貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
103 / 754
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(51)

しおりを挟む
 僕は急に忙しくなった。

 というのも来月に秋の実りへの感謝祭(収穫祭とも呼ばれる)があり、その準備に追われていたからだ。冬に向けて王国民は感謝祭で買い溜めた食料を加工し、備える。冬は雪の為に物資が滞りがちなので秋は大忙しになるのだ。感謝祭では大量の物や金が動くので商人としても力を入れざるを得ない。

 マリーの送迎も兄君お二人に任せることが増えた。こういう時に限って何かが起こりそうだと思ったけれど、マリーの手紙によれば、修道院長達を家に招き、災厄についての調査を照合してまとめた他は何事も無かったそう。少々拍子抜けな気がする。

 久しぶりに時間が出来てマリーを訪ねた僕。今月も半ばを過ぎると暑さはだいぶ緩和されていた。夏の名残の日差しの中、冷やされたお茶が心地良い。

 マリーが投資して気にしてるだろう、馬車事業の現状について詳しく話す。嬉しそうな顔を見て、ふとそういえば彼女が誕生日が近かった事を思い出した。

 それを話題に出して欲しいものがあるか訊ねると、彼女も自分の誕生日の事を忘れていたようで、「そう言えば…」と呟いている。修道院の事とか色々あってマリーも忙しかったのだろうなぁ。

 考え込んだ彼女はやがて、決まったらしく顔を上げた。

 「……オコメ。オコメが良いわ」

 「オコメ?」

 何だそれ。
 聞き慣れないものに僕は首を傾げる。

 「えっと…穀物の一種なの。タンボって言って、水を張った泥の畑で育つのよ。多分だけど、ソヤと同じフソウという国だっけ、そこで作られてるんじゃないかしら?」

 フソウの物……うーん、近くの国まで他の交易承認が運んで来ていれば良いんだけど、そうでない場合はかなりの時間がかかる。
 こんな事ならもっと早く訊けば良かった。

 「手に入れるよう頑張ってみるけど、」

 誕生日には間に合わないかも…と言うと、マリーは目を輝かせながら何時まででも待つと頷いている。僕は参ったな、と頬を掻いた。これは、何が何でも探して絶対に手に入れないと。
 時として、高価な宝石とかドレスとか以上に難しいプレゼントかも知れない。でもマリーらしいといえばマリーらしい。

 気を取り直して、修道院がどうだったかを訊いてみる。先日は僕は送り迎え出来なかったから気になっていたんだ。

 「ああ、前はサリューン・フォワという人が来てたわ。学びが終わって帰れるかと思ったら、修道院長に『聖女様からの神の教えを!』なんて言われて捕まっちゃったの。
 取りあえず私なりの見解を話したんだけれど……その後、その人が『聖女として認めましょう』って私に向かって祈りを捧げて来たから吃驚しちゃった」

 「すっ、枢機卿!?」

 僕は仰天した。何事も無かっただろうと思っていた自分を殴ってやりたい。サリューン・フォワ枢機卿猊下と言えば庶子ではあるものの元は王弟――王族のお一人であり、この国の教会のトップ、雲の上の人だ。

 「えっ、そんなに偉い人だったの?」

 きょとんとするマリー。
 というか、寧ろマリーは何故知らないんだよ!

 そんな雲の上のお方に礼を取られる……それが僕の婚約者だなんて。信じられない思いでマリーを見詰める。

 「聖女としての認定は、教皇様にして頂く事になってるらしいわよ?」

 更なる追い打ちに、天から星が落ちてきたような衝撃を受けた。裏返った変な声を上げた僕。

 「まぁ、グレイったら」

 それがどれだけ凄い事か分かってないだろうマリーは、何時までもクスクスと笑っていた。


***


 キャンディ伯爵家からの帰りの馬車の中。
 僕は枢機卿の事について考えていた。
 マリーは王族と関わりたくないと言っていたけれど、枢機卿は王族の一人だ。
 そうなると……王にマリーの情報が行く事になってしまう。

 「修道院へ寄ってくれ!」

 「かしこまりました」

 僕は御者に声を掛けた。これは何としてでも確かめなければいけない。

 ――つい昨日も、さる貴族の方が使いで来られた際、

 方向転換する馬車。外を眺めていると、脳裏にそんな修道院長の言葉が浮かび、はっとする。

 使なんて、

 何故僕はあの時そこへ思い至らなかったんだ!

 逸る気持ちにじりじりとしながら修道院へ着くなり、僕は真っ直ぐにメンデル修道院長を訪ねた。

 「おや、グレイ殿。そんなに慌ただしい様子で如何なされましたかな?」

 「お伺い、したい、事があります」
しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。