貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
426 / 690
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

頼りになる旦那様。

しおりを挟む
 オス麿達の記憶によれば、視察の途中で計画を立て、麻痺香を使用。
 昏睡状態に陥った私を人質に取った上で、こちら側の護衛達の大半に煙を吸わせて無力化した。
 その後オス麿達は馬を奪って逃走。
 残った馬も時間稼ぎの為に尻を叩いて逃がした。シャンブリル川に出て漁民のボートを盗み、港町ジュリヴァへ向かって南下。
 その際、私のドレスをいで、陽動として騎馬をナヴィガポール方面へと走らせた。
 オス麿の配下の中に盗賊出身の男がおり、その進言によるものだった。

 父サイモンの記憶の中での隠密騎士の報告によれば、表に出ず離れた場所から護衛をしていた隠密騎士達は、事態を覆す程の数が居なかったらしい。私が人質に取られていて、下手な動きが出来なかったというのもある。
 彼らはすぐさま報告と増援を頼みに一人を城へ走らせ、残りは救助班と追跡班に分かれて行動したようだ。

 追跡班にはグレイ、カール、馬の脚共、サリーナとナーテも加わったという。
 カールは咄嗟にグレイと自分の口元を覆って倒れ、また馬の脚共やサリーナ達も口を覆って倒れた振りをしたので煙を吸った量はまだ少なくて済んだ模様。

 オス麿達を逃がした後、散らされた馬達を取り戻した頃に少し遅れて出発したグレイ達は追跡を開始。
 先行していた隠密騎士の案内で、オス麿達が二手に分かれたと聞いてグレイ達も二手に分かれることに。
 ナヴィガポールへはグレイや馬の脚共、カール、サリーナ、ナーテ達が。
 ジュリヴァへは土地勘のあるワイバーンのアーベルト・メレン達が向かったそうだ。

 一方、オス麿達は無事ジュリヴァへ辿り着いたはいいものの、疲労困憊の所をたまたま戻って来ていたアーダム皇子に襲撃され、まんまと私を奪われてしまった。
 アーダム皇子達が去ったところで追いかけてきたアーベルト達によって捕らえられ、尋問の末に城へと連行されて今に至る。

 父サイモンは早馬での報告を聞くとすぐさま隠密騎士の増援を指示、領政総官クロヴラン・ピュトロワを通じてディディエ・シュルドーに陸路である街道を封鎖させ、ロイジウス・ウーファーには領都内警備の強化を命じていた。
 視察に出る前にグレイが一時的に領主権限を父に託した形になっていたのは不幸中の幸いだったと思う。

 精神感応で我が身の無事と現況をざっと伝えると、父サイモンは糸が切れたように机に崩れ落ちた。近くにいた母ティヴィーナが祈りの所作をして涙ぐんでいる。

 『ああ、マリーちゃん。私の可愛い娘、無事で良かったわ!』

 『グレイはお前を追って行った。今頃船を出しているに違いない』

 『本当に心配をかけてごめんなさい。ダディ、ありがとう! ママン、必ず無事で戻って来るから! それまでダディを宜しくね!』

 精神感応を一旦切って、私はすぐさまグレイを探した。
 ナヴィガポールを透視し、船乗りの一人の記憶を読む。ファリエロ達の船団がグレイや皆を乗せて慌ただしく出航したらしい。
 ファリエロの船に絞って透視すると――見つけた!


***


 何隻もの商船団が、固まって海上を進んでいた。
 その先頭を切る帆船――船首に立ってオレンジ色の髪をなびかせながら望遠鏡を覗いている姿に、うっかり涙が出そうになる。

 『グレイ、グレイ!』

 感極まって名を呼びかけると、グレイははっと驚いたように望遠鏡を目から外した。

 『っ、マリー!? 今何処にいるんだ!』

 『ここよ!』

 私は衛星写真から見た位置をそのままグレイの脳裏に送り込む。船の特徴も併せて伝えた。

 『良かった、そう遠く離れてはいない。アーダム皇子に連れ去られたってアーベルト達から早馬が来たけれど、マリーは無事?』

 『ええ、無事でいるわ。実は――』

 私は知り得たことを全てグレイに話した。
 透視と精神感応を駆使して知り得た誘拐の顛末に領地の現況から始まり、今日船室内で目覚めたこと。
 アーダム皇子に聞いたアヤスラニ帝国の麻痺香の話。
 何故かフレールに遭遇して逆恨みされ呪われかけたこと。フレールがアーダム皇子の共犯者となり、国を裏切る言動をしていたこと。
 聖地に辿り着いたら私の貞操がヤバくなることも全て。

 『分かった。急がなきゃいけないね。あのクソ女、兄さんの時と言い、本当にどこまでも余計なことを……』

 おっと、グレイからそこはかとなくダークサイドな感情が。珍しく舌打ちをしている。
 そもそもよく思っていなかった元義姉である。更に今回の事で相当腹に据えかねているようだ。
 それはさておき、私は彼の考えを読んで驚いていた。

 『グレイは最初からコスタポリに行こうとしていたのね。実は、私が乗せられている船もコスタポリへ向かっているの』

 『船旅である以上はどこかで補給しないといけないからね……それにコスタポリは復興の真っ最中で船がひっきりなしに出入りしている』

 人を攫ってきている以上、紛れ込めそうなコスタポリを選ぶはず――その確信があったんだ、とグレイは照れ臭そうに言った。

 『それよりもマリー、アーダム皇子達にこうして連絡を取り合っていることを気付かれたら危険なのでは?』

 『大丈夫よ、彼らは聖地で見せた以上の聖女の能力については知らなかったから』

 『分かった。でも油断はしないでね。マリー、コスタポリで決着を付けよう。シルヴィオ殿下に連絡して軍艦で足止めをお願い出来る? 伝える内容は――』

 その内容に私は妙案だと頷いた。
 時間稼ぎをしている間に追い付くと思うから、とグレイは言う。
 シルの協力を得ることも計算に入れていた彼は、つくづく頼りになる旦那様である。

 『グレイ、助けに来てくれるのを待っているわ』

 『うん。それと、僕達が追い付くまで、マリーはくれぐれも相手を刺激しないように軽挙妄動は控えて大人しくしていてね。
 後……ヨハンとシュテファン、サリーナの三人を宥めておいて欲しい。三人共、滅茶苦茶殺気立ってるんだ』

 特に三人がオス麿一行やアーダム皇子達をズタズタに殺してやる! と狂犬のようになっているらしい。
 私を無事に取り戻す為に冷静になって欲しい、と必死で宥めたが、今度は私が無事ではなかったもしくは私を助けだした後は守り切れなかった責任取って自害するのだと言っているそうだ。

 『わ、分かったわ……』

 グレイが三人を呼んでくれたので精神感応で全員に声を掛けると、大号泣された。
 勿論今回の事は不可抗力なので自害も禁じておきましたとも。
しおりを挟む
感想 925

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。