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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
尾ひれが付きまくった噂はやがて伝説へ。
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思い切り泣いて落ち着いたので、私は涙を拭って白鯨やイルカ達に向き直った。
『ありがとう、皆のお陰で無事に夫や仲間達と合流出来たわ。何かお礼がしたいのだけれど……望みはあるかしら?』
『見返りを期待した訳ではない(意訳)』
『いいってことよ!(意訳)』
白鯨とイルカ達はそう言ってくれるけれど、何か出来ないだろうか。
何せ、命を助けられたのだ。
『うーん……そうだわ! 私って人間の中では結構偉いの。だから人間達にクジラやイルカに危害を加えないように命令しておくわね』
考えて絞り出したお礼がそれだった。例外的に寿命による寄りクジラは許して欲しい。禁漁区である目印として、海から見えるようにクジラやイルカのモニュメントを街に建てる。
少なくともトラス王国沿岸や聖地近辺は可能だろう。シルに頼めば彼の支配海域ぐらいはなんとか。
大体の範囲も思い浮かべて伝えると、特に白鯨が人間に煩わされないのんびり出来る海域が出来たと喜んでいた。
その目立つ外見から、北の海では小さいころから狙われていたらしい。
成程、それで攻撃的になっていったんだろうな。
イルカ達もそれでいいというので、そういうことになった。
『それじゃあな、あばよ!(意訳)』
『楽しかったぜ!(意訳)』
『次会う時はフグを一緒にやれるといいな(意訳)』
――無理です。
イルカの一頭が私達の乗る救命ボートの上を高く飛び越えて行ったのを皮切りに、次々とイルカ達が別れの言葉代わりの鳴き声を上げながら飛び越えて行く。
やがて、全てのイルカ達が海の中へと消えて行った。
気が付くと、白鯨と美人鯨のカップルは離れた場所に移動している。
キュオオオオン、という鳴き声。私は精神感応を研ぎ澄ませた。
『それでは我らも行くとしよう。さらばだ、小さき者よ(意訳)』
『うふふ、楽しかったわ。さようなら(意訳)』
私は手を大きく振る。
『さようなら、そしてありがとう!』
その言葉を伝えると、二頭は同時に海面に飛び上がり、水しぶきを上げて海へと沈んで行った。
白鯨のデート、うまく行けばいいな。
余談だが、後日、南の海の船乗りの間で海妖セイレーンを見たとの噂が駆け巡った。
北の悪魔の白鯨や夥しい数のイルカ達を従えていた、人ならざる金髪の美女――魂を虜にする歌で船乗りを惑わし、近づけば船を沈められるのだと。
セイレーンは『航海の無事を願うのならば、私の配下のクジラやイルカに手を出してはならぬ。そして我が絵姿を飾って祈りを捧げよ』と言ったとか言ってないとか……。
私はアマビエか。
その尾ひれの付きまくった噂を耳にした時のグレイの同情的な眼差しが痛かった。
妖怪て。せめて人魚姫……いや、もう何も言うまい。
***
船の上に上げて貰った私は。
「「「マリー様あああ!」」」
サリーナと馬の脚共に号泣しながら抱き着かれてしまった。お陰で涙が完全に引っ込んだ。
「よくぞ、よくぞご無事で……!」
「マリー様が攫われた時は、生きた心地が致しませんでした!」
「私がもっと注意していれば……」
私は順繰りに三人の頭をポンポンとして宥める。
「前脚、こうして無事に戻ったからもう泣かずともよい」
「後ろ脚、心配をかけたな。それと、くれぐれも言っておくが。お前達――カールも含めて責任を取っての自害や私の馬を降りることは許さん、いいな」
お前達が居なければ、誰が毎朝私を乗せるのだ、と言うと、馬の脚共ははい……と感極まったように頷いた。グレイの傍に居るカールは「ご無事で何よりですー。よかったですね、先輩達ー」といつもの調子で微笑んでいる。
「そしてサリーナも。あれはアヤスラニ帝国の秘された薬だそうよ。今回の事は不可抗力で、サリーナでなくとも防げなかったと思うわ。だから自分の事を必要以上に責めないで。二度目が無ければいいのよ」
「勿論! 二度目などあろう筈がありません!」
きっと決意を秘めた眼差しをするサリーナ。馬の脚共やカールも同様だ。
戻ったら解毒薬を精神感応で暴きだし、ああいう薬を使われた場合の対策を立てやすいように伝えるとしよう。
その後、侍女ナーテやエヴァン修道士、ファリエロ、マルコ他皆に無事と再会を喜ばれる。
その後、私はサリーナとナーテに連れられて船室へと誘われた。
体が重い上、海水で濡れた服がべたべたまとわりついて気持ち悪い。
びしょ濡れの服を脱ぎ、蒸しタオルで髪や体を拭いてもらって着替えたけれど、まだ不快感は残っていた。
協力のお礼も含めて一旦コスタポリには寄るので、それまで我慢してくれとグレイ。
体に鞭打って精神感応を使い、シルに無事合流したと伝えると、あちらも無事アーダム皇子達を捕まえることに成功したようだ。
勿論拿捕の名目はフレール達の誘拐容疑である。ただ、保護されたフレールがやたら秋波を送って来て煩わしいらしい。
まあ確かにシルはイケメンだからなぁ。
『ありがとう、皆のお陰で無事に夫や仲間達と合流出来たわ。何かお礼がしたいのだけれど……望みはあるかしら?』
『見返りを期待した訳ではない(意訳)』
『いいってことよ!(意訳)』
白鯨とイルカ達はそう言ってくれるけれど、何か出来ないだろうか。
何せ、命を助けられたのだ。
『うーん……そうだわ! 私って人間の中では結構偉いの。だから人間達にクジラやイルカに危害を加えないように命令しておくわね』
考えて絞り出したお礼がそれだった。例外的に寿命による寄りクジラは許して欲しい。禁漁区である目印として、海から見えるようにクジラやイルカのモニュメントを街に建てる。
少なくともトラス王国沿岸や聖地近辺は可能だろう。シルに頼めば彼の支配海域ぐらいはなんとか。
大体の範囲も思い浮かべて伝えると、特に白鯨が人間に煩わされないのんびり出来る海域が出来たと喜んでいた。
その目立つ外見から、北の海では小さいころから狙われていたらしい。
成程、それで攻撃的になっていったんだろうな。
イルカ達もそれでいいというので、そういうことになった。
『それじゃあな、あばよ!(意訳)』
『楽しかったぜ!(意訳)』
『次会う時はフグを一緒にやれるといいな(意訳)』
――無理です。
イルカの一頭が私達の乗る救命ボートの上を高く飛び越えて行ったのを皮切りに、次々とイルカ達が別れの言葉代わりの鳴き声を上げながら飛び越えて行く。
やがて、全てのイルカ達が海の中へと消えて行った。
気が付くと、白鯨と美人鯨のカップルは離れた場所に移動している。
キュオオオオン、という鳴き声。私は精神感応を研ぎ澄ませた。
『それでは我らも行くとしよう。さらばだ、小さき者よ(意訳)』
『うふふ、楽しかったわ。さようなら(意訳)』
私は手を大きく振る。
『さようなら、そしてありがとう!』
その言葉を伝えると、二頭は同時に海面に飛び上がり、水しぶきを上げて海へと沈んで行った。
白鯨のデート、うまく行けばいいな。
余談だが、後日、南の海の船乗りの間で海妖セイレーンを見たとの噂が駆け巡った。
北の悪魔の白鯨や夥しい数のイルカ達を従えていた、人ならざる金髪の美女――魂を虜にする歌で船乗りを惑わし、近づけば船を沈められるのだと。
セイレーンは『航海の無事を願うのならば、私の配下のクジラやイルカに手を出してはならぬ。そして我が絵姿を飾って祈りを捧げよ』と言ったとか言ってないとか……。
私はアマビエか。
その尾ひれの付きまくった噂を耳にした時のグレイの同情的な眼差しが痛かった。
妖怪て。せめて人魚姫……いや、もう何も言うまい。
***
船の上に上げて貰った私は。
「「「マリー様あああ!」」」
サリーナと馬の脚共に号泣しながら抱き着かれてしまった。お陰で涙が完全に引っ込んだ。
「よくぞ、よくぞご無事で……!」
「マリー様が攫われた時は、生きた心地が致しませんでした!」
「私がもっと注意していれば……」
私は順繰りに三人の頭をポンポンとして宥める。
「前脚、こうして無事に戻ったからもう泣かずともよい」
「後ろ脚、心配をかけたな。それと、くれぐれも言っておくが。お前達――カールも含めて責任を取っての自害や私の馬を降りることは許さん、いいな」
お前達が居なければ、誰が毎朝私を乗せるのだ、と言うと、馬の脚共ははい……と感極まったように頷いた。グレイの傍に居るカールは「ご無事で何よりですー。よかったですね、先輩達ー」といつもの調子で微笑んでいる。
「そしてサリーナも。あれはアヤスラニ帝国の秘された薬だそうよ。今回の事は不可抗力で、サリーナでなくとも防げなかったと思うわ。だから自分の事を必要以上に責めないで。二度目が無ければいいのよ」
「勿論! 二度目などあろう筈がありません!」
きっと決意を秘めた眼差しをするサリーナ。馬の脚共やカールも同様だ。
戻ったら解毒薬を精神感応で暴きだし、ああいう薬を使われた場合の対策を立てやすいように伝えるとしよう。
その後、侍女ナーテやエヴァン修道士、ファリエロ、マルコ他皆に無事と再会を喜ばれる。
その後、私はサリーナとナーテに連れられて船室へと誘われた。
体が重い上、海水で濡れた服がべたべたまとわりついて気持ち悪い。
びしょ濡れの服を脱ぎ、蒸しタオルで髪や体を拭いてもらって着替えたけれど、まだ不快感は残っていた。
協力のお礼も含めて一旦コスタポリには寄るので、それまで我慢してくれとグレイ。
体に鞭打って精神感応を使い、シルに無事合流したと伝えると、あちらも無事アーダム皇子達を捕まえることに成功したようだ。
勿論拿捕の名目はフレール達の誘拐容疑である。ただ、保護されたフレールがやたら秋波を送って来て煩わしいらしい。
まあ確かにシルはイケメンだからなぁ。
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