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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
聖女専属侍祭。
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「マリー様、お時間にございます」
ソルツァグマ修道院の面々が退室し、私達も食事を終えた頃、前脚がグレイから借り受けた懐中時計を見て時を告げた。
礼を言って聖地の遠隔透視を開始する。瞼の裏に見えてきたのは、サングマ教皇が大聖堂に居並ぶ人々に対して説教をしている光景だった。
***
T字型の鳥の止まり木がサングマ教皇の目の前の説教台に一対、他周囲に幾つか。聖堂のあちこちには灯されていない蝋燭が設えられている。
私は精神感応能力を使って聖堂内の全ての人々をざっと確認した後、付近の鳥達を呼び集めた。
開けられた窓から扉から聖堂内に呼び込んで、とりわけ二羽のカラスは説教台の止まり木に止まらせる。
突如現れた鳥達に、その場にいた人々は混乱に騒めきだした。
中には私が聖地に行った時に居た人もいたようで、幾人かは祈りの所作をしている。
サングマ教皇が『静粛に!』と注目を引く為に声を上げた。
『聖女様です! 聖女様が遠きトラス王国の地より、今この瞬間カラスの目を通じてご覧になっておられるのです! さあ、皆で祈りましょう。
聖なるかな、聖なるかな! 大いなる太陽神、その娘たる聖なる乙女!』
それを合図に、私は発火能力を発動させた。
ポルタ―ガイストの如く、独りでにぽっぽっぽっと灯っていく蝋燭。
一瞬の後、聖堂内にどっと歓声と一部悲鳴が沸いた。
それは次第に太陽神と聖女への祈りの言葉へと変化していく。限られた時間で遠隔から出来ることはこれぐらいだが、後はサングマ教皇が良い具合に上手くまとめてくれることだろう。
そう、これは予め打ち合わせをした上での、聖地での新年の儀ににおける『聖女ちょこっと中継出演』なのである。
アレマニアで不寛容派の偽教皇が立ったことを受けての、寛容派の求心力と結束力を固める為のパフォーマンスという訳だ。
先程一部悲鳴が、と言ったが――それは不寛容派の内通者を見つけたので、発火能力の加減をうっかり間違えて着火してしまったからである。
それもサングマ教皇に精神感応で謝っておいたからまあ大丈夫だろう。
――多少は役に立てたと思う、うむ。
私は満足の中で中継出演を終えた。
***
聖堂に戻るといよいよ任命式である。先陣を切るのは神聖アレマニア帝国の皇子でもあるヴェスカル。
先行していた後ろ脚が速やかにルードヴィッヒ卿を前へと連れて来たのを確認して、私は聖堂全体の人々を見渡して、任命式を始める口上を述べた。
太陽神に祈りを捧げて、私は錫杖を斜めに掲げる。錫杖の先に向かって頭を垂れ、聖職者の跪拝をするヴェスカルに、私は厳かに告げた。
「ヴェスカル。今この時より、汝を私の聖女専属侍祭に任じます」
私が錫杖を立て直すと、グレイが箱を捧げ持ったサリューン枢機卿と共に近付いた。箱の中からある物を取り出すと、それはシャラリと涼やかな音を立てる。
グレイはそれを慎重に半身を起こしたヴェスカルのベルトにつけた。
そう、それはかの魔法の鏡とオルゴールボールを組み合わせた房飾りの小物入れ。
外側には聖地でも見た太陽を背にした聖女や天馬、鳥の絵が彫刻されている。また内側の鏡には、ヴェスカルの正式な名前と彼が私の名において聖女専属侍祭であることを認める文章が刻まれてあった。
光で反射させればその文章が投影される仕掛けだ。
勿論特注な上、偽造を防ぐ為に普通では分からないような場所に製造番号を小さく刻印されてあるという徹底ぶり。
宝石商のロベルトさんは実にいい仕事をしてくれた。
他、本日位階を上げられる者達には全て同じような仕様の小物入れが与えられる事になっている。
ちなみに何故最初ヴェスカルの名前を正式なもので呼ばなかったというと、彼を有象無象のちょっかいから守る為だ。
サリューン枢機卿が、朗々と響く声で告げた。
「聖女様の専属侍祭は、ただの侍祭と違い、聖女様に付き添い奉仕をすること、聖女様が関わられる諸々の儀式において、聖女様を補助することがお役目――聖女専属侍祭ヴェスカルには、聖女様よりその身を証する装飾品と香炉が授与されます」
ヴェスカルは再び跪拝すると、「聖女様の御為、このヴェスカルは全身全霊を以てお仕え致しますことを、太陽神ソルヘリオスに誓います!」と堂々たる宣誓。
ルードヴィッヒ卿は孫の雄姿に涙ぐんでいる。
「ヴェスカル、期待していますよ」と微笑みながら私が言うと、誰からともなく拍手が始まり――やがて聖堂内に響き渡る程大きくなっていった。
ソルツァグマ修道院の面々が退室し、私達も食事を終えた頃、前脚がグレイから借り受けた懐中時計を見て時を告げた。
礼を言って聖地の遠隔透視を開始する。瞼の裏に見えてきたのは、サングマ教皇が大聖堂に居並ぶ人々に対して説教をしている光景だった。
***
T字型の鳥の止まり木がサングマ教皇の目の前の説教台に一対、他周囲に幾つか。聖堂のあちこちには灯されていない蝋燭が設えられている。
私は精神感応能力を使って聖堂内の全ての人々をざっと確認した後、付近の鳥達を呼び集めた。
開けられた窓から扉から聖堂内に呼び込んで、とりわけ二羽のカラスは説教台の止まり木に止まらせる。
突如現れた鳥達に、その場にいた人々は混乱に騒めきだした。
中には私が聖地に行った時に居た人もいたようで、幾人かは祈りの所作をしている。
サングマ教皇が『静粛に!』と注目を引く為に声を上げた。
『聖女様です! 聖女様が遠きトラス王国の地より、今この瞬間カラスの目を通じてご覧になっておられるのです! さあ、皆で祈りましょう。
聖なるかな、聖なるかな! 大いなる太陽神、その娘たる聖なる乙女!』
それを合図に、私は発火能力を発動させた。
ポルタ―ガイストの如く、独りでにぽっぽっぽっと灯っていく蝋燭。
一瞬の後、聖堂内にどっと歓声と一部悲鳴が沸いた。
それは次第に太陽神と聖女への祈りの言葉へと変化していく。限られた時間で遠隔から出来ることはこれぐらいだが、後はサングマ教皇が良い具合に上手くまとめてくれることだろう。
そう、これは予め打ち合わせをした上での、聖地での新年の儀ににおける『聖女ちょこっと中継出演』なのである。
アレマニアで不寛容派の偽教皇が立ったことを受けての、寛容派の求心力と結束力を固める為のパフォーマンスという訳だ。
先程一部悲鳴が、と言ったが――それは不寛容派の内通者を見つけたので、発火能力の加減をうっかり間違えて着火してしまったからである。
それもサングマ教皇に精神感応で謝っておいたからまあ大丈夫だろう。
――多少は役に立てたと思う、うむ。
私は満足の中で中継出演を終えた。
***
聖堂に戻るといよいよ任命式である。先陣を切るのは神聖アレマニア帝国の皇子でもあるヴェスカル。
先行していた後ろ脚が速やかにルードヴィッヒ卿を前へと連れて来たのを確認して、私は聖堂全体の人々を見渡して、任命式を始める口上を述べた。
太陽神に祈りを捧げて、私は錫杖を斜めに掲げる。錫杖の先に向かって頭を垂れ、聖職者の跪拝をするヴェスカルに、私は厳かに告げた。
「ヴェスカル。今この時より、汝を私の聖女専属侍祭に任じます」
私が錫杖を立て直すと、グレイが箱を捧げ持ったサリューン枢機卿と共に近付いた。箱の中からある物を取り出すと、それはシャラリと涼やかな音を立てる。
グレイはそれを慎重に半身を起こしたヴェスカルのベルトにつけた。
そう、それはかの魔法の鏡とオルゴールボールを組み合わせた房飾りの小物入れ。
外側には聖地でも見た太陽を背にした聖女や天馬、鳥の絵が彫刻されている。また内側の鏡には、ヴェスカルの正式な名前と彼が私の名において聖女専属侍祭であることを認める文章が刻まれてあった。
光で反射させればその文章が投影される仕掛けだ。
勿論特注な上、偽造を防ぐ為に普通では分からないような場所に製造番号を小さく刻印されてあるという徹底ぶり。
宝石商のロベルトさんは実にいい仕事をしてくれた。
他、本日位階を上げられる者達には全て同じような仕様の小物入れが与えられる事になっている。
ちなみに何故最初ヴェスカルの名前を正式なもので呼ばなかったというと、彼を有象無象のちょっかいから守る為だ。
サリューン枢機卿が、朗々と響く声で告げた。
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ヴェスカルは再び跪拝すると、「聖女様の御為、このヴェスカルは全身全霊を以てお仕え致しますことを、太陽神ソルヘリオスに誓います!」と堂々たる宣誓。
ルードヴィッヒ卿は孫の雄姿に涙ぐんでいる。
「ヴェスカル、期待していますよ」と微笑みながら私が言うと、誰からともなく拍手が始まり――やがて聖堂内に響き渡る程大きくなっていった。
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