440 / 671
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
尾ひれが付きまくった噂はやがて伝説へ。
しおりを挟む
思い切り泣いて落ち着いたので、私は涙を拭って白鯨やイルカ達に向き直った。
『ありがとう、皆のお陰で無事に夫や仲間達と合流出来たわ。何かお礼がしたいのだけれど……望みはあるかしら?』
『見返りを期待した訳ではない(意訳)』
『いいってことよ!(意訳)』
白鯨とイルカ達はそう言ってくれるけれど、何か出来ないだろうか。
何せ、命を助けられたのだ。
『うーん……そうだわ! 私って人間の中では結構偉いの。だから人間達にクジラやイルカに危害を加えないように命令しておくわね』
考えて絞り出したお礼がそれだった。例外的に寿命による寄りクジラは許して欲しい。禁漁区である目印として、海から見えるようにクジラやイルカのモニュメントを街に建てる。
少なくともトラス王国沿岸や聖地近辺は可能だろう。シルに頼めば彼の支配海域ぐらいはなんとか。
大体の範囲も思い浮かべて伝えると、特に白鯨が人間に煩わされないのんびり出来る海域が出来たと喜んでいた。
その目立つ外見から、北の海では小さいころから狙われていたらしい。
成程、それで攻撃的になっていったんだろうな。
イルカ達もそれでいいというので、そういうことになった。
『それじゃあな、あばよ!(意訳)』
『楽しかったぜ!(意訳)』
『次会う時はフグを一緒にやれるといいな(意訳)』
――無理です。
イルカの一頭が私達の乗る救命ボートの上を高く飛び越えて行ったのを皮切りに、次々とイルカ達が別れの言葉代わりの鳴き声を上げながら飛び越えて行く。
やがて、全てのイルカ達が海の中へと消えて行った。
気が付くと、白鯨と美人鯨のカップルは離れた場所に移動している。
キュオオオオン、という鳴き声。私は精神感応を研ぎ澄ませた。
『それでは我らも行くとしよう。さらばだ、小さき者よ(意訳)』
『うふふ、楽しかったわ。さようなら(意訳)』
私は手を大きく振る。
『さようなら、そしてありがとう!』
その言葉を伝えると、二頭は同時に海面に飛び上がり、水しぶきを上げて海へと沈んで行った。
白鯨のデート、うまく行けばいいな。
余談だが、後日、南の海の船乗りの間で海妖セイレーンを見たとの噂が駆け巡った。
北の悪魔の白鯨や夥しい数のイルカ達を従えていた、人ならざる金髪の美女――魂を虜にする歌で船乗りを惑わし、近づけば船を沈められるのだと。
セイレーンは『航海の無事を願うのならば、私の配下のクジラやイルカに手を出してはならぬ。そして我が絵姿を飾って祈りを捧げよ』と言ったとか言ってないとか……。
私はアマビエか。
その尾ひれの付きまくった噂を耳にした時のグレイの同情的な眼差しが痛かった。
妖怪て。せめて人魚姫……いや、もう何も言うまい。
***
船の上に上げて貰った私は。
「「「マリー様あああ!」」」
サリーナと馬の脚共に号泣しながら抱き着かれてしまった。お陰で涙が完全に引っ込んだ。
「よくぞ、よくぞご無事で……!」
「マリー様が攫われた時は、生きた心地が致しませんでした!」
「私がもっと注意していれば……」
私は順繰りに三人の頭をポンポンとして宥める。
「前脚、こうして無事に戻ったからもう泣かずともよい」
「後ろ脚、心配をかけたな。それと、くれぐれも言っておくが。お前達――カールも含めて責任を取っての自害や私の馬を降りることは許さん、いいな」
お前達が居なければ、誰が毎朝私を乗せるのだ、と言うと、馬の脚共ははい……と感極まったように頷いた。グレイの傍に居るカールは「ご無事で何よりですー。よかったですね、先輩達ー」といつもの調子で微笑んでいる。
「そしてサリーナも。あれはアヤスラニ帝国の秘された薬だそうよ。今回の事は不可抗力で、サリーナでなくとも防げなかったと思うわ。だから自分の事を必要以上に責めないで。二度目が無ければいいのよ」
「勿論! 二度目などあろう筈がありません!」
きっと決意を秘めた眼差しをするサリーナ。馬の脚共やカールも同様だ。
戻ったら解毒薬を精神感応で暴きだし、ああいう薬を使われた場合の対策を立てやすいように伝えるとしよう。
その後、侍女ナーテやエヴァン修道士、ファリエロ、マルコ他皆に無事と再会を喜ばれる。
その後、私はサリーナとナーテに連れられて船室へと誘われた。
体が重い上、海水で濡れた服がべたべたまとわりついて気持ち悪い。
びしょ濡れの服を脱ぎ、蒸しタオルで髪や体を拭いてもらって着替えたけれど、まだ不快感は残っていた。
協力のお礼も含めて一旦コスタポリには寄るので、それまで我慢してくれとグレイ。
体に鞭打って精神感応を使い、シルに無事合流したと伝えると、あちらも無事アーダム皇子達を捕まえることに成功したようだ。
勿論拿捕の名目はフレール達の誘拐容疑である。ただ、保護されたフレールがやたら秋波を送って来て煩わしいらしい。
まあ確かにシルはイケメンだからなぁ。
『ありがとう、皆のお陰で無事に夫や仲間達と合流出来たわ。何かお礼がしたいのだけれど……望みはあるかしら?』
『見返りを期待した訳ではない(意訳)』
『いいってことよ!(意訳)』
白鯨とイルカ達はそう言ってくれるけれど、何か出来ないだろうか。
何せ、命を助けられたのだ。
『うーん……そうだわ! 私って人間の中では結構偉いの。だから人間達にクジラやイルカに危害を加えないように命令しておくわね』
考えて絞り出したお礼がそれだった。例外的に寿命による寄りクジラは許して欲しい。禁漁区である目印として、海から見えるようにクジラやイルカのモニュメントを街に建てる。
少なくともトラス王国沿岸や聖地近辺は可能だろう。シルに頼めば彼の支配海域ぐらいはなんとか。
大体の範囲も思い浮かべて伝えると、特に白鯨が人間に煩わされないのんびり出来る海域が出来たと喜んでいた。
その目立つ外見から、北の海では小さいころから狙われていたらしい。
成程、それで攻撃的になっていったんだろうな。
イルカ達もそれでいいというので、そういうことになった。
『それじゃあな、あばよ!(意訳)』
『楽しかったぜ!(意訳)』
『次会う時はフグを一緒にやれるといいな(意訳)』
――無理です。
イルカの一頭が私達の乗る救命ボートの上を高く飛び越えて行ったのを皮切りに、次々とイルカ達が別れの言葉代わりの鳴き声を上げながら飛び越えて行く。
やがて、全てのイルカ達が海の中へと消えて行った。
気が付くと、白鯨と美人鯨のカップルは離れた場所に移動している。
キュオオオオン、という鳴き声。私は精神感応を研ぎ澄ませた。
『それでは我らも行くとしよう。さらばだ、小さき者よ(意訳)』
『うふふ、楽しかったわ。さようなら(意訳)』
私は手を大きく振る。
『さようなら、そしてありがとう!』
その言葉を伝えると、二頭は同時に海面に飛び上がり、水しぶきを上げて海へと沈んで行った。
白鯨のデート、うまく行けばいいな。
余談だが、後日、南の海の船乗りの間で海妖セイレーンを見たとの噂が駆け巡った。
北の悪魔の白鯨や夥しい数のイルカ達を従えていた、人ならざる金髪の美女――魂を虜にする歌で船乗りを惑わし、近づけば船を沈められるのだと。
セイレーンは『航海の無事を願うのならば、私の配下のクジラやイルカに手を出してはならぬ。そして我が絵姿を飾って祈りを捧げよ』と言ったとか言ってないとか……。
私はアマビエか。
その尾ひれの付きまくった噂を耳にした時のグレイの同情的な眼差しが痛かった。
妖怪て。せめて人魚姫……いや、もう何も言うまい。
***
船の上に上げて貰った私は。
「「「マリー様あああ!」」」
サリーナと馬の脚共に号泣しながら抱き着かれてしまった。お陰で涙が完全に引っ込んだ。
「よくぞ、よくぞご無事で……!」
「マリー様が攫われた時は、生きた心地が致しませんでした!」
「私がもっと注意していれば……」
私は順繰りに三人の頭をポンポンとして宥める。
「前脚、こうして無事に戻ったからもう泣かずともよい」
「後ろ脚、心配をかけたな。それと、くれぐれも言っておくが。お前達――カールも含めて責任を取っての自害や私の馬を降りることは許さん、いいな」
お前達が居なければ、誰が毎朝私を乗せるのだ、と言うと、馬の脚共ははい……と感極まったように頷いた。グレイの傍に居るカールは「ご無事で何よりですー。よかったですね、先輩達ー」といつもの調子で微笑んでいる。
「そしてサリーナも。あれはアヤスラニ帝国の秘された薬だそうよ。今回の事は不可抗力で、サリーナでなくとも防げなかったと思うわ。だから自分の事を必要以上に責めないで。二度目が無ければいいのよ」
「勿論! 二度目などあろう筈がありません!」
きっと決意を秘めた眼差しをするサリーナ。馬の脚共やカールも同様だ。
戻ったら解毒薬を精神感応で暴きだし、ああいう薬を使われた場合の対策を立てやすいように伝えるとしよう。
その後、侍女ナーテやエヴァン修道士、ファリエロ、マルコ他皆に無事と再会を喜ばれる。
その後、私はサリーナとナーテに連れられて船室へと誘われた。
体が重い上、海水で濡れた服がべたべたまとわりついて気持ち悪い。
びしょ濡れの服を脱ぎ、蒸しタオルで髪や体を拭いてもらって着替えたけれど、まだ不快感は残っていた。
協力のお礼も含めて一旦コスタポリには寄るので、それまで我慢してくれとグレイ。
体に鞭打って精神感応を使い、シルに無事合流したと伝えると、あちらも無事アーダム皇子達を捕まえることに成功したようだ。
勿論拿捕の名目はフレール達の誘拐容疑である。ただ、保護されたフレールがやたら秋波を送って来て煩わしいらしい。
まあ確かにシルはイケメンだからなぁ。
67
お気に入りに追加
4,794
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。