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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
キーマン商会は魔法の鏡でがっちり!
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オルゴールボールも魔法の鏡も問題無かったので、私はゴーサインを出す事にした。
「ありがとうございます。では、このまま注文に取り掛かって下さいな。あ、でもそこまで急がなくても構いませんので」
無理をせず、ゆっくり仕上げて頂けると嬉しいです――そう言うと、ロベルトさんはかしこまりました、と頷く。
「では早速取り掛からせて頂きますが――仕様変更もございませんか?」
ご確認の為に、と先日書き散らした紙を見せられる。うん、問題ない。
あ、そう言えば。
「そうだわ。お義兄様も」
グレイもルフナー家分を注文する流れで、私とグレイは魔法の鏡に刻むメッセージをお互い贈り合う事にしたのだ。義兄アールもきっとアナベラ姉とそうしたいかも知れないと思う。
「これを注文した事を秘密にして頂けるならアナベラ姉様とメッセージの交換をされては如何かしら。私とグレイもそうしますし」
「えっ、しかしこれはマリーから彼女への贈り物ですよね?」
「ええ、勿論。だけどメッセージはお義兄様が考えたものの方がって思うの。感謝祭のお土産なんですし」
デザインは私が考えた物だし、渡す際にメッセージカードを添えるので大丈夫と言うと、義兄は少し照れ臭そうにしながらも困ったような顔をした。
「ではせめてマリーの注文分は私持ちにさせて頂けないでしょうか」
「まあ、そんな。私のお土産ですのよ?」
支払わせてくれ、いえいえ、そんな――そんなやり取りが何度かなされた後、グレイが見かねたように「兄さんに払わせてやってよ、マリー」と口を出す。
「けれど……」
渋る私の耳元に、グレイは口を寄せる。
「メイソンの事で本当に気に病んでたんだ、だからせめて罪滅ぼしをさせてやって。後でちょっと相談があるんだ」
そう囁かれ。私は悩んだ末に、「では、本当に申し訳ないですが……」とお言葉に甘える事にした。
***
話がまとまり、義兄アールと宝石店責任者のロベルトが出て行った後。グレイがこちらに向き直った。
「さっき相談があるって言った事なんだけど……マリーの注文したあれ、豪華な作りの物を作って教皇猊下への贈り物に出来ないかな?」
「サングマ教皇猊下に? 他の貴族に売りたいとかじゃなく?」
首を傾げると、グレイは「それもちょっと考えたけど、それよりも教皇猊下――先に教会に売った方がずっと良い」と首を振った。
「思いついた策の一つなんだ。マリーの立場をより強固なものにする為と、王家が僕達に手出ししにくくする為の。
少なくともあの太陽の光を反射して像を結ぶという仕組みの魔法の鏡は太陽神を崇める教会関係者に持て囃される。ましてや、聖女であるマリーが考え出した有難い品。教皇猊下がまずお持ちになれば、枢機卿他高位の方々もきっと欲しがるだろうね。
教皇猊下に事情をお話しして商会にお墨付きを頂き、各教会にて魔法の鏡に祈祷をしてもらい、お守りのようなものとして取り扱うようにして貰うつもりなんだ。そこで、その鏡を作れるのがキーマン商会だけであればどうなるかな?」
悪戯っぽく笑うグレイ。
「確かに、そうなれば王家と言えどもキーマン商会を――その次期跡取りのグレイを疎かには出来なくなるわ」
現時点、グレイは大商会の跡取りとはいえ子爵家子息、成り上がりの下位貴族に過ぎない。だけど商会が教皇猊下のお墨付きを受けたとなると話は別だ。そういう事なら流行り物として貴族に売るよりも先にサングマ教皇へ贈り、聖職者へ売る方が良いだろう。
お土産として遊び心で思いついたアクセサリーがこんな重要アイテムになるなんて。
グレイ、なんて恐ろしい子!
内心白目を剥いて慄いていると、唐突に「ごめん」と謝罪された。
「だから、本当に申し訳ないんだけど、教皇猊下にお渡しするまでマリーのお土産をサイモン様達が社交界で身に着けられるのはちょっとだけ待ってて欲しいんだ。他の貴族も欲しがるようになってしまうから」
教皇猊下が遠くまで行かれない家に仕上げて早馬を飛ばしてなるたけ急ぐようにする、と頭を下げるグレイ。
ああ、そういう事ね。さっきもロベルトさんに急がなくて良いって言ったし大丈夫。
「それは構わないわ。だったら私も協力した方が良さそうね。私からの手紙もあった方が良いでしょう?」
「そうして貰えると助かるよ」
「デザインはもう決まっているの?」
訊けば、グレイは勿論と頷いた。
「魔法の鏡には太陽神のシンボルを刻印するつもり。幾つかの神聖な文様や象徴があるから、それをデザインしようと思ってるんだ」
「小物入れなら、内側に私からのメッセージを入れて貰っても?」
「うん、それは構わないけど……何を入れるの?」
「聖女の儀式の日付と、『親愛なるサングマ教皇猊下へ。聖女マリアージュ』って帝国語で」
「分かった」
帝国語とは古の大帝国で使われていた言葉であり、前世でいうラテン語みたいなもの、共通語だ。扱われ方も同じで、国を跨いだ教会関係者や知識階級等の手紙はほぼ帝国語が使われていたりする。
サングマ教皇は今頃隣国に入った頃だろうか。
手紙には儀式のお礼がてら事情を説明して協力を仰ぐ事にしよう。ついでに簡単な日本語講座も入れて。
「ありがとうございます。では、このまま注文に取り掛かって下さいな。あ、でもそこまで急がなくても構いませんので」
無理をせず、ゆっくり仕上げて頂けると嬉しいです――そう言うと、ロベルトさんはかしこまりました、と頷く。
「では早速取り掛からせて頂きますが――仕様変更もございませんか?」
ご確認の為に、と先日書き散らした紙を見せられる。うん、問題ない。
あ、そう言えば。
「そうだわ。お義兄様も」
グレイもルフナー家分を注文する流れで、私とグレイは魔法の鏡に刻むメッセージをお互い贈り合う事にしたのだ。義兄アールもきっとアナベラ姉とそうしたいかも知れないと思う。
「これを注文した事を秘密にして頂けるならアナベラ姉様とメッセージの交換をされては如何かしら。私とグレイもそうしますし」
「えっ、しかしこれはマリーから彼女への贈り物ですよね?」
「ええ、勿論。だけどメッセージはお義兄様が考えたものの方がって思うの。感謝祭のお土産なんですし」
デザインは私が考えた物だし、渡す際にメッセージカードを添えるので大丈夫と言うと、義兄は少し照れ臭そうにしながらも困ったような顔をした。
「ではせめてマリーの注文分は私持ちにさせて頂けないでしょうか」
「まあ、そんな。私のお土産ですのよ?」
支払わせてくれ、いえいえ、そんな――そんなやり取りが何度かなされた後、グレイが見かねたように「兄さんに払わせてやってよ、マリー」と口を出す。
「けれど……」
渋る私の耳元に、グレイは口を寄せる。
「メイソンの事で本当に気に病んでたんだ、だからせめて罪滅ぼしをさせてやって。後でちょっと相談があるんだ」
そう囁かれ。私は悩んだ末に、「では、本当に申し訳ないですが……」とお言葉に甘える事にした。
***
話がまとまり、義兄アールと宝石店責任者のロベルトが出て行った後。グレイがこちらに向き直った。
「さっき相談があるって言った事なんだけど……マリーの注文したあれ、豪華な作りの物を作って教皇猊下への贈り物に出来ないかな?」
「サングマ教皇猊下に? 他の貴族に売りたいとかじゃなく?」
首を傾げると、グレイは「それもちょっと考えたけど、それよりも教皇猊下――先に教会に売った方がずっと良い」と首を振った。
「思いついた策の一つなんだ。マリーの立場をより強固なものにする為と、王家が僕達に手出ししにくくする為の。
少なくともあの太陽の光を反射して像を結ぶという仕組みの魔法の鏡は太陽神を崇める教会関係者に持て囃される。ましてや、聖女であるマリーが考え出した有難い品。教皇猊下がまずお持ちになれば、枢機卿他高位の方々もきっと欲しがるだろうね。
教皇猊下に事情をお話しして商会にお墨付きを頂き、各教会にて魔法の鏡に祈祷をしてもらい、お守りのようなものとして取り扱うようにして貰うつもりなんだ。そこで、その鏡を作れるのがキーマン商会だけであればどうなるかな?」
悪戯っぽく笑うグレイ。
「確かに、そうなれば王家と言えどもキーマン商会を――その次期跡取りのグレイを疎かには出来なくなるわ」
現時点、グレイは大商会の跡取りとはいえ子爵家子息、成り上がりの下位貴族に過ぎない。だけど商会が教皇猊下のお墨付きを受けたとなると話は別だ。そういう事なら流行り物として貴族に売るよりも先にサングマ教皇へ贈り、聖職者へ売る方が良いだろう。
お土産として遊び心で思いついたアクセサリーがこんな重要アイテムになるなんて。
グレイ、なんて恐ろしい子!
内心白目を剥いて慄いていると、唐突に「ごめん」と謝罪された。
「だから、本当に申し訳ないんだけど、教皇猊下にお渡しするまでマリーのお土産をサイモン様達が社交界で身に着けられるのはちょっとだけ待ってて欲しいんだ。他の貴族も欲しがるようになってしまうから」
教皇猊下が遠くまで行かれない家に仕上げて早馬を飛ばしてなるたけ急ぐようにする、と頭を下げるグレイ。
ああ、そういう事ね。さっきもロベルトさんに急がなくて良いって言ったし大丈夫。
「それは構わないわ。だったら私も協力した方が良さそうね。私からの手紙もあった方が良いでしょう?」
「そうして貰えると助かるよ」
「デザインはもう決まっているの?」
訊けば、グレイは勿論と頷いた。
「魔法の鏡には太陽神のシンボルを刻印するつもり。幾つかの神聖な文様や象徴があるから、それをデザインしようと思ってるんだ」
「小物入れなら、内側に私からのメッセージを入れて貰っても?」
「うん、それは構わないけど……何を入れるの?」
「聖女の儀式の日付と、『親愛なるサングマ教皇猊下へ。聖女マリアージュ』って帝国語で」
「分かった」
帝国語とは古の大帝国で使われていた言葉であり、前世でいうラテン語みたいなもの、共通語だ。扱われ方も同じで、国を跨いだ教会関係者や知識階級等の手紙はほぼ帝国語が使われていたりする。
サングマ教皇は今頃隣国に入った頃だろうか。
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