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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
いいえ、それはUMA(未確認動物)です。
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「おっお嬢様! お前は何者です、ここまでどうやって忍び込んだのです!」
サリーナの声。わずかな希望が湧き上がる。やった、戻ってきてくれたんだ!
メイソンは舌打ちをして私の腕を掴んで立たせた。その掴む力が強すぎて、私は痛みに顔を顰める。
「ふん、侍女か。マリアージュ姫の命が惜しくば言う通りにするのだな」
「お前……いや、貴方はメイソン・リプトン伯爵! 何故……」
「私にはもう後が無い。だから復讐する。私がキャンディ伯爵家の姫の内、誰かを我が物にしさえすればキャンディ伯爵は借金を帳消しにせざるを得なくなる。最初は手薄なメルローズ姫をと思ったが、思わぬところでまさかマリアージュ姫を手にする事が出来るとは。私は何と幸運なのだ」
メイソンはクツクツと笑う。
「マリー!」
私を呼ぶ声。ばっと振り返ると、グレイと――何故かギャヴィンがこちらへ駆けて来るのが見えた。
「お前は誰だ、何故マリーを!」
「動くなっ! この女がどうなっても良いのか!」
首筋に冷たい金属の感触、グレイ達に叫ぶメイソン。
グレイはぐっと立ち止まった。顔を険しくして私を捕らえている男を睨みつける。
「メイソン・リプトン……貴様」
「次から次へと……」
メイソンは舌打ちをする。人が増えれば増える程奴の不利になるからだろう。
「マリアージュ姫には何の罪もありません。侯爵家の出である方が何という所業をなさっているのです、今ならまだ間に合う、彼女を放しなさい!」
ギャヴィンの言葉。メイソンはせせら笑った。
「何の罪も無い? この女は私を馬鹿にして騙し、大金をせしめたとんだ女狐なのですよ?」
「それは自信満々で誓約書まで書いた自分の自業自得じゃないか! お前が憎いのはアールだろ! マリーを放せ!」
「黙れ。どうせ貴様も兄と同じく私を騙す片棒を担いだのだろうが。私は全てを奪われたのだ。奪い返して何が悪い――侍女、今すぐ馬を用意しろ。さもなくば人質を今すぐ殺す」
「はっ、はい!」
私は恐怖に耐えながらも、私は先程からサリーナがいつもの彼女らしからぬ気がして不思議に思っていた。いや、もしかすると演技だろうか。隙を作るための。
「……丁度、お嬢様は乗馬をなさるところでした。馬は間も無く参るはずです……」
おどおどした様子のサリーナ。メイソンは小馬鹿にしたようにふんと鼻を鳴らす。
「乗馬? ポニーではないだろうな」
「いっ、いえ! ポニーではございません。引かれずとも主の所へ自らやって来ますし、主のいう事を良く聞く賢い馬です」
メイソンは物事があまりにも上手く行きすぎて愉快だったのか、呵々大笑をした。
「何と、これはお誂え向きだ。ますます運気が向いて来たな」
「あっ、あそこの茂みにお嬢様の馬が……」
サリーナが声を上げて指さす。見ると、確かに木々の間、茂みに隠れるように愛馬の影――きっと作り物だと正体がバレないようにしているのだろう。
「……何故近づいて来ない」
「賢い馬ですので、人見知りしているのかも知れません……」
「ふん、ならばこちらから向かうまでだ」
「待てっ、馬で逃げるつもりか、メイソン!」
メイソンは私を凄い力で引っ張りながら愛馬の方へと足を急がせる。グレイが鋭い声を上げた。
「ここに居ては邪魔が入り過ぎる。この娘を連れて屋敷から出てしまえばお前達はすぐには追いつけまい」
「何だと!?」
「お前の様な何の心得も無い小僧が実力行使に出るか、それとも二人がかりか? 余程婚約者の命が惜しくないと見える」
ピタピタと刃物を私の頬に当てて見せるメイソン。グレイの顔が歪んだ。
「やっ、やめろ!」
「待ちなさい! ここは様子を見て。下手に刺激をしない方が良いでしょう」
ギャヴィンがグレイを制止する。
「そんな悠長な――逃げられてしまう!」
その時、愛馬まで手を伸ばせば届く距離までに迫っていた。メイソンはグレイ達の動向に気を取られているのかそれとも木陰の所為なのか、作り物である事に気付いていない様子。
「ははは、婚約者が奪われて私のものになるのを指をくわえて見ているのだな、グレイ・ルフナー!」
勝ち誇ったように言いながら、メイソンは馬に手を伸ばしかけ――それからは一瞬の出来事だった。鈍い音とくぐもった呻き声がしたかと思うと、重力と視界がぐるんと急旋回したような体感。
「んなっ……!?」
耳を打つ驚愕の声はグレイのものか。
「御無事ですか、マリー様!」
私を守るように抱えていたのは前脚だった。後ろ脚はメイソンと揉み合っている。
乱闘しつつ、メイソンの持っていたナイフを後ろ脚が弾き飛ばすと、その一瞬の隙を突いて奴はその場から逃げ出した。
「糞、馬ではなかったのか! 一体どうなっている!?」
「待て、逃がさん!」
逃げるメイソン、追う後ろ脚。前脚も「後はお任せしました!」と言って私をサリーナに託して追いかけて行った。
サリーナは増員の為か、笛を取り出して吹いている。後に残されたのはリディクトと酷似した愛馬の残骸。私達は非常に気まずい雰囲気になっていた。
サリーナの声。わずかな希望が湧き上がる。やった、戻ってきてくれたんだ!
メイソンは舌打ちをして私の腕を掴んで立たせた。その掴む力が強すぎて、私は痛みに顔を顰める。
「ふん、侍女か。マリアージュ姫の命が惜しくば言う通りにするのだな」
「お前……いや、貴方はメイソン・リプトン伯爵! 何故……」
「私にはもう後が無い。だから復讐する。私がキャンディ伯爵家の姫の内、誰かを我が物にしさえすればキャンディ伯爵は借金を帳消しにせざるを得なくなる。最初は手薄なメルローズ姫をと思ったが、思わぬところでまさかマリアージュ姫を手にする事が出来るとは。私は何と幸運なのだ」
メイソンはクツクツと笑う。
「マリー!」
私を呼ぶ声。ばっと振り返ると、グレイと――何故かギャヴィンがこちらへ駆けて来るのが見えた。
「お前は誰だ、何故マリーを!」
「動くなっ! この女がどうなっても良いのか!」
首筋に冷たい金属の感触、グレイ達に叫ぶメイソン。
グレイはぐっと立ち止まった。顔を険しくして私を捕らえている男を睨みつける。
「メイソン・リプトン……貴様」
「次から次へと……」
メイソンは舌打ちをする。人が増えれば増える程奴の不利になるからだろう。
「マリアージュ姫には何の罪もありません。侯爵家の出である方が何という所業をなさっているのです、今ならまだ間に合う、彼女を放しなさい!」
ギャヴィンの言葉。メイソンはせせら笑った。
「何の罪も無い? この女は私を馬鹿にして騙し、大金をせしめたとんだ女狐なのですよ?」
「それは自信満々で誓約書まで書いた自分の自業自得じゃないか! お前が憎いのはアールだろ! マリーを放せ!」
「黙れ。どうせ貴様も兄と同じく私を騙す片棒を担いだのだろうが。私は全てを奪われたのだ。奪い返して何が悪い――侍女、今すぐ馬を用意しろ。さもなくば人質を今すぐ殺す」
「はっ、はい!」
私は恐怖に耐えながらも、私は先程からサリーナがいつもの彼女らしからぬ気がして不思議に思っていた。いや、もしかすると演技だろうか。隙を作るための。
「……丁度、お嬢様は乗馬をなさるところでした。馬は間も無く参るはずです……」
おどおどした様子のサリーナ。メイソンは小馬鹿にしたようにふんと鼻を鳴らす。
「乗馬? ポニーではないだろうな」
「いっ、いえ! ポニーではございません。引かれずとも主の所へ自らやって来ますし、主のいう事を良く聞く賢い馬です」
メイソンは物事があまりにも上手く行きすぎて愉快だったのか、呵々大笑をした。
「何と、これはお誂え向きだ。ますます運気が向いて来たな」
「あっ、あそこの茂みにお嬢様の馬が……」
サリーナが声を上げて指さす。見ると、確かに木々の間、茂みに隠れるように愛馬の影――きっと作り物だと正体がバレないようにしているのだろう。
「……何故近づいて来ない」
「賢い馬ですので、人見知りしているのかも知れません……」
「ふん、ならばこちらから向かうまでだ」
「待てっ、馬で逃げるつもりか、メイソン!」
メイソンは私を凄い力で引っ張りながら愛馬の方へと足を急がせる。グレイが鋭い声を上げた。
「ここに居ては邪魔が入り過ぎる。この娘を連れて屋敷から出てしまえばお前達はすぐには追いつけまい」
「何だと!?」
「お前の様な何の心得も無い小僧が実力行使に出るか、それとも二人がかりか? 余程婚約者の命が惜しくないと見える」
ピタピタと刃物を私の頬に当てて見せるメイソン。グレイの顔が歪んだ。
「やっ、やめろ!」
「待ちなさい! ここは様子を見て。下手に刺激をしない方が良いでしょう」
ギャヴィンがグレイを制止する。
「そんな悠長な――逃げられてしまう!」
その時、愛馬まで手を伸ばせば届く距離までに迫っていた。メイソンはグレイ達の動向に気を取られているのかそれとも木陰の所為なのか、作り物である事に気付いていない様子。
「ははは、婚約者が奪われて私のものになるのを指をくわえて見ているのだな、グレイ・ルフナー!」
勝ち誇ったように言いながら、メイソンは馬に手を伸ばしかけ――それからは一瞬の出来事だった。鈍い音とくぐもった呻き声がしたかと思うと、重力と視界がぐるんと急旋回したような体感。
「んなっ……!?」
耳を打つ驚愕の声はグレイのものか。
「御無事ですか、マリー様!」
私を守るように抱えていたのは前脚だった。後ろ脚はメイソンと揉み合っている。
乱闘しつつ、メイソンの持っていたナイフを後ろ脚が弾き飛ばすと、その一瞬の隙を突いて奴はその場から逃げ出した。
「糞、馬ではなかったのか! 一体どうなっている!?」
「待て、逃がさん!」
逃げるメイソン、追う後ろ脚。前脚も「後はお任せしました!」と言って私をサリーナに託して追いかけて行った。
サリーナは増員の為か、笛を取り出して吹いている。後に残されたのはリディクトと酷似した愛馬の残骸。私達は非常に気まずい雰囲気になっていた。
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