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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
同じニート志望、心の友よ。
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「……まさかこんな所でマリーに再会するとは」
演説が終わり、兵士達を解散させた後。シルはすぐさま私達の所へ駆け寄って来た。お付きの人らしき何人かが慌てて追随する。
「シル……よね。久しぶり。こちらこそ、こんな所で会うなんて」
厳つい顔の軍人がこちらをじろりと見て何やら問いかける。習ったとはいえ、ニート志望には関係ないとばかりに教師にほとんど返してしまった知識では断片的にしか聞き取れないが、あんまり良い気分はしない。シルは早口で何事かを返している。
軍人は礼を取って鋭く答えると、こちらを向いて「失礼の無いように」と訛ったトラス王国語で言って少し離れ、そこでに仁王立ちになった。他の軍人達もそれに倣う。
シルは溜息を一つ吐いた。
「……失礼をしてすまないな、マリー。それに皆様も。あの者達は融通が利かないものだから」
済まなさそうな表情で詫びてくるシル。私はううん、と首を振る。しかし、何だかシルは凄く偉い人っぽいな。こういう時って正体は王族とかそういう展開が王道だけど、まさかとは思うが……。
「あの……マリー、このお方は?」
グレイがどこか緊張を孕んだ声問いかけて来る。私ははっと我に返った。
「あっ、ごめんなさい。手紙にも書いた事あるけど、この人はシルヴィオ・プリモ。私の友達メテオーラ嬢の従兄弟で、この間、キャンディ伯爵家に遊びに来てくれて友達になったの」
そう言って紹介すると、グレイは礼を取り、恭しく深々と頭を下げた。
「失礼ですが、シルヴィオ・プリモ・ガリア第一王子殿下……でいらっしゃいますよね?」
――は?
「ああ、やはりバレてしまったか」
シルはお手上げというように肩を竦める。そのまさかの思いっきり王道展開だった。神々が暇を持て余して遊んでいるに違いない。
「ガリアの言葉で『殿下』、と先程の方が呼んでいらっしゃいましたので」
静かに答えるグレイ。私は内心混乱状態である。
マジで!? うわあ、こういう展開って実際体験すると鳥肌立つんだけど!
道理であそこに立ってる厳ついおっさんがじろじろ見て警戒する訳である。
「シル、王子様だったの!? だって、メティの従兄弟だって――」
どうしよう、うちで遊んだ時思いっきり素を晒してタメ口利いてたんだけど!
あわあわしていると、シルはクスリとする。
「メティの従兄弟なのは本当だよ。ああ、第一王子とは言っても王太子じゃないし。後ろ盾の無い気楽な放蕩王子、実質そこいらの貴族令息と同じようなものだから。気にしないでくれると有難い」
でなければホイホイと外国に行ける訳ないからね、とシルは悪戯っぽく笑った。随分と自由人らしい。
という事は、もしかして私と同じニート志望なのか? そうであるならば親近感が湧く。
「ところで君は?」
「申し遅れました、私はグレイ・ルフナーと申します」
「ああ、彼はルフナー子爵家の子息で、私の婚約者なの」
補足説明すると、シルは「へぇ。ルフナーね。ルフナー……」と呟きながら記憶を辿るように視線を斜め上に向けていた。
やがてポン、と手を叩き。
「あっ、思い出した――キーマン商会の?」
「ご存じでしたか」
「ご存じも何も、有名な大商会だろう。マリー、君の王子様は私より余程力を持っているよ」
茶化すように言うシル。「御戯れを」と恐縮するグレイに、私はうふふと微笑んだ。
「ところで、何故マリーはこんな時期にガリアに? 彼が居るという事はナヴィガポールから出航したんだろうけれど、トラス王国では地揺れと大波は大丈夫だった?」
「ええ、波は来たけど被害は限定的だったから何とか無事だったわ。実は私達、コリピサに――聖地に向かう所なの。巡礼の旅」
旅のメンバーであるカレル兄、サリューン枢機卿、エヴァン修道士と紹介していく。枢機卿を紹介した時は流石に驚かれたが、サリューン枢機卿の「教皇猊下が私共を聖地へとお召しになりましたので」という言葉に私達は無事におまけと思われたようだった。
「教皇猊下のお召しとは言え……地揺れと大波が来たというのに引き返さなかったの?」
心配そうに訊いて来る。グレイが引き取って答えた。
「幸い被害は食い止められましたから。補給の問題も戻って来た商船の者にこのゴルフォベッロが無事だと聞きましたので、出航に問題無いと判断したのです」
「……無茶をするなぁ」
「ところでシルは、コスタポリ救援の為に軍艦を率いて来たの?」
話題を切り替えるように訊き返すと、シルは頷いて肯定する。
「ああ、頭が痛い話だ。王都に帰った次の日に地揺れが起こるなんて。一週間も経たない内にコスタポリ壊滅の報が入って、誰か救援に行けとなったんだけれど、誰も手を挙げなくてね。いつまでもふらふら遊んでないで仕事をしろと私にお鉢が回って来たという訳なんだ」
「そうなの……大変ね」
私は仕事を押し付けられたシルに同情した。しかしニート生活というものは基盤が盤石であっての事である。彼も仕方無しに頑張っているのだろう。
「ところでマリー達は何時出航するのかな?」
「ああ、もう今日明日中には出発するわ。シル達の邪魔になってもいけないから」
「残念、こんな時でさえなければ先日のお礼も兼ねて歓迎したかったのだけれども。そうそう、コスタポリでは無理だけど、その先の港町ミリアでなら補給が出来ると思う。くれぐれも気を付けて」
「ええ、シルも気を付けて。復興頑張ってね」
「ありがとう」
そうしてシルと別れ、ゴルフォベッロを出航したのが八日程前。
道中海賊船から逃げたり検問を受けたりと色々あったものの、私達は無事に港町コリピサに到着していた。
演説が終わり、兵士達を解散させた後。シルはすぐさま私達の所へ駆け寄って来た。お付きの人らしき何人かが慌てて追随する。
「シル……よね。久しぶり。こちらこそ、こんな所で会うなんて」
厳つい顔の軍人がこちらをじろりと見て何やら問いかける。習ったとはいえ、ニート志望には関係ないとばかりに教師にほとんど返してしまった知識では断片的にしか聞き取れないが、あんまり良い気分はしない。シルは早口で何事かを返している。
軍人は礼を取って鋭く答えると、こちらを向いて「失礼の無いように」と訛ったトラス王国語で言って少し離れ、そこでに仁王立ちになった。他の軍人達もそれに倣う。
シルは溜息を一つ吐いた。
「……失礼をしてすまないな、マリー。それに皆様も。あの者達は融通が利かないものだから」
済まなさそうな表情で詫びてくるシル。私はううん、と首を振る。しかし、何だかシルは凄く偉い人っぽいな。こういう時って正体は王族とかそういう展開が王道だけど、まさかとは思うが……。
「あの……マリー、このお方は?」
グレイがどこか緊張を孕んだ声問いかけて来る。私ははっと我に返った。
「あっ、ごめんなさい。手紙にも書いた事あるけど、この人はシルヴィオ・プリモ。私の友達メテオーラ嬢の従兄弟で、この間、キャンディ伯爵家に遊びに来てくれて友達になったの」
そう言って紹介すると、グレイは礼を取り、恭しく深々と頭を下げた。
「失礼ですが、シルヴィオ・プリモ・ガリア第一王子殿下……でいらっしゃいますよね?」
――は?
「ああ、やはりバレてしまったか」
シルはお手上げというように肩を竦める。そのまさかの思いっきり王道展開だった。神々が暇を持て余して遊んでいるに違いない。
「ガリアの言葉で『殿下』、と先程の方が呼んでいらっしゃいましたので」
静かに答えるグレイ。私は内心混乱状態である。
マジで!? うわあ、こういう展開って実際体験すると鳥肌立つんだけど!
道理であそこに立ってる厳ついおっさんがじろじろ見て警戒する訳である。
「シル、王子様だったの!? だって、メティの従兄弟だって――」
どうしよう、うちで遊んだ時思いっきり素を晒してタメ口利いてたんだけど!
あわあわしていると、シルはクスリとする。
「メティの従兄弟なのは本当だよ。ああ、第一王子とは言っても王太子じゃないし。後ろ盾の無い気楽な放蕩王子、実質そこいらの貴族令息と同じようなものだから。気にしないでくれると有難い」
でなければホイホイと外国に行ける訳ないからね、とシルは悪戯っぽく笑った。随分と自由人らしい。
という事は、もしかして私と同じニート志望なのか? そうであるならば親近感が湧く。
「ところで君は?」
「申し遅れました、私はグレイ・ルフナーと申します」
「ああ、彼はルフナー子爵家の子息で、私の婚約者なの」
補足説明すると、シルは「へぇ。ルフナーね。ルフナー……」と呟きながら記憶を辿るように視線を斜め上に向けていた。
やがてポン、と手を叩き。
「あっ、思い出した――キーマン商会の?」
「ご存じでしたか」
「ご存じも何も、有名な大商会だろう。マリー、君の王子様は私より余程力を持っているよ」
茶化すように言うシル。「御戯れを」と恐縮するグレイに、私はうふふと微笑んだ。
「ところで、何故マリーはこんな時期にガリアに? 彼が居るという事はナヴィガポールから出航したんだろうけれど、トラス王国では地揺れと大波は大丈夫だった?」
「ええ、波は来たけど被害は限定的だったから何とか無事だったわ。実は私達、コリピサに――聖地に向かう所なの。巡礼の旅」
旅のメンバーであるカレル兄、サリューン枢機卿、エヴァン修道士と紹介していく。枢機卿を紹介した時は流石に驚かれたが、サリューン枢機卿の「教皇猊下が私共を聖地へとお召しになりましたので」という言葉に私達は無事におまけと思われたようだった。
「教皇猊下のお召しとは言え……地揺れと大波が来たというのに引き返さなかったの?」
心配そうに訊いて来る。グレイが引き取って答えた。
「幸い被害は食い止められましたから。補給の問題も戻って来た商船の者にこのゴルフォベッロが無事だと聞きましたので、出航に問題無いと判断したのです」
「……無茶をするなぁ」
「ところでシルは、コスタポリ救援の為に軍艦を率いて来たの?」
話題を切り替えるように訊き返すと、シルは頷いて肯定する。
「ああ、頭が痛い話だ。王都に帰った次の日に地揺れが起こるなんて。一週間も経たない内にコスタポリ壊滅の報が入って、誰か救援に行けとなったんだけれど、誰も手を挙げなくてね。いつまでもふらふら遊んでないで仕事をしろと私にお鉢が回って来たという訳なんだ」
「そうなの……大変ね」
私は仕事を押し付けられたシルに同情した。しかしニート生活というものは基盤が盤石であっての事である。彼も仕方無しに頑張っているのだろう。
「ところでマリー達は何時出航するのかな?」
「ああ、もう今日明日中には出発するわ。シル達の邪魔になってもいけないから」
「残念、こんな時でさえなければ先日のお礼も兼ねて歓迎したかったのだけれども。そうそう、コスタポリでは無理だけど、その先の港町ミリアでなら補給が出来ると思う。くれぐれも気を付けて」
「ええ、シルも気を付けて。復興頑張ってね」
「ありがとう」
そうしてシルと別れ、ゴルフォベッロを出航したのが八日程前。
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