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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
たまには聖女らしいこともしているのです。
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修道院から帰って早数日。
そろそろ領地が気になるとの事で、祖父母は一旦帰る事になり。私達は家族総出で見送りに出ていた。
「父上、お体に気を付けて。母上、あまり父上を困らせないで下さいね」と父サイモン。祖母ラトゥにどういう意味かしら? と良い笑顔で返され、祖父ジャルダンは苦笑していた。母や兄達、姉達もそれぞれ別れの挨拶をしている。
「お爺様、お婆様、道中お気を付けて……あの襟は大事にしますわ」
「暫しの別れだが、マリーも元気でな。お転婆は程々に。シムが禿げてしまうからなぁ」
「父上」
さもおかしそうに言う祖父ジャルダン。父は苦々しい顔をしている。ばあやがうんうんと頷いた。
「そうですよ、お嬢様。私がお教えした事をしっかり守られて、淑女としての自覚をお持ち下さいましね。サリーナ、お嬢様を頼んだよ」
「はい、お婆様。お嬢様の扱いは心得ています。ご安心下さい」
私の優秀な侍女が不穏な言葉と共に頷いたところで、肩を叩かれた。
「お婆様ね、一番の心配がマリーちゃんなのよ。変に利用されないかしらって……いざとなったら、この紙に書いてある人を頼るのよ。シムにも言ってあるわ。お爺様とお婆様がお手紙を書いた人達なの」
言って、祖母ラトゥは小さな書付を渡してくれた。
ありがたいという気持ちでいっぱいだ、涙腺が潤みそうになる。
「ありがとうございます、お爺様、お婆様……」
祖父母と軽くハグして頬にキスを落とし合う。それが終わると弟妹達の番だ。同じようにしながらもイサークはご不満の様子。
「僕も領地へ一緒に行きたかったのに……」
「まあまあ、また来る時は銀細工のお土産を持ってきてあげますからね」
「またね、お爺ちゃま、お婆ちゃま!」
「ああ、メリー。今度会う時が楽しみだ」
小さくなっていく祖父母の馬車。
それを見送って、皆が屋敷に戻り始めた頃。そっと紙きれを開いてみる。
――こ、これは!
私は思わずかっと目を見開いた。
***
あれから、早半月程。正に光陰矢の如しである。
慎ましい中にもエロチシズムを感じるような、男のロマンが詰まったこの修道女服にも少し慣れて来たと思う。
初日、べリーチェ修道女は私の唐突なお願いに驚いた表情をしたものの、すぐに微笑んで構いませんと頷いてくれた。
誰かのお古はありますかと聞くとあるらしい。半年程修道院に居たが、還俗して嫁いで行った修道女のものだそうで。詳しく聞けばサイズも問題なさそうだ。
新しいものでなくても良いのかと訊かれたけれど、勿体ないのでお古を貰う事にした。この時代、案外着古した物の方がチクチクとかが取れて着心地良かったりする。
他の修道女達の視線も好意的だった。
メンデル修道院長は特別な聖女らしい服を着て欲しかったようだが、慎ましさは美徳だという事で納得したようである。
修道院長やイエイツ修道士を我が家に招き、修道院側の記録と祖父や父・兄達が王宮の図書館で調べて来た内容を突き合せたりした外は特に何事も無く。
私自身は修道女が学ぶような講義を受ける他は、特にする事も無かった――今日までは。
「……では、マリー様は神の言葉は絶対ではない、と?」
修道院の一室。
修道士や修道女が学ぶ場所なのだろう、そこは教室のようになっていた。前には大きな黒い――御影石だろうか――古びた石板が壁に埋め込まれる形で設置されている。石筆という白い石で作られたものをチョーク代わりに使い、消すときは濡れた雑巾を使うそうだ。
私は先程まで修道女達と和気藹々として神学や細かな教会のしきたりなどを学んでいたのだが、それが終わった時に「是非、聖女様から神の教えを!」と熱心に請われ、修道院長に取っ捕まってしまったのである。いやいや、と辞退したものの、何でも良いのでと押し切られてしまった。
ちなみに生徒席に座る面々は、メンデル修道院長にイエイツ修道士、エヴァン修道士にべリーチェ修道女。
他、見慣れない修道士が一名。サリューンというそうで、秘密を守れるので大丈夫だと紹介された時に修道院長に太鼓判を貰っている。
取り敢えず前世で読み漁った宗教やオカルト、スピリチュアル関連の事を思い出しながら自分なりの見解を話しているが……大丈夫かな。
私なりの聖典に対する見方を話した所、サリューン修道士から早速先程の質問が飛んだのである。
「一般論として話します。大前提として、根源たる一なる神そのものは絶対ですわ。しかし、たとえ神の言葉とされるものであっても、それは確かなものであるのかを精査せねばなりませんの。確かであるか否かは人の探求によって観察される客観的な事実に照らして判断せねばなりません。その理由は今からご説明しますわね」
私は石筆を手に取ると、木の絵を描いた。ざっと三分割し、根っこに根源たる神、枝分かれの幹に神々、末端が人と書き加える。
「さながら天を衝く程の巨木の、小さな小さな葉が、何百、何千もの枝分かれの末に一枚生えるが如く――根源にある意思が人に分かる言葉として下されるまでに何段階もございますの。
王の言葉を辺境の末端の一人の民に伝えるのに何人もの役人を通すのと変わりません。中には物覚えが悪かったり、不心得者だったりする役人も居て、王の言葉を捻じ曲げたりもあるでしょう。
神の意思が人に伝わるまでに、必ず歪みを生じますわ。また、神の言葉は人の言葉とは違います。聖典はあくまでも人の言葉で書かれたものに過ぎませんので、確かめながら読まねばなりません」
「しかし神は疑う事勿れ、と」
今度はメンデル修道院長が疑問を呈した。
「疑いは確信を持った信仰に至る道への一要素に過ぎません。それは盲信よりも余程強く確かな信仰を生み出すのです。
逆にお伺いしますが、猊下は幼い子供に対する教えをそのまま大人に対してもなさるのでしょうか。その聖典が記された文明の萌芽ともいえる時代の人々と、今現在の人々と違うでしょうに。
子供も成長すれば、ただ疑うなと言いつけるよりも、何故そうなのかを教えていくものですわ。聖典は書かれた時代、その背景にあるものなども加味して客観的な考察、研究をしなければ、教えそのものがおかしな方向へ向かいかねません」
言って、私は言葉を切った。
「――そう、例えば。今の時代ならば『教会信徒でもなく、文明程度も低く、肌の色が我々と違う彼らは聖典のどこそこによれば人間ではないと定義されるから殺しても殺人にはならない』とか……」
誰かの息を飲む音。
しん……と部屋に沈黙が下りる。
「……嘆かわしいですが、確かにそのような解釈をされることがありますな」
ぽつり、と修道院長が囁くように漏らす。私は頷いた。宗教を暴走させぬためにもここで印象付けておかねば。
「それは、神の教えを捻じ曲げる例ですわね。欲望の為に都合の良いように教えを解釈しているのです」
「しかしその彼らは異教徒です。聖典には、異教徒の教えを信じてはならないとあります。貴女は聖典を――教会の教えを否定されているのですか?」
不思議と迫力のある静かな湖水の眼差しでこちらを見据えるサリューン修道士。私は真っ直ぐに見つめ返した。
「信仰が何と浅い――神の言葉は人に齎されるまでに歪められていると先程申し上げました。異国の教えというものも、ただ、聖典とは別の枝葉にあるというだけの、同じ根、同じ幹から生じたもの。この図をご覧になればお分かりのように、全ては一つであり、一つは全てですわ。
それを否定するという事は、大元にある神の絶対性を否定する事と同義です。この世に、絶対である神の支配の及ばぬ領域などある筈がないのですから。
神が絶対である事を否定し、相対的な神を作り出してそれを絶対として奉ずる事は極めて悪魔的な行いですわ。枝だけを見て、幹や根を知らぬ事なのです」
私は石板に書いた木の別々の枝の葉に、それぞれ聖典、異教とそれぞれ書き加える。サリューン修道士は私の書いた木の図に視線を移した。
「全て同じ神から出たものにも関わらず、教会の教えと異教の教えが違う、時には矛盾しているのは何故です?」
「それは我が家と他人の家の教育方針が違うのは何故と聞くようなものですわね」
「……成程。では、神の御意思に近づくにはどうすればよいのでしょう?」
「枝葉から伝って幹へ――そして根へと向かうのですわ。何百年後か、千年後かは分かりませんが……この世にある、ありとあらゆる教えはいずれ一つのものに統合される事になるでしょう」
ガタリ、と音がした。振り返ると、サリューン修道士が立ち上がっている。目が合うなり跪いて祈りの所作をした。
「ちょっと……サリューン修道士、何を!? 立ってください!」
「神の僕、サリューン・フォワはマリアージュ・キャンディを聖女として認めましょう」
どういう事……?
呆然としていると、メンデル修道院長が取りなすように頭を下げた。
「マリー様、試した事をお詫び申し上げます。実は、サリューン猊下は枢機卿でいらっしゃいましてな」
「……枢機卿?」
偉い人っぽそうだ。首を傾げると、立ち上がったサリューン修道……枢機卿? がはいと頷く。
「先日、メンデル大司教から聖女についての書簡を受け取りました。その中身を改め、教皇様へと早馬を飛ばした上で、私自身貴女の見極めの為にここへ来たのです」
詳しく聞けば、『聖女が現れた。来たるべき災厄も調べたら本当っぽい。取りあえず教皇様へ報告します』→『枢機卿自ら聖女見極め』→『本物だった(イマココ)』だとの事。
サリューン枢機卿はこれから教皇へ報告書を書くらしい。ちなみに枢機卿って何ぞや、と聞くと、教皇の側近だとか。メンデル修道院長は大司教なので身分的にはその下だそう。
聖女としての洗礼みたいなものは、教皇自らが行うそうだ。……あまり遠出したくないのだが。仰々しいのも好かん。
婉曲にそう言うと、サリューン枢機卿は「では聖女様の希望としてそのようにお伝えしましょう」と笑う。何とか工夫してくれると良いな。
そろそろ領地が気になるとの事で、祖父母は一旦帰る事になり。私達は家族総出で見送りに出ていた。
「父上、お体に気を付けて。母上、あまり父上を困らせないで下さいね」と父サイモン。祖母ラトゥにどういう意味かしら? と良い笑顔で返され、祖父ジャルダンは苦笑していた。母や兄達、姉達もそれぞれ別れの挨拶をしている。
「お爺様、お婆様、道中お気を付けて……あの襟は大事にしますわ」
「暫しの別れだが、マリーも元気でな。お転婆は程々に。シムが禿げてしまうからなぁ」
「父上」
さもおかしそうに言う祖父ジャルダン。父は苦々しい顔をしている。ばあやがうんうんと頷いた。
「そうですよ、お嬢様。私がお教えした事をしっかり守られて、淑女としての自覚をお持ち下さいましね。サリーナ、お嬢様を頼んだよ」
「はい、お婆様。お嬢様の扱いは心得ています。ご安心下さい」
私の優秀な侍女が不穏な言葉と共に頷いたところで、肩を叩かれた。
「お婆様ね、一番の心配がマリーちゃんなのよ。変に利用されないかしらって……いざとなったら、この紙に書いてある人を頼るのよ。シムにも言ってあるわ。お爺様とお婆様がお手紙を書いた人達なの」
言って、祖母ラトゥは小さな書付を渡してくれた。
ありがたいという気持ちでいっぱいだ、涙腺が潤みそうになる。
「ありがとうございます、お爺様、お婆様……」
祖父母と軽くハグして頬にキスを落とし合う。それが終わると弟妹達の番だ。同じようにしながらもイサークはご不満の様子。
「僕も領地へ一緒に行きたかったのに……」
「まあまあ、また来る時は銀細工のお土産を持ってきてあげますからね」
「またね、お爺ちゃま、お婆ちゃま!」
「ああ、メリー。今度会う時が楽しみだ」
小さくなっていく祖父母の馬車。
それを見送って、皆が屋敷に戻り始めた頃。そっと紙きれを開いてみる。
――こ、これは!
私は思わずかっと目を見開いた。
***
あれから、早半月程。正に光陰矢の如しである。
慎ましい中にもエロチシズムを感じるような、男のロマンが詰まったこの修道女服にも少し慣れて来たと思う。
初日、べリーチェ修道女は私の唐突なお願いに驚いた表情をしたものの、すぐに微笑んで構いませんと頷いてくれた。
誰かのお古はありますかと聞くとあるらしい。半年程修道院に居たが、還俗して嫁いで行った修道女のものだそうで。詳しく聞けばサイズも問題なさそうだ。
新しいものでなくても良いのかと訊かれたけれど、勿体ないのでお古を貰う事にした。この時代、案外着古した物の方がチクチクとかが取れて着心地良かったりする。
他の修道女達の視線も好意的だった。
メンデル修道院長は特別な聖女らしい服を着て欲しかったようだが、慎ましさは美徳だという事で納得したようである。
修道院長やイエイツ修道士を我が家に招き、修道院側の記録と祖父や父・兄達が王宮の図書館で調べて来た内容を突き合せたりした外は特に何事も無く。
私自身は修道女が学ぶような講義を受ける他は、特にする事も無かった――今日までは。
「……では、マリー様は神の言葉は絶対ではない、と?」
修道院の一室。
修道士や修道女が学ぶ場所なのだろう、そこは教室のようになっていた。前には大きな黒い――御影石だろうか――古びた石板が壁に埋め込まれる形で設置されている。石筆という白い石で作られたものをチョーク代わりに使い、消すときは濡れた雑巾を使うそうだ。
私は先程まで修道女達と和気藹々として神学や細かな教会のしきたりなどを学んでいたのだが、それが終わった時に「是非、聖女様から神の教えを!」と熱心に請われ、修道院長に取っ捕まってしまったのである。いやいや、と辞退したものの、何でも良いのでと押し切られてしまった。
ちなみに生徒席に座る面々は、メンデル修道院長にイエイツ修道士、エヴァン修道士にべリーチェ修道女。
他、見慣れない修道士が一名。サリューンというそうで、秘密を守れるので大丈夫だと紹介された時に修道院長に太鼓判を貰っている。
取り敢えず前世で読み漁った宗教やオカルト、スピリチュアル関連の事を思い出しながら自分なりの見解を話しているが……大丈夫かな。
私なりの聖典に対する見方を話した所、サリューン修道士から早速先程の質問が飛んだのである。
「一般論として話します。大前提として、根源たる一なる神そのものは絶対ですわ。しかし、たとえ神の言葉とされるものであっても、それは確かなものであるのかを精査せねばなりませんの。確かであるか否かは人の探求によって観察される客観的な事実に照らして判断せねばなりません。その理由は今からご説明しますわね」
私は石筆を手に取ると、木の絵を描いた。ざっと三分割し、根っこに根源たる神、枝分かれの幹に神々、末端が人と書き加える。
「さながら天を衝く程の巨木の、小さな小さな葉が、何百、何千もの枝分かれの末に一枚生えるが如く――根源にある意思が人に分かる言葉として下されるまでに何段階もございますの。
王の言葉を辺境の末端の一人の民に伝えるのに何人もの役人を通すのと変わりません。中には物覚えが悪かったり、不心得者だったりする役人も居て、王の言葉を捻じ曲げたりもあるでしょう。
神の意思が人に伝わるまでに、必ず歪みを生じますわ。また、神の言葉は人の言葉とは違います。聖典はあくまでも人の言葉で書かれたものに過ぎませんので、確かめながら読まねばなりません」
「しかし神は疑う事勿れ、と」
今度はメンデル修道院長が疑問を呈した。
「疑いは確信を持った信仰に至る道への一要素に過ぎません。それは盲信よりも余程強く確かな信仰を生み出すのです。
逆にお伺いしますが、猊下は幼い子供に対する教えをそのまま大人に対してもなさるのでしょうか。その聖典が記された文明の萌芽ともいえる時代の人々と、今現在の人々と違うでしょうに。
子供も成長すれば、ただ疑うなと言いつけるよりも、何故そうなのかを教えていくものですわ。聖典は書かれた時代、その背景にあるものなども加味して客観的な考察、研究をしなければ、教えそのものがおかしな方向へ向かいかねません」
言って、私は言葉を切った。
「――そう、例えば。今の時代ならば『教会信徒でもなく、文明程度も低く、肌の色が我々と違う彼らは聖典のどこそこによれば人間ではないと定義されるから殺しても殺人にはならない』とか……」
誰かの息を飲む音。
しん……と部屋に沈黙が下りる。
「……嘆かわしいですが、確かにそのような解釈をされることがありますな」
ぽつり、と修道院長が囁くように漏らす。私は頷いた。宗教を暴走させぬためにもここで印象付けておかねば。
「それは、神の教えを捻じ曲げる例ですわね。欲望の為に都合の良いように教えを解釈しているのです」
「しかしその彼らは異教徒です。聖典には、異教徒の教えを信じてはならないとあります。貴女は聖典を――教会の教えを否定されているのですか?」
不思議と迫力のある静かな湖水の眼差しでこちらを見据えるサリューン修道士。私は真っ直ぐに見つめ返した。
「信仰が何と浅い――神の言葉は人に齎されるまでに歪められていると先程申し上げました。異国の教えというものも、ただ、聖典とは別の枝葉にあるというだけの、同じ根、同じ幹から生じたもの。この図をご覧になればお分かりのように、全ては一つであり、一つは全てですわ。
それを否定するという事は、大元にある神の絶対性を否定する事と同義です。この世に、絶対である神の支配の及ばぬ領域などある筈がないのですから。
神が絶対である事を否定し、相対的な神を作り出してそれを絶対として奉ずる事は極めて悪魔的な行いですわ。枝だけを見て、幹や根を知らぬ事なのです」
私は石板に書いた木の別々の枝の葉に、それぞれ聖典、異教とそれぞれ書き加える。サリューン修道士は私の書いた木の図に視線を移した。
「全て同じ神から出たものにも関わらず、教会の教えと異教の教えが違う、時には矛盾しているのは何故です?」
「それは我が家と他人の家の教育方針が違うのは何故と聞くようなものですわね」
「……成程。では、神の御意思に近づくにはどうすればよいのでしょう?」
「枝葉から伝って幹へ――そして根へと向かうのですわ。何百年後か、千年後かは分かりませんが……この世にある、ありとあらゆる教えはいずれ一つのものに統合される事になるでしょう」
ガタリ、と音がした。振り返ると、サリューン修道士が立ち上がっている。目が合うなり跪いて祈りの所作をした。
「ちょっと……サリューン修道士、何を!? 立ってください!」
「神の僕、サリューン・フォワはマリアージュ・キャンディを聖女として認めましょう」
どういう事……?
呆然としていると、メンデル修道院長が取りなすように頭を下げた。
「マリー様、試した事をお詫び申し上げます。実は、サリューン猊下は枢機卿でいらっしゃいましてな」
「……枢機卿?」
偉い人っぽそうだ。首を傾げると、立ち上がったサリューン修道……枢機卿? がはいと頷く。
「先日、メンデル大司教から聖女についての書簡を受け取りました。その中身を改め、教皇様へと早馬を飛ばした上で、私自身貴女の見極めの為にここへ来たのです」
詳しく聞けば、『聖女が現れた。来たるべき災厄も調べたら本当っぽい。取りあえず教皇様へ報告します』→『枢機卿自ら聖女見極め』→『本物だった(イマココ)』だとの事。
サリューン枢機卿はこれから教皇へ報告書を書くらしい。ちなみに枢機卿って何ぞや、と聞くと、教皇の側近だとか。メンデル修道院長は大司教なので身分的にはその下だそう。
聖女としての洗礼みたいなものは、教皇自らが行うそうだ。……あまり遠出したくないのだが。仰々しいのも好かん。
婉曲にそう言うと、サリューン枢機卿は「では聖女様の希望としてそのようにお伝えしましょう」と笑う。何とか工夫してくれると良いな。
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