貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(20)

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 城に到着し、エトムント・サラトガル枢機卿を迎えた後。マリーがサイモン様に耳打ちし、カレドニア王国の一行の受け入れを頼んでいた。
 アルトガルが先に戻って伝えていてくれたお陰ですぐにでも案内出来そうだ。
 ナヴィガポールからアールがイエイツやメイソンの不足を補う為に遣わしてくれたのは何とリノとジュデット。再会に驚きながらも喜ぶマリー。
 確かにこの二人なら気が利くし適切な人選だと思う。あの広場では見つからないようにフードを被っていたらしい。
 無邪気に天馬の事を訊くリノを何とか誤魔化したところで、マリーが一足先に部屋に戻ると言って屋敷に入って行った。僕は二人に断って、一旦馬車へ近付く。

 「シャルマン、ヤン。ありがとう。軽食を用意させるから食べて行かないか?」

 「いえ、私達はこのまま戻ります。戻らないとセヴランス支店長が泣きますので」

 「聖女様効果と言うべきか、凄い売上げでしたからね。今日は恐らく戻れないかと」

 「……悪いね」

 恐らく支店では膨大な売上げの計算や在庫管理なんやらで大変な事になっているのだろう。
 そんな中、応援二人の人手を途中で御者として引き抜いた訳だから、ちょっぴり恨まれているかも知れない。
 忙しい分せめて臨時収入を弾むからと言うと、期待していますと言って二人は戻って行った。
 未だ騒いでいるエヴァン修道士、イエイツ、メイソン達を横目に僕達も移動する事にした。放っておいても大丈夫だろう。

 「キャンディ伯爵家って凄いのね、私お城なんて初めて! ナヴィガポールでお会いしたアナベラ様も信じられない位お綺麗だったし、他のご家族も見目麗しくて! まるで王族みたい!」

 ジュデットが周囲をぐるり見渡して感動したように目を輝かせている。その台詞にドキリとしながら相槌を打っていると、「私、アナベラ様とも仲良くなったんですの! マリー様の妹にして頂いたって言ったら、それなら私の妹でもあるわねと仰って!」と夢見るようにうっとりとしていた。
 リノが呆れたように息を吐く。

 「ジュデの奴、すっかりのぼせ上がっちまって。旅の間中、ずーっとことあるごとにこうだぜ?」

 「まあ、気持ちも分からなくもないよ。アナベラ姉様は社交界の華だからね。赤薔薇姫様って呼ばれているんだ」

 「赤薔薇姫……確かに凄い美人だった。けど、見ていて面白いのはマリー様だな!」

 「もう! リノはお子ちゃまだからそんな事を言うのよ! グレイ兄様達には悪いけど、次期ナヴィガポール領主夫人がアナベラ様になって、私天にも昇る心地なの。ああ、アナベラ様にお仕えするのが楽しみ!」

 リノは肩を竦める。僕は笑った。

 「レイモンやファリエロ、皆は元気にしてる?」

 「ええ、お陰様で元気ですわ」

 「元気に船に乗ってるよ」

 「それは良かった」

 僕は侍女を呼び止め、二人の素性を伝えて客室に案内してくれるように頼む。旅の疲れをゆっくり休めて欲しいと言って、一旦別れたのだった。


***


 廊下を歩いていると、カレドニアの高地の騎士ドナルドが中年の修道士と立ち話をしているところへ出くわした。
 彼らは僕の姿を認めると、それぞれ丁寧な礼を取る。修道士はグウィン・サザランドと名乗った。
 彼らの僕を見る眼差しの中に何故か奇妙な光を見た気がして、内心首を傾げる。

 「これは、グレイ猊下。先程は馬車をありがとうございました」

 「いいえ。お役に立てて何より――ああ、荷物を取りにやらせなければなりませんね」

 そうだ、忘れてた……さっきシャルマンとヤンを帰したのは早計だった。
 カールに頼めば手配してくれるだろうか、と考えながら外へ踵を返そうとした時。

 「お待ちください、それでしたら馬車を貸して下されば私が向かいます。私達の荷物ですし、宿を引き払うのに私が行った方が良いでしょう」

 そうドナルドに言われ、その方が彼らにとっても安心だろうと思い直す。
 了承し、馬車の手配に一緒に向かう事に。
 ドナルド一人では大変ということで、グウィンは他の騎士を二人程呼んで来るそうだ。
 残された僕達。ドナルドが先程の奇妙な、不気味ともいえる眼光で僕を見据える。

 「……何か?」

 「グレイ猊下。失礼を承知でお訊ねしますが、猊下のお血筋は、もしやカレドニア王国に縁がございますか?」

 「何故そう思ったんです?」

 「カレドニアには、赤い髪の者が多うございますゆえ。それに、猊下のような鮮やかな色は滅多に無いのです。見事な翡翠の瞳も兼ね備えていらっしゃるとなると……」

 ドナルドは僕の赤毛を気にしていたらしい。
 確かに祖父エディアールにも「何と燃える様な赤毛じゃ。グレイはわしの爺様似じゃのう」としみじみ言われた事がある。

 「私も詳しくは知りませんが、この髪と瞳は祖父の血筋です。商人として北の方からこの国に流れ着いたとか聞いております。祖父に訊けば、先祖の事を多少は知っているかも知れませんね」

 「左様でございますか」

 「私からも宜しいですか? カレドニア王国では赤毛は忌避されないのでしょうか」

 逆に問い返すと、ドナルドは自らの髪を摘まんだ。彼の髪も赤毛だ。

 「教会の教えが伝わる以前の古き時代には、ありふれていたそうです。私もこのように赤毛ですし、他国の様に忌避はされておりません」

 「そうですか……」

 僕は妙に違和感を感じていた。
 カレドニア王国では赤毛はそこまで嫌われていないのならば、何故キーマン商会はそこへ行かなかったのだろう。支店も置いていないし。
 これはいずれ祖父に訊ねてみる必要がある――そう心の中に書き留めた、筈だったのだけれど。

 馬車に高地の騎士達を乗せて見送った後。部屋へ戻った時に目撃したマリーのあられもない姿に、僕の頭の中の何もかもは一瞬で全て吹っ飛んでしまったのだった。
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