貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

名前の由来。

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 私達が今現在一体何をしているのかと言えば、残りの隠密騎士の里巡りである。
 隠密騎士の里は動物の名を冠した十一の庄があり、今現在私達が居るのは鳥ノ庄――シャトゥートゥン庄。
 鳥ノ庄は山岳地帯の中央部分に位置しており、ここに先に来る事はどちらかと言えば効率が悪い。
 しかしわざわざそうした理由は、金鉱山とダイヤモンド鉱山、そして温泉の場所を細かく特定する為である。
 発掘開始は急務であり、鳥ノ庄行きには父サイモンも同行していた。

 寝そべっている間に精神統一。マイティ―の鷲の目を借り、私は眼下に広がる山々を透視していた。
 それが終わるとサリーナが筆記具と大まかな山の地図を差し出して来たので、ざっとその上から鉱脈の分布を描いていく。
 その地図は父と鳥ノ庄の隠密騎士の下へ。デキる侍女サリーナが「お疲れ様でした」と紅茶を差し出してくれた。
 それを受け取り、一口飲んでほうと息を吐く。超能力を使い過ぎると精神疲労を伴う。リラックス効果のある紅茶は実にありがたい。

 「綺麗ね……」

 座っている近くに、岩の隙間を縫うようにして根を張り咲いている花。そのピンクの花が風に揺られていた。サリーナがすかさず「それは岩薔薇ロックローズという花です」と教えてくれる。

 「薔薇と言えば、ルフナー子爵家に初めて行ったのは去年の今頃だったっけ……」

 そう独りちると、それを聞いていたグレイがそうだね、としみじみと言った。

 「去年の事なのに、随分昔の事のような気がしているよ。あの頃は一年後には名誉枢機卿になって、ダージリン伯爵になって、果ては神聖アレマニア帝国の皇帝候補にされようとしているなんて――僕は思いもよらなかった」

 人生波乱万丈過ぎる……。
 遠い目で川の水面を見つめるグレイ。

 「何かごめんね……」

 私は素直に謝った。
 グレイの今の境遇は、半分私が聖女になった所為で巻き込まれているようなものだからなぁ。
 そう言うと、グレイは苦笑いを浮かべて首を横に振った。

 「一概にマリーの所為じゃないし、仕方が無いよ。ああでもせめて、老後はのんびり暮らしたいよね」

 「そうね……」

 それには全く同感だ。
 私の制御コントロール下から解き放たれたマイティ―が、川の水面に突っ込んで行き、魚を掴んで再び上昇していく。
 父サイモンが遠くから休憩の終わりを告げたので、私達はゆっくりと腰を上げた。


***


 「ふむ……採掘を始めるとしたら、こことここか」

 金鉱山に引き続き、ダイヤモンド鉱山の透視を終えた私。そこから近い集落で、父が真剣な顔で鳥ノ庄の当主ジェロック・シャトゥートゥンと共に地図と睨めっこをしている。

 「牛肉じゃなくて、豚肉なんだね」

 「シンプルで美味しいわ」

 私とグレイは鳥ノ庄の郷土料理であるという『ポテ』に舌鼓を打っていた。鍋料理ポトフと言えば牛肉を使うのが一般的なのだが、こちらでは豚肉が使われている。
 豚肉とキャベツ、他野菜色々と煮込んだ鍋料理。薄い塩味と豚肉の脂、野菜の出汁が調和して素朴な味わいがする。
 『アリゴ』もあった。馬ノ庄で食べたのとまた違った味わいがして面白い。

 鳥ノ庄シャトゥートゥンは山の麓の盆地にある都市であり、馬ノ庄より段違いに発展している。ここに来た時、まずその事に驚いた。
 そう言うと、父サイモンに随行してきた侍女エロイーズが「鳥ノ庄は銀山採掘で生計を立てておりますし、その分潤う為豊かで一番発展しているのですわ。隠密騎士の里の中心的な街なんですの」と言う。彼女は鳥ノ庄出身だそうだ。
 鳥ノ庄では近くの庄で生産された品物もここに運ばれて取引されるとか。近くの蛇ノ庄では薬を生産しているので、薬問屋も多いという。

 「そう言えば、『シャトゥートゥン』ってトラス王国寄りの名前なのね」

 エロイーズという名も。
 ふと疑問に思って訊くと、はいと頷かれた。

 「シャトゥートゥン家に限っては、血筋を遡ると山の民出身ではございませんの。初代キャンディ伯爵からの臣下なのですわ」

 「もっとも、今では隠密騎士家全員親戚ですけれどねー」

 僕の母親も鳥ノ庄の人でしたしー、と中脚カール。私は中脚と呼んでいるが、本来の彼の隠密騎士としての名は『鶏蛇竜コカトリス』というそうだ。

 「カールが鳥と蛇の間に生まれたからって事だったんだね」

 グレイが感心したように言い、中脚カールが「そう言う事ですー」と笑う。

 キャンディ伯爵家が山の民に騎士爵と銀山の恵みを与え、信頼厚いシャトゥートゥン家を中心に纏めさせたのが隠密騎士の始まりだそうだ。隠密騎士筆頭を務める事が多いのも鳥ノ庄の者だという。
 サリーナの名もトラス王国風だ。訊くと、「私の母ジュリーヌは獅子ノ庄シンブリ家に嫁ぎましたが、元はコジー男爵家ですから」と言う。成程。

 何となしに鳥ノ庄の街を透視して確かめると、エロイーズの言う通り鉱山夫の姿が多かった。
 他は銀や薬の仕入れに来る商人や運搬業者等。
 ――というか、男の比率多くないか?

 そう言うと、「鳥ノ庄では女の子よりも男の子が喜ばれる傾向にあるのですわ」と少し寂しそうなエロイーズ。もしかすると彼女も女の子と言う事で色々あったのかも知れない。
 鉱山夫としての労働力を期待して、孤児の男の赤ん坊や幼い子供を引き取って来て育てる事もあるようだ。
 逆に女の子は領都アルジャヴリヨンに女中や店子、お針子などの仕事の口を求めて出稼ぎに行くのだと。しかも、アルジャヴリヨンではまだマシだが、普通女の仕事は娼婦でもない限り低賃金である事が多いそうだ。

 男ばかりを喜ぶとは何と罰当たりな事か。女不足になるぞ。
 そう思って訊けば、実際に女不足になっているらしい。
 外部から秘密を探りに女を送り込んで来られたらどうするつもりなのだ。

 「これからは女の子も喜ばれるようになるわ、きっと!」

 私は力強く断言する。何と言っても私が温泉リゾートを開発するからな!
 母ティヴィーナの部屋でもよく見かけるエロイーズは、名前の通り色気がありエロい感じの美女。
 彼女のような人材はリゾートの仕事においてひっぱりだこになるだろう。管理職でも務まりそうだ。
 女でもまともな賃金を貰えるようにする――特にサービス業においては柔らかい物腰の女の従業員の方が重宝されるのはもはや常識!
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