貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

手紙と新聞とお土産。

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 『拝啓 マリアージュ姫

 秋の色が深まり、狩の季節ですね。

 先日の園遊会では初めてお会い出来て、私は貴女の落ち着き堂々とした佇まいにとても感銘を受けました。
 本当はもっといろいろお話してみたかったのですが、思わぬ邪魔もあってあまり交流を持てなかった事が残念でなりません。

 改めてお茶会や夜会にお誘いしようかとも考えたのですが、また先日のような事があってもと思い断念する事にしました。
 そもそも姫は社交界にはあまりお出にならないそうですね。

 そこで、もし宜しければ私と文通をして頂けないでしょうか。

 ジェレミー・トラス』

 内容は短くて簡潔。花束等も付いていない。
 しかし、文通相手か……王妃殿下の入れ知恵もあるだろうが、断りづらいラインで攻めて来るものである。
 どう思う? と家族に聞いてみると、やはり断り辛いだろうとの事。

 「当たり障り無いように注意して返事を書くように」

 とは父の意見である。仕方あるまい。
 溜息を吐きながら私は二通目に手を伸ばした。

 『親愛なるマリー

 先日の園遊会、私も出席していたけど凄かったわ! ちょっとあの中に入る勇気が無くて話しかけられなかったけど、見ていてとても面白かった。
 笑い転げるのを我慢するので精一杯だったわ。二人の王子を近づけさせないで途方に暮れさせるなんてやるわね。
 私も襟を付けてみようかしら?

 ところで最近私の母国ガリア王国から従兄弟が遊びに来て、色々と届けてくれたのだけれど、友達として貴女に贈りたい物があるの。
 園遊会の話も色々詳しく聞きたいし、遊びに行っても良いかしら? 従兄弟も一緒に。

 貴女の友 メティ』

 ふむ。

 彼女とは何通かやりとりしているが、随分と直球である。まあ悪い気はしない。
 ガリア王国なら外国だし、その分煩わしい事を考える必要も無いだろう。贈り物もあるみたいだし、どうせならカレーでも振舞ってみようか。
 彼女の従兄弟は兎も角、この国の王子達を連れて来ないように念押ししておかないとな。

 父が読み終わった新聞を受け取って、私は自室へと戻る。
 ベッドにごろんとダイブして新聞を広げてみた。


 『週刊ヌーヴェル

 第一版の御挨拶。この度、弊社はキャンディ伯爵家からの出資を受けて新たにジュルナル新聞社と屋号を改めました。
 記念すべき第一版として無事にこの週刊ヌーヴェルを刊行する事が出来、感謝の御挨拶をさせて頂きます。

 週刊ヌーヴェルは主に国外で起こった出来事、そして国内での物価相場、投資情報等多岐に渡って掲載して参ります。
 今後とも何卒御愛読頂けますように。

 ジュルナル新聞社 代表 マーチス・キンブリー』

 代表者はマーチスという人らしい。
 第一面にあった挨拶文をさらっと読み終わると、私は他の面にも目を通してみた。
 国外の出来事ではトラス王国を取り巻く国々の政情や外国の新技術、植民地の情報について、国内での出来事では南方の海沿いでの町で小規模の地震があった事等が書かれてあった。
 物価相場はインフレになるかデフレになるか推移を追っていかねばなるまい。投資情報欄は株式――という事はグレイの管轄か。
 正直言って物足りない。小説連載とか求人欄とか投書とか広告とか。特に求人や広告収入があれば新聞単価下げれるだろうし。後で父に言ってみるとしよう。

 新聞を折りたたむと私は手紙の返事を書くべく机に向かった。


***


 教会に行って祈りを捧げ、クジャクの様子を見に行って奴らの冬の暖房を考える。またグレイと会ってお家デートを楽しんだりジェレミー殿下の事の相談したり。そうそう、サングマ教皇への品が出来上がったというので手紙を託したりもした。

 特に事件も無くそんな風にのんびり過ごす事数日。

 「まあ! 素敵ね、仕上がってみると想像以上に良い仕事だわ!」

 「お褒めに預かり光栄でございます」

 私の目の前には完成したオルゴールボール付き魔法鏡の小物入れが家族分並んでいた。
 試作品から二週間弱――完成したという事でルフナー家兄弟と宝石店責任者ロベルトさんが朝から納品にやってきたのである。

 「型は既に出来ておりましたし、基本的な規格が同じだったので、そこまで時間を掛けずに済みました」

 とにこやかなロベルトさん。細工師も何人か伝手があるので装飾は割り振ったらしい。
 クッションの入った革張りの箱も一つ一つに付いていて、このまま贈り物に出来る状態である。良い仕事をしているなぁ。

 「本当にありがとう、ロベルトさん」

 握手して感謝の意を示すと、喜んで頂けて何よりでございました、と恐縮しながらも微笑みを浮かべている。

 そうだ。

 今日は皆も家にいる事だし――そう考え、私は昼食の席へと誘った。

 「という訳で、ロベルトさんをお誘いしたの。感謝祭のお土産を後で渡すわね」

 勿論事前に昼食にお客さんを招くという事をサリーナ経由で家族に伝えてあったし、厨房にも一人前増やして貰うように手配していた。
 ちなみにメッセージカードは先刻書いて箱に同封済みである。
 家族の視線を受けたロベルトさんはにこやかにしながらも緊張しまくっている御様子。
 それでも「名高いキャンディ伯爵家の方々と同じ食卓に招かれる事を光栄に存じます」と丁寧に挨拶をこなしていたので流石である。
 食事が終わり、私は「お爺様達の分は領地まで届けて貰う予定よ。アン姉のも明日渡しに行くつもりだから」と前置きして立ち上がると、父から順番に渡していった。皆に行き渡ったところで一斉に箱を開けて貰う。

 「わあ、綺麗な音色! 素敵!」

 「カッコいい!」

 素直に歓声を上げるメリーとイサーク。私は「小物入れになっているのよ」と説明した。

 「ほう、このように文字が浮かび上がるのか。面白い」

 ダディサイモンは蓋を開けて窓辺で魔法の鏡の検証をしている。それを見た兄二人と弟妹も立ち上がった。

 「おお! ……『トーマス兄が夫婦円満で幸せであれかし』? マリー、お前」

 「凄え、本当に浮かび上がる! って、『麗しの月光の君よ永遠なれ』って何だよ、俺まだ死んでないぞ!」

 「良いじゃない、夫婦円満は良い事なんだし。カレル兄はずっと麗しの月光の君だからそれでいいの!」

 二人の兄から疑問と文句が出るが、そこはそれ。
 トーマス兄は義姉キャロラインの尻に敷かれるだろうが幸せになって欲しい。勿論カレル兄は剥げても月光の君だからである。
 ママンティヴィーナがクスクスと笑いながらダディに近づいた。

 「まあ、『お父様、いつもありがとう』ですって。良かったわねぇ、あなた」

 「……珍しくマリーが殊勝だな。明日は槍でも降るか?」

 ……メッセージじゃなくやっぱり般若にでもするべきだったか。

 そういうママンへのメッセージは『お母様大好き。ずっと笑顔でいてね』である。
 アナベラ姉はメッセージカードを手に、義兄アールに「先日のあれはこれだったのね」と恥ずかしそうにしていた。
 目が合ったのでウインクすると、「ありがとう、マリー」とお礼を言われた。ふふん。
 と、腹部に衝撃が走った。イサークとメリーが満面の笑顔で抱き着いて来たのである。

 「お姉ちゃま、ありがとう!」

 「お姉ちゃま、メリーも大好きよ!」

 私はどういたしまして、と二人を抱きしめ返した。
 弟妹達へのメッセージは単純に『大好きなイサーク、かっこいい紳士になってね』と『大好きなメリー、素敵な淑女になってね』。

 そんな私達の様子を、グレイとロベルトさんはいつまでも優しそうな目で見詰めていた。
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