貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

「聖女マリアージュ、聖女マリアージュ。至急王宮に来なさい」

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 旅路の事を話し、また『ナヴィガポールの奇跡』として伝わっている話を当事者として求められたり。
 聖女としての力を得て覚醒した事。そして聖女降誕節で起こった出来事。また、その流れでヴェスカルを紹介する。
 この子を保護した事や、これから私の側仕えという名目で育てる事。そしてソルツァグマ修道院には聖職者としての教育への協力をお願いしたいと話すと、快く承諾してくれた。
 特にべリーチェ修道女は母性を刺激されたのか、優しい目でヴェスカルを見詰め、神聖アレマニア帝国の言葉で話しかけている。

 こら、メイソン。大人しく足置き台に徹していろ。子供に嫉妬の目を向けるんじゃない。

 最初椅子になると熱心に立候補してきたメイソンだったが、馬の脚共にダメ出しをされ、結局足置きになった。最初こそはぎこちない空気だったが、ここに居る皆、精神衛生上メイソンを無視する事にしたらしい。既にその存在は無きものとされているのであった。慣れって怖い。

 そう思いつつ、私はあの事を切り出した。

 「ところでべリーチェ様。姉アンの事、大変お世話になっております事、お礼を申し上げますわ。昨日見舞ったのですが…ただちょっと、心配事が……」

 差し出口かも知れませんが……と前置きし、私はべリーチェ修道女の言葉がウィッタード公爵家に過剰に受け取られた可能性のある事、動かず食事だけしている状態では血流が滞り、また必要以上に太る事で難産になってしまうかも知れないという懸念を話した。

 「なので、べリーチェ様から運動と食事についてお口添え頂けないでしょうか。私は聖女の肩書を伏せている以上はただの小娘に過ぎませんので……」

 「ええ、私もそこは少し気になっておりました。御心配をお掛けしましたわ、聖女様。御懸念の事についてはちゃんと申し上げておきますので、ご安心くださいまし」

 流石と言うか、べリーチェ修道女はそれに気付いていて、そろそろ言おうと思っていたところだったらしい。私は「感謝致しますわ、宜しくお願いします」と頭を下げた。

 ――よし、これで気が楽になったぞ。



***



 「私もお連れ下さい!」とごねるメイソンを何とかかんとか振り切って家に戻ると――丁度同時に帰って来たのであろうダディサイモンと鉢合わせになった。浮かない顔をしている。服装からして王宮に行った帰りだろうか。

 「どうかされたのですか、サイモン様」

 グレイが問いかけ、私も「何かあったの?」と訊くと、ああと溜息を吐かれた。

 「宮廷雀共にせっつかれてな。王が聖女であるお前を召し出そうとしているのだ――聖女帰還の祝宴を催すとの名目でな」

 厄介な事だ、と言う。

 ――な、何だって!?

 「ど、どうして?」

 「どうしてもこうしても、予想は付く流れだ。聖女が我が国に居て、王族との関係も上手く行っているという事の対外的アピールに決まっているだろう」

 聖女帰還の祝宴には出席せねばなるまいという父サイモン。娘は今、旅の疲れで臥せっているとは言ったものの――あまり長く引き伸ばすのも得策ではないという。

 「王は、聖女を擁している国としてお披露目をなさるつもりだよ、マリー。その事が対外的にトラス王国の影響力を高める。トラス王国に仇為す者は聖女に仇為すのと同義だってね」

 私は核爆弾か何かか。

 「つまりは聖女としてその祝宴に出るのは避けられないって事ね?」

 嫌だなぁ……。

 顔を顰める私に、父も渋面になる。

 「仕方があるまい。それに加え、王妃の仕業だろうが、『聖女はジェレミー第二王子とこそが似合いだ』という噂が流れ始めている。その方が国益になるとも。
 王子殿下お二人もじきに戻られるだろう。グレイが名誉枢機卿に叙せられた事で牽制となっていれば良いが……残念ながら見ている限り、何らかの手出しはしてくるだろう」

 「噂が流れている時点で手出しは確実でしょう、サイモン様」

 グレイの冷静なツッコミ。確かにそうだよな。
 私は腕を組んだ。

 「うーん、聖地が離れているからって教会の力を甘く見ている人も居そう。対策が必要なのはそこ……」

 どうするか考え始めた矢先――

 「それなら私に任せてみないかしら?」

 不意に声が掛けられた。

 「母上!?」

 「お、お婆様!」

 「これは、ラトゥ様」

 やってきたのは祖母ラトゥだった。「社交界の事は主に貴族の女の仕事なのよ、シム。たまには母や妻を頼っては如何かしら?」

 「そうですわ、貴方。我が家にはお義母様に私、それにアナベラも居りますわ」

 祖母の後ろには優雅に微笑みながら佇む母ティヴィーナの姿。

 「しかし任せると言っても……」

 躊躇いを見せるダディサイモンに、祖母ラトゥは悪戯っぽくうふふと微笑む。

 「大丈夫、安心なさい。伊達に年を取っていないわ。私には頼りになるお友達が居るのよ?」



***



 寝る前、私は机に向かって手紙を書いていた。お友達、という言葉にメティや三夫人達に手紙書いてなかった事を思い出したからである。
 まだお土産含む旅の荷物は届いていないが、数少ないお友達だ、大切にせねば。

 その他、聖地のサングマ教皇猊下へ無事に家に辿り着いた事とお世話になったお礼の手紙、シルには体調は大丈夫なのかという事と復興は順調かどうかを訊ねる手紙を書いた。

 特にシル、大丈夫だろうか――そう思って透視すると、就寝している模様。お疲れなんだろうな。

 外国への手紙はグレイに渡そう。その方が確実である。



 そして一夜明けた次の日。私はリディクトと戯れていた。

 実は昨日、聖女呼び出しに心理的ストレスを感じた私は、癒しが欲しくなってリディクトを連れて来て欲しいとグレイに頼んでいたのである。

 「リディクト……」

 私の物と言える本物の馬はリディクトだけである。鼻筋を撫でると大人しく優しい目でこちらを見詰めていた。
 精神感応を使って「久しぶり」と挨拶してみると、ブヒヒンと小さく嘶き、意外な手応えが。言葉ではないのだが、割とハッキリとした「久しぶり」という感情の反応が返って来た。

 しかもである。手にした野菜を示し、これをしたらあげるという風に語りかけると、何とその通りにしてくれたのだ。
 何回か試したけど、リディクトとの意思疎通が成り立っている。

 馬って、本当賢い。そして可愛い。

 「マリーは本当に馬が好きだよね」

 グレイからの言葉に勿論よ、と返す。愛馬ハリボテが某ラスボスのような大物歌手さながらに派……ゴージャスになり過ぎてしまったから、尚更生身の馬が可愛いのである。
 馬の脚共が恨めしそうな目で見て来ているが、やっぱり本物の馬が良いのだ。
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