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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
忍び寄る悪漢。
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「それで誤解は解けたんだ。良かったね」
グレイが会いに来てくれたので、私は彼を庭の見えるテラスでお茶に誘った。そこで起きた事件を報告という流れである。
私の話を聞いたグレイは安心したようにほっと息を吐いていた。
「ええ、ただ大きな醜聞にまでは至っていないものの、噂自体は広がり始めているそうなの。数日後にトーマス兄と婚約者のキャロライン義姉様がお昼にパーティーを開くから、その時に仲睦まじい様子を見せつけて噂を払拭してはどうかって」
義姉キャロライン。脳裏に勝気な金髪の女性の姿が浮かび上がる。辺境に領地を持つ武門の家、フォション辺境伯家の長女であり、彼女自身女だてらに剣の心得がある女傑である。ちなみにただの伯爵より辺境伯の方が王の信頼が厚いという点でやや上位になる。
私自身は彼女とあまり深く話した事はない。と言うのも、活動的であちこち飛び回っている彼女には滅多に会わないし、先だっても一月程前に簡単に会釈をしたきりである。トーマス兄によれば彼女は領地経営の勉強までやってて、色々と頑張っていたらしい。来年の年明けに控えた結婚に向け、花嫁修業も大詰め。実習としてのパーティー主催という訳であった。
父サイモンはわざわざ社交界でも噂好きの夫人をパーティーに呼び、利用しようという目論みなのだろう。
「マリーは出席しないの?」
「ああ、私は出ないわ。特に何も言われなかったもの。いつもの事だし」
「ところで大丈夫だった? フレールがまた乗り込んで来たって聞いたけど」
グレイが気遣わし気に訊いてくる。私は頷いた。
「ええ、リプトン家も大変なようね。ご自分の事は棚に上げてアールお義兄様を返して欲しいって言われて、アナベラ姉様が怒っていたもの」
私の言葉にグレイはげんなりした表情になった。
「今更だよね。実はうちにも来たんだ」
「えっ、ルフナー子爵家にも?」
凄いなフレール嬢。来た日時を訊けば、どうもうちに来た後のようだ。
アナベラ姉が駄目だったから本丸である義兄アールに凸したのだろう。
グレイはうんと頷く。
「あの人、兄さんと寄りを戻す事で借金を無くして欲しかったんだろうね。自分の不幸を訴えて、泣き落としをするつもりだったんだろうと思う。ああいう人は何度か見ているから良く分かるんだ」
「そ、それで……?」
「手酷く突っぱねるのかと思ったんだけど、兄さんはわざと優しく期待を持たせるような言い方をしたんだ。それで、借金の名義を良く調べてみると良いと言ってね」
「名義って……メイソンって事?」
「正解。正確には、銀行から借りたものは領地収入からの返済となっているから事実上領地の借金。サイモン様からの借金がメイソン個人の名義。今現在、メイソンはサイモン様への返済の他、遊ぶ金も銀行から借りて借金は膨らみ続けている。すると、フレールはどう動くと思う?」
「これ以上借金させない為、また借金を減らす為に……離婚」
「そうなるだろうね。するとメイソン個人の借金は自動的にドルトン侯爵家に行く。金額的に利子分も含めるとかなりの金額だから侯爵家は突っぱねるだろうね。その為には縁を切ってメイソンを平民落ちさせるかも知れない」
「つまり、後が無くなったのねあの男」
「そう言う事。だから身辺には気を付けてね、マリー」
グレイの心配に私は「家からなるべく出ないようにするわ」と頷いた。追い詰められれば人は何を仕出かすか分からない。
そこまで考えたところで、ふと気になっていた事を訊いた。
「ところで、感謝祭の準備はどんな感じ? メイソンの事があれば、やっぱりデートは危険かしら」
「準備は粗方終わったよ。メイソンの事は――この分だと、デートするまでに何らかの決着が付かなければ、警備を増やすしかないかなと思ってる。腕っこきの人を集めるから安心して」
「そうね……」
しかし私はさっきから漠然と不安を感じていた。そしてそれは最悪の形で的中する事になる。
***
「――マリアージュ姫、ずっとお会いしたかったですよ。痛い目に遭いたくなければ大人しくしていて下さいね」
どうやって我が家の奥向きまで侵入したのか、血走った目で刃物を突きつけて私を脅しているメイソン・リプトンによって。
グレイが会いに来てくれたので、私は彼を庭の見えるテラスでお茶に誘った。そこで起きた事件を報告という流れである。
私の話を聞いたグレイは安心したようにほっと息を吐いていた。
「ええ、ただ大きな醜聞にまでは至っていないものの、噂自体は広がり始めているそうなの。数日後にトーマス兄と婚約者のキャロライン義姉様がお昼にパーティーを開くから、その時に仲睦まじい様子を見せつけて噂を払拭してはどうかって」
義姉キャロライン。脳裏に勝気な金髪の女性の姿が浮かび上がる。辺境に領地を持つ武門の家、フォション辺境伯家の長女であり、彼女自身女だてらに剣の心得がある女傑である。ちなみにただの伯爵より辺境伯の方が王の信頼が厚いという点でやや上位になる。
私自身は彼女とあまり深く話した事はない。と言うのも、活動的であちこち飛び回っている彼女には滅多に会わないし、先だっても一月程前に簡単に会釈をしたきりである。トーマス兄によれば彼女は領地経営の勉強までやってて、色々と頑張っていたらしい。来年の年明けに控えた結婚に向け、花嫁修業も大詰め。実習としてのパーティー主催という訳であった。
父サイモンはわざわざ社交界でも噂好きの夫人をパーティーに呼び、利用しようという目論みなのだろう。
「マリーは出席しないの?」
「ああ、私は出ないわ。特に何も言われなかったもの。いつもの事だし」
「ところで大丈夫だった? フレールがまた乗り込んで来たって聞いたけど」
グレイが気遣わし気に訊いてくる。私は頷いた。
「ええ、リプトン家も大変なようね。ご自分の事は棚に上げてアールお義兄様を返して欲しいって言われて、アナベラ姉様が怒っていたもの」
私の言葉にグレイはげんなりした表情になった。
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「えっ、ルフナー子爵家にも?」
凄いなフレール嬢。来た日時を訊けば、どうもうちに来た後のようだ。
アナベラ姉が駄目だったから本丸である義兄アールに凸したのだろう。
グレイはうんと頷く。
「あの人、兄さんと寄りを戻す事で借金を無くして欲しかったんだろうね。自分の不幸を訴えて、泣き落としをするつもりだったんだろうと思う。ああいう人は何度か見ているから良く分かるんだ」
「そ、それで……?」
「手酷く突っぱねるのかと思ったんだけど、兄さんはわざと優しく期待を持たせるような言い方をしたんだ。それで、借金の名義を良く調べてみると良いと言ってね」
「名義って……メイソンって事?」
「正解。正確には、銀行から借りたものは領地収入からの返済となっているから事実上領地の借金。サイモン様からの借金がメイソン個人の名義。今現在、メイソンはサイモン様への返済の他、遊ぶ金も銀行から借りて借金は膨らみ続けている。すると、フレールはどう動くと思う?」
「これ以上借金させない為、また借金を減らす為に……離婚」
「そうなるだろうね。するとメイソン個人の借金は自動的にドルトン侯爵家に行く。金額的に利子分も含めるとかなりの金額だから侯爵家は突っぱねるだろうね。その為には縁を切ってメイソンを平民落ちさせるかも知れない」
「つまり、後が無くなったのねあの男」
「そう言う事。だから身辺には気を付けてね、マリー」
グレイの心配に私は「家からなるべく出ないようにするわ」と頷いた。追い詰められれば人は何を仕出かすか分からない。
そこまで考えたところで、ふと気になっていた事を訊いた。
「ところで、感謝祭の準備はどんな感じ? メイソンの事があれば、やっぱりデートは危険かしら」
「準備は粗方終わったよ。メイソンの事は――この分だと、デートするまでに何らかの決着が付かなければ、警備を増やすしかないかなと思ってる。腕っこきの人を集めるから安心して」
「そうね……」
しかし私はさっきから漠然と不安を感じていた。そしてそれは最悪の形で的中する事になる。
***
「――マリアージュ姫、ずっとお会いしたかったですよ。痛い目に遭いたくなければ大人しくしていて下さいね」
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