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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(101)
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マリーが遠ざかっていく衣擦れの音だけが耳に木霊する。
ホセ子爵の隣に座ったレアンドロ王子は、上機嫌に語り始めた。
「ホセよ、良き知らせがある。先刻、聖女様は私の誠心誠意と熱き想いを汲み取って下さり、太陽神にお伺いを立てて下さった。そして、私が聖女様の夫となる為の条件を提示されたのだ」
「えっ、それは真でございますか!?」
ガン、と頭を殴られたような感覚になった。
あのテラスで、マリーはそんな話をしていたのか。
いや、と思い直す。もしかすると彼女は彼女なりの考えがあってのことかも知れない。
「恐れながら、聖女様はグレイ猊下と相思相愛だと聞いております。それがそのようなことを仰るとは俄かには信じられません」
「聖女様がもし、私のことを憎からず思って下さったのだとしたら? そうでなければ神に認められた婚姻を覆す条件すら、教えぬ筈であろう?」
「その、条件とは」
「何、『グレイ卿よりも大きな功績を立て、神の出す難問を解いて見せよ』と。要は、聖女様の使命をどれだけ助けるかによるようだ。功績そのものは直ぐに立てることが出来るであろう」
僕より大きな功績を立て、神の難問を解く――去年のメイソン事件を思い出す。メイソンは計算に弱かったから上手く引っかかったけれど、果たしてそれがレアンドロ王子に通用するのかどうか。
万が一の場合、本当にマリーが奪われてしまう!
「さ、左様でございますか。しかし、功績を立てたとしても、神の難問に答えなければいけないとのことですが……それは、いかなるものでしょうか」
ホセ子爵は疑問を注意深く問いかけている。
しかしレアンドロ王子は余裕たっぷりの態度で楽観的に構えているようだ。
「さて……しかし、どんなに難問であろうとも、エスパーニャ王国の賢者学者を集め、総力を挙げれば解き明かすことが出来よう。こうなると、勝負は見えたも同然――ということで、卿は遠くない未来、用済みとなる」
お気の毒に、と肩を竦め、勝ち誇ったように僕をせせら笑うレアンドロ王子。ホセ子爵がその隣で同情の眼差しを向けて来た。
わざわざトラス王国語で会話をする二人。僕に聞かせる為なのは間違いないだろう。
「――失礼する!」
カッとして矢も楯も堪らず立ち上がり、テーブルを離れる。
彼らに構っていても意味がない。マリーの真意を問いたださなければ。
サイモン様を探して傍に行き、聞いたばかりのことを耳打ちをした。
「そのようなことをマリーが言っていたと。エスパーニャ王国の権力と財を以ってすれば、条件を成し遂げられてしまうかも知れません。マリーが何かを考えてそう言ったのだとは思うのですが、裏目に出てしまったら――マリーは一体どうするつもりなのでしょうか」
「あの馬鹿娘……分かった、共にどういうつもりなのか問い質しに行こう」
サイモン様と共にマリーの元へと向かうと、彼女は何やらサラサラと紙に書いており、丁度顔を上げた所だった。
僕達を見て首を傾げる彼女に、心と心で会話したいと頭を指差す。
すぐに、『どうしたの?』と脳裏に響く彼女の声。
――どうしたも、こうしたもないよ!
『マリー! レアンドロ王子に条件付きで結婚すると言ったんだって!?』
サイモン様もどういうつもりなのだ、と問い質す。夫は僕の筈なのに、どういうことかと詰問すると、マリーは動揺した様子も無く『あら、嫉妬してくれたの?』等と言った。
『――はい、こういうことよ』
苦笑交じりに渡されたのは先程までマリーが書いていた紙。
ざっと目を通すと砂糖の売買契約書。何故こんな時に?
『あの男、グレイを殺して私と結婚することを企んでいたの。腹が立ったけど、逆にこの状況を利用して嵌め返そうと考えたのよ』
それであの条件を出してレアンドロ王子を釣ったそうだ。レアンドロ王子の敵意は感じていたけれど、まさか命を狙われていたなんて。
いや、それよりも。
マリーが変わらず僕を想っていてくれたことに僕は安堵した。温かいものが心を満たしていく。
それにしても、メイソンと同じで達成不可能な条件だと彼女は言うけれど……。
そのことを訊ねようとした矢先、砂糖の銀の相場を知っているなら、と契約書の清書を頼まれた。
そしてレアンドロ王子に今後絡まれた時は僕が負けたように適当に匂わせ話を合わせておいて欲しい――その方が僕自身の危険も減るだろうから、と。
――油断させろ、ということか。
マリーはそう言うけれど……本当にその条件は達成不可能なのだろうか?
『それは、構わないけれど……それにしては危険な賭けだよ。自分自身を餌にするなんて』
サイモン様も、エスパーニャ王国の財力が凄まじいことに触れ、神の課す難問に関してもメイソンの時の様にはいかないのではないか、と僕を代弁するかのように懸念を示した。
しかしマリーはあっさりといくわよ、と言い切る。余程自信があるらしい。
『それに父、これは武器を使わない戦争よ。結果的に体張ってる状態になったけれど、それだけの価値はある――だからグレイ、清書お願いね』
勝算があると断言され、僕はしぶしぶ清書を始めた。同時に文面を精読していく。
今現在の相場の八割固定――成る程、一見相手に利するような奇妙な取引だけれど、砂糖が大量に生産されるようになると、相場の方が下がることになるだろう。エスパーニャはこの紙切れ一枚で安い砂糖を横目に高い値段で買わされ続ける羽目になる。
しかしそれでも恐らくはエスパーニャ王国はそう簡単には揺らがないだろう。マリーは他にもこき使うと言っていたが……それも達成されるとすれば、達成不可能にする鍵は、神の課す難問。
どんな内容なのだろう、と考えつつ。僕は砂糖と銀の現在の相場を思い出しながら、契約書に補填していく。
その後、ホセ子爵が疑問を挟む一幕があったものの――トラス王陛下とサリューン枢機卿、王国の貴族達の面前で得意満面の笑みで契約を承諾したレアンドロ王子。
マリーが大げさに感謝を示して一層調子に乗ったのか、帰り際にも「今後の身の振舞いをよくよく考えておくが良い」「エスパーニャ王国に仕えるならば伯爵位位はくれてやっても良いが?」等と寛容な振りをして僕を嘲笑ってきた。
――これしきのこと、これまでだって何度もあった。
僕は俯いて歯を食いしばって耐える。マリーは僕の為に戦ってくれているのだから。
ホセ子爵の隣に座ったレアンドロ王子は、上機嫌に語り始めた。
「ホセよ、良き知らせがある。先刻、聖女様は私の誠心誠意と熱き想いを汲み取って下さり、太陽神にお伺いを立てて下さった。そして、私が聖女様の夫となる為の条件を提示されたのだ」
「えっ、それは真でございますか!?」
ガン、と頭を殴られたような感覚になった。
あのテラスで、マリーはそんな話をしていたのか。
いや、と思い直す。もしかすると彼女は彼女なりの考えがあってのことかも知れない。
「恐れながら、聖女様はグレイ猊下と相思相愛だと聞いております。それがそのようなことを仰るとは俄かには信じられません」
「聖女様がもし、私のことを憎からず思って下さったのだとしたら? そうでなければ神に認められた婚姻を覆す条件すら、教えぬ筈であろう?」
「その、条件とは」
「何、『グレイ卿よりも大きな功績を立て、神の出す難問を解いて見せよ』と。要は、聖女様の使命をどれだけ助けるかによるようだ。功績そのものは直ぐに立てることが出来るであろう」
僕より大きな功績を立て、神の難問を解く――去年のメイソン事件を思い出す。メイソンは計算に弱かったから上手く引っかかったけれど、果たしてそれがレアンドロ王子に通用するのかどうか。
万が一の場合、本当にマリーが奪われてしまう!
「さ、左様でございますか。しかし、功績を立てたとしても、神の難問に答えなければいけないとのことですが……それは、いかなるものでしょうか」
ホセ子爵は疑問を注意深く問いかけている。
しかしレアンドロ王子は余裕たっぷりの態度で楽観的に構えているようだ。
「さて……しかし、どんなに難問であろうとも、エスパーニャ王国の賢者学者を集め、総力を挙げれば解き明かすことが出来よう。こうなると、勝負は見えたも同然――ということで、卿は遠くない未来、用済みとなる」
お気の毒に、と肩を竦め、勝ち誇ったように僕をせせら笑うレアンドロ王子。ホセ子爵がその隣で同情の眼差しを向けて来た。
わざわざトラス王国語で会話をする二人。僕に聞かせる為なのは間違いないだろう。
「――失礼する!」
カッとして矢も楯も堪らず立ち上がり、テーブルを離れる。
彼らに構っていても意味がない。マリーの真意を問いたださなければ。
サイモン様を探して傍に行き、聞いたばかりのことを耳打ちをした。
「そのようなことをマリーが言っていたと。エスパーニャ王国の権力と財を以ってすれば、条件を成し遂げられてしまうかも知れません。マリーが何かを考えてそう言ったのだとは思うのですが、裏目に出てしまったら――マリーは一体どうするつもりなのでしょうか」
「あの馬鹿娘……分かった、共にどういうつもりなのか問い質しに行こう」
サイモン様と共にマリーの元へと向かうと、彼女は何やらサラサラと紙に書いており、丁度顔を上げた所だった。
僕達を見て首を傾げる彼女に、心と心で会話したいと頭を指差す。
すぐに、『どうしたの?』と脳裏に響く彼女の声。
――どうしたも、こうしたもないよ!
『マリー! レアンドロ王子に条件付きで結婚すると言ったんだって!?』
サイモン様もどういうつもりなのだ、と問い質す。夫は僕の筈なのに、どういうことかと詰問すると、マリーは動揺した様子も無く『あら、嫉妬してくれたの?』等と言った。
『――はい、こういうことよ』
苦笑交じりに渡されたのは先程までマリーが書いていた紙。
ざっと目を通すと砂糖の売買契約書。何故こんな時に?
『あの男、グレイを殺して私と結婚することを企んでいたの。腹が立ったけど、逆にこの状況を利用して嵌め返そうと考えたのよ』
それであの条件を出してレアンドロ王子を釣ったそうだ。レアンドロ王子の敵意は感じていたけれど、まさか命を狙われていたなんて。
いや、それよりも。
マリーが変わらず僕を想っていてくれたことに僕は安堵した。温かいものが心を満たしていく。
それにしても、メイソンと同じで達成不可能な条件だと彼女は言うけれど……。
そのことを訊ねようとした矢先、砂糖の銀の相場を知っているなら、と契約書の清書を頼まれた。
そしてレアンドロ王子に今後絡まれた時は僕が負けたように適当に匂わせ話を合わせておいて欲しい――その方が僕自身の危険も減るだろうから、と。
――油断させろ、ということか。
マリーはそう言うけれど……本当にその条件は達成不可能なのだろうか?
『それは、構わないけれど……それにしては危険な賭けだよ。自分自身を餌にするなんて』
サイモン様も、エスパーニャ王国の財力が凄まじいことに触れ、神の課す難問に関してもメイソンの時の様にはいかないのではないか、と僕を代弁するかのように懸念を示した。
しかしマリーはあっさりといくわよ、と言い切る。余程自信があるらしい。
『それに父、これは武器を使わない戦争よ。結果的に体張ってる状態になったけれど、それだけの価値はある――だからグレイ、清書お願いね』
勝算があると断言され、僕はしぶしぶ清書を始めた。同時に文面を精読していく。
今現在の相場の八割固定――成る程、一見相手に利するような奇妙な取引だけれど、砂糖が大量に生産されるようになると、相場の方が下がることになるだろう。エスパーニャはこの紙切れ一枚で安い砂糖を横目に高い値段で買わされ続ける羽目になる。
しかしそれでも恐らくはエスパーニャ王国はそう簡単には揺らがないだろう。マリーは他にもこき使うと言っていたが……それも達成されるとすれば、達成不可能にする鍵は、神の課す難問。
どんな内容なのだろう、と考えつつ。僕は砂糖と銀の現在の相場を思い出しながら、契約書に補填していく。
その後、ホセ子爵が疑問を挟む一幕があったものの――トラス王陛下とサリューン枢機卿、王国の貴族達の面前で得意満面の笑みで契約を承諾したレアンドロ王子。
マリーが大げさに感謝を示して一層調子に乗ったのか、帰り際にも「今後の身の振舞いをよくよく考えておくが良い」「エスパーニャ王国に仕えるならば伯爵位位はくれてやっても良いが?」等と寛容な振りをして僕を嘲笑ってきた。
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