貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

カレル兄の好みの女性。

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 「こらっ、大人しくしろ!」

 「臭っ、どうどう!」

 手に体に。ラクダの吐いた臭い白い泡をくっつけられ、嫌な顔をしながらも取り押さえる馬の脚共ヨハンとシュテファン
 ああ、お前達の忠誠と犠牲は忘れない。

 「お怪我はありませんか?」との後ろ脚シュテファンの言葉に、「ええ、何とか無事よ」と返す。
 向こうからジルベリクとアヤスラニ人達が連れ立って来たので、カレル兄は私を地面に降ろした。

 「ラクダ達は一体どうしたんだ? 病気になったのか?」

 「いえ、実は……」

 ジルベリクはアヤスラニ人達を見る。
 うち一人、通訳の人が説明するところによれば、ラクダは冬が恋の季節とのこと。
 そんな時期、旅の途中では環境が変わったストレスで抑制されていたものが、キャンディ伯爵家に慣れて来たお陰で一気に出て来たのだと思われます、と語った。

 「何でも、口から泡を吹いたり袋を出したりするのは、雄ラクダが雌を取り合って争う時だそうです」

 と纏めるジルベリク。

 「口から出していた袋ですが、大きいのを出すラクダ程、雌に人気のある強い雄だとか……」

 「何という……」

 絶句するカレル兄。
 私もラクダがそんな生態だったなんて知らなかった。

 「てことは、この子がラクダ界の『麗しき月光の君』ってこと?」

 一番大きな肉袋をぶら下げていたラクダを指差すと。

 「俺を引き合いに出すのはやめろ、地味に効く……」

 カレル兄が死んだ魚のような目になった。


***


 私達は走り回り逃げ回って汗をかいたし、馬の脚共もラクダの白い泡唾液を洗い流したいだろう、という事で屋敷に急ぐ。

 馬の脚共と別れ、屋敷に入る直前になって。
 私はふと用事を思い出してカレル兄を引き留めた。少々汚いけど、どうせ着替えるんだ。

 「実はカレル兄に訊きたい事があって」

 「何だ?」

 階段に腰を下ろして促すと、カレル兄は訝し気な表情をしながらも隣に座った。

 「実は……リュシー様の事なんだけどね。カレル兄は彼女の事、どう思っているのかって」

 「リュサイ陛下の事か……どう思っている、とは?」

 「恋愛的な意味で、よ」

 「あの方の好意は気付いているが、彼女はカレドニアの女王陛下。正直、恋愛以前の問題だ。
 それに、俺はこの国を離れるつもりはない。はねっ返りの妹も居る事だしな。それにしても、何でそんな事を訊くんだ?」

 「えっと、口じゃ言えないから」

 精神感応を使ってカレル兄の脳に直接説明する。グレイ――というかルフナー子爵家が実はカレドニアの王族だった事、女王リュサイの想い、騎士ドナルドの思惑等も全て。

 「はぁ……色々驚くべき事実が出て来たな。まさかあいつが」

 全てを伝え終わると、カレル兄はこめかみを押さえた。

 「お前はどうなんだ? 夫を王にしたいのか?」

 「そうねぇ、本人が嫌がっているからあんまりしたくないわね。でも、リュシー様にカレドニア女王としてアルビオンに対抗出来るとはちょっと思えないのよ。だから――」

 自分の考えを精神感応で伝えると、カレル兄は「ある意味離れ業だが、確かにそれなら丸く収まりそうだな」と頷いた。

 「問題は――アルビオン王国の出方か」

 「ええ。レアンドロ王子が勝てば、大分力を削る事が出来る。そこへ疫病が来れば、アルビオンはカレドニアに攻め入っている場合ではなくなるのでは、と期待しているんだけどね」

 「上手くいけば良いな」

 「ところで。リュシー様でもリシィ様でも駄目なら、カレル兄ってどんな人が好みなの? より取り見取りだと思うけど」

 「そうだな……身分がそこそこに釣り合っていて、面倒な立場もしがらみもない――何より一緒に居て落ち着ける女性が良いかな」

 溜息を吐くカレル兄。

 「四六時中、気を遣うような相手はちょっとな……」

 確かに相手が女王や皇女では気が休まるとは思えない。
 可哀想だが、二人共カレル兄の対象外だった訳だ。
 それに――

 「美形の恋愛は減点方式だっていうし、カレル兄は苦労してそうね」

 どういう意味だと訊かれたので説明すると、カレル兄は「そうなんだよな」と同意する。

 「贅沢かも知れないが、俺に理想や幻想を求めて来ない相手が良い。後、偏執的に追いかけて来ないような相手な」

 まあ、社交界のアイドルみたいなもんだからな。
 熱心な信奉者ファンも居て、時には勝手に期待されて勝手に幻滅されるみたいなことが何度かあったんだろう。後、ストーカーもされたに違いない。

 んー……。

 カレル兄の場合、恋に恋するような若い女性よりも、現実をしっかり見れる芯の強い姉さん女房的な感じの女性が良いかも知れないな。

 「分かったわ、教えてくれてありがとう」

 丁度昼食の時間だと侍女が呼びに来たので、私達は一旦着替える為にそれぞれの部屋へと戻ったのだった。
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