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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(127)
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「それは本当なの? グレイがアルビオン王家の血筋だって」
一頻り叫んだ後、息を整えてから切り出すマリー。
どうもそうみたいなんだ、と僕は頷く。「それで、騎士ドナルドは、女王リュサイ陛下では頼りないからと、僕をカレドニア王国の王にしたいんだって」
僕の髪と瞳の色は、伝えられている初代のカレドニア王を彷彿とさせるんだって。まあ、断ったけど。
そう言うと、マリーの蜜色の瞳が瞬いた。
「……マジで」
「それとなく機会を探してリュサイ様にも話を聞いてみたけれど、彼女は他に王になれる人がいないから仕方なく王位についている、と。トラス王国に逃げて来ているし、実力不足だと感じているみたい。
後、傍目にもカレル様に思いを寄せているのが丸分かりなんだけど、女王の身分だとカレル様との結婚は難しい。それもあって、他に王位を継げる人間がいるのなら、トラス王国の一貴族令嬢になりたいと言い出すと思う」
勿論、カレル様と結婚出来なかったとしてもね……と続けると、マリーは僕に断って目を空中に彷徨わせる。暫くの後、こちらに向き直った。
「悪いと思ったけど、リュシー様の気持ちは大体グレイの考えで合ってるわ。カレル兄に片思いしてる。騎士ドナルドもグレイを王にするのを諦めてないわね。
ラブリアン辺境伯令嬢……女王を辞めてもラブリアン家が一族と認めているから名乗れるのには間違いないんだし。この事、父には?」
「それはもう相談してあるよ。その時はレアンドロ王子が海賊を退治してアルビオンの国力が下がってカレドニア王国が盛り返すまで様子見、という事になったんだけど……」
正直その後の事をどうするかは考えていなくて。
そう言うと、マリーは「えぇ、父に先に言うなんて! 先に妻である私に相談してくれればよかったのに!」と頬を膨らませる。
「相談しようとしたよ! でもその時マリーはヨシヒコの言葉の先生の手配だのダージリン領でのオコメ作りだの言ってすぐどこかへ走って行ってしまって。忙しそうだったから言いだしそびれてさ」
僕の説明にマリーは半眼でこちらを見つめる。好きなだけ僕の記憶を読むがいいさ、とその時のことを思い出していると、暫くしてあっと声を上げた。
「あの時ね……ごめんなさい」
サイモン様より先に相談しようとしたことは分かったようで素直に謝ってくる。うん、分かればよろしい。
「騎士ドナルドの記憶では本物だと思っていたけど……ひょっとしたら贋作の可能性もあるわよね。もっと深く透視してみたいからちょっと貸して」
「はいどうぞ」
偽物だったらいいなという一縷の望みを託して僕は指輪を外す。マリーはそれを受け取ると、掌に閉じ込めて目を閉じた。
暫くの後瞼を上げて、「この指輪、本物だわ……」と呟く。
はぁ、残念。
「この指輪は初代カレドニア王、オブライエン家の祖である獅子王が作らせたもので間違いないわ。そしてカレドニア王国から持ち出したのは、間違いなくグレイのご先祖。カレドニア王家の祖も指輪を持ち出した人も、グレイにそっくりな赤毛と緑の瞳をしていた――」
指輪を持ち出したのは、数百年前のカレドニアの第一王子で名は――パッデン・オブライエンだという。
初代カレドニア王と第一王子パッデンの顔を精神感応能力で見せて貰ったけれど、確かに僕のような髪と瞳――騎士ドナルドのこだわりも頷ける。
第一王子パッデンは王位継承争いに敗れ、王子妃マルケイルや傍流の王族、僅かばかりの味方の貴族達を連れて最初は教会の手の及ばない北の高地へ逃げた。高地の騎士達と共に再起を図ろうとしていたけれど、露見して追われ、数を減らしながら国外に。
しかし逃げた先でも戦乱や疫病に巻き込まれ、財を失い、商人の真似事で糊口をしのぎながら流浪する羽目になった。
当時のカレドニアがアルビオンに併合され、今更王権を取り戻そうとしたところで悪戯に民を苦しめるだけ。
オブライエン王家は既に過去の存在となったのだ。
二度とカレドニアの地には戻らない、とカレドニアから遠ざかるように移動する。
「血筋を隠して交易商人として生きて行く覚悟を決めた後、この指輪は小箱の底にしまい込まれたの。火の神が許すならば、この指輪はいつか来るその日に再び日の目をみるだろう、と運命に委ねたんだわ。
そして、子孫にはそれきり先祖のことを語らなくなり。暗黙の了解としてカレドニアやアルビオン方面へ向かうことはなかった――それが、交易商人キーマン商会の始まりね」
「日の目を見てしまった今、どうすれば……」
僕のぼやきに、マリーはそうねぇ……と再び視線を宙に彷徨わせる。
「対外的にカレドニア女王が聖女と昵懇にしており、トラス王国の保護下に入ったと広まっていることで、アルビオン王国に対する多少の牽制にはなっているみたい。
砂糖販売も羊毛交易もウィスキー製造も取り掛かったばかり。カレドニアが盛り返すまで時間が必要で、その時にどうなっているか分からない。
それに、アルビオン王国にも疱瘡が出てるみたいね。それが広まると同時に神の刻印の話が伝われば、付け入る隙が生まれそう」
そうなればアルビオンの聖典派の信仰は、病に倒れる人々になすすべもなく大いに揺らぐだろう。それはアルビオン王権が揺らぐことと同義だ。
「カレドニア王国に銀行支店を置いて経済支配を進めていくのは既定路線。こちらに逆らいさえしなければ王が誰であっても構わないけれど――グレイが王家の血筋であることは、使い所さえ間違えなければ効果的な切り札になる。だからその指輪はどう転んでも良いようにリュシー様には返さずグレイが保留しておいて欲しいわね」
「えぇ……僕は王なんて面倒臭いのにはなりたくないんだけど」
「勿論分かってるわ。でもねグレイ、王政だけが支配する唯一の方法という訳ではないの。女王不在でもカレドニア王国は回っている。選択肢は色々と、ね」
この事に関して、私がグレイの代わりに悩んだり考えたりするからいつも通りに過ごしてね、と唇に人差し指を当てるマリー。
そう言ってくれるのは嬉しいけど……逆に不安になってくるのは気のせいじゃない。
僕が曖昧に微笑んでいると、彼女は「そして!」とポンと手を打つ。
「アルビオン海賊の毒竜退治は、レアンドロ王子に力添えして急いで貰うとしましょう。それより、カレル兄はリュシー様のことどう思ってるのかしら?」
それを確かめなきゃ、と言うマリー。
確かに、と思う僕。彼女がカレル様に訊いてくれるそうだ。
一頻り叫んだ後、息を整えてから切り出すマリー。
どうもそうみたいなんだ、と僕は頷く。「それで、騎士ドナルドは、女王リュサイ陛下では頼りないからと、僕をカレドニア王国の王にしたいんだって」
僕の髪と瞳の色は、伝えられている初代のカレドニア王を彷彿とさせるんだって。まあ、断ったけど。
そう言うと、マリーの蜜色の瞳が瞬いた。
「……マジで」
「それとなく機会を探してリュサイ様にも話を聞いてみたけれど、彼女は他に王になれる人がいないから仕方なく王位についている、と。トラス王国に逃げて来ているし、実力不足だと感じているみたい。
後、傍目にもカレル様に思いを寄せているのが丸分かりなんだけど、女王の身分だとカレル様との結婚は難しい。それもあって、他に王位を継げる人間がいるのなら、トラス王国の一貴族令嬢になりたいと言い出すと思う」
勿論、カレル様と結婚出来なかったとしてもね……と続けると、マリーは僕に断って目を空中に彷徨わせる。暫くの後、こちらに向き直った。
「悪いと思ったけど、リュシー様の気持ちは大体グレイの考えで合ってるわ。カレル兄に片思いしてる。騎士ドナルドもグレイを王にするのを諦めてないわね。
ラブリアン辺境伯令嬢……女王を辞めてもラブリアン家が一族と認めているから名乗れるのには間違いないんだし。この事、父には?」
「それはもう相談してあるよ。その時はレアンドロ王子が海賊を退治してアルビオンの国力が下がってカレドニア王国が盛り返すまで様子見、という事になったんだけど……」
正直その後の事をどうするかは考えていなくて。
そう言うと、マリーは「えぇ、父に先に言うなんて! 先に妻である私に相談してくれればよかったのに!」と頬を膨らませる。
「相談しようとしたよ! でもその時マリーはヨシヒコの言葉の先生の手配だのダージリン領でのオコメ作りだの言ってすぐどこかへ走って行ってしまって。忙しそうだったから言いだしそびれてさ」
僕の説明にマリーは半眼でこちらを見つめる。好きなだけ僕の記憶を読むがいいさ、とその時のことを思い出していると、暫くしてあっと声を上げた。
「あの時ね……ごめんなさい」
サイモン様より先に相談しようとしたことは分かったようで素直に謝ってくる。うん、分かればよろしい。
「騎士ドナルドの記憶では本物だと思っていたけど……ひょっとしたら贋作の可能性もあるわよね。もっと深く透視してみたいからちょっと貸して」
「はいどうぞ」
偽物だったらいいなという一縷の望みを託して僕は指輪を外す。マリーはそれを受け取ると、掌に閉じ込めて目を閉じた。
暫くの後瞼を上げて、「この指輪、本物だわ……」と呟く。
はぁ、残念。
「この指輪は初代カレドニア王、オブライエン家の祖である獅子王が作らせたもので間違いないわ。そしてカレドニア王国から持ち出したのは、間違いなくグレイのご先祖。カレドニア王家の祖も指輪を持ち出した人も、グレイにそっくりな赤毛と緑の瞳をしていた――」
指輪を持ち出したのは、数百年前のカレドニアの第一王子で名は――パッデン・オブライエンだという。
初代カレドニア王と第一王子パッデンの顔を精神感応能力で見せて貰ったけれど、確かに僕のような髪と瞳――騎士ドナルドのこだわりも頷ける。
第一王子パッデンは王位継承争いに敗れ、王子妃マルケイルや傍流の王族、僅かばかりの味方の貴族達を連れて最初は教会の手の及ばない北の高地へ逃げた。高地の騎士達と共に再起を図ろうとしていたけれど、露見して追われ、数を減らしながら国外に。
しかし逃げた先でも戦乱や疫病に巻き込まれ、財を失い、商人の真似事で糊口をしのぎながら流浪する羽目になった。
当時のカレドニアがアルビオンに併合され、今更王権を取り戻そうとしたところで悪戯に民を苦しめるだけ。
オブライエン王家は既に過去の存在となったのだ。
二度とカレドニアの地には戻らない、とカレドニアから遠ざかるように移動する。
「血筋を隠して交易商人として生きて行く覚悟を決めた後、この指輪は小箱の底にしまい込まれたの。火の神が許すならば、この指輪はいつか来るその日に再び日の目をみるだろう、と運命に委ねたんだわ。
そして、子孫にはそれきり先祖のことを語らなくなり。暗黙の了解としてカレドニアやアルビオン方面へ向かうことはなかった――それが、交易商人キーマン商会の始まりね」
「日の目を見てしまった今、どうすれば……」
僕のぼやきに、マリーはそうねぇ……と再び視線を宙に彷徨わせる。
「対外的にカレドニア女王が聖女と昵懇にしており、トラス王国の保護下に入ったと広まっていることで、アルビオン王国に対する多少の牽制にはなっているみたい。
砂糖販売も羊毛交易もウィスキー製造も取り掛かったばかり。カレドニアが盛り返すまで時間が必要で、その時にどうなっているか分からない。
それに、アルビオン王国にも疱瘡が出てるみたいね。それが広まると同時に神の刻印の話が伝われば、付け入る隙が生まれそう」
そうなればアルビオンの聖典派の信仰は、病に倒れる人々になすすべもなく大いに揺らぐだろう。それはアルビオン王権が揺らぐことと同義だ。
「カレドニア王国に銀行支店を置いて経済支配を進めていくのは既定路線。こちらに逆らいさえしなければ王が誰であっても構わないけれど――グレイが王家の血筋であることは、使い所さえ間違えなければ効果的な切り札になる。だからその指輪はどう転んでも良いようにリュシー様には返さずグレイが保留しておいて欲しいわね」
「えぇ……僕は王なんて面倒臭いのにはなりたくないんだけど」
「勿論分かってるわ。でもねグレイ、王政だけが支配する唯一の方法という訳ではないの。女王不在でもカレドニア王国は回っている。選択肢は色々と、ね」
この事に関して、私がグレイの代わりに悩んだり考えたりするからいつも通りに過ごしてね、と唇に人差し指を当てるマリー。
そう言ってくれるのは嬉しいけど……逆に不安になってくるのは気のせいじゃない。
僕が曖昧に微笑んでいると、彼女は「そして!」とポンと手を打つ。
「アルビオン海賊の毒竜退治は、レアンドロ王子に力添えして急いで貰うとしましょう。それより、カレル兄はリュシー様のことどう思ってるのかしら?」
それを確かめなきゃ、と言うマリー。
確かに、と思う僕。彼女がカレル様に訊いてくれるそうだ。
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