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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
変わりゆく日常の朝。
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朝の日課で庭に出たところ、イサークとメリーが珍しく待ち構えていた。
「マリーお姉ちゃま、おはよう!」
「おはよう、どうしたの? 珍しいわね」
問いかけると、メリーが恥ずかしそうにもじもじしてはにかむ。
「お姉ちゃま、今日は私達も馬に乗せて貰いたくって早起きしたの」
ああ、そう言えば暫く一緒に馬遊びはしてなかったな。私は「構わないわよ」と頷いて馬の脚共を振り向いた。
「――馬の脚共、もう一人。中脚を呼んで来い」
中脚というのは弟妹達と三人乗りする時、スレイプニル状態になる為の助っ人庭師カールの事。馬の脚共の後輩に当たる、明るくてよく喋る男である。
顔を見合わせた前脚と後ろ脚はしかし、気まずそうな顔をした。
サリーナがマリー様、と声を掛けて来る。
「彼は今旦那様の御命令でルフナー家に出張中です」
え、出張?
「グレイの所へ? 何故」
サリーナの説明したところによれば、レンコン――蓮池を作るのを学んで来いという事らしかった。むぅ、それならば仕方が無いか。
代役を連れて来させようとしたのだが、馬の脚共は「他の者では足並み揃える事が難しく危険」と首を振る。結局早めに切り上げて、弟妹達と交代する事となった。
***
今朝のメニューは焼き飯とスープ、果物だった。カレーにしてもそうだけど、最近家族もお米の魅力に嵌っている。卵と醤油と塩コショウ、野菜と肉のハーモニーは懐かしく絶品である。
一口食べたトーマス兄が美味い! と声を上げた。
「最初食べた時は味がしなかったものでも――こうして料理すると美味いな」
野菜や肉も入れれば健康にも良いし、とお気に召した模様。父サイモンも「悪くない」と口に運んでいる。私はくすりと笑った。
「パンと違って元々単品で食べるものじゃないからね。シンプルなものでも塩味は付けるし。カレーとか味付きのおかずと一緒とか、こんな風に料理するとかで食べるものだもの」
「ソヤも香ばしくて美味しいわね。オコメ、何とか栽培出来ないものかしら」
「今からだとちょっと季節的に厳しいわ、母。だけど種はあるから来年試験的に育ててみるのも良いかもって思ってるの」
米を育てるのは水の豊富な所でないといけない。育て方の知識をグレイに手に入れてきて貰うだけでなく、場所の選定も考えないと。
気候的には多分大丈夫だと思う。上手く行けば新たな作物として特産品に出来るかも知れない。
そんな事を考えていると、カレル兄が忍び笑いをした。
「そう言えばさ。夕べの夜会でもそうだったんだが、社交界はお前の話題で持ちきりになってたぞ。あの三魔女を味方に付けた古風な襟飾りの令嬢だとさ。
あの日は王族の前でやらかしたからさぞかし、と流石に俺も構えていたんだが、三魔女を恐れたのか表立って悪口を言う奴らがほとんど居なかったのには驚いた」
三夫人は私の事を気に入ってくれたようで、あちこちで褒めてくれているらしい。流石襟友。あの襟の時代を経験している年配の方も好意的だとか。きっと微笑ましく思われていたのだろう。
「あの方達はお喋りで情報通だものね、ほとんどの貴族の何らかの弱みを握っていてもおかしくないと思うわ」
アナベラ姉も肩を竦め、呆れたようにこちらに視線を向けて来る。
「それにしても、マリーがまさかよりにもよってあの方達に気に入られるなんて予想外よ」
よりにもよって、とかえらい言われようである。まぁ、要は社交界のスピーカーおばちゃん達だから敬遠されているのだろうけれど。私は嫌いじゃない。寧ろ好きだ。
それに、あの三夫人の話を傍で聞いてるだけで面白いし社交界に出なくても情報収集がかなり出来る。
お茶会は一週間後位。色々聞かせて貰おうっと。
「うふふ、お茶会楽しみ。気合を入れておもてなししなくっちゃ!」
「またガスィーちゃんと遊びたいわ!」
「僕も!」
ちなみに弟妹達とグレイは参加決定。彼には三夫人へのお土産を頼むつもりである。
***
食後のお茶になり、執事が家族への新聞や手紙をいつもの如くお盆に乗せて運んできた。
「ふむ、今日は急ぎの手紙は無いようだな」
「はい、他の物は何時もの様に執務室の机に」
頷いて、受け取った新聞を広げる父。私は広げられた紙面のレイアウトに違和感を感じる。
「あれ? 父、それいつものじゃないよね?」
「ああ、お前の誕生日で新聞社を買い取っただろう。そこで新たに変えさせた、これはその記念すべき第一版に当たる」
「! ――後で見せて!」
そう言えば株券は貰っていたけど、事業そのものにはノータッチだった。いつの間にか第一版が出来ていたらしい。食い入るように外側の紙面を見ていると、執事がすっと横に立った。
「マリー様にもお手紙が来ております……一通は、やんごとなき御方からのものでございます」
やんごとなき御方?
重々しい言葉で差し出されたお盆には二通の手紙。家族の視線を受け、嫌な予感に苛まれながらも受け取って宛名を見る。一通はメテオーラ嬢、文通相手だ。そしてもう一通は――。
「ジェレミー殿下」
園遊会では挨拶しかしなかった第二王子、ジェレミー殿下からの手紙だった。
「マリーお姉ちゃま、おはよう!」
「おはよう、どうしたの? 珍しいわね」
問いかけると、メリーが恥ずかしそうにもじもじしてはにかむ。
「お姉ちゃま、今日は私達も馬に乗せて貰いたくって早起きしたの」
ああ、そう言えば暫く一緒に馬遊びはしてなかったな。私は「構わないわよ」と頷いて馬の脚共を振り向いた。
「――馬の脚共、もう一人。中脚を呼んで来い」
中脚というのは弟妹達と三人乗りする時、スレイプニル状態になる為の助っ人庭師カールの事。馬の脚共の後輩に当たる、明るくてよく喋る男である。
顔を見合わせた前脚と後ろ脚はしかし、気まずそうな顔をした。
サリーナがマリー様、と声を掛けて来る。
「彼は今旦那様の御命令でルフナー家に出張中です」
え、出張?
「グレイの所へ? 何故」
サリーナの説明したところによれば、レンコン――蓮池を作るのを学んで来いという事らしかった。むぅ、それならば仕方が無いか。
代役を連れて来させようとしたのだが、馬の脚共は「他の者では足並み揃える事が難しく危険」と首を振る。結局早めに切り上げて、弟妹達と交代する事となった。
***
今朝のメニューは焼き飯とスープ、果物だった。カレーにしてもそうだけど、最近家族もお米の魅力に嵌っている。卵と醤油と塩コショウ、野菜と肉のハーモニーは懐かしく絶品である。
一口食べたトーマス兄が美味い! と声を上げた。
「最初食べた時は味がしなかったものでも――こうして料理すると美味いな」
野菜や肉も入れれば健康にも良いし、とお気に召した模様。父サイモンも「悪くない」と口に運んでいる。私はくすりと笑った。
「パンと違って元々単品で食べるものじゃないからね。シンプルなものでも塩味は付けるし。カレーとか味付きのおかずと一緒とか、こんな風に料理するとかで食べるものだもの」
「ソヤも香ばしくて美味しいわね。オコメ、何とか栽培出来ないものかしら」
「今からだとちょっと季節的に厳しいわ、母。だけど種はあるから来年試験的に育ててみるのも良いかもって思ってるの」
米を育てるのは水の豊富な所でないといけない。育て方の知識をグレイに手に入れてきて貰うだけでなく、場所の選定も考えないと。
気候的には多分大丈夫だと思う。上手く行けば新たな作物として特産品に出来るかも知れない。
そんな事を考えていると、カレル兄が忍び笑いをした。
「そう言えばさ。夕べの夜会でもそうだったんだが、社交界はお前の話題で持ちきりになってたぞ。あの三魔女を味方に付けた古風な襟飾りの令嬢だとさ。
あの日は王族の前でやらかしたからさぞかし、と流石に俺も構えていたんだが、三魔女を恐れたのか表立って悪口を言う奴らがほとんど居なかったのには驚いた」
三夫人は私の事を気に入ってくれたようで、あちこちで褒めてくれているらしい。流石襟友。あの襟の時代を経験している年配の方も好意的だとか。きっと微笑ましく思われていたのだろう。
「あの方達はお喋りで情報通だものね、ほとんどの貴族の何らかの弱みを握っていてもおかしくないと思うわ」
アナベラ姉も肩を竦め、呆れたようにこちらに視線を向けて来る。
「それにしても、マリーがまさかよりにもよってあの方達に気に入られるなんて予想外よ」
よりにもよって、とかえらい言われようである。まぁ、要は社交界のスピーカーおばちゃん達だから敬遠されているのだろうけれど。私は嫌いじゃない。寧ろ好きだ。
それに、あの三夫人の話を傍で聞いてるだけで面白いし社交界に出なくても情報収集がかなり出来る。
お茶会は一週間後位。色々聞かせて貰おうっと。
「うふふ、お茶会楽しみ。気合を入れておもてなししなくっちゃ!」
「またガスィーちゃんと遊びたいわ!」
「僕も!」
ちなみに弟妹達とグレイは参加決定。彼には三夫人へのお土産を頼むつもりである。
***
食後のお茶になり、執事が家族への新聞や手紙をいつもの如くお盆に乗せて運んできた。
「ふむ、今日は急ぎの手紙は無いようだな」
「はい、他の物は何時もの様に執務室の机に」
頷いて、受け取った新聞を広げる父。私は広げられた紙面のレイアウトに違和感を感じる。
「あれ? 父、それいつものじゃないよね?」
「ああ、お前の誕生日で新聞社を買い取っただろう。そこで新たに変えさせた、これはその記念すべき第一版に当たる」
「! ――後で見せて!」
そう言えば株券は貰っていたけど、事業そのものにはノータッチだった。いつの間にか第一版が出来ていたらしい。食い入るように外側の紙面を見ていると、執事がすっと横に立った。
「マリー様にもお手紙が来ております……一通は、やんごとなき御方からのものでございます」
やんごとなき御方?
重々しい言葉で差し出されたお盆には二通の手紙。家族の視線を受け、嫌な予感に苛まれながらも受け取って宛名を見る。一通はメテオーラ嬢、文通相手だ。そしてもう一通は――。
「ジェレミー殿下」
園遊会では挨拶しかしなかった第二王子、ジェレミー殿下からの手紙だった。
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