなくなってしまっていた。
 普段ならばそう悪い気はしなかっただろう。一番好みの娘を選び、一時の愛を交わすぐらいの事はしたかも知れない。
 しかしこの場は聖女のいる空間でもあった。聖女に悪印象を与えぬよう、ここはなるべく穏やかに、そして紳士的に抜け出さなければならない。

 「ご婚約者がまだいらっしゃらないから、我が国でも探されているとか……」

 「ルイージ殿下は、どのような女性がお好きなんですの?」

 問われ、ルイージは内心違和感を覚える。

 「……申し訳ありません、今はまだそんな事は考えられないのですよ。辛い思いをしたばかりですから……」

 メテオーラの方を見つつ、憂い顔を作って意味深な言い回しでの返答。
 これで大抵の女は勝手に解釈してくれるだろう。

 「ところで――私が婚約者を探している、と一体どなたからお聞きになったのですか?」

 引っかかったのは、そこだ。
 メテオーラか――それとも。

 しかし困ったように顔を見合わせる令嬢達の返答は、今この広間に居る貴族中で囁かれている話なのだという。私達も今日知ったのですわ、と。

 ――ということは、この広間に居る何者かがそのような噂を流したに違いない。

 助けを求めるべく広間に視線を彷徨わせる。
 ピロス公爵は見つけたものの、他国の大使と会談中でこちらに気付きもしなかった。
 他の者達はと探すがいかんせん人が多くて見つからない。
 ではメテオーラは――駄目だ、アルバート第一王子と共に貴族達の挨拶を受けている。
 するとその時、聖女の夫であるダージリン辺境伯と目が合った。こちらを見て、一瞬だがニヤリとしたような。

 ――もしかして、この状況はダージリン伯爵の仕業なのか。

 そう考えた瞬間、瞬時に怒りが込み上げた。卑しい商人上がりが考えそうな、姑息なやり方だ。

 ――よし、ならば俺は正面から堂々とその企みを破ってやる。

 令嬢達の会話を適当に流しつつ、ルイージは再び部下達を探そうと広間に目をやる。
 すると、偶然ピアッジョ卿と目が合ってしまった。
 弟――ガリア第三王子マーリオに付けていたが、背に腹は代えられない。『このままでは聖女様に挨拶に行けない、助けろ』と口の動きと視線の動きで訴えるルイージ。
 すると、ピアッジョ卿は何を思ったのか、慌てた様子で弟に何事かを囁いた。
 マーリオもこちらを見る。
 大方、『ルイージ救出の為に一旦離れます』とでも言ったのだろう――と思ったその矢先のことだった。

 こちらを見る弟マーリオは、何か覚悟を決めたかのような表情になったかと思うと、おもむろにすっくと立ち上がった。
 そしてルイ―ジの方ではなく、何故か聖女様の方へと歩き出したのである。

 ――どうしてそうなる!? おい、馬鹿そっちに行くな、何をするつもりだ!

 ルイージがぎょっとして、心中で制止の言葉を念ずるも、弟の歩みは止まらない。
 そして――

 「せせせせ聖女様への挨拶ならぼぼ僕がするんだな! ガッ、ガリア王国をだい、代表して聖女マリアージュ様にご挨拶申し上げます、なんだな!」

 大声でどもりながら紡がれた挨拶。ルイージは最悪の事態に思わず天を仰いだ。
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