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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
年末年始の風物詩。
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「ジャンから相当嫌味言われるんだろうなぁ……」
次の日、グレイは朝早くからそんな事をぼやきながら商会へと出かけて行った。処理の終わった年度末会計結果の確認、年末の従業員への挨拶等、その他諸々あるそうで。
年始には以前キャンディ伯爵領都アルジャヴリヨン支店で成功した福袋も売られるそうだ。王都でも採算が十分に見込めると判断されたのだろう。
そんな話をすると、私の髪を結いつつサリーナがどこかそわそわしているような。
「実は福袋が楽しみで」
普段はクールな彼女が、少し恥ずかしそうに言う。
聞けば、グレイに代わりキーマン商会の実務を取り仕切っているジャン・バティストは、抜け目なく家の使用人達に福袋の予約販売を持ち掛けていた模様。
侍女仲間達でアクセサリーや服、化粧品の福袋を予約したらしい。
一方の男連中はお酒の福袋を注文する者が多かったとか。
いいね、そう言う楽しみ。人数が居ればサイズや趣味が合わなかったりしたものは交換出来るし。
そう言うと、サリーナの目がかっと見開いた。
「その手がありましたか!」
「それも福袋の醍醐味って奴よ」
と言いつつも、私もキーマン商会の福袋……どんなのかが気になってきたんだけど。
届けられたら見せて貰う事にしよう――等と、考えていたのだが。
……何故今まで失念していたのだろうか。
日課の乗馬、愛馬の上。
福袋から始まり、前世での年末年始のあれこれを思い浮かべていた私は、ふとその事に思い当り呆然としていた。
そうよ。年末年始と言えば宝くじ。
宝くじと言えば、日本では摂津・箕面の瀧安寺発祥と言われている、寺社の専売特許!
つまりこの世界では教会――聖女たる私の専売特許となるのだ!
義兄アールの働きのお蔭で銀行業も順調である以上、今年こそは間に合わないが来年には必ず宝くじ利権を作り上げねばなるまい。
そしてその宝くじで儲けたお金で公共事業をしてみせようぞ!
「ああ、実に楽しみ~♪」
となれば利権を囲い込む為にトラス王国での法整備を働きかけねば。
宝くじ製造や販売等の下請け業者はキーマン商会に部門を作って貰って。当せん金の支払いは義兄アールの銀行に指定すれば良い。
ネックは偽造防止である。
透かし技術そのものは銀行券にも使われておりこの世界でも存在しているようだが、黒透かし技術はまだのようだ。技術を独占使用するのは勿論だが、通し番号にも工夫が必要になるだろう。
宝くじ運営で寛容派は力を強める。私の小遣いも増える、間違いない。
想像するだに私の気分は上々、本日は快晴なり。。
私は馬上で上機嫌にピシリと鞭を振るった。
「『おはようございます、皆さん』!」
「「「『おはようございます、アンシェル先生』」」」
朝食後、私は気になっていた変人教師ロマン・アンシェルによるトラス語教室を覗きに向かった。
彼らに与えられた教室は、父の執務室のある本館の、使っていない大き目の部屋。そこに黒板や机と椅子を運び込んでそれらしく仕立て上げたのである。
挨拶の声。そっと窓から中を窺うと、サイア達エスパーニャ人、フソウ人のヨシヒコ一家、ナトゥラ大陸出身でロマンの妻ンャライが授業を受けていた。
「リピート・アフター・ミー――『良いお年を!』」
「「「『良いお年を!』」」」
「続けて――『あけましておめでとう!』」
「「「『あけましておめでとう!』」」」
日常挨拶が終わった後、年末と年始の挨拶も元気に練習している。
生徒となっている彼らの顔を見て精神感応で探る限り、今の所お互い上手くやれているようだ。
まあ、言葉が通じないという事で争いも起こり難いという面もあるだろう。
一方教師のロマンはナトゥラ大陸でガチンコフィールドワークをしてきただけあって、教えるのが上手い。変人なのはさておきなかなか良い教師のようだ。
「ロマン・アンシェルの提案で全員完成間際のダージリン伯爵邸の方へ引っ越したとはいえ、不便してないかしら?」
実は彼らはつい最近までキャンディ伯爵家の客間に住んでいたのだが……ダージリン伯爵邸の使用人部屋が出来てまだ使っていないという事で、そこへアンシェル共々全員引っ越して行ったのである。勿論彼らが日常生活に困らない程度にトラス語が出来るようになり、領地へ引っ越すまでの期間限定の話。
侍女伝てによれば、「あんまり良すぎる部屋は落ち着かない」らしい。
そこから本館まで屋敷の敷地を突っ切っての集団通学でここまで通う事に。その道すがらも、草だの花だの石だの日常単語を教えているそうだ。
「こちらだと、屋敷内で教室に入れるので外に余り出る機会が無く、精神上もあまり宜しくない――そう、ロマンが申していたそうです」
サリーナが説明する。確かに太陽の光を浴びて歩く事は脳内幸せ物質分泌に関わって来るからな。ロマンの言う通り、鬱防止には通学する環境の方が良いのかも知れない。
キリの良い所で教室の扉をノックして顔出しをする。精神感応で不便などないかと訊いてみたが、言語教室と衣食住の保証のお礼と共に身分相応の場所が落ち着くのだと言われた。
ちなみに帰り際、全員からの習いたての挨拶を矢継ぎ早に受ける事に。
「「「『聖女様、良いお年を!』」」」
「ありがとう、あなた達もね!」
私は淑女の礼を以て返事をする。
精神感応を使えば意志疎通には困らないものの、敢えて言葉を使うのも趣深くて良きかな。
***
そんな何気ない一日になるかと思った矢先――数時間後。
目の前には、柔和な顔立ちだが眼光鋭くこちらを見つめる一人の老貴族が紳士の礼を取っていた。
「初めまして、お目にかかれて光栄に存じます。聖女様におかれましては孫が大変お世話になりまして」
ヴェスカルが不安気に私のドレスの一部をぎゅっと握りしめる。それまで和やかに共に会食を愉しんでいた皇女エリーザベトが、ヴェスカルを守るように前へ進み出た。
次の日、グレイは朝早くからそんな事をぼやきながら商会へと出かけて行った。処理の終わった年度末会計結果の確認、年末の従業員への挨拶等、その他諸々あるそうで。
年始には以前キャンディ伯爵領都アルジャヴリヨン支店で成功した福袋も売られるそうだ。王都でも採算が十分に見込めると判断されたのだろう。
そんな話をすると、私の髪を結いつつサリーナがどこかそわそわしているような。
「実は福袋が楽しみで」
普段はクールな彼女が、少し恥ずかしそうに言う。
聞けば、グレイに代わりキーマン商会の実務を取り仕切っているジャン・バティストは、抜け目なく家の使用人達に福袋の予約販売を持ち掛けていた模様。
侍女仲間達でアクセサリーや服、化粧品の福袋を予約したらしい。
一方の男連中はお酒の福袋を注文する者が多かったとか。
いいね、そう言う楽しみ。人数が居ればサイズや趣味が合わなかったりしたものは交換出来るし。
そう言うと、サリーナの目がかっと見開いた。
「その手がありましたか!」
「それも福袋の醍醐味って奴よ」
と言いつつも、私もキーマン商会の福袋……どんなのかが気になってきたんだけど。
届けられたら見せて貰う事にしよう――等と、考えていたのだが。
……何故今まで失念していたのだろうか。
日課の乗馬、愛馬の上。
福袋から始まり、前世での年末年始のあれこれを思い浮かべていた私は、ふとその事に思い当り呆然としていた。
そうよ。年末年始と言えば宝くじ。
宝くじと言えば、日本では摂津・箕面の瀧安寺発祥と言われている、寺社の専売特許!
つまりこの世界では教会――聖女たる私の専売特許となるのだ!
義兄アールの働きのお蔭で銀行業も順調である以上、今年こそは間に合わないが来年には必ず宝くじ利権を作り上げねばなるまい。
そしてその宝くじで儲けたお金で公共事業をしてみせようぞ!
「ああ、実に楽しみ~♪」
となれば利権を囲い込む為にトラス王国での法整備を働きかけねば。
宝くじ製造や販売等の下請け業者はキーマン商会に部門を作って貰って。当せん金の支払いは義兄アールの銀行に指定すれば良い。
ネックは偽造防止である。
透かし技術そのものは銀行券にも使われておりこの世界でも存在しているようだが、黒透かし技術はまだのようだ。技術を独占使用するのは勿論だが、通し番号にも工夫が必要になるだろう。
宝くじ運営で寛容派は力を強める。私の小遣いも増える、間違いない。
想像するだに私の気分は上々、本日は快晴なり。。
私は馬上で上機嫌にピシリと鞭を振るった。
「『おはようございます、皆さん』!」
「「「『おはようございます、アンシェル先生』」」」
朝食後、私は気になっていた変人教師ロマン・アンシェルによるトラス語教室を覗きに向かった。
彼らに与えられた教室は、父の執務室のある本館の、使っていない大き目の部屋。そこに黒板や机と椅子を運び込んでそれらしく仕立て上げたのである。
挨拶の声。そっと窓から中を窺うと、サイア達エスパーニャ人、フソウ人のヨシヒコ一家、ナトゥラ大陸出身でロマンの妻ンャライが授業を受けていた。
「リピート・アフター・ミー――『良いお年を!』」
「「「『良いお年を!』」」」
「続けて――『あけましておめでとう!』」
「「「『あけましておめでとう!』」」」
日常挨拶が終わった後、年末と年始の挨拶も元気に練習している。
生徒となっている彼らの顔を見て精神感応で探る限り、今の所お互い上手くやれているようだ。
まあ、言葉が通じないという事で争いも起こり難いという面もあるだろう。
一方教師のロマンはナトゥラ大陸でガチンコフィールドワークをしてきただけあって、教えるのが上手い。変人なのはさておきなかなか良い教師のようだ。
「ロマン・アンシェルの提案で全員完成間際のダージリン伯爵邸の方へ引っ越したとはいえ、不便してないかしら?」
実は彼らはつい最近までキャンディ伯爵家の客間に住んでいたのだが……ダージリン伯爵邸の使用人部屋が出来てまだ使っていないという事で、そこへアンシェル共々全員引っ越して行ったのである。勿論彼らが日常生活に困らない程度にトラス語が出来るようになり、領地へ引っ越すまでの期間限定の話。
侍女伝てによれば、「あんまり良すぎる部屋は落ち着かない」らしい。
そこから本館まで屋敷の敷地を突っ切っての集団通学でここまで通う事に。その道すがらも、草だの花だの石だの日常単語を教えているそうだ。
「こちらだと、屋敷内で教室に入れるので外に余り出る機会が無く、精神上もあまり宜しくない――そう、ロマンが申していたそうです」
サリーナが説明する。確かに太陽の光を浴びて歩く事は脳内幸せ物質分泌に関わって来るからな。ロマンの言う通り、鬱防止には通学する環境の方が良いのかも知れない。
キリの良い所で教室の扉をノックして顔出しをする。精神感応で不便などないかと訊いてみたが、言語教室と衣食住の保証のお礼と共に身分相応の場所が落ち着くのだと言われた。
ちなみに帰り際、全員からの習いたての挨拶を矢継ぎ早に受ける事に。
「「「『聖女様、良いお年を!』」」」
「ありがとう、あなた達もね!」
私は淑女の礼を以て返事をする。
精神感応を使えば意志疎通には困らないものの、敢えて言葉を使うのも趣深くて良きかな。
***
そんな何気ない一日になるかと思った矢先――数時間後。
目の前には、柔和な顔立ちだが眼光鋭くこちらを見つめる一人の老貴族が紳士の礼を取っていた。
「初めまして、お目にかかれて光栄に存じます。聖女様におかれましては孫が大変お世話になりまして」
ヴェスカルが不安気に私のドレスの一部をぎゅっと握りしめる。それまで和やかに共に会食を愉しんでいた皇女エリーザベトが、ヴェスカルを守るように前へ進み出た。
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