貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

黄昏の宵闇姫。

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 「やっぱり皆でやると仕事が早いわね」

 完成した布絵本の糸くずを払い、皆でゆっくりとページをめくる。
 相談の結果、愚みn……アヒルのご令嬢にお出まし願い、パーティーの為にドレスアップするストーリーとなった。
 かつらを選んだり、コルセットを絞めたり、靴を履いたり。
 「お嬢さん、大事な扇をお忘れですよ」というカエルの紳士の口のファスナーを開けると、ひも付きの扇が出てくるギミックも。
 真珠のネックレスをした雌豚や金の腕輪をした雌猫とアクセサリーや恋人について罵り合……自慢し合ったり、交換したり。
 最後はパーティーでアヒル紳士とダンスをする様子で締めくくられる。

 裏表紙には、キャンディ伯爵家侍女一同よりと飾り文字で刺繍されていた。
 サリーナを始め、布絵本製作陣は満足そうだ。

 「布の絵本、実際出来上がって見るとなかなか素晴らしいものですわね」

 「楽しいし、画期的だと思います。これがあれば子供は退屈しないでしょう」

 「布の端切れやボタン、紐といったものならどこの家にもありますものね」

 「あの、マリー様。家族にも作りたいのですが……」

 余った端切れなど頂ければ……とおずおずと切り出した侍女ヴェローナに、私は勿論構わないわと微笑んだ。

 「材料も足りなければキーマン商会に頼めば良いわ。他の皆も身内に小さな子がいて作ってあげたい、というのであれば自由に使っても良いわよ。
 この物語ではなくとも、知っている物語を基礎にあれこれ考えても楽しいと思うわ。
 ただ、布絵本の原案と型紙は残しておいて欲しいの。これは教会の寡婦の良い仕事になるだろうから」

 「あ、ありがとうございます!」

 侍女達の顔がぱっと明るくなった。多分はまったのだろう。楽しいからなぁ。
 教会の寡婦達にしろ、布絵本のような仕事はきっと喜ばれるに違いない。
 聖典に書かれているエピソード等を子供向けにして盛り込んでも良いだろう。
 和やかに笑い合ったところで、扉がノックされた。
 応対したサリーナが、破願してこちらを振り向く。

 「マリー様、ジャルダン様達にメリー様、イドゥリース様達がお戻りになられたそうですわ!」

 「まあ、本当に!?」

 私は立ち上がると、家族を出迎えるべく屋敷の玄関へと急いだ。

 「アンがそろそろ出産のようだな。孫の姿を一早く見たくて急いで戻って来たのだ」

 祖父ジャルダンの声が響く。
 階段を降りると、父や母、兄二人にイサークとヴェスカル、そしてグレイの姿。彼の肩に軽く触れてお疲れ様、と小声で囁いて、私は祖父達に向き直った。

 「お爺様、お婆様、それにメリー、イドゥリースにスレイマンも! お帰りなさい!」

 そのまま祖父ジャルダンに抱き着くと、「おお、ただいまマリー」と抱きしめ返される。
 続いて祖母ラトゥとも抱きしめ合った。

 「攫われたって話を聞いた時は肝が潰れるかと思ったわ。でも、無事で良かった。後でじっくり話を聞かせてね」

 「はい、心配かけてごめんなさい。メリーも久しぶりね」

 「マリーお姉ちゃまも!」

 メリーを抱きしめて、『王子様との進展はあったのかしら?』と精神感応を使う。

 「もう、お姉ちゃまったら!」

 慌てて暴れるメリー。放して顔を見ると、真っ赤になっている。

 『……褒められたの。私、黄昏の宵闇姫なんですって。月女神の息子たる賢者様と一緒に居るからって』

 「まあ。でも何故黄昏の宵闇なの?」

 今度は肉声で訊ねると、メリーはもじもじしながら答えた。

 「私の瞳って、怒ったり嬉しかったり感情的になっている時、お婆様みたいに少し紫がかっているみたいなの。それが黄昏みたいだって言われたわ。
 お婆様に訊ねたら、きっと今後どんどん紫が強くなっていくかも知れないわねって」

 じっとメリーの瞳を見てみると、確かに何時もの目の色ではなく紫がかっている。それと黒髪を合わせると――確かに、と思う。長じて社交界に出れば、その二つ名で呼ばれそうだ。

 「まあ、素敵ね!」

 でも、その二つ名を付けたのは果たしてイドゥリースなのだろうか?
 そんな臭い台詞を言いそうな人ではないと思う。
 どっちかと言えば、メイソンのような女慣れしたタイプの男が言いそうだ。
 ちらり、とグレイと話しているイドゥリース達の方を見るメリー。
 その近くには、アヤスラニ人らしき一団が居るのに気付いた。大導師フゼイフェの姿はない。突き付けた要求に関しての使者達なんだろうとは思うけど……って、あれ?

 「あら、あの方々は?」

 私が近付く前に去っていくアヤスラニ人達。その背中を見送りながらグレイに訊ねると、アヤスラニ帝国からの特使だと言った。

 「そうなの? 挨拶したかったのに……」

 むぅ、としていると、「長旅でお疲れでしょう」と母が祖父母に話しかける声が耳に入った。

 ――まあ、仕方がないか。

 特使である以上、後でじっくり話をする機会はあるだろう。
 気を取り直すと、私はイドゥリース達に向き直って挨拶をしたのだった。
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