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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
海へ行った栗の実は普通貝じゃなくてウニになるだろうというツッコミ。
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席に着くと、ジュデットが代わりに注文しに行ってくれた。「ガリア料理でしか味わえない料理をどんどん運んできてくれるように頼みました。お代は祖父のツケなので気にしないで下さいね!」との事で、太っ腹である。
魚のスープにパン、ワインの水割りが運ばれて来た。ファリエロは給仕を呼び付け、水割りでないものを注文している。男性陣はそれで、という事になった。
エヴァン修道士が代表して簡単に食前の祈りを唱えた後、ファリエロが「グレイ坊の婚約に乾杯!」と音頭を取る。
他の客達もグレイの事を知っているらしく、一緒に杯を掲げていた。
「ありがとう! 一樽買い上げるから、皆で大いに飲んでくれ!」とグレイが謝辞を述べると歓声が上がる。昼間っから男達は大いに盛り上がっていた。
「あいよ、採れたて新鮮な海栗だよ!」
恰幅の良い中年女性がお皿を置いた。その上にはウニが沢山乗っている。開かれた間に、山吹色の身が見えていた。
何て立派なデカいウニ!
「な、なんだこれ……」
ヴィジュアル的に受け付けなかったのか、ウニを初めて見たであろうカレル兄が怯んだ声を上げている。サリーナや馬の脚共、エヴァン修道士は気持悪そうに見るだけで微動だにしない。
興味深そうにしているのは中脚位か。そう言えばウニも見かけなかったな、とちらりと思い出す。
「あ、そうか。カレル様、トラス王国じゃあまり食べられませんけど、こいつは海の栗って言って、ガリアの珍味なんです。見てくれは不気味ですけど、美味いんですよ。こうして黄色い中身をこんな風に匙で掬って食べるんです」
そう言って、リノが先陣を切って食べた。「毒はないから大丈夫だ」とファリエロも続く。
「マリー、無理なら食べなくても――って、えっ!?」
グレイに気遣わしげに言われた時、私は既に喜色満面で匙を構えていた。即行でウニを皿に取って中身を掬って口に運ぶ。サリーナ達が「マリー様!?」と仰天し、グレイとジュデットが驚愕の表情を浮かべた。
――ふおおおお!
しかし私はそれどころではなかった。海の香りとウニの甘みが口の中にぶわっと広がるのを堪能するのに忙しい。
自然、足がじたばたと歓喜に動いてしまう。
何これ。くっそ美味いんだけど!
ウニなんて前世ぶりである。ガリア料理最高か?
感動に目頭を熱くさせながら、もう一つ、もう一つ…とウニに手を伸ばす私に皆呆気に取られている。カレル兄が、「……そんなに美味いのか?」と恐る恐る訊いて来た。
中脚が一口食べ、「これは! 思ったより美味いですねー」と瞠目し、こくこくと頷く私につられたのか、カレル兄も意を決したように続いた。一度口に入れてしまうと意外にイケる事に気付いたらしく、皆も食べられるようになった。
気が付くと、ウニは残り数個。ここで私は大変な事に気付いてしまう。
「あっ、ジュデット様、もしかして一つも食べてない……?」
彼女の取り皿は綺麗なままだった。という事はそう言う事で。
しまった……夢中になって貪っていて、気が付かなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、ジュデットは慌てて首を横に振る。
「い、いえっ、私は今日はおもてなしする立場なのでスープとパンだけでいいですわ! 私の分はマリアージュ様に差し上げます!」
「でも……」
そういう訳にもいかないだろう。追加注文を、と言おうとした時、リノがニシシッと笑う。
「良いんですよ、マリー様。ジュデは海栗苦手で食えないんだよなぁ、度胸が無くてさ」
「なっ、リノ!」
暴露された事が図星だったのか、ジュデットが眉を吊り上げた。
「そうなの? こんなに美味しいのに勿体無いわ」
「だろ? マリー様もそう思うだろ?」
「これが食えない内はまだまだガキだな、ジュデ」
リノに続いて、少し出来上がってきたのかファリエロも揶揄うように同意する。ジュデットが涙目で頬を膨らませて彼らを睨みつけた。顔が真っ赤になっている。
「まあまあ。苦手なら無理に食べなくても良いからさ」
グレイがとりなすように口を挟んだ。
まあ日本でも、ウニとかイクラとか珍味系が苦手な人も居るからなぁと思う。特に子供の頃とか。大人になって味覚が変われば美味しいと思うようになったりするだろう。
それでもスープとパンだけじゃ育ち盛りの子はお腹が空くと思う。普通の魚料理を一人前追加注文する事で落ち着いた。
***
「そうだわ、リノ! 余興として海の男の度胸試ししなさいよ!」
唐突にジュデットがリノに指を突き付けてそう言った。
「何だよいきなり」
「おっ、リノ坊もとうとう度胸試しかぁ?」
ジョッキを片手に客である船乗り達がわっと盛り上がって囃し立てる。
『度胸試し』?
何ぞそれと疑問に思っていると、ファリエロが説明してくれた。
何でも、ガリアでも限られた地域でしか食べられていない海の幸の珍味を、目の前で捌いて料理して貰って食べるという余興だそうだ。
大抵食べるのに抵抗がある外見をしている物が多いらしい。実はウニもハードルが低めの度胸試しとして使われる事もあるんだそう。
一人の客が上機嫌に口を開いた。
「でもよ、度胸試しって言っても対抗があった方が盛り上がるよなぁ?」
「良い事思いついたぜ、グレイ坊ちゃんだよ。丁度婚約者のお姫様も居るんなら、ここはいっちょ男を見せてやれ!」
「はぁ!?」
いきなりグレイにご指名が入った。彼の驚きの声を了承と受け取ったのか、どっと歓声が沸いた。粗野な野次と口笛の音が飛び交う。更にはどっちが勝つかの賭け事まで始まってしまった。
「ああ、もう。分かったよ! やれば良いんだろ、この酔っ払い共!」
グレイがやけくそのように叫ぶ。
「そう来なくっちゃ」とノリノリの船乗り達によって椅子とテーブルが動かされ、瞬く間にリノ対グレイの度胸試しが始まった。
魚のスープにパン、ワインの水割りが運ばれて来た。ファリエロは給仕を呼び付け、水割りでないものを注文している。男性陣はそれで、という事になった。
エヴァン修道士が代表して簡単に食前の祈りを唱えた後、ファリエロが「グレイ坊の婚約に乾杯!」と音頭を取る。
他の客達もグレイの事を知っているらしく、一緒に杯を掲げていた。
「ありがとう! 一樽買い上げるから、皆で大いに飲んでくれ!」とグレイが謝辞を述べると歓声が上がる。昼間っから男達は大いに盛り上がっていた。
「あいよ、採れたて新鮮な海栗だよ!」
恰幅の良い中年女性がお皿を置いた。その上にはウニが沢山乗っている。開かれた間に、山吹色の身が見えていた。
何て立派なデカいウニ!
「な、なんだこれ……」
ヴィジュアル的に受け付けなかったのか、ウニを初めて見たであろうカレル兄が怯んだ声を上げている。サリーナや馬の脚共、エヴァン修道士は気持悪そうに見るだけで微動だにしない。
興味深そうにしているのは中脚位か。そう言えばウニも見かけなかったな、とちらりと思い出す。
「あ、そうか。カレル様、トラス王国じゃあまり食べられませんけど、こいつは海の栗って言って、ガリアの珍味なんです。見てくれは不気味ですけど、美味いんですよ。こうして黄色い中身をこんな風に匙で掬って食べるんです」
そう言って、リノが先陣を切って食べた。「毒はないから大丈夫だ」とファリエロも続く。
「マリー、無理なら食べなくても――って、えっ!?」
グレイに気遣わしげに言われた時、私は既に喜色満面で匙を構えていた。即行でウニを皿に取って中身を掬って口に運ぶ。サリーナ達が「マリー様!?」と仰天し、グレイとジュデットが驚愕の表情を浮かべた。
――ふおおおお!
しかし私はそれどころではなかった。海の香りとウニの甘みが口の中にぶわっと広がるのを堪能するのに忙しい。
自然、足がじたばたと歓喜に動いてしまう。
何これ。くっそ美味いんだけど!
ウニなんて前世ぶりである。ガリア料理最高か?
感動に目頭を熱くさせながら、もう一つ、もう一つ…とウニに手を伸ばす私に皆呆気に取られている。カレル兄が、「……そんなに美味いのか?」と恐る恐る訊いて来た。
中脚が一口食べ、「これは! 思ったより美味いですねー」と瞠目し、こくこくと頷く私につられたのか、カレル兄も意を決したように続いた。一度口に入れてしまうと意外にイケる事に気付いたらしく、皆も食べられるようになった。
気が付くと、ウニは残り数個。ここで私は大変な事に気付いてしまう。
「あっ、ジュデット様、もしかして一つも食べてない……?」
彼女の取り皿は綺麗なままだった。という事はそう言う事で。
しまった……夢中になって貪っていて、気が付かなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、ジュデットは慌てて首を横に振る。
「い、いえっ、私は今日はおもてなしする立場なのでスープとパンだけでいいですわ! 私の分はマリアージュ様に差し上げます!」
「でも……」
そういう訳にもいかないだろう。追加注文を、と言おうとした時、リノがニシシッと笑う。
「良いんですよ、マリー様。ジュデは海栗苦手で食えないんだよなぁ、度胸が無くてさ」
「なっ、リノ!」
暴露された事が図星だったのか、ジュデットが眉を吊り上げた。
「そうなの? こんなに美味しいのに勿体無いわ」
「だろ? マリー様もそう思うだろ?」
「これが食えない内はまだまだガキだな、ジュデ」
リノに続いて、少し出来上がってきたのかファリエロも揶揄うように同意する。ジュデットが涙目で頬を膨らませて彼らを睨みつけた。顔が真っ赤になっている。
「まあまあ。苦手なら無理に食べなくても良いからさ」
グレイがとりなすように口を挟んだ。
まあ日本でも、ウニとかイクラとか珍味系が苦手な人も居るからなぁと思う。特に子供の頃とか。大人になって味覚が変われば美味しいと思うようになったりするだろう。
それでもスープとパンだけじゃ育ち盛りの子はお腹が空くと思う。普通の魚料理を一人前追加注文する事で落ち着いた。
***
「そうだわ、リノ! 余興として海の男の度胸試ししなさいよ!」
唐突にジュデットがリノに指を突き付けてそう言った。
「何だよいきなり」
「おっ、リノ坊もとうとう度胸試しかぁ?」
ジョッキを片手に客である船乗り達がわっと盛り上がって囃し立てる。
『度胸試し』?
何ぞそれと疑問に思っていると、ファリエロが説明してくれた。
何でも、ガリアでも限られた地域でしか食べられていない海の幸の珍味を、目の前で捌いて料理して貰って食べるという余興だそうだ。
大抵食べるのに抵抗がある外見をしている物が多いらしい。実はウニもハードルが低めの度胸試しとして使われる事もあるんだそう。
一人の客が上機嫌に口を開いた。
「でもよ、度胸試しって言っても対抗があった方が盛り上がるよなぁ?」
「良い事思いついたぜ、グレイ坊ちゃんだよ。丁度婚約者のお姫様も居るんなら、ここはいっちょ男を見せてやれ!」
「はぁ!?」
いきなりグレイにご指名が入った。彼の驚きの声を了承と受け取ったのか、どっと歓声が沸いた。粗野な野次と口笛の音が飛び交う。更にはどっちが勝つかの賭け事まで始まってしまった。
「ああ、もう。分かったよ! やれば良いんだろ、この酔っ払い共!」
グレイがやけくそのように叫ぶ。
「そう来なくっちゃ」とノリノリの船乗り達によって椅子とテーブルが動かされ、瞬く間にリノ対グレイの度胸試しが始まった。
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