貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
175 / 690
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

海へ行った栗の実は普通貝じゃなくてウニになるだろうというツッコミ。

しおりを挟む
 席に着くと、ジュデットが代わりに注文しに行ってくれた。「ガリア料理でしか味わえない料理をどんどん運んできてくれるように頼みました。お代は祖父のツケなので気にしないで下さいね!」との事で、太っ腹である。

 魚のスープにパン、ワインの水割りが運ばれて来た。ファリエロは給仕を呼び付け、水割りでないものを注文している。男性陣はそれで、という事になった。
 エヴァン修道士が代表して簡単に食前の祈りを唱えた後、ファリエロが「グレイ坊の婚約に乾杯!」と音頭を取る。
 他の客達もグレイの事を知っているらしく、一緒に杯を掲げていた。

 「ありがとう! 一樽買い上げるから、皆で大いに飲んでくれ!」とグレイが謝辞を述べると歓声が上がる。昼間っから男達は大いに盛り上がっていた。

 「あいよ、採れたて新鮮な海栗ウニだよ!」

 恰幅の良い中年女性がお皿を置いた。その上にはウニが沢山乗っている。開かれた間に、山吹色の身が見えていた。

 何て立派なデカいウニ!

 「な、なんだこれ……」

 ヴィジュアル的に受け付けなかったのか、ウニを初めて見たであろうカレル兄が怯んだ声を上げている。サリーナや馬の脚共、エヴァン修道士は気持悪そうに見るだけで微動だにしない。
 興味深そうにしているのは中脚位か。そう言えばウニも見かけなかったな、とちらりと思い出す。

 「あ、そうか。カレル様、トラス王国じゃあまり食べられませんけど、こいつは海の栗って言って、ガリアの珍味なんです。見てくれは不気味ですけど、美味いんですよ。こうして黄色い中身をこんな風に匙ですくって食べるんです」

 そう言って、リノが先陣を切って食べた。「毒はないから大丈夫だ」とファリエロも続く。

 「マリー、無理なら食べなくても――って、えっ!?」

 グレイに気遣わしげに言われた時、私は既に喜色満面で匙を構えていた。即行でウニを皿に取って中身を掬って口に運ぶ。サリーナ達が「マリー様!?」と仰天し、グレイとジュデットが驚愕の表情を浮かべた。

 ――ふおおおお!

 しかし私はそれどころではなかった。海の香りとウニの甘みが口の中にぶわっと広がるのを堪能するのに忙しい。
 自然、足がじたばたと歓喜に動いてしまう。

 何これ。くっそ美味いんだけど!

 ウニなんて前世ぶりである。ガリア料理最高か?

 感動に目頭を熱くさせながら、もう一つ、もう一つ…とウニに手を伸ばす私に皆呆気に取られている。カレル兄が、「……そんなに美味いのか?」と恐る恐る訊いて来た。
 中脚が一口食べ、「これは! 思ったより美味いですねー」と瞠目し、こくこくと頷く私につられたのか、カレル兄も意を決したように続いた。一度口に入れてしまうと意外にイケる事に気付いたらしく、皆も食べられるようになった。

 気が付くと、ウニは残り数個。ここで私は大変な事に気付いてしまう。

 「あっ、ジュデット様、もしかして一つも食べてない……?」

 彼女の取り皿は綺麗なままだった。という事はそう言う事で。

 しまった……夢中になって貪っていて、気が付かなかった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、ジュデットは慌てて首を横に振る。

 「い、いえっ、私は今日はおもてなしする立場なのでスープとパンだけでいいですわ! 私の分はマリアージュ様に差し上げます!」

 「でも……」

 そういう訳にもいかないだろう。追加注文を、と言おうとした時、リノがニシシッと笑う。

 「良いんですよ、マリー様。ジュデは海栗苦手で食えないんだよなぁ、度胸が無くてさ」

 「なっ、リノ!」

 暴露された事が図星だったのか、ジュデットが眉を吊り上げた。

 「そうなの? こんなに美味しいのに勿体無いわ」

 「だろ? マリー様もそう思うだろ?」

 「これが食えない内はまだまだガキだな、ジュデ」

 リノに続いて、少し出来上がってきたのかファリエロも揶揄からかうように同意する。ジュデットが涙目で頬を膨らませて彼らを睨みつけた。顔が真っ赤になっている。

 「まあまあ。苦手なら無理に食べなくても良いからさ」

 グレイがとりなすように口を挟んだ。
 まあ日本でも、ウニとかイクラとか珍味系が苦手な人も居るからなぁと思う。特に子供の頃とか。大人になって味覚が変われば美味しいと思うようになったりするだろう。
 それでもスープとパンだけじゃ育ち盛りの子はお腹が空くと思う。普通の魚料理を一人前追加注文する事で落ち着いた。



***



 「そうだわ、リノ! 余興として海の男の度胸試ししなさいよ!」

 唐突にジュデットがリノに指を突き付けてそう言った。

 「何だよいきなり」

 「おっ、リノ坊もとうとう度胸試しかぁ?」

 ジョッキを片手に客である船乗り達がわっと盛り上がって囃し立てる。

 『度胸試し』?

 何ぞそれと疑問に思っていると、ファリエロが説明してくれた。
 何でも、ガリアでも限られた地域でしか食べられていない海の幸の珍味を、目の前で捌いて料理して貰って食べるという余興だそうだ。
 大抵食べるのに抵抗がある外見をしている物が多いらしい。実はウニもハードルが低めの度胸試しとして使われる事もあるんだそう。
 一人の客が上機嫌に口を開いた。

 「でもよ、度胸試しって言っても対抗があった方が盛り上がるよなぁ?」

 「良い事思いついたぜ、グレイ坊ちゃんだよ。丁度婚約者のお姫様ひいさまも居るんなら、ここはいっちょ男を見せてやれ!」

 「はぁ!?」

 いきなりグレイにご指名が入った。彼の驚きの声を了承と受け取ったのか、どっと歓声が沸いた。粗野な野次と口笛の音が飛び交う。更にはどっちが勝つかの賭け事まで始まってしまった。

 「ああ、もう。分かったよ! やれば良いんだろ、この酔っ払い共!」

 グレイがやけくそのように叫ぶ。
 「そう来なくっちゃ」とノリノリの船乗り達によって椅子とテーブルが動かされ、瞬く間にリノ対グレイの度胸試しが始まった。
しおりを挟む
感想 925

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。