上 下
118 / 671
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

昔取った杵柄。

しおりを挟む
 メイソンの処遇に関しての話し合いが終わった頃。

 パーティーが無事に終わったらしく、他の家族達が喫茶室に戻ってきた。そこで事件を知って大変驚き慌てていた。母に抱きしめられ、アナベラ姉に怖かったわねと労わられる。メリーにも縋りつかれた。義姉キャロラインには護身術を勧められる。
 中でも特に、義兄アールは物凄く責任を感じたらしい。平謝りされ、後日改めて謝罪を、と言われた。そんな一幕があったものの、一先ずこの場はお開きとなる。

 そして、皆が寝静まった頃――。

 私はサリーナと馬の脚共を引き連れてメイソンの捕らえられている客間へ向かっていた。
 兄達からの怪しいバタフライ仮面、祖母からの女王襟を装備して気合を入れる。
 というのも、殴られた仕返しをする為である。その機会は今を置いて他にはない。勿論反対されるので父達には内緒だ。
 要は、身体に目立った傷を負わせなければ何をしても良いと私は解釈した。

 私が受けた恐怖と痛み、百倍返しにしてやる!

 所持品。鞭良し、目隠し良し、口枷ギャグボールと鼻フック良し、縄良し。蝋燭や替えの服その他の道具もちゃんと準備してある。
 入室する時に警備の者に大分渋られたが、サリーナも馬の脚共も居る。ただメイソンと話をしたい、何かあれば叫ぶからと言って押し通った。

 メイソンは縛られていたが、目を覚ましていたようだ。サリーナが明かりを灯していく。私の姿を認めると、異様な出で立ちに一瞬息を飲んだようだが、やがてフンと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

 「……マリアージュ姫か。ドルトン侯爵家を敵に回したく無ければ私をさっさと解放するのだな。今なら私を騙した事も含めて許してやらんでもない」

 捕らわれの身、まな板の鯉になったというのにまだ高慢な物言い。私の眉間に皺が寄る。

 「おお、臭い。雨に濡れた野良犬のような臭いが部屋中に染み付いていますわ」

 「何だと!?」

 「それにしてもさっきから随分と余裕ですこと。豚風情が生意気にも人語を話して服を着ているわ。脱がせなさい!」

 「「ははっ!」」

 鞭をわざと大きく鳴らす。それを命令の合図とばかりに素直に動き出す馬の脚共。奴を押さえ付け、ナイフでビリビリと服を引き裂いて行く。
 流石に動転したのだろう。メイソンは焦った顔になって首を振った。

 「なっ、何をする、やめろ! 私を辱めるつもりか!? このようなことをすればドルトン家が黙っていないぞ!」

 「お黙りっ! 豚は豚らしくブヒッと鳴きなさいっ!」

 痕が残らない程度に鞭で露わになった尻をピシリと叩く。それでもそれなりの痛みはあるだろう。馬の脚共が手際良く口枷ギャグボールを噛ませ、鼻フックを装着。メイソンの顔があっという間に豚面になった。

 もごご! ごごごごご! と言葉にならない声を出すメイソン。

 「では今からされることをご両親に逐一詳しく説明するのかしら? まずは自分のその恥ずかしい姿を見てご覧なさいな」

 サリーナに合図をして鏡を差し出させる。メイソンは自分の豚面を見てショックを受けたように呆けた。

 「さぁ、これからお仕置きの時間ですわ。反省の色も無い薄汚い雄豚はとことん躾けて差し上げなくてはね?」

 鞭を両手で弄びながら宣言する。小刻みに震えながらこちらを見上げるメイソンの瞳に恐怖が宿った。



 数時間後――。



 「マリアージュ様……この日この時よりこの罪深き雄豚奴隷メイソンはマリアージュ様に全てを委ねます……」

 前世来取った杵柄、怒涛の調きょ…躾けを受けた後。目からハイライトが消えたメイソンは、私のハイヒールに踏みつけられながら恍惚とした顔で堕ちた。

 途中、馬の脚共も鞭で打って下さいと申し出てきたりお座りくださいと四つん這いになったり色々あったが、あくまでもそれは想定内の範疇で……メイソンのこれは流石に私としても計算外だった。
 そういう男は社会的地位が高く、プライドをぶっ壊される事で堕ちると言われているが――メイソンも例に漏れなかったようである。

 ……どうしよう、これ。

 ちょっとした仕返しのつもりが奴隷を作ってしまった。
 いや、と思う。メイソンは二度と犯罪出来ないように座敷牢にでも監禁されるだろう、きっと。
 つまり二度と会う事はあるまい。

 後の事は知ーらないっ!

 私は分かればよいのだと偉そうに言って、外の警備と馬の脚共にすっかり抵抗を止めたメイソンに替えの服を着せ元通りに縛っておくよう命じると、客室をそそくさと撤退した。



***



 さて、結論から言おう。

 義兄ザインにドルトン侯爵家へ苦情を入れて貰おうとしたのだが、その前にアルバート第一王子殿下の仲裁という名の横やりが入ったのである。ギャヴィンの奴だろう。第一王子殿下の恩を売るつもりだろうが、全く余計な事しかしない。

 メイソンは事件のあった次の日の朝に、王家から回収班がやってきた。「悪いようにはしないから、メイソンの身柄は一旦アルバート第一王子殿下預かりにするように」との王命を携えて。
 我が家としても流石に勅命に逆らう訳には行かず、メイソンを引き渡す事に。

 その後、改めてリプトン伯爵家やドルトン侯爵家に知らせが行き、殿下の名で交渉の場が持たれたそうだ。

 その結果、メイソンは監視付き座敷牢で暫く謹慎、リプトン伯爵位そのものは継続となった。ただ、この態度も一過性のものかも知れないという事で、謹慎が解けても一年は監察処分が続くそうだ。

 犯した罪からすれば甘い処分だと思うが、それには理由があった。私の躾けによってすっかり大人しくなったメイソンは反省の色を見せて素直に謝罪し、どんな処分でも甘んじて受けます、とさえ口にした――つまり、すっかり人が変わったようになっていたからである。

 何故そのように変わってしまったのかと訊かれたメイソンは、「自分は女神によって生まれ変わったのだ」と聖人の如く清らかな目で言うだけで詳しくは語ろうとしなかったそうだ。ほっ。

 ただ、私が何かをした事は警備から報告を受けてバレているらしく、語ってる最中こちらをピンポイントで見詰めて来るダディサイモンの目力が半端なかった。
 馬の脚共やサリーナにもこっそり聞いたのだが、詳細は秘密にしてくれているらしい。うん、若気の至りは墓場まで持って行こう。

 我が家は賠償としてドルトン侯爵家から多額の金および侯爵領地における銀行の設立に我が家への商売に関する税制優遇、そしてリプトン伯爵家からは幾ばくかの不動産や産業と税制優遇を得る形となった。
 両家からの賠償に第一王子殿下からの頼みで手打ちにしてくれ、という事である。メイソンとフレールの離婚も回避された形なので、父もそこで矛を収める形となった。

 ウィッタード公爵家もドルトン侯爵家から賠償を申し入れられたが、ザインは貸し一つという事で保留にしたらしい。もしかしたら殿下から何か言われたのかも知れないが、具体的な内容が無い分、厄介な気もする。


 ……というのが数日の内に瞬く間に決まったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。