貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

好奇心は猫を殺す。

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 「聖地より遥々この地までようこそおいでくださいました。私はサイモン・キャンディと申します。我らキャンディ伯爵家一同、エトムント・サラトガル枢機卿猊下を歓迎致します」

 父サイモンが代表して口上を述べると、枢機卿は聖職者の礼を取った。

 「聖女様のお父君を始め、ご家族様におかれましては、手厚いお出迎えに感謝いたします」

 「お疲れでございましょう、ゆっくりとお寛ぎ頂けるように諸々ご用意しております。この者達がご案内いたしますので、どうぞこちらへ……」

 その言葉に使用人達が一斉に動き出す。
 エトムント枢機卿一行は祖父母、そしてヴェスカルと手を繋いだ母ティヴィーナに先導されて建物内に入って行った。これから彼らは準備された客室に案内されて行く事になる。
 長旅を経て来た客人達には汚れ落としと着替え、暫しの休息が必要なのである。
 その後をイサークやメリーに手を繋がれたイドゥリースとスレイマンが続く。
 と、その場に残った父サイモンがアルトガルを後ろに従えこちらへ近付いて来た。

 「……マリー、予定外の客人が居ると聞いたが?」

 「ええ、あの人達よ」

 私は父に精神感応で知り得た事を耳打ちをした。その上で丁重にもてなして欲しいとも。

 「そのような御身ならば粗略には出来んな。アルトガルが先行して知らせてくれたので部屋は今用意させている。不便をおかけしてしまうが、広間のソファーで少々お待ち頂けないだろうか」

 「倒れた貴婦人がいらっしゃるの。私の事は後でも良いからベッドをなるべく早く出来ないかしら」

 「問題ない、アルトガルの助言で一室は優先的に準備させている」

 「まあ」

 仕事が出来るおっさんだ。何と素晴らしい。アルトガルの会釈に感謝の意を込めて微笑み返すと、侍女サリーナが「では私が伝えて参りましょう」と申し出た。
 父サイモンは安心したのか「では先に行っているぞ」と言い残して建物へ戻って行く。

 サリーナは残った使用人を何人か選抜してカレドニア王国一行の下へ。何事かを説明すると、それまで所在無さげに佇んでいた騎士ドナルド達はこちらに手を胸に当てて一礼した。
 こちらも会釈を返す。連れて行かれる彼らをグレイと共に見送りながら、「私達もソファーで少し休みましょうか」と踏み出そうとした時。

 「グレイ兄様、マリーお姉様!」

 「グレイ坊ちゃん、マリー様! お久しぶりです!」

 不意に聞き覚えのある声を掛けられて振り向くと、見知った顔が二つ。ニコニコ顔で手を振っていた。

 「まあ、ジュデにリノ! 久しぶりね!」

 「えっ、何故二人がここに?」

  グレイも彼らを見て驚いている。
 そこに居たのはナヴィガポールの代官レイモン・モンティレの孫娘ジュデット、そしてキーマン商会の船を取り仕切る船長ファリエロ・ルリエールの末息子リノだった。
 数ヶ月ぶりなのにずいぶん昔に会ったような気持ちがする。
 お揃いのフード付きマント。先程までそれを被って正体を隠していたのだろう。ドッキリ成功とばかりにリノとジュデは顔を見合わせてハイタッチしていた。

 「アール様に言われて俺達がついていく事になったんだ――あのおっさん達の足りないところの埋め合わせにな」

 「本っ当、大変だったんだぜ?」とやや圧のある笑顔でいうリノ。ジュデも、「リノの言う通り、苦労しましたわ!」と腰に手を当てている。
 リノが親指で指し示す先には、エヴァン修道士がイエイツ、メイソン両名にギャアギャアと騒がしく詰め寄られている光景があった。

 「あの通り二人共子供みたいなんですもの! 気が利かないし! 騎士団が迎えに来てくれて、本当に良かったですわ!」

 はあ、と大きく息を吐くジュデ。グレイも彼らをちらりと見て肩を竦めた。

 「……道中の様子が想像付くよ」

 「二人共、本当にごめんなさい。でもまさかリノ達が来てくれるなんて思ってもみなかったわ」

 マジごめん。申し訳ない!

 手を合わせてジェスチャーすると、リノは苦笑いを浮かべた。

 「目端が利いて角が立たない奴は俺やジュデしかいませんでしたからね。まあ、苦労した分旅も出来たし坊ちゃんやマリー様に会えたし。面白かったから良いですけど」

 ……メイソンは後で躾直しせねばな。心の中にメモをしていると、ジュデが私をしげしげと見つめていた。

 「それにしてもマリーお姉様。その衣装……本当に聖女様なのですわね。先程の広場で頭の中に声が響いたのも聖女様としての力なのですか?」

 「そうそう、あれは凄かったなぁジュデ!」

 「ああ、あれはね――」

 聖地で目覚めた力なのだとざっくりと説明。こんな事も出来るわ、と錫杖を掲げてリーダーを呼ぶ。アルトガルに見せたように片足を上げて挨拶させると、二人は目を輝かせた。

 「凄ぇ! 伝説だと思ってたけど、本当に不思議な力ってあるんですね! 俺はあの一際異彩を放っている天馬が凄く気になってました。翼が盾になるなんて! あんな面白いものどうしたんです?」

 リノが無邪気な笑顔で指差す先――前脚と後ろ脚、中脚が愛馬ハリボテを拭き掃除している。
 グレイがふっと死んだ魚のような目になって微笑んだ。

 「リノ。世の中にはね、知らない方が良い事も沢山あるんだよ。ほら、アルビオン王国の諺で、『好奇心は猫を殺す』っていうじゃないか」

 「ええっ!?」

 リノはぎょっとしたようにこちらを見る。私はにっこりと令嬢の笑みを作った。

 「ごめんなさいね、あれはキャンディ伯爵家の最高機密なの」

 「マジかよ」

 リノはぽかんとしたまま、また愛馬ハリボテの方を振り返った。
 ええ、マジです。
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