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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
綺麗な湖水の畔にお住まいなのです。
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その時、扉がノックされる音が響く。
「失礼します、マリー様。ヨハンとシュテファンがお目通りを願っておりますが……」
サリーナの声。
馬の脚共が? と訝しく思って許可を出す。
入室して来た前脚と後ろ脚は私の前に片膝をついた。
「どうした、二人共」
「実はマリー様にお願いがございます! 我らの父、ヴァルカー・シーヨクが明日馬ノ庄に帰ると申しておりました」
「つきましては、是非マリー様にも我らが故郷に来て頂きたく!」
「……まあ、賢者認定の儀式まで日があるからな。馬を放牧しているそうだし、私も行ってみたいとは思うが……」
今の私は腰痛持ちである。明日まで引きずるかも知れない。
「少し、筋肉痛になってな……登山は難しいと思う」
ちらりと視線をグレイに向けて言うと、彼は気まずそうに頬を掻いた。
しかしそんな事で引き下がる馬の脚共ではなく。
「マリー様、安心を!」
「幸い馬ノ庄は近く。我らがお運びいたしますので!」
***
……てなことを思い出しながら。屋敷を出発した私は山道を揺られていた。
近くに川があるのだろう、どこかから水の流れる音。小鳥逹の囀り。天然のヒーリングミュージックを聞きながら、舗装されていない道を行く。
あれから結局ヴァルカーまで来て、押し切られる形での馬ノ庄行きになった。しかも馬ノ庄に外泊予定。
父サイモンはやる事があると留守番になり、私とグレイの夫婦で行く事に。
メイソン・イエイツは秘密にして置いて来た。後が煩いだろうが、あの二人は口が軽そうだというのは隠密騎士達全員の意見である。
ちなみに隠密騎士以外の部外者で条件付きで同行が許されたのはエヴァン修道士とアルトガル。
アルトガルは山岳国家ヘルヴェティアの偉い人から、今後は仲良くして下さい的な親書を隠密騎士達の里に配って回るようにと命令を受けているらしい。
勿論親書は父や隠密騎士の検閲を経た上、私達に同行する条件で里を訊ねる許可を得た。
まあそれは良いんだけど。
「これじゃ、折角迷彩服着てもあんまり意味なくない!?」
一応山に行くので持ってきた迷彩服を着用しているのだが。
下に居る天馬が目立ちまくっているせいで、隠れるという存在意義を失っていた。腰を痛めた事を馬の脚共に口実として利用された感があるのは気のせいだろうか。
右隣には同じく迷彩服を着てリディクトに乗ったグレイ。
私のぼやきに、「……それは僕も思わないでもないけど」と苦笑いしている。
「ああ、でも。ここは隠密騎士達の本拠地みたいなものだし、危険はないと思うよ」
サリーナは私達から少し離れた場所を進んでいる。
抱きかかえられた時も思ったけれど、彼女は隠密騎士として訓練したのだろう。
筋肉がしっかりついており、すらりとしたスタイル。
髪をお団子一つに纏めた迷彩服姿は、映画の女軍人みたいで恰好良い。
私が想像していたのは正にあんな感じで颯爽と山を行く事だったのだが……はっ、まさか。
他人の振りをしたくて離れているのだろうか? もしそうなら居た堪れないんだけど。
愕然としたところで、ヴァルカーが馬を操り左隣に移動してきた。
「大丈夫です、マリー様。先程グレイ様が仰られた通りです。地の利はこちらにあり、更にマリー様をお守りしているのはここに居る我らだけではありませぬ」
誇らしげな笑顔で、「前後左右、下もしっかりお守りしているのでご安心を」とサムズアップするヴァルカー。
こういうズレた所は馬の脚共の父親なんだなぁと思う。
下の守りは言わずと知れた馬の脚共だが、本当にこのチンドン屋状態で馬ノ庄に乗り込んでも良いのかヴァルカーよ。
馬ノ庄の住民に、聖騎士という存在がマッハで誤解されそうだ。
「ヴァルカー卿の仰る事は本当ですよ。マリー様を中心に、王族の外出よりも余程厳重に守られております。我輩ならば、この包囲網を突破して聖女様を攫えと言われても無理と申すでしょうな」
後方からアルトガルの声。私は周囲を見渡してみるが、誰の姿も見えない。
分からないのでアルトガルに精神感応を使ってみると、僅かな違和感や気配を感じ取っての発言らしい。
確かに身を隠せそうな茂みはあちらこちらにあった。
「ほう、流石は雪山の民か。息子達に貴殿の実力は聞いている。良ければ手合わせ願いたいものだ」
「いやいや、ヴァルカー卿の強さは戦わずとも肌身に感じている。流石に勘弁して頂きたい」
そんなバトル漫画のような会話を聞いていると、先頭を行くカールが「湖が見えてきましたよー!」と振り向いた。
「おお……何と美しい風景なのでしょうか!」
エヴァン修道士が感嘆を漏らす。
出発して半日。存外近いんだな、と私は思った。
木々が途切れ、目の前には広がる澄んだ美しい湖水。某世界の民謡に歌われる、ブレネリ嬢の家の畔にある湖を彷彿とさせる。
向かって右側は山と木々が迫っており、左側には緩やかな起伏のある牧草地帯。その中にポツポツと見えるのは放牧しているという馬達だろうか。
よく見ると、牛や羊も居る。きっと住民の食用だろう。
湖の左側の牧草地を湖に沿って回り込み、山の裾まで続く小道。その先に見えてきたのは山肌に沿うように建つ石造りの小さな町だった。こじんまりとした城のようなものもある。
「マリー様。あちらに見えるのが我らがシーヨク庄――馬ノ庄でございます」
あれが――馬の脚共の故郷。とうとうやって来てしまったのだ。
「失礼します、マリー様。ヨハンとシュテファンがお目通りを願っておりますが……」
サリーナの声。
馬の脚共が? と訝しく思って許可を出す。
入室して来た前脚と後ろ脚は私の前に片膝をついた。
「どうした、二人共」
「実はマリー様にお願いがございます! 我らの父、ヴァルカー・シーヨクが明日馬ノ庄に帰ると申しておりました」
「つきましては、是非マリー様にも我らが故郷に来て頂きたく!」
「……まあ、賢者認定の儀式まで日があるからな。馬を放牧しているそうだし、私も行ってみたいとは思うが……」
今の私は腰痛持ちである。明日まで引きずるかも知れない。
「少し、筋肉痛になってな……登山は難しいと思う」
ちらりと視線をグレイに向けて言うと、彼は気まずそうに頬を掻いた。
しかしそんな事で引き下がる馬の脚共ではなく。
「マリー様、安心を!」
「幸い馬ノ庄は近く。我らがお運びいたしますので!」
***
……てなことを思い出しながら。屋敷を出発した私は山道を揺られていた。
近くに川があるのだろう、どこかから水の流れる音。小鳥逹の囀り。天然のヒーリングミュージックを聞きながら、舗装されていない道を行く。
あれから結局ヴァルカーまで来て、押し切られる形での馬ノ庄行きになった。しかも馬ノ庄に外泊予定。
父サイモンはやる事があると留守番になり、私とグレイの夫婦で行く事に。
メイソン・イエイツは秘密にして置いて来た。後が煩いだろうが、あの二人は口が軽そうだというのは隠密騎士達全員の意見である。
ちなみに隠密騎士以外の部外者で条件付きで同行が許されたのはエヴァン修道士とアルトガル。
アルトガルは山岳国家ヘルヴェティアの偉い人から、今後は仲良くして下さい的な親書を隠密騎士達の里に配って回るようにと命令を受けているらしい。
勿論親書は父や隠密騎士の検閲を経た上、私達に同行する条件で里を訊ねる許可を得た。
まあそれは良いんだけど。
「これじゃ、折角迷彩服着てもあんまり意味なくない!?」
一応山に行くので持ってきた迷彩服を着用しているのだが。
下に居る天馬が目立ちまくっているせいで、隠れるという存在意義を失っていた。腰を痛めた事を馬の脚共に口実として利用された感があるのは気のせいだろうか。
右隣には同じく迷彩服を着てリディクトに乗ったグレイ。
私のぼやきに、「……それは僕も思わないでもないけど」と苦笑いしている。
「ああ、でも。ここは隠密騎士達の本拠地みたいなものだし、危険はないと思うよ」
サリーナは私達から少し離れた場所を進んでいる。
抱きかかえられた時も思ったけれど、彼女は隠密騎士として訓練したのだろう。
筋肉がしっかりついており、すらりとしたスタイル。
髪をお団子一つに纏めた迷彩服姿は、映画の女軍人みたいで恰好良い。
私が想像していたのは正にあんな感じで颯爽と山を行く事だったのだが……はっ、まさか。
他人の振りをしたくて離れているのだろうか? もしそうなら居た堪れないんだけど。
愕然としたところで、ヴァルカーが馬を操り左隣に移動してきた。
「大丈夫です、マリー様。先程グレイ様が仰られた通りです。地の利はこちらにあり、更にマリー様をお守りしているのはここに居る我らだけではありませぬ」
誇らしげな笑顔で、「前後左右、下もしっかりお守りしているのでご安心を」とサムズアップするヴァルカー。
こういうズレた所は馬の脚共の父親なんだなぁと思う。
下の守りは言わずと知れた馬の脚共だが、本当にこのチンドン屋状態で馬ノ庄に乗り込んでも良いのかヴァルカーよ。
馬ノ庄の住民に、聖騎士という存在がマッハで誤解されそうだ。
「ヴァルカー卿の仰る事は本当ですよ。マリー様を中心に、王族の外出よりも余程厳重に守られております。我輩ならば、この包囲網を突破して聖女様を攫えと言われても無理と申すでしょうな」
後方からアルトガルの声。私は周囲を見渡してみるが、誰の姿も見えない。
分からないのでアルトガルに精神感応を使ってみると、僅かな違和感や気配を感じ取っての発言らしい。
確かに身を隠せそうな茂みはあちらこちらにあった。
「ほう、流石は雪山の民か。息子達に貴殿の実力は聞いている。良ければ手合わせ願いたいものだ」
「いやいや、ヴァルカー卿の強さは戦わずとも肌身に感じている。流石に勘弁して頂きたい」
そんなバトル漫画のような会話を聞いていると、先頭を行くカールが「湖が見えてきましたよー!」と振り向いた。
「おお……何と美しい風景なのでしょうか!」
エヴァン修道士が感嘆を漏らす。
出発して半日。存外近いんだな、と私は思った。
木々が途切れ、目の前には広がる澄んだ美しい湖水。某世界の民謡に歌われる、ブレネリ嬢の家の畔にある湖を彷彿とさせる。
向かって右側は山と木々が迫っており、左側には緩やかな起伏のある牧草地帯。その中にポツポツと見えるのは放牧しているという馬達だろうか。
よく見ると、牛や羊も居る。きっと住民の食用だろう。
湖の左側の牧草地を湖に沿って回り込み、山の裾まで続く小道。その先に見えてきたのは山肌に沿うように建つ石造りの小さな町だった。こじんまりとした城のようなものもある。
「マリー様。あちらに見えるのが我らがシーヨク庄――馬ノ庄でございます」
あれが――馬の脚共の故郷。とうとうやって来てしまったのだ。
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