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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
ピンチはチャンス。
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男性はそのまま、女性達は衝立の内で。
希望者の問診で健康状態を見、私の透視能力を交えて合格者には接種を施し、接種したという証を渡して行く。
種痘を受けないのは困るが、逆に神の刻印と聞いて有難がって何度も受けようとする奴が出ては困るからだ。
絶対出て来るだろう、確信できる。だがそれをほいほいと許可する訳にはいかないのだ。
と言うのも、同一の抗原で間隔を開けずに繰り返し免疫化を行えばゴニョゴニョゴニョ……兎に角、スズメバチに何度か刺されて死ぬほどショックを受けるような深ーい訳アリ事情なのである。
馬の脚共?
天然痘ワクチンの持続期間は接種後五年から十年で抗体値が低下するようだ。
一応訊いたら、最後に牛の世話をしてから四年だそうだから大丈夫。
ちなみに不合格になった数名の体調がどこかしら悪い者達には、「できるだけ急いで下さい」と食養生や運動のカリキュラムが手渡されたり、妊娠発覚等により隔離方針が決まったりもした。
「神の刻印が目立って気になるようでしたら、腕の内側に施すことも可能ですわ」
そう言ったのだが、意外にも見える場所にする女性も多かった。
べリーチェ修道女が構いませんか、と確認したところ、聖女様のように刻印が見えるようなドレスを着るのですわ、と。
まあ、神の刻印が見えるという安心感はあるだろう。
***
もうそろそろテーブルに戻ろうか。グレイを待たせていることだし――と、思った時だった。
「聖女様、あの……」
見学していたレアンドロ王子が遠慮がちに声を掛けてきた。
「どうされましたの?」
種痘のことで何か質問でもあるのだろうか、と思っていると、困ったような表情で見つめられた。
「……実は、カレル卿の件で。情けない話なのですが、いざ彼を目の前にすると、どのように謝罪すればいいのか分からないのです。あの席で謝罪をするのも戸惑われて。
カレル卿に声を掛けようとも思いましたが、私に警戒されているでしょうし。恥を忍んでお願い致します、謝罪する場を設けて立ち会って頂けないでしょうか」
そう言って紳士の礼を取るレアンドロ王子。
内心呆れたが、第一王子として蝶よ花よとちやほやされて育ってきたのなら、誰かに謝罪することなどあまり無かったのだろう。
あの三夫人に挟まれた状態でカレル兄に声を掛ける勇気も無かった、と。
もっとも、それに関しては私が仕掛けたことなので、お膳立てくらいはしてやるとするか。
「……ええ、構いませんわ。兄を呼んで来れば宜しいのね?」
「あの、人目がある場所は、少し……」
「それならあちらにバルコニーがありますわ。私の侍女と聖騎士達も同席して構いませんか?」
「はい」
テーブルの方を見ると、ホセ子爵はグレイと何やら話し込んでいる様子。エスパーニャの次期国王を一人にする訳にも行かない。
侍女を呼び止め、カレル兄にバルコニーまで来て貰えるよう伝言を頼んだ。立ち会う為、レアンドロ王子をバルコニーに案内する。
菊の花があちこちに飾られたそこ。室内から見えにくい場所に移動して、カレル兄を待とうとした――その時である。
レアンドロ王子が徐に目の前で膝をついた。
驚きに固まっている私の手を取って、その甲を額に懇願するようにくっつける。
「聖女マリアージュ様。私は初めてお会いした時からずっと、貴女様のことばかり考えております」
「は?」
――お前、さっきカレル兄に謝りたいから場を設けてくれって言わなかったっけ?
「ああ、貴女様は女神の如く美しい……。この思いが罪深きことは重々承知しておりますが、何卒、一度だけでも私に情けをかけては頂けないでしょうか」
情け……皇女エリーザベトを差し置いての不倫のお誘いだわ間違いない。
もしかして、人妻である私を罠に嵌めようとしている……?
そう言えば前世……『国際ロマンス詐欺』って流行ったよなぁ(白目)。
――というか、何考えてんのこいつ。
私は目の前のレアンドロ王子に精神感応を使った。
そして、レアンドロ王子の私への一方的な恋着がガチであることと同時に、恐ろしい計画を知ってしまったのである。
「……何ですって?」
呆然とした後、手を思い切り振りほどいて拳でぶん殴りたい激情にかられた。この男、グレイを暗殺しようと。
理性が「感情的になるな、手を上げれば国際問題になるし大陸銀も手に入れ難くなる!」と囁き、必死で自分を抑え込む。
その時、天啓が舞い降りた。
――そうだ。
これは好機かも知れない。一気に冷静さを取り戻す私。
――逆に利用して、こいつを嵌めてやるといいのでは?
私の脳内で、金の生る木をチャリンチャリンする為の様々な計画が渦巻き始めた。
よーし、マリーちゃんぶん回しちゃうぞー♪
希望者の問診で健康状態を見、私の透視能力を交えて合格者には接種を施し、接種したという証を渡して行く。
種痘を受けないのは困るが、逆に神の刻印と聞いて有難がって何度も受けようとする奴が出ては困るからだ。
絶対出て来るだろう、確信できる。だがそれをほいほいと許可する訳にはいかないのだ。
と言うのも、同一の抗原で間隔を開けずに繰り返し免疫化を行えばゴニョゴニョゴニョ……兎に角、スズメバチに何度か刺されて死ぬほどショックを受けるような深ーい訳アリ事情なのである。
馬の脚共?
天然痘ワクチンの持続期間は接種後五年から十年で抗体値が低下するようだ。
一応訊いたら、最後に牛の世話をしてから四年だそうだから大丈夫。
ちなみに不合格になった数名の体調がどこかしら悪い者達には、「できるだけ急いで下さい」と食養生や運動のカリキュラムが手渡されたり、妊娠発覚等により隔離方針が決まったりもした。
「神の刻印が目立って気になるようでしたら、腕の内側に施すことも可能ですわ」
そう言ったのだが、意外にも見える場所にする女性も多かった。
べリーチェ修道女が構いませんか、と確認したところ、聖女様のように刻印が見えるようなドレスを着るのですわ、と。
まあ、神の刻印が見えるという安心感はあるだろう。
***
もうそろそろテーブルに戻ろうか。グレイを待たせていることだし――と、思った時だった。
「聖女様、あの……」
見学していたレアンドロ王子が遠慮がちに声を掛けてきた。
「どうされましたの?」
種痘のことで何か質問でもあるのだろうか、と思っていると、困ったような表情で見つめられた。
「……実は、カレル卿の件で。情けない話なのですが、いざ彼を目の前にすると、どのように謝罪すればいいのか分からないのです。あの席で謝罪をするのも戸惑われて。
カレル卿に声を掛けようとも思いましたが、私に警戒されているでしょうし。恥を忍んでお願い致します、謝罪する場を設けて立ち会って頂けないでしょうか」
そう言って紳士の礼を取るレアンドロ王子。
内心呆れたが、第一王子として蝶よ花よとちやほやされて育ってきたのなら、誰かに謝罪することなどあまり無かったのだろう。
あの三夫人に挟まれた状態でカレル兄に声を掛ける勇気も無かった、と。
もっとも、それに関しては私が仕掛けたことなので、お膳立てくらいはしてやるとするか。
「……ええ、構いませんわ。兄を呼んで来れば宜しいのね?」
「あの、人目がある場所は、少し……」
「それならあちらにバルコニーがありますわ。私の侍女と聖騎士達も同席して構いませんか?」
「はい」
テーブルの方を見ると、ホセ子爵はグレイと何やら話し込んでいる様子。エスパーニャの次期国王を一人にする訳にも行かない。
侍女を呼び止め、カレル兄にバルコニーまで来て貰えるよう伝言を頼んだ。立ち会う為、レアンドロ王子をバルコニーに案内する。
菊の花があちこちに飾られたそこ。室内から見えにくい場所に移動して、カレル兄を待とうとした――その時である。
レアンドロ王子が徐に目の前で膝をついた。
驚きに固まっている私の手を取って、その甲を額に懇願するようにくっつける。
「聖女マリアージュ様。私は初めてお会いした時からずっと、貴女様のことばかり考えております」
「は?」
――お前、さっきカレル兄に謝りたいから場を設けてくれって言わなかったっけ?
「ああ、貴女様は女神の如く美しい……。この思いが罪深きことは重々承知しておりますが、何卒、一度だけでも私に情けをかけては頂けないでしょうか」
情け……皇女エリーザベトを差し置いての不倫のお誘いだわ間違いない。
もしかして、人妻である私を罠に嵌めようとしている……?
そう言えば前世……『国際ロマンス詐欺』って流行ったよなぁ(白目)。
――というか、何考えてんのこいつ。
私は目の前のレアンドロ王子に精神感応を使った。
そして、レアンドロ王子の私への一方的な恋着がガチであることと同時に、恐ろしい計画を知ってしまったのである。
「……何ですって?」
呆然とした後、手を思い切り振りほどいて拳でぶん殴りたい激情にかられた。この男、グレイを暗殺しようと。
理性が「感情的になるな、手を上げれば国際問題になるし大陸銀も手に入れ難くなる!」と囁き、必死で自分を抑え込む。
その時、天啓が舞い降りた。
――そうだ。
これは好機かも知れない。一気に冷静さを取り戻す私。
――逆に利用して、こいつを嵌めてやるといいのでは?
私の脳内で、金の生る木をチャリンチャリンする為の様々な計画が渦巻き始めた。
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