貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
432 / 690
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(70)

しおりを挟む
 僕はサイモン様やアルトガル、ワイバーンのアーベルトと共に新しい隠密騎士の里『海ノ庄(仮)』の候補地について話し合いをしていた。
 候補地はナヴィガポールに隣接した場所の幾つか。
 その内でも最有力候補地は雪山――グラセタルネール山脈の西端、ナヴィガポールから北東部に隣接している土地だ。
 今の所、木こりぐらいしか住んでいない。

 「ここは領都クードルセルヴへ向かう街道に出られますし、ガリア、ヘルヴェティアにも行きやすい。綺麗な川もありますので水も問題ありません。
 実は小規模ながら傭兵の拠点としてきた地――ここが最適かと存じます」

 というのはアルトガルだ。責任者のワイバーンのアーベルト・メレンも成程と頷く。

 「交易の利便性と機密性から件の工場も建て易い――そうだな?」

 件の工場とは、砂糖やオコノミソースの工場のことだ。
 サイモン様の言葉にアルトガルがニヤッと笑う。

 「ふふふ、正にそれも狙ってのことにございます」

 「陸路、海路共に外国にも売りに行けるってことだね」

 「ただ、隠密活動的に緊急時に海に出るのに時間を取られるのでは?」

 地図を眺めていたアーベルトが問題点を指摘する。
 アルトガルが「勿論それも考えている」と口を開いた。

 「それは船乗りとして幾人かをナヴィガポールに定期的に入れ替えながら常住させれば解決する。どうせ操船や揺れる船上での戦闘訓練をすることになるのであろう?」

 「ふむ……確かに」

 「他は情報収集の場として語学堪能な者を選りすぐり、船乗り向けの酒場や娼館を経営させれば宜しいかと」

 「……船乗りは色んな国の人間がいるからね」

 ガリア食堂の親父が頭に思い浮かぶ。出資して昼間は親父、夜はアルトガルの推薦した者達で酒場経営を持ちかけてみようか。
 娼館は――アールに支店を作って貰えないか頼むとしよう。

 「それが宜しいかと」

 「うん」

 結局、アルトガルの案を採用して『海ノ庄(仮)』の最有力地はその地に決まった。

 その次の日の朝。

 「彼らをよろしく頼むよ、ジャン」

 王都から来てくれたジャン・バティスト。僕は久々に会った彼に商会採用の者達を引き渡していた。
 僕の言葉に、彼は胸に手を当てて「お任せを」と一礼した。
 彼らは研修を受けた後、それぞれ銀行や株式、新事業等に振り分けられていくことになる。
 人手不足だったから優秀な人材を確保出来て嬉しい。
 ジャンには採用された彼らの資料や使用人採用試験内容を記したものを渡している。今後の商会での人材採用に役立てられることになるだろう。
 また、『海ノ庄(仮)』についてしたためた兄アールへの手紙をジャンに託しておいた。


***


 「報告致します」

 人材採用試験に紛れ込んでいた者達の処分を、と報告に来た大鹿エルクのヘルフリッツ。
 僕は「続けて」と促した。

 「間諜は前領主の手の者が十名、ドルトン侯爵家の手の者が八名、スキアー公爵家の者が六名……神聖アレマニア帝国からの者が十四名、アルビオン王国より三名、ガリア王国の者が二名、エスパーニャ王国の者が三名、北方のノルッガ連合王国から三名、ルーシ帝国から二名……」

 つらつらと挙げられて行く内容に僕の頬は次第に引きつっていった。
 サイモン様が「遥々ご苦労な事だ」と喉の奥で笑う。

 「釣れること釣れること。聖女という存在は魔法の釣り餌のようなものだ。正に入れ食いだな」

 「国内貴族は兎も角、まさかそんなに沢山の国から来て居たなんて……」

 「それだけ聖女に、そしてその夫に注目しているということだな」

 「二、三名程度の少人数は様子見かと思われます」

 そうだろうなぁ。

 僕は頷いた。

 「国内からいこう。ドルトン侯爵家は……王妃繋がりだとして。スキアー公爵家は何故?」

 スキアー公爵家は宰相だ。僕は警戒されているのだろうか。
 思い当たること……考え込む僕。

 「アルバート殿下、というかギャヴィン子爵関係だろう」

 サイモン様の言葉にああそうか、と思い出す。ギャヴィン子爵は宰相スキアー公爵の庶子だったっけ。
 ヘルフリッツはその通りにございます、と頷く。

 「マリー様によれば、スキアー公爵家の者達はどちらかと言えばギャヴィンが収城使として失敗しないようにとの目的が大きいそうです。
 ギャヴィン子爵をアルバート殿下の側近として育てて来たので、失敗されると困ると。
 かと言ってこちらの弱みなりなんなりを探る目的が全くない訳ではないそうで、そちらは意趣返しの手紙と手土産を持たせて帰せばよいと仰っておられました」

 「そう言うことならそちらは問題なさそうですね」

 「問題があるのは前領主とドルトン侯爵家だ。両方共第二王子派なのだからな」

 「はい。そちらは悪意があるとのことでした」
しおりを挟む
感想 925

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。