貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

豪華なおまけ。

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 私はグレイに向き直って微笑んだ。まさか今日来てくれるとは思わなかったのだ。

 「グレイ、来てくれて嬉しいわ。でも、今日は忙しかったのでしょう?」

 大丈夫、と首を傾げると、グレイはこくりと頷く。

 「うん、手紙にも書いたけど、先月からずっと感謝祭の準備で大わらわ。でもある程度目途が付けば僕無しでも大丈夫なように工夫したからあと一息という所かな。実はね、感謝祭はマリーとデートしたいと思ってるんだ――お忍びで。マリーはどう思う?」

 そんな風に訊かれて一瞬ぼうっとしてしまう。お忍びデート――その響きにじわじわとこみ上げてくるものがあった。

 「まあ、感謝祭を? お忍びで?」

 「大きなバザールがあるし、マリーの好きな珍しい物も沢山あると思うよ」

 一気に歓喜が押し寄せて来て、私はきゃあと黄色い悲鳴を上げた。

 「本当!? 興味はあったけど商人を呼ぶだけで我慢しろってお忍びなんてさせて貰えなかったから凄く嬉しい、是非是非行きたいわ!」

 前のめりな私にグレイはクスクスと笑う。

 「なら決まりだね。ちゃんとサイモン様の許可を取るから安心して。護衛も工夫するから」

 後の言葉はきっとサリーナに向けたものだろう。

 それにしても嬉しい。毎年感謝祭は少しばかり憂鬱だったのだ。兄達は当然のようにふらっとお祭り見物に出かけていたのが羨ましかった。私だって、お忍びで前世のようにお祭りを歩いて屋台で買い食いとかしてみたかったのに、「貴族の令嬢は祭り等には出歩かないものだ」と、ついぞこの年まで許して貰えなかったから。
 精々がママンテヴィーナやアン姉やアナベラ姉と共に、サーカスを見に連れて行って貰ったり、屋敷に商人を呼んで買い物をしたぐらいだ。サーカスは兎も角、私は実際にバザールを歩いて冷かしてみたかったのだ。

 「絶対ね、約束よ!」

 約束のおまじないだとグレイと小指を絡め、指切りげんまんしながら念を押す。彼には是非とも頑張ってダディの許可をもぎ取って欲しい。
 私の熱意にグレイは苦笑いを浮かべ、宥めるように頭をポンポンとしてくる。

 「分かってるって。そうそう、クジャクの事なんだけど……」

 クジャクの手配が出来たらしい。明日にでも持って来れるけどどうする? と言われ。
 私は二つ返事でお願いしたのであった。


***


 「今日はルフナー子爵家からクジャクがやって来る日だ! 心しておくように!」

 「ははっ!」

 「かしこまりました、聖女様!」

 次の日の早朝。日課を終えた後、私は仁王立ちになって馬の脚共に申し付けていた。
 ちなみにクジャクの餌は鶏と同じもので構わないのだそう。農業エリアで鶏は飼育しているので、餌は流用で済む。
 金貨十二枚は昨日ちゃんとグレイに渡しておいたので支払いは終わっている。後は受け取るだけである。

 朝食の席でその旨を家族にも報告すると、皆見たいと言い出した。時間が合えば良いけど。

 しかし流石は商人というか。皿が下げられ、朝食が一段落したところで執事からクジャク到着の報せがあった。イサークやメリーは目を輝かせ、我先にとダイニングを出ていく。私達もそれに続いた。
 クジャクは庭に運ばれていた。馬の脚共が既に控えていて、私達の検分が終わるのを待っているらしい。
 一番先に到着していたイサークとメリーが戸惑ったような、しょんぼりした様子でクジャクを見ていた。

 「どうしたの、二人共?」

 「……マリーお姉ちゃま、綺麗なお羽が無いよ?」

 「どうして?」

 ああ、成程。クジャクと言えばあの尾羽が無いと様にならないものなぁ。

 「申し訳ありません、クジャクの尾羽は春夏にしかないのでございます。来年の春になれば見事なものが生えて参りましょう」

 子供相手でも丁寧に詫びるルフナー家からの運搬人。恐らく商会の人だろう。

 「まぁ、では来年が楽しみね」と母ティヴィーナが弟妹を慰めるように言い、父サイモンも「待つ楽しみも良いものだぞ」と宥めていた。

 「朝からありがとうございます。お忙しくなければ当家で少し休んで行かれて下さいな」

 お礼を述べて労を労う私に恐縮する運搬人。運ばれてきた檻の中のクジャクを見れば純白の番、ノーマルである青の番が二組。他、別の檻に烏骨鶏のような鶏(?)が何羽か入っていた。

 私の問うような視線を受けた運搬人曰く、「これは異国の珍しい鶏で、卵が非常に美味だとか。余った代金分でございます」との事。どうもおつりとしての鶏らしい。烏骨鶏だな、これは。間違いない。
 美味い食材は大歓迎である。思わぬおまけに私は嬉しくなった。後で馬の脚共に烏骨鶏を増やすように言っておかねばなるまい。

 突如クジャクが「ケコー!」と変な雄叫びを上げ、檻近くに寄ってしげしげと眺めていたトーマス兄とカレル兄が「「うおおっ!?」」と言って飛び上がった。それを見て姉達がクスクスと笑う。
 弟妹達にも笑顔が戻ったので良かったと思う。


***


 その日の午後の事だった。
 アン姉の手紙へのアルバート第一王子殿下からの返事が来たのは。
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