貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

それを猟師が鉄砲で撃ってさ。

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 大導師、年の功か恐れ知らずでなかなか豪胆だな。まあ聖女の素行は気になるよね。
 私はコホンと咳払いをした。

 「……神聖アレマニア帝国の皇帝選挙が迫っていますわね。アーダム皇子は私を攫い、無理やり皇妃にする事で次期皇帝位を盤石にしようとしているのですわ」

 だからあのような態度をわざと取って性格に難のある女を演じていたのだと伝えると、大導師は瞠目する。
 ちなみにメイソン本人は喜んでいた。衆目の中足置きとなった事に新たな境地と興奮を覚えたらしい。

 「『何と……そのようなことに』」

 「ええ、ですからあの時貴方がたが入って来られて驚きましたが、反面助かりましたわ」

 「『危ういところでございました。これも神々のお導きでございましょう』」

 得心が行ったとばかりに頷くフゼイフェに、私は話題を切り替える。

 「それはそうと、お伝えしておかねばならないことがありますわ」

 私は聖女の素行問題以上に重要な天然痘の事について話した。『種痘』のこと、そしてそれを行う予定であることも。
 それを聞いた大導師フゼイフェはいたく驚き、またタイミング良く私に会いに来たこともお導きだったのだと祈りを捧げた。

 「人々の命を救う為に、大導師フゼイフェ――貴方の協力が必要なのです」

 「『私からも大導師にお願いします。この身はこの国にあれど、私は何時でも祖国を想っております』」

 「『アヤスラニ帝国の人々の為にも』」

 「『勿論私も妻も『種痘』を受けるつもりです。アヤスラニ帝国は大切な友人の国でもあり、疫病の魔の手から守られることを願っています』」

 私が座ったまま頭を垂れると、イドゥリースも口添えしてくれた。
 スレイマン、グレイもそれに続く。
 皆から頭を下げられたフゼイフェは慌てて「『顔をお上げ下さい』」と言った。

 「『勿論でございます。私に出来ることならば尽力致しましょう』」

 津波で国力を削がれた上に天然痘は泣きっ面に蜂だろう。
 アヤスラニ帝国では予言と烏、精神感応という形で聖女の能力を既に示している。
 月女神信仰の最高指導者である大導師フゼイフェが私を認めた上で協力が得られたのならば『種痘』が上手く広められそうなのは不幸中の幸いか。

 「一度、サングマ教皇も交えてお話しされると良いかも知れませんわね。平和を求めて良い関係を築いていければと思います」

 そんな話をしてその場はお開きになった。


***


 領政について色々と採用試験へ向けて雑事に追われている内に、士官を希望する者達が続々と集まって来ていた。
 公示に試験は門地門閥問わず誰でも受験可能としておいたので、立身出世を目論む者達が列をなしている。

 ちなみに滞在費用はこちら側がもつ。城の客間で間に合わなければ城下町の宿に頼むしかないが――幸い、そうはならずに済んで良かったと思う。
 試験日程は文官、武官、使用人その他と三週間。
 それぞれ一日目に試験を受け、六日目に合否通知、七日目に退去して次の者と入れ替わる方式である。

 採用試験の中身に関しては、皆と相談しながら私とグレイで決めた。
 父サイモンは聞き役・求められた時の助言役に徹してくれている。採用試験について私達があーだこーだ言うのを興味深そうに見守っていた。

 大前提として、読み書き必須。最初に書いて貰う履歴書で何割か弾かれるだろう。
 それをクリアした者が次のステップへ進む。

 文官は法律知識・経理計算・ダージリン領の政策についての論文。
 武官は読み書き計算等の一般常識・武器や火器の知識テストやダージリン領の防衛等に関する論文・隠密騎士を試験官とした実技試験。
 使用人は、一般常識・使用人の心得についての論文・侍女が試験官となる実技試験。

 それに加え、それぞれ同じ倫理を問うテスト・適性テスト・集団面接が課されることになる。その後の個別面接で配属が決まり、正式採用となる流れだ。

 こう見れば、試験の結果が良い者が受かると思われるだろう。それも勿論あるが、実は一番ウェイトを占めているのは面接。
 私が精神感応でざっと内面を読み取り、良からぬことを考えていたり、敵対的勢力からの間諜スパイだったりする――そんな場合は試験結果が如何に良くても容赦なく弾かれるという仕組みである。
 勿論間諜スパイの場合、「ちょっとお話宜しいですか」と薄暗い部屋にドナドナされてしまう。採用試験という名の間諜スパイホイホイなのだ。

 「広く有能な者を集めようとなさるの試みは結構なこととは存じますが……領内の事に熟知して経験を積んだ者を辞めさせて、大部分を登用された者達に挿げ替えなさるようなことがあれば民達も不安を感じてしまいましょう。
 恐れ入りますが、そのような事をなされますと領政が混乱するかと愚考致します」

 採用試験内容を身内以外に一切明かさなかった私達。
 その事で現文官人事が一新されると察知した現領政官――エミリュノ・ルグミラマという男が、文官採用試験数日前になって、数人の部下達を引き連れて苦情を申し立ててきた。

 「これまで上手く回っていたことが回らなくなる。領の為に働いて来たこの者達も、いきなり解雇の憂き目に遭えば内心不満を抱きましょう。それは宜しくないことでございます。聖女様、そしてグレイ・ダージリン伯爵閣下におかれましては何卒人事につきましてお慈悲と慎重かつ賢明なご判断を」

 領政官エミリュノの言葉が終わるや否や、一同礼を取って頭を垂れる文官達。
 精神感応を使うとどいつもこいつも横領不正に関わっている者達ばかりであった。

 だから自分達の働きを認めて雇い続けろ――そう言いたいのだろう。
 さもなくば何をするか分からんぞ、と。

 私はパラリと扇を開く。

 さて、このせんば山の古狸共をどう料理しようか。
 手鞠歌にあるように肥後熊本の猟師役を果たさねばなるまい。
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