貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

釘を刺す。

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 「質実剛健を好み、回りくどい事を嫌い行動が早い反面――配慮が苦手で協調性の無いところがありますからね。アレマニア人の悪い所です」

 エトムント枢機卿の憂いを帯びた言葉に、お国柄の違いがあったのだなと気付く。

 「卿は性急過ぎるのだ。焦っているのは分かるが、順序と礼を失してはならぬ――大変な失礼を致しました、お詫び申し上げます。しかしそれだけ我らは祖国の行く末を憂いているのです」

 ヴィルバッハ辺境伯を窘め、頭を下げるズィクセン公爵ラインハルト。
 ここは一旦仕切り直した方が良いだろう。私は深呼吸すると微笑んだ。

 「そちらのお気持ちは理解致しました。……色々と積もるお話もあるでしょうが、皆様は旅を終えられたばかりでさぞかしお疲れの事と存じます。それでは良い考えも浮かばないでしょうし、話し合ってもいい結果が出ないと思いますわ。
 明日改めてお話を伺う時間を設けましょう。今はお茶とお菓子をお召し上がり下さいまし。その間にお風呂、柔らかい寝床をご用意させましょう。疲れが癒えるまで当家にてゆるりとお寛ぎ下さいな」

 「おお……聖女様、感謝致します!」

 私の言葉を受けた侍女ナーテが一礼をして出て行くと、そこからは世間話交じりに情報交換の場となった。
 紅茶の話から始まり。ヴェスカルの今の暮らしぶり、神聖アレマニア帝国の事やヴェスカルの母親についての話。
 ズィクセン公爵やヴィルバッハ辺境伯がどんな立場でどんな仕事をしているのか。そして家族構成、領地はどんな場所なのか等――勿論こちら側もキャンディ伯爵家の事情や私自身、そしてグレイの話を差し支えない範囲で話していく。

 テーブルの上の菓子がほぼ無くなり、打ち解けてきた頃。
 侍女が風呂と寝床の準備が出来たと呼びに来たので、一旦その場はお開きに。客人達が腰を浮かしかけた時だった。
 話の間中、金太ディックゴルトに視線をちらちらやっていたズィクセン公爵が「思い出した」と呟く。

 「先程から、どこかで見た顔だと思っていたが。そちらに座っているのはもしや豪商ヴァッガー家のディック……「何の事でしょう? 私はレーツェル、しがない行商人です!」……ゴルト殿だな、間違いない」

 主張も虚しく、本人認定されてしまった金太ディックゴルト。その名前コンプレックスは有名なのだろう。

 「何故ここに? 守銭奴ヴァッガー家は何を企んでおるのだ!」

 険しい顔で詰問するヴィルバッハ辺境伯に、グレイが柔和な笑みを浮かべた。

 「彼はそちらの国の第一皇子殿下に随行してきた商人達に紛れ込んでいらっしゃいましてね。
 ヴァッガー家は家の存続の為にどちらにも味方するつもりのようですよ。彼が寛容派、彼の父親が不寛容派につくそうです」

 「勝者に取り入ろうと? ふん、小賢しい事だ」

 狡猾に立ち回る人間は嫌いなのだろう、侮蔑の表情を浮かべるヴィルバッハ辺境伯。
 ズィクセン公爵は訝し気に眉をひそめている。

 「何故アーダム殿下に商人達が供を?」

 「何でも、私をかどわかして神聖アレマニア帝国へ運ぶ手段として連れて来たそうですわ。聖女を無理やりにでも妻にすればご自分の皇位は安泰だと思われているようですわね」

 「な、何ですと!? 殿下がそのような卑劣な!」

 「それは、確たる証拠が?」

 暴露すると、色をなす辺境伯に驚きながらも冷静に証拠を問う侯爵。私は金太ディックゴルトを振り向いた。

 「レーツェルさんもご存じの筈ですわ」

 「……」

 生殺与奪権を握られている金太ディックゴルトは、暫く沈黙の後――小さく頷いてそれを認めた。
 「はい」とも「いいえ」とも言わぬ金太ディックゴルト。これだけでは相手は恐らく真偽を疑ったままだろう。
 明日に向けて釘をしっかり刺しておこうと思った私は、とっておきのカードを切る事にした。

 『聖女たる私は全てを――人の心でさえ見通す神の目を持っています。その神の目で遠くにいるアーダム皇子の心を読み、その企みを知ったのですわ』

 「「「!!?」」」

 精神感応テレパシー能力で目の前のアレマニア人達、父サイモン、グレイ、エトムント枢機卿に対象を絞って伝える。
 彼らは目を見開き、驚きに声も出ないようだ。
 『この事はディックゴルトさんには秘密です。口に出さぬようにお願いしますわね』と私は唇に人差し指を当てた。

 「先にお伝えしておきますわ。私はヴェスカルを身内同然に考えています。この子の幸せを一番に考えた上での建設的な話し合いが出来る事を心より祈っておりますわ」

 だから下手な事は考えない方が身の為だ――そんな眼差しを相手に向けて、私はここぞとばかりにヴェスカルの肩に手を置いた。

 しかし――ここで聖女の能力を披露した事がまさか裏目に出ようとは。
 この時の私は微塵も思っていなかったのである。
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