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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
聖女の予言。
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時は金なり。
道具が届いた以上、早速イドゥリースが占星術で予言した内容を聞きたいと私は申し出て、場所を大きなテーブルのある部屋へと移動した。
イドゥリースが届いた荷物に欠けや不備が無いかグレイやスレイマンと共に調べている間、私はサングマ教皇の手による『聖女の手記』の写しを開いてみる。
「こちらが初代聖女様の手記ですか。拝見するのは初めてです」
「このような有難いものを私にも拝ませて頂けるとは……!」
とサリューン枢機卿やエヴァン修道士が祈りを捧げれば、
「もしかして、何種類か文字が使われていないか?」
と興味津々なカレル兄。
そうよ、と答えてページをパラパラとめくり、私が死んだ後の事が書いてある部分を探す――あった。
『――首都直下地震があった後、臨時的な政治の中心は大阪に。同時に政治の中心となる勢力も塗り替えられる事になった。
救助の自衛隊以外にも、在日米軍を始め、各国が東京の救助の為に動き始めた。街のあちこちでは募金活動やボランティアの募集が見られた。
報道では不謹慎だと触れられていなかったが、ネットでは今度は南海トラフだと騒がれていた。南海トラフでは宮崎の被害も大きいと聞いていたので、ネットで色々調べていたけれど、関係があるとされる黒潮の大蛇行もとっくの昔に終わっていて、何時来てもおかしくない状態だった』
米軍が手薄になった隙を突いて、救助の為と称した軍艦で沖縄に近い島が奪い取られた事がきっかけだったらしい。
世界全体から非難を受けるかと思いきや、その国に経済依存している国の声は弱かったそうで。
まあそうなるだろうな、と思う。
手記を読み進める。
自衛隊との小競り合いがあった後、戦争は米軍とその国とに移行していったそうだ。欧州の国々も援軍を出したけれども、国内が混乱していてそこまでのものではなかったらしい。
前線は九州・沖縄となり、一部人海戦術と物量で上陸され、民間人の犠牲者も出てしまった。つまり彼女の住んでいた宮崎も、安全ではなくなったのである。
非常事態宣言の下、政治は世論の後押しも受けて軍国主義寄りになり、独裁に近くなった。税金が上がって徴兵制が導入され――そうこうしている内、漁夫の利を狙った国が介入してきたりして世界のパワーバランスが崩れたそうだ。その矢先、南海トラフ地震が起こったらしい。
かくて、初代聖女は避難が遅れ、あえなく大津波に呑まれて亡くなったそうだ。私と同じ。
前世の私、高木寿が死んだ後の未来をこうして大昔に書かれた手記で読むなんて、妙な気分である。
ぱらり、とページを捲る。
転生後の生活を記したページでは、モラルやデリカシー皆無な各国の王達に対する愚痴等が事細かに書かれてあった。唯一性格的に許容出来たのが夫となった小国の王だったそうで。
現代日本の常識を引きずっていれば「人権なにそれ美味しいの?」な古代社会ではさぞかし生きにくかっただろうと思う。
夫となった小国の王との恋愛、のろけの部分に差し掛かった時である。私は見過ごせない一文を見てしまった。
『糞な雄豚共だらけのこの世界で、Diableのオグル様と同じくらい愛せそうだと思ったのは彼だけだわ!』
何と――まさかの同志だったのか!
推しが被っていない初代聖女とは仲良くなれそうだったのにな。
生きた時代の違いがつくづく口惜しい。
パタリと手記を閉じて溜息を吐くと、グレイが「イドゥリースの準備が出来ました」と声を掛けた。
***
「『月神が強まる満月、天神星と海神星がほぼ重なり太陽神によって強められている。その三神星が月神と不和を起こす上、火神星と闇神星とも凶角を成す。
闇神星は地神星と重なって混じりあっている。更にアヤスラニ帝国を示す狼宮にある火神星は炎と破壊を意味していて、更に神の怒り、闇に包まれた大地、火の災い、水の災いが複合的に襲ってくると考えられた。
それが――この日になる。だからこの日前後に災いが起こるのでは、と私は考えたんだ』」
天体図を開いて説明するイドゥリースの話を精神感応で聞き取って行く。隣ではグレイが必死にアヤスラニ語を同時通訳。翻訳し辛い専門用語は概念を説明する形で私も助け舟を出した。
イドゥリースの学んでいる占星術は結構本格的らしい。難しい用語とかはさっぱりわからないものの、予知する大体の期間が特定出来たのは助かる。
「成る程、二ヶ月弱――三月前半頃かしらね。じゃあこの日前後一週間程に絞って観て行けば良いのね」
私は開かれた地図の前に立った。まず、災害を予知する前に。震源やプレートの境になっている断層を透視で探れないかと考える。
透視すると、地図がまるで衛星写真のようにリアルになって断層らしき大地の境が透かして見えた。その線はコスタポリ沖からガリア中部を通り、アヤスラニ帝国方面へと貫く様にずっと伸びている。
成る程、先日揺れた時の震央は、構造線の西の端だったという訳だ。
続けて、大地震などが起こると思われる日を日付カレンダーを一日一日めくるように見て行く。
すると、イドゥリースが言った日から次の日の早朝――最初の震源はアヤスラニ帝国よりの場所から起こる事が分かった。
しかも、南海トラフのようにガリア中部東に連鎖する。このまま手を打たなければアヤスラニ帝国の西岸と、ガリア中南部の東海岸、東方小国群の島々には大津波が来て壊滅してしまうだろう。
続いて、火山噴火も調べてみる。
地図で断層上の火山を探すと、ガリア中央に一つ、東方小国群のアヤスラニ帝国に近い場所に一つある事が判明。 その内、後者が大噴火を起こす事――それも、大地震の五日後位に――が分かった。その影響も透視すると、冷夏からの凶作になる事も。
ガリアも被害を受けるが、東方小国群及びアヤスラニ帝国は踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂で更に塩を塗り込まれている状態である。
これは何も手を打たなければ戦争が起こる。飢餓と死が蔓延し、そこから更に――気が付くと、冷や汗をかいてしまっていた。
「聖女様、何かお分かりになったのでしょうか?」
顔を上げると、固唾を呑んで見詰めていたサングマ教皇と目が合った。恐る恐る問われ、私は頷く。
「次に起こる災厄――地揺れと大波は前の比じゃないわ。被害もナヴィガポールの時とは桁違いになるでしょう。
地揺れの源はここから始まって連鎖してここ。大波が起こるのは、ガリア東岸とアヤスラニ帝国西岸にかけて。
そうね、一番酷い所では少なくともグレイの背の十倍もの高さの水が押し寄せて来る事になるかしら。その被害を受けるのは特にこの区域よ」
「じゅっ、十倍!?」
地図の該当箇所を指さしながら精神感応も交えて説明をする。皆が声にならない悲鳴を上げ、グレイが素っ頓狂な声を上げた。
震源から一番近い直線距離の町を選んで透視した津波のヴィジョンは、目算で二十メートルはあったと思う。彼の背をざっと百七十センチだと仮定するとそれぐらいになる。
特にリアス式海岸のように入り組んでいるアヤスラニ帝国西岸部。地形も相まって帝国側の方が被害がより酷い。軒並み壊滅と言っても良っても過言ではない位である。
「そうよ。特にアヤスラニ帝国側の被害はガリアよりも甚大なものになるわ。それだけじゃない、」
火山噴火とその影響についても伝えると、スレイマンとイドゥリースが青褪めた。
「『スレイマン、どうすれば……父上にこの事を伝えなければ』」
「『しかし伝えた所で信じて貰えないのでは。追い出すばかりか亡き者にしようとしてきたのだから』」
「スレイマンの言う通りよ。使者をやって伝えても難しいと思うわ。だから教会から聖女の予言としてガリアを中心に諸国に発表して貰えたらと考えているの。公式発表であれば無視出来ないと思うわ。他に方法も無いし」
「……だと良いのデスが」
その日の内に、聖地から鳩が飛んだ。
教皇の名において、聖女の存在とその予言が具体的な日付を以って公式に発表されたのである。
道具が届いた以上、早速イドゥリースが占星術で予言した内容を聞きたいと私は申し出て、場所を大きなテーブルのある部屋へと移動した。
イドゥリースが届いた荷物に欠けや不備が無いかグレイやスレイマンと共に調べている間、私はサングマ教皇の手による『聖女の手記』の写しを開いてみる。
「こちらが初代聖女様の手記ですか。拝見するのは初めてです」
「このような有難いものを私にも拝ませて頂けるとは……!」
とサリューン枢機卿やエヴァン修道士が祈りを捧げれば、
「もしかして、何種類か文字が使われていないか?」
と興味津々なカレル兄。
そうよ、と答えてページをパラパラとめくり、私が死んだ後の事が書いてある部分を探す――あった。
『――首都直下地震があった後、臨時的な政治の中心は大阪に。同時に政治の中心となる勢力も塗り替えられる事になった。
救助の自衛隊以外にも、在日米軍を始め、各国が東京の救助の為に動き始めた。街のあちこちでは募金活動やボランティアの募集が見られた。
報道では不謹慎だと触れられていなかったが、ネットでは今度は南海トラフだと騒がれていた。南海トラフでは宮崎の被害も大きいと聞いていたので、ネットで色々調べていたけれど、関係があるとされる黒潮の大蛇行もとっくの昔に終わっていて、何時来てもおかしくない状態だった』
米軍が手薄になった隙を突いて、救助の為と称した軍艦で沖縄に近い島が奪い取られた事がきっかけだったらしい。
世界全体から非難を受けるかと思いきや、その国に経済依存している国の声は弱かったそうで。
まあそうなるだろうな、と思う。
手記を読み進める。
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前線は九州・沖縄となり、一部人海戦術と物量で上陸され、民間人の犠牲者も出てしまった。つまり彼女の住んでいた宮崎も、安全ではなくなったのである。
非常事態宣言の下、政治は世論の後押しも受けて軍国主義寄りになり、独裁に近くなった。税金が上がって徴兵制が導入され――そうこうしている内、漁夫の利を狙った国が介入してきたりして世界のパワーバランスが崩れたそうだ。その矢先、南海トラフ地震が起こったらしい。
かくて、初代聖女は避難が遅れ、あえなく大津波に呑まれて亡くなったそうだ。私と同じ。
前世の私、高木寿が死んだ後の未来をこうして大昔に書かれた手記で読むなんて、妙な気分である。
ぱらり、とページを捲る。
転生後の生活を記したページでは、モラルやデリカシー皆無な各国の王達に対する愚痴等が事細かに書かれてあった。唯一性格的に許容出来たのが夫となった小国の王だったそうで。
現代日本の常識を引きずっていれば「人権なにそれ美味しいの?」な古代社会ではさぞかし生きにくかっただろうと思う。
夫となった小国の王との恋愛、のろけの部分に差し掛かった時である。私は見過ごせない一文を見てしまった。
『糞な雄豚共だらけのこの世界で、Diableのオグル様と同じくらい愛せそうだと思ったのは彼だけだわ!』
何と――まさかの同志だったのか!
推しが被っていない初代聖女とは仲良くなれそうだったのにな。
生きた時代の違いがつくづく口惜しい。
パタリと手記を閉じて溜息を吐くと、グレイが「イドゥリースの準備が出来ました」と声を掛けた。
***
「『月神が強まる満月、天神星と海神星がほぼ重なり太陽神によって強められている。その三神星が月神と不和を起こす上、火神星と闇神星とも凶角を成す。
闇神星は地神星と重なって混じりあっている。更にアヤスラニ帝国を示す狼宮にある火神星は炎と破壊を意味していて、更に神の怒り、闇に包まれた大地、火の災い、水の災いが複合的に襲ってくると考えられた。
それが――この日になる。だからこの日前後に災いが起こるのでは、と私は考えたんだ』」
天体図を開いて説明するイドゥリースの話を精神感応で聞き取って行く。隣ではグレイが必死にアヤスラニ語を同時通訳。翻訳し辛い専門用語は概念を説明する形で私も助け舟を出した。
イドゥリースの学んでいる占星術は結構本格的らしい。難しい用語とかはさっぱりわからないものの、予知する大体の期間が特定出来たのは助かる。
「成る程、二ヶ月弱――三月前半頃かしらね。じゃあこの日前後一週間程に絞って観て行けば良いのね」
私は開かれた地図の前に立った。まず、災害を予知する前に。震源やプレートの境になっている断層を透視で探れないかと考える。
透視すると、地図がまるで衛星写真のようにリアルになって断層らしき大地の境が透かして見えた。その線はコスタポリ沖からガリア中部を通り、アヤスラニ帝国方面へと貫く様にずっと伸びている。
成る程、先日揺れた時の震央は、構造線の西の端だったという訳だ。
続けて、大地震などが起こると思われる日を日付カレンダーを一日一日めくるように見て行く。
すると、イドゥリースが言った日から次の日の早朝――最初の震源はアヤスラニ帝国よりの場所から起こる事が分かった。
しかも、南海トラフのようにガリア中部東に連鎖する。このまま手を打たなければアヤスラニ帝国の西岸と、ガリア中南部の東海岸、東方小国群の島々には大津波が来て壊滅してしまうだろう。
続いて、火山噴火も調べてみる。
地図で断層上の火山を探すと、ガリア中央に一つ、東方小国群のアヤスラニ帝国に近い場所に一つある事が判明。 その内、後者が大噴火を起こす事――それも、大地震の五日後位に――が分かった。その影響も透視すると、冷夏からの凶作になる事も。
ガリアも被害を受けるが、東方小国群及びアヤスラニ帝国は踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂で更に塩を塗り込まれている状態である。
これは何も手を打たなければ戦争が起こる。飢餓と死が蔓延し、そこから更に――気が付くと、冷や汗をかいてしまっていた。
「聖女様、何かお分かりになったのでしょうか?」
顔を上げると、固唾を呑んで見詰めていたサングマ教皇と目が合った。恐る恐る問われ、私は頷く。
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地揺れの源はここから始まって連鎖してここ。大波が起こるのは、ガリア東岸とアヤスラニ帝国西岸にかけて。
そうね、一番酷い所では少なくともグレイの背の十倍もの高さの水が押し寄せて来る事になるかしら。その被害を受けるのは特にこの区域よ」
「じゅっ、十倍!?」
地図の該当箇所を指さしながら精神感応も交えて説明をする。皆が声にならない悲鳴を上げ、グレイが素っ頓狂な声を上げた。
震源から一番近い直線距離の町を選んで透視した津波のヴィジョンは、目算で二十メートルはあったと思う。彼の背をざっと百七十センチだと仮定するとそれぐらいになる。
特にリアス式海岸のように入り組んでいるアヤスラニ帝国西岸部。地形も相まって帝国側の方が被害がより酷い。軒並み壊滅と言っても良っても過言ではない位である。
「そうよ。特にアヤスラニ帝国側の被害はガリアよりも甚大なものになるわ。それだけじゃない、」
火山噴火とその影響についても伝えると、スレイマンとイドゥリースが青褪めた。
「『スレイマン、どうすれば……父上にこの事を伝えなければ』」
「『しかし伝えた所で信じて貰えないのでは。追い出すばかりか亡き者にしようとしてきたのだから』」
「スレイマンの言う通りよ。使者をやって伝えても難しいと思うわ。だから教会から聖女の予言としてガリアを中心に諸国に発表して貰えたらと考えているの。公式発表であれば無視出来ないと思うわ。他に方法も無いし」
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「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
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