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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(51)
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僕は急に忙しくなった。
というのも来月に秋の実りへの感謝祭(収穫祭とも呼ばれる)があり、その準備に追われていたからだ。冬に向けて王国民は感謝祭で買い溜めた食料を加工し、備える。冬は雪の為に物資が滞りがちなので秋は大忙しになるのだ。感謝祭では大量の物や金が動くので商人としても力を入れざるを得ない。
マリーの送迎も兄君お二人に任せることが増えた。こういう時に限って何かが起こりそうだと思ったけれど、マリーの手紙によれば、修道院長達を家に招き、災厄についての調査を照合してまとめた他は何事も無かったそう。少々拍子抜けな気がする。
久しぶりに時間が出来てマリーを訪ねた僕。今月も半ばを過ぎると暑さはだいぶ緩和されていた。夏の名残の日差しの中、冷やされたお茶が心地良い。
マリーが投資して気にしてるだろう、馬車事業の現状について詳しく話す。嬉しそうな顔を見て、ふとそういえば彼女が誕生日が近かった事を思い出した。
それを話題に出して欲しいものがあるか訊ねると、彼女も自分の誕生日の事を忘れていたようで、「そう言えば…」と呟いている。修道院の事とか色々あってマリーも忙しかったのだろうなぁ。
考え込んだ彼女はやがて、決まったらしく顔を上げた。
「……オコメ。オコメが良いわ」
「オコメ?」
何だそれ。
聞き慣れないものに僕は首を傾げる。
「えっと…穀物の一種なの。タンボって言って、水を張った泥の畑で育つのよ。多分だけど、ソヤと同じフソウという国だっけ、そこで作られてるんじゃないかしら?」
フソウの物……うーん、近くの国まで他の交易承認が運んで来ていれば良いんだけど、そうでない場合はかなりの時間がかかる。
こんな事ならもっと早く訊けば良かった。
「手に入れるよう頑張ってみるけど、」
誕生日には間に合わないかも…と言うと、マリーは目を輝かせながら何時まででも待つと頷いている。僕は参ったな、と頬を掻いた。これは、何が何でも探して絶対に手に入れないと。
時として、高価な宝石とかドレスとか以上に難しいプレゼントかも知れない。でもマリーらしいといえばマリーらしい。
気を取り直して、修道院がどうだったかを訊いてみる。先日は僕は送り迎え出来なかったから気になっていたんだ。
「ああ、前はサリューン・フォワという人が来てたわ。学びが終わって帰れるかと思ったら、修道院長に『聖女様からの神の教えを!』なんて言われて捕まっちゃったの。
取りあえず私なりの見解を話したんだけれど……その後、その人が『聖女として認めましょう』って私に向かって祈りを捧げて来たから吃驚しちゃった」
「すっ、枢機卿!?」
僕は仰天した。何事も無かっただろうと思っていた自分を殴ってやりたい。サリューン・フォワ枢機卿猊下と言えば庶子ではあるものの元は王弟――王族のお一人であり、この国の教会のトップ、雲の上の人だ。
「えっ、そんなに偉い人だったの?」
きょとんとするマリー。
というか、寧ろマリーは何故知らないんだよ!
そんな雲の上のお方に礼を取られる……それが僕の婚約者だなんて。信じられない思いでマリーを見詰める。
「聖女としての認定は、教皇様にして頂く事になってるらしいわよ?」
更なる追い打ちに、天から星が落ちてきたような衝撃を受けた。裏返った変な声を上げた僕。
「まぁ、グレイったら」
それがどれだけ凄い事か分かってないだろうマリーは、何時までもクスクスと笑っていた。
***
キャンディ伯爵家からの帰りの馬車の中。
僕は枢機卿の事について考えていた。
マリーは王族と関わりたくないと言っていたけれど、枢機卿は王族の一人だ。
そうなると……王にマリーの情報が行く事になってしまう。
「修道院へ寄ってくれ!」
「かしこまりました」
僕は御者に声を掛けた。これは何としてでも確かめなければいけない。
――つい昨日も、さる貴族の方が使いで来られた際、
方向転換する馬車。外を眺めていると、脳裏にそんな修道院長の言葉が浮かび、はっとする。
貴族を使いに出す身分の人間なんて、限られている。
何故僕はあの時そこへ思い至らなかったんだ!
逸る気持ちにじりじりとしながら修道院へ着くなり、僕は真っ直ぐにメンデル修道院長を訪ねた。
「おや、グレイ殿。そんなに慌ただしい様子で如何なされましたかな?」
「お伺い、したい、事があります」
というのも来月に秋の実りへの感謝祭(収穫祭とも呼ばれる)があり、その準備に追われていたからだ。冬に向けて王国民は感謝祭で買い溜めた食料を加工し、備える。冬は雪の為に物資が滞りがちなので秋は大忙しになるのだ。感謝祭では大量の物や金が動くので商人としても力を入れざるを得ない。
マリーの送迎も兄君お二人に任せることが増えた。こういう時に限って何かが起こりそうだと思ったけれど、マリーの手紙によれば、修道院長達を家に招き、災厄についての調査を照合してまとめた他は何事も無かったそう。少々拍子抜けな気がする。
久しぶりに時間が出来てマリーを訪ねた僕。今月も半ばを過ぎると暑さはだいぶ緩和されていた。夏の名残の日差しの中、冷やされたお茶が心地良い。
マリーが投資して気にしてるだろう、馬車事業の現状について詳しく話す。嬉しそうな顔を見て、ふとそういえば彼女が誕生日が近かった事を思い出した。
それを話題に出して欲しいものがあるか訊ねると、彼女も自分の誕生日の事を忘れていたようで、「そう言えば…」と呟いている。修道院の事とか色々あってマリーも忙しかったのだろうなぁ。
考え込んだ彼女はやがて、決まったらしく顔を上げた。
「……オコメ。オコメが良いわ」
「オコメ?」
何だそれ。
聞き慣れないものに僕は首を傾げる。
「えっと…穀物の一種なの。タンボって言って、水を張った泥の畑で育つのよ。多分だけど、ソヤと同じフソウという国だっけ、そこで作られてるんじゃないかしら?」
フソウの物……うーん、近くの国まで他の交易承認が運んで来ていれば良いんだけど、そうでない場合はかなりの時間がかかる。
こんな事ならもっと早く訊けば良かった。
「手に入れるよう頑張ってみるけど、」
誕生日には間に合わないかも…と言うと、マリーは目を輝かせながら何時まででも待つと頷いている。僕は参ったな、と頬を掻いた。これは、何が何でも探して絶対に手に入れないと。
時として、高価な宝石とかドレスとか以上に難しいプレゼントかも知れない。でもマリーらしいといえばマリーらしい。
気を取り直して、修道院がどうだったかを訊いてみる。先日は僕は送り迎え出来なかったから気になっていたんだ。
「ああ、前はサリューン・フォワという人が来てたわ。学びが終わって帰れるかと思ったら、修道院長に『聖女様からの神の教えを!』なんて言われて捕まっちゃったの。
取りあえず私なりの見解を話したんだけれど……その後、その人が『聖女として認めましょう』って私に向かって祈りを捧げて来たから吃驚しちゃった」
「すっ、枢機卿!?」
僕は仰天した。何事も無かっただろうと思っていた自分を殴ってやりたい。サリューン・フォワ枢機卿猊下と言えば庶子ではあるものの元は王弟――王族のお一人であり、この国の教会のトップ、雲の上の人だ。
「えっ、そんなに偉い人だったの?」
きょとんとするマリー。
というか、寧ろマリーは何故知らないんだよ!
そんな雲の上のお方に礼を取られる……それが僕の婚約者だなんて。信じられない思いでマリーを見詰める。
「聖女としての認定は、教皇様にして頂く事になってるらしいわよ?」
更なる追い打ちに、天から星が落ちてきたような衝撃を受けた。裏返った変な声を上げた僕。
「まぁ、グレイったら」
それがどれだけ凄い事か分かってないだろうマリーは、何時までもクスクスと笑っていた。
***
キャンディ伯爵家からの帰りの馬車の中。
僕は枢機卿の事について考えていた。
マリーは王族と関わりたくないと言っていたけれど、枢機卿は王族の一人だ。
そうなると……王にマリーの情報が行く事になってしまう。
「修道院へ寄ってくれ!」
「かしこまりました」
僕は御者に声を掛けた。これは何としてでも確かめなければいけない。
――つい昨日も、さる貴族の方が使いで来られた際、
方向転換する馬車。外を眺めていると、脳裏にそんな修道院長の言葉が浮かび、はっとする。
貴族を使いに出す身分の人間なんて、限られている。
何故僕はあの時そこへ思い至らなかったんだ!
逸る気持ちにじりじりとしながら修道院へ着くなり、僕は真っ直ぐにメンデル修道院長を訪ねた。
「おや、グレイ殿。そんなに慌ただしい様子で如何なされましたかな?」
「お伺い、したい、事があります」
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