486 / 671
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
チャリンチャリン。
しおりを挟む
アルバート王子は兎も角、レアンドロ王子か。
昨日と言い、遭遇率がやけに高い気がする。もしかしてストーカーされているのだろうか? いや、まさかね。
というか、折角久々にアン姉に身内だけで会えたというのに何で他人がやって来るかなぁ。
しかも、内心不満たらたらなのに更に追い打ちが来たというね。
目の前にはレアンドロ王子が持ってきたという見舞いの品々がずらりと並べられて行く。嫌味な程の豪華さに圧倒される。
――私達のお土産が見劣りするじゃん、やめて欲しいんだけど。
こちらの心中を他所に、レアンドロ王子はエスパーニャの王族は当たり前に絹をおむつに使うとドヤ顔だ。
絹ねぇ……着古して変色したような絹を洗って切って、使い捨て尻拭き等に再利用するといいという話は前世でも聞いたことがあるが。真っ新な絹を使うとは何と勿体ないことをするんだ。
得意顔を浮かべている所悪いが、綿の方がおむつには向いていると思うぞ。
つーか、時折こちらを鼻息荒そうな顔で得意気にチラ見してくるのが激しくムカつくんですけど。
前世のアニメに出て来た、百数十万円もするラジコンを自慢する系の鼻持ちならない金持ちのクソガキちゃまを思い出す。
身包み剥いでシバいてやったら、「うわーん、ママー!」って泣き出さないかな。
しかしお祝いの席ということもあり、私は余所行きの笑顔を絶やさず空気を読んで黙っていた。
目の前のこいつの背後には大陸銀が唸っているのだ。つまり、これからマリーちゃんが揺さぶってチャリンチャリンする為の大事な大事な金の生る木――多少は大目に見てやらねばな。
「男の子でも女の子でも、元気に生まれて来て欲しいですわ」
脳内でレアンドロ王子をジャンプさせて、ポケットの中身をカツアゲしていたところに聞こえて来たアン姉の言葉。
――いかんいかん、神聖な妊婦の前で聖女たる私がこんな黒い考えをしては。
我に返った私。少し反省していると、気が付けば目の前にレアンドロ王子がやってきていた。
「それにしても、ザイン殿の奥方が聖女様の姉君だったとは」
世間は狭いだの運命なのかだの言いながら、膝をつくなり拒否する間も無く私の片手を取る。
手の甲に口付けを落とされた。
感じる生温かい唇の感触とギラギラとした眼差しに背筋がぞわりとする。
相手がいくらイケメンであっても、嫌悪感が湧くときは湧くものだなぁ、という考えが脳裏にちらりと過った。
「まあ、レアンドロ殿下。御戯れを」
金の生る木でなかったら、その顔面を踏みつけていたところだ。
早よ手を離せ、という意味を込めるも、手はそのままだ。
「戯れなど……」
何時でも聖女様のことを崇拝しております、と懇願するような目をするレアンドロ王子。
純粋に信仰心なのか、それとも――。
困惑しつつ精神感応を使おうかと考えた矢先、アルバート王子が窘める。
頭が理解していても体が付いて行かないと答えるレアンドロ王子。
――意識せず習慣化している、ということか?
ならばやっぱりお国柄のものだということが出来る。
私は呆れてレアンドロ王子を見た。
「エスパーニャ王国の男性は皆殿下のような方ばかりなんですの?」
「さあ……確かめてごらんになりますか?」
流れるような自然な返事。
――あ、やっぱり社交辞令だわ。
それならこちらもそれなりの返事をするまでである。
婚約者である皇女エリーザベトや他の令嬢を持ち出して、彼女らに恨まれてしまう等と茶化すように返すと、レアンドロ王子は笑ってあっさりと引き下がった。
ふう……こんな調子だとエスパーニャ王国の恋愛は色々大変そうだな。これが日常茶飯事だと、相手の本音が分からなくなりそうだ。
アン姉に疱瘡の流行や種痘の話をする間、こっそりと握られた手をさり気なく布巾で拭く。
冗談として流して済んだが……レアンドロ王子が見せた、ギラギラした眼差しが引っかかっていた。
王族にとって、聖女は利用価値があるのは確かだ――オス麿やアーダム皇子の件もあったし、気を付けておくとするか。
昨日と言い、遭遇率がやけに高い気がする。もしかしてストーカーされているのだろうか? いや、まさかね。
というか、折角久々にアン姉に身内だけで会えたというのに何で他人がやって来るかなぁ。
しかも、内心不満たらたらなのに更に追い打ちが来たというね。
目の前にはレアンドロ王子が持ってきたという見舞いの品々がずらりと並べられて行く。嫌味な程の豪華さに圧倒される。
――私達のお土産が見劣りするじゃん、やめて欲しいんだけど。
こちらの心中を他所に、レアンドロ王子はエスパーニャの王族は当たり前に絹をおむつに使うとドヤ顔だ。
絹ねぇ……着古して変色したような絹を洗って切って、使い捨て尻拭き等に再利用するといいという話は前世でも聞いたことがあるが。真っ新な絹を使うとは何と勿体ないことをするんだ。
得意顔を浮かべている所悪いが、綿の方がおむつには向いていると思うぞ。
つーか、時折こちらを鼻息荒そうな顔で得意気にチラ見してくるのが激しくムカつくんですけど。
前世のアニメに出て来た、百数十万円もするラジコンを自慢する系の鼻持ちならない金持ちのクソガキちゃまを思い出す。
身包み剥いでシバいてやったら、「うわーん、ママー!」って泣き出さないかな。
しかしお祝いの席ということもあり、私は余所行きの笑顔を絶やさず空気を読んで黙っていた。
目の前のこいつの背後には大陸銀が唸っているのだ。つまり、これからマリーちゃんが揺さぶってチャリンチャリンする為の大事な大事な金の生る木――多少は大目に見てやらねばな。
「男の子でも女の子でも、元気に生まれて来て欲しいですわ」
脳内でレアンドロ王子をジャンプさせて、ポケットの中身をカツアゲしていたところに聞こえて来たアン姉の言葉。
――いかんいかん、神聖な妊婦の前で聖女たる私がこんな黒い考えをしては。
我に返った私。少し反省していると、気が付けば目の前にレアンドロ王子がやってきていた。
「それにしても、ザイン殿の奥方が聖女様の姉君だったとは」
世間は狭いだの運命なのかだの言いながら、膝をつくなり拒否する間も無く私の片手を取る。
手の甲に口付けを落とされた。
感じる生温かい唇の感触とギラギラとした眼差しに背筋がぞわりとする。
相手がいくらイケメンであっても、嫌悪感が湧くときは湧くものだなぁ、という考えが脳裏にちらりと過った。
「まあ、レアンドロ殿下。御戯れを」
金の生る木でなかったら、その顔面を踏みつけていたところだ。
早よ手を離せ、という意味を込めるも、手はそのままだ。
「戯れなど……」
何時でも聖女様のことを崇拝しております、と懇願するような目をするレアンドロ王子。
純粋に信仰心なのか、それとも――。
困惑しつつ精神感応を使おうかと考えた矢先、アルバート王子が窘める。
頭が理解していても体が付いて行かないと答えるレアンドロ王子。
――意識せず習慣化している、ということか?
ならばやっぱりお国柄のものだということが出来る。
私は呆れてレアンドロ王子を見た。
「エスパーニャ王国の男性は皆殿下のような方ばかりなんですの?」
「さあ……確かめてごらんになりますか?」
流れるような自然な返事。
――あ、やっぱり社交辞令だわ。
それならこちらもそれなりの返事をするまでである。
婚約者である皇女エリーザベトや他の令嬢を持ち出して、彼女らに恨まれてしまう等と茶化すように返すと、レアンドロ王子は笑ってあっさりと引き下がった。
ふう……こんな調子だとエスパーニャ王国の恋愛は色々大変そうだな。これが日常茶飯事だと、相手の本音が分からなくなりそうだ。
アン姉に疱瘡の流行や種痘の話をする間、こっそりと握られた手をさり気なく布巾で拭く。
冗談として流して済んだが……レアンドロ王子が見せた、ギラギラした眼差しが引っかかっていた。
王族にとって、聖女は利用価値があるのは確かだ――オス麿やアーダム皇子の件もあったし、気を付けておくとするか。
57
お気に入りに追加
4,794
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。