貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(128)

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 僕の先祖とこれからのカレドニア王国のことばかり考えている訳にはいかない。
 サイモン様と僕は、異国間で交わされる婚約の承認を陛下に頂く為にトゥラントゥール宮殿へと向かった。
 時間が喫緊している為、事前にイドゥリースとスレイマン、メリー様を交えて婚約式のことやイドゥリースのトラス王国での地位身分について話し合った上でのことだ。

 オディロン陛下とアルバート第一王子殿下にお目通りし、婚約の件に関してお伺いを立てる。
 その際、極力人払いをした場を設けて貰えることとなった。
 陛下は反対しないだろうけれど――やいのやいの言う貴族達に余計な妨害をされては困るから念の為。
 婚約の件を報告してお伺いを立てると、陛下は驚いたように目を少し見開いた。

 「何と、賢者イドゥリース殿とメルローズ嬢が婚約とは……」

 「おめでとうございます、サイモン卿」

 「ありがとうございます。実は以前よりメルローズはイドゥリース殿に熱を上げておりまして。先日マリアージュへの誕生日の贈り物がアヤスラニ帝国から届いたのですが、その時アヤスラニ帝国皇帝からの書状があると特使殿に渡されたのです。
 中を改めますと、我が四女メルローズとの縁談の申し込み及びイドゥリース殿の財産を保証するのでこの国での相応しい身分を用意して欲しいとの旨が認めてありました。こちらはオディロン陛下宛の親書、そしてこちらはマリアージュからの手紙にございます」

 御覧ください、とオディロン陛下に二通の手紙を渡すサイモン様。内一通は婚約手続きに必要だからと、皇帝イブラヒーム本人にしたためて貰ったもの。オディロン陛下個人に宛てたトラス語翻訳付きの正式な親書だ。
 オディロン陛下は二通の手紙に目を通した後、語学に堪能な官吏を呼びにやらせる。翻訳等に間違いが無いか中を改めさせた。
 確かに皇帝イブラヒームからの親書で間違いない、と確認が取れる。

 「ふうむ、相分かった。婚約を認める前に疑問があるのだが、聖女様と特使殿がここに来ていないのは何故だ?」

 「妻は婚約式の準備を手伝っております。そして特使殿ですが――あの方が仰るには、アヤスラニ皇帝に婚約式を見届けてから国に戻るようにと命を受けた、と」

 僕がそう説明すると、アルバート王子が肩を竦めた。

 「それは残念です。親としては息子の婚約式は気になるところでしょうね。しかし親書であれば特使が届けに来るのが筋というものでは?」

 「確かにそうなのですが、ええと……」

 マリーは今大急ぎで婚約式の計画を立てているところだ。キャンディ伯爵家以上にこの国が試されている、と陛下達にどう説明したものか。
 言葉を濁す僕の後をサイモン様が引き取る。

 「流石豊かな帝国と申しましょうか、マリアージュへの贈り物はどれもこれも国宝級の品ばかり、一財産築ける程のものでした。今後、イドゥリース殿にもたらされる財ともなれば、それ以上のものでしょう。
 私共は試されているのです。短期間でどれだけの婚約式を用意出来るか、賢者に相応しいこの国での地位はどれだけのものを用意出来るか――特使殿に手の内をさらけ出すのは避けたいと、敢えて私共だけで参ったのです」

 「それで余に相談したいということか」

 「はい……生憎伯爵である当家に用意出来るのは子爵位。こちらのグレイがダージリン副伯を提案してくれましたが、それだけでは今一つアヤスラニ帝国から提供されるイドゥリース殿への財に見合わないのでは、と。そこで、陛下にご相談しに参ったのでございます。
 当家がその程度しか準備出来ぬのかと言われるのは仕方がありませんが、トラス王国の度量と軽重を判断されては、と危惧致しております」

 「それによって、国家間同士の今後の付き合いにも影響してくる……と?」

 「恐れながら」

 「成程な……良かろう、婚約を認めよう。賢者殿の地位だが――アルバート、そなたはどう思う?」

 「そうですね……かの方は異国の王族、賢者だと言っても領地を安堵するような地位は反発は必須。さりとて言葉や教養が違えば実務も難しい。
 なれば名誉職、それもアヤスラニ帝国との折衝に関わる仕事――新たに対アヤスラニ帝国外交助言官という役職を設けるのは如何でしょうか?」

 それであれば我が国がどれほどアヤスラニ帝国を重んじているのか相手に伝わりますし、というアルバート殿下。
 オディロン陛下は暫く考え、良い考えだと頷いた。

 「これから交易も盛んになってくるであろうし、かの帝国との重要な折衝時等で助言をして貰えるとありがたい」

「そうだ、キャンディ伯爵家の寄子子爵、ダージリン副伯、対アヤスラニ帝国外交助言官――いっそこの三つの兼任であれば箔が付くのではないでしょうか?」

 ――どれも身分のみで実務をあまり伴わない立場でしょうし、外交助言官の仕事も臨時であるぐらいですから不可能ではないと思いますよ?

 確かに……。

 アルバート殿下の思い付きのような一言が決め手となり、イドゥリースは三つの身分を得ることとなった。
 さて退出しようとしたその時、オディロン陛下がそう言えば、と口を開く。

 「リプトン伯爵が旅行へ行ったきり行方不明だそうだ。かなりの期間国を留守にしている。今の政務は先代が代理を務めているが――一体何があったのか」

 カーフィが行方不明で帰っていない?
 まさか、神聖アレマニア帝国へ行ったのだろうか。
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