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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
皇女エリーザベトの相談。
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「マリー」
カレル兄が皇女エリーザベトを伴ってやってきたのは、最終リハーサルが完了したタイミングだった。
皇女エリーザベトは意気消沈しているようだ。そんな彼女を気遣わし気に見るカレル兄。
メンデル修道院長に、院長室を借りる。
私とグレイ、カレル兄、皇女エリーザベトがテーブルを囲む。他、前脚、後ろ脚、中脚が護衛の配置についた。
私達夫婦の侍女サリーナとナーテ、そしてエリーザベトの侍女ヘルミーネが給仕に回る。
「リシィ様、急ぎご相談があるとか。私の儘ならぬ身でこちらまでいらして下さり申し訳ありませんでしたわ」
「いいえ、そんな。私の方こそ、無理を申し上げました……」
この場を設けて下さっただけでも感謝致しますわ、と頭を下げる皇女エリーザベト。
私は彼女の旋毛をじっと見つめる。精神感応を使って相談内容を探ると――
「は、はぁ!?」
「マリー様?」
「い、いえ……何でもないわ。ごめんなさい」
怪訝そうに訊ねられ、私は慌てておほほと笑って取り繕う。
成程。神聖アレマニア皇帝による帰還命令――からの、ルーシ帝国へ嫁がせられようと。
「ご相談の前に、少し時間を頂けるかしら?」
私は一旦断ってから祈りの所作をして精神統一する。探る先は――
***
「アーダム殿下達を釈放するべく魔女に支払った商船五十隻分の建造費等という莫大な賠償金は国家財政に大きな打撃となっております! 即刻取り戻すべきかと!」
「そうですとも! 皇子殿下、教皇猊下、大司教猊下のお三方が既に国へ戻られた以上、全てを履行する必要はありますまい」
神聖アレマニア皇帝ルードルフ・フォン・ズィルバーブルクは、気だるげに玉座の肘置きに頬杖をついていた。
見た目とは裏腹に心中では苦悩し、目まぐるしく考えを巡らせている。
太陽宮から消えたエトムント枢機卿、そして寛容派貴族達。
代わりに、アブラーモ、デブランツ達不寛容派とそれに阿る貴族達が我が物顔で闊歩するようになった。
目の前では、不寛容派貴族達が侃々諤々と議論を延々繰り広げている。その様子を息子のアーダム第一皇子が腕を組んで眺めていた。
――いずれ聖地の教皇から何らかの反応が来る事だろう。頭の痛いことだ。
その時、皇帝ルードルフはどちらに味方するのかと決断を迫られることだろう。
内心溜息を吐く皇帝。
全く、アブラーモ大司教が相談も無しに教皇僭称をしたお蔭で難しい舵取りをせねばならなくなったものだ。
表立って教皇僭称を非難すれば不寛容派貴族達が離反する。
さりとてそれに賛同するのも寛容派、ひいては聖地、聖女を敵に回してしまう。
あの場で皇帝に出来た事は、意思表示をせずただ成り行きを見守る事だけだった。
第一皇子アーダムもまた同じ考えのようで、どちらに味方すると宣言する事は無く。皇帝選挙に有利になるように動いて行くつもりだろう。
今、アブラーモ教皇とデブランツ大司教は教皇庁を建てようと躍起になって金集めに奔走している。太陽神の恩赦状も復活させた。選帝侯も不寛容派貴族達から選ぶべしとあちこちで言って回っているようだ。
寛容派から選帝侯位を取り上げるべきというのは本人達に瑕疵が無いからと阻止したが、代わりに不寛容派の選帝侯を増やす方向に切り替えたようだ。
選帝侯に選ばれたい貴族達は歓心を買う為幾らでも金を積み上げるという訳である。
如何にして寛容派を太陽宮に引き戻すか。
いずれにせよ寛容派への使いを出さねばならないが、問題の無い人材は貴族の中には居なかった。
卑しい商人風情に頼るのは癪だが、適当な理由を付けて豪商アントン・ヴァッガーを召し出すべきかも知れぬ。
皇帝がつらつらと考えていると、聖女への賠償内容を今からでも無かったことにするべきだという意見でまとまり始めていた。
「さようさよう、銀行とやらの営業許可は取消し。石炭・鉄鉱の採掘権も取り返すべきですな!」
そこで初めて第一皇子が発言した。
「そなたら、皇帝陛下が一度承認された事を覆すつもりか? 神聖アレマニア皇帝の器量を疑われかねぬぞ」
カレル兄が皇女エリーザベトを伴ってやってきたのは、最終リハーサルが完了したタイミングだった。
皇女エリーザベトは意気消沈しているようだ。そんな彼女を気遣わし気に見るカレル兄。
メンデル修道院長に、院長室を借りる。
私とグレイ、カレル兄、皇女エリーザベトがテーブルを囲む。他、前脚、後ろ脚、中脚が護衛の配置についた。
私達夫婦の侍女サリーナとナーテ、そしてエリーザベトの侍女ヘルミーネが給仕に回る。
「リシィ様、急ぎご相談があるとか。私の儘ならぬ身でこちらまでいらして下さり申し訳ありませんでしたわ」
「いいえ、そんな。私の方こそ、無理を申し上げました……」
この場を設けて下さっただけでも感謝致しますわ、と頭を下げる皇女エリーザベト。
私は彼女の旋毛をじっと見つめる。精神感応を使って相談内容を探ると――
「は、はぁ!?」
「マリー様?」
「い、いえ……何でもないわ。ごめんなさい」
怪訝そうに訊ねられ、私は慌てておほほと笑って取り繕う。
成程。神聖アレマニア皇帝による帰還命令――からの、ルーシ帝国へ嫁がせられようと。
「ご相談の前に、少し時間を頂けるかしら?」
私は一旦断ってから祈りの所作をして精神統一する。探る先は――
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「アーダム殿下達を釈放するべく魔女に支払った商船五十隻分の建造費等という莫大な賠償金は国家財政に大きな打撃となっております! 即刻取り戻すべきかと!」
「そうですとも! 皇子殿下、教皇猊下、大司教猊下のお三方が既に国へ戻られた以上、全てを履行する必要はありますまい」
神聖アレマニア皇帝ルードルフ・フォン・ズィルバーブルクは、気だるげに玉座の肘置きに頬杖をついていた。
見た目とは裏腹に心中では苦悩し、目まぐるしく考えを巡らせている。
太陽宮から消えたエトムント枢機卿、そして寛容派貴族達。
代わりに、アブラーモ、デブランツ達不寛容派とそれに阿る貴族達が我が物顔で闊歩するようになった。
目の前では、不寛容派貴族達が侃々諤々と議論を延々繰り広げている。その様子を息子のアーダム第一皇子が腕を組んで眺めていた。
――いずれ聖地の教皇から何らかの反応が来る事だろう。頭の痛いことだ。
その時、皇帝ルードルフはどちらに味方するのかと決断を迫られることだろう。
内心溜息を吐く皇帝。
全く、アブラーモ大司教が相談も無しに教皇僭称をしたお蔭で難しい舵取りをせねばならなくなったものだ。
表立って教皇僭称を非難すれば不寛容派貴族達が離反する。
さりとてそれに賛同するのも寛容派、ひいては聖地、聖女を敵に回してしまう。
あの場で皇帝に出来た事は、意思表示をせずただ成り行きを見守る事だけだった。
第一皇子アーダムもまた同じ考えのようで、どちらに味方すると宣言する事は無く。皇帝選挙に有利になるように動いて行くつもりだろう。
今、アブラーモ教皇とデブランツ大司教は教皇庁を建てようと躍起になって金集めに奔走している。太陽神の恩赦状も復活させた。選帝侯も不寛容派貴族達から選ぶべしとあちこちで言って回っているようだ。
寛容派から選帝侯位を取り上げるべきというのは本人達に瑕疵が無いからと阻止したが、代わりに不寛容派の選帝侯を増やす方向に切り替えたようだ。
選帝侯に選ばれたい貴族達は歓心を買う為幾らでも金を積み上げるという訳である。
如何にして寛容派を太陽宮に引き戻すか。
いずれにせよ寛容派への使いを出さねばならないが、問題の無い人材は貴族の中には居なかった。
卑しい商人風情に頼るのは癪だが、適当な理由を付けて豪商アントン・ヴァッガーを召し出すべきかも知れぬ。
皇帝がつらつらと考えていると、聖女への賠償内容を今からでも無かったことにするべきだという意見でまとまり始めていた。
「さようさよう、銀行とやらの営業許可は取消し。石炭・鉄鉱の採掘権も取り返すべきですな!」
そこで初めて第一皇子が発言した。
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