貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

新たなる愚民共。

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 「『ぎゃああああっ! 何だ、この鳥は!』」

 「『ひぃっ、痛い痛い!』」

 鳥達――新たなる我が愚民共はけたたましい鳴き声を上げて騒ぎながら容赦無く嘴で突き、鍵爪で引っ掻いていった。

 襲われた方は腕を振り回し必死で振りほどこうとするも、愚民共の勢いは圧倒的である。一羽一羽単体では人に勝てなくとも、数が揃えば鳥達に軍配が上がっていた。

 「マリー」

 グレイが私の傍に寄って、ぎゅっと手を握ってくれる。こうして私の隣に立ってくれてるだけで嬉しいし心強い。

 そうこうしている内――

 「『そうだ。あの鳥達は神の使いなのだ。皆、聖女様の絵姿を見よ! 正にあの通りではないか!』」

 と誰かの声。

 中央大聖堂の中には聖女降誕祭のタペストリーがあちこちに飾ってあり、太陽を背にした聖女が鳥や天馬などと言ったモチーフと共に描かれてあったのである。

 続いてまた別の誰かが、

 「『あの大司教達は罪を犯したのみならず聖女様に無礼を働いた! 神の怒りを買ったのだ!』」

 と叫び出した。
 やがて人々は興奮したのか、次々に声を上げ始めたのである。

 「『本物だ、本物の聖女様に違いない!』」

 「『奇跡だ、聖女様が降誕なされたのだ!』」

 こちらへ手を合わせ、聖女への祈りの聖句を唱え始める者達まで現れ――次第に大聖堂が熱狂に包まれていく。
 その声が聞こえていたのか、アブラーモ大司教の取り巻き達は堪らず、「『聖女様! お許しください!』」と懇願し始めた。

 ――ここいらが潮時か。

 『愚民共、引け。もういい。褒美に後で美味い物を食わせてやろう。こちらへ来るのだ!』

 鳥達に向けて思念を飛ばすと、ばっと一斉に離れた。こちらへと飛んできて、あちこちの手ごろな場所を探して羽を休めている。
 小柄な鳥達の何羽かは私やグレイの肩に止まって羽繕いを始めていた。

 丁度その瞬間――背後のステンドグラスから陽光が差し始め、私とその周囲を照らして行く。
 人々がおお…と感動したようにどよめいた。聖女の衣装は陽光に煌めき、さぞかし神々しく見えている事だろう。それまで口々に色々言っていたのが、

 「『聖女様、万歳!』」

 のシュプレヒコールに統一されていく。

 私はにこりと微笑むと、グレイと繋いだ手を挙げてそれに応えた。

 そしてもう片方に持っていた錫杖をシャランと鳴らしてドンと床を突くと、目の前の大司教一味に視線を戻す。
 空気を読んでくれたのか、静寂が再び訪れた。

 本来なら、儀式の途中で効果的にこの状態になる筈だったのだろうに、邪魔が入ったお蔭ですっかり台無しだ。

 『聞きなさい――私は神の栄光を世の人々に示す為にこの世に遣わされたのです』

 精神感応テレパシーを使って大聖堂中の人々に言葉を伝えると、アブラーモ大司教達はヒッと悲鳴を上げた。

 「『ま、まさか、本当に聖女が存在するなど……』」

 後ろに二、三歩、よろめくように後退る脂身の傷と血だらけの顔に、はっきりと神への畏怖の色が現れていた。
 脂身の取り巻きの聖職者達はすっかり委縮しきっており、私に向かってひれ伏している。

 「『彼らを懲罰房に』」

 教皇の静かな一声で、修道騎士達が動き出す。アブラーモ大司教以外は大人しく連行されていった。


***


 「今日は色々あったね、マリー」

 グレイの吐息交じりの声に私は頷いた。

 「そうね、少し疲れたわ……」

 晴れて夫婦となった私達は今、ベッドサイドに腰かけて二人、語らい合いながら寄り添っていた。



 あの後。

 鳥の羽や糞、大司教達の血等で少し汚れてしまっていた儀式の場。下っ端の修道士や修道女達がやってきて、せっせと掃除をし始めていた。

 「後日改めて仕切り直しを」と心苦しそうに申し出て来るサングマ教皇を制して、もうこれで充分なお披露目になったと思います、と首を振る。

 それよりも、と教皇にお願いして、来場者全員に簡単な食事を振舞って貰う事にした。
 また、野菜や肉のくずやパンくず、残飯があれば貰いたい、とも。
 というのも、私は愚民共にもご褒美を与えなければならなかったからである。

 厨房に命令が行き、聖女のお披露目は終わった事にして、予定通り儀式と祭事は続行。

 愚民共が時折飛び交う中、グレイは無事に名誉枢機卿として認められる事となった。
 同時に彼が私の夫と認められるという事、そして教皇がこの結婚を後ろ盾するという事が発表される。

 締めとして聖女への寿ぎの祈りが捧げられると、一連の流れは終わりである。お振舞がある事が来場者に伝えられ、広い中庭へと移動する事になった。


 愚民共に『争うな、大人しく待っていろ』と念押しして命令した後、私はサリーナの助けを借りながら別室で汚れても良いような服に手早く着替えた。
 その隣ではヴェスカルが治療をして貰っている。保護した直後に連れて行って貰おうとしたのだけれど、私から離れたくない、と断固として拒否したらしい。

 言いつけ通り待っていた愚民共を引き連れて中庭へ行くと、そこでは大鍋を使ってシチューが作られていた。非常に美味しそうである。

 あちこちから聖女様だ、との思念がビシバシぶつかって来た。会釈をしながら具材カットしている修道士の所へ向かう。

 それにしても、少し肌寒いぐらいで、ガリア南部が冬でも温暖な気候で本当に良かったと思う。

 「『聖女様、聖女様もシチューをお召し上がり下さい』」

 「『いいえ、私は一番最後に頂きます』」

 ホスト側が真っ先に食べるのは良くないだろう。それに愚民共に先に食わせねば。

 恐縮する料理担当の修道士から残飯を貰って少し離れた所へ移動。褒美としてGOサインを出すと、奴らはそれなりに腹が減っていたのか先を争うようにがっつき始めた。かなりの量だった残飯は順調に愚民共のお腹の中に収まって行く。

 懸念していた猛禽類もお行儀良く、他の鳥を襲うこと無く与えられたくず肉を引きちぎって食べている。
 それでも念の為、猛禽類は最後に解散させた。
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