貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
81 / 754
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

撒いた種はいつかは芽吹くのです。

しおりを挟む
 『夏の太陽のようなマリー

 本当に暑い季節だね。僕はなるべく朝と夕方以降に人に会ったりして工夫して過ごしてる。マリーはどうしてる? 暑さでやられてないかな。

 そうそう、先日言っていたレンコンだけど、母にお願いして根っこを少し分けて貰ったんだ。輪切りにさせてハンコにしてみたら、確かに花みたいで面白いね。この手紙にも捺したけど、マリーの言っていたもので合ってるだろうか。

 ところで、かなり困った事が出来てしまって。サイモン様とマリーに相談したい事があるんだ。僕の独断では処理出来ない。次に会いに行く日にまとまった時間が欲しいんだけど大丈夫そう?

 今が盛りでとても綺麗だったので、今回は向日葵を贈るよ。

グレイ・ルフナー』

 蜂蜜採取の日から数日後。いつもの朝食の席で受け取るグレイからの手紙である。
 余白には大ぶりのスタンプが幾つか捺されてデコレーションされていた。この形は間違いなく蓮根だろう。
 添えられていたのは大ぶりの向日葵が一輪。向日葵は好きだ。種も食べられるし。いつものように花瓶に活けておくように使用人に命じる。

 向日葵は太陽を追いかけるように顔を動かす。花言葉は『あなたを見詰める』とか『愛慕』とかだ。
 私の枕詞に『夏の太陽のような』とかけて、向日葵を贈ってくるとはなかなかの変化球だ。やるなグレイ。かなり女心が擽られる。

 アナベラ姉も数日前、義兄アールから十一本の小ぶりの向日葵の花束を贈られて嬉しそうにしていた。意味は『最愛』。
 アン姉は昨日、白百合と赤薔薇、カスミソウの組み合わせをクジャク野郎から受け取っていたのを見たので、こちらはこちらで上手くやっているのだろう。

 それにしても、グレイが独断で処理出来ない、相談したい事って何だろう。


***


 「な、何ですって……」

 久しぶりに会ったグレイの話に私は絶句した。

 場所は父の執務室。

 ダディにグレイの手紙の内容を話すと、執務室で席を設けてくれた。何故か私達以外にも兄二人と祖父が同席している。ダディサイモン曰く、「この事を知っておいた方が良い顔ぶれを揃えた」との事。
 ついでとばかりに馬の脚共が当然のような顔をして、さも護衛の如く扉を固めている。本当、お前ら仕事はどうしたよ。
 このメンバーに少し面食らっていたグレイだけど、「『人集まれば賢者の知恵』とも言いますしね」と諦めたように言って、望遠鏡のくだりから経緯を含めて話を始めた。

 内容はこうだ。

 グレイが太陽の黒点観察を頼んでくれていた人――イエイツ修道士というそうだが――が、色々記録を調べて、私が思う所の様々な災害が連発する『小氷期の一番のどん底』が近づいていると見ているそうだ。
 やはりというか、嫌な予感程よく当たる。かなりヤバい。今すぐとか、数年の話ではないだろうけど、少なくとも私が生きている内には何らかの良からぬ変化が訪れそうな気がする。

 「それで、イエイツ修道士はこれを上の権力を持つ方々に知らせて何とかするべきだと考えているんです。人一人の手に負えないと。マリーの事をどうしても教えられないのかって何度か訊かれましたし」

 今は何とかやってくるであろう被害を少なくする備えが出来ないかと過去の記録を調べるって言ってました、というグレイ。ちなみに父は既に聞いていたらしい。

 余りに想像の範疇を超えた話だったのだろう。祖父も兄達も驚愕の表情を浮かべて私を見た。

 「ほ、本当なのか、マリー」

 カレル兄が恐る恐る聞いてくる。私は「修道士が調べた事からして可能性はあるわね。もっと大人数で調べても同じ結論なら確率はもっと上がるかも」と肩を竦めた。一人の手による調査結果だから現時点ではそうとしか言えない。……ちょっぴり現実逃避も入ってるけど。

 「でも安心して。大きな周期だから今日明日いきなり未曾有の大災害がやって来る! というのではなくて。だんだんと太陽神のカラスが少なくなって来たな、と観察出来るでしょうし、少なくともじわじわと十数年から数十年単位で起こってくる話よ」

 ……多分。
 隕石の衝突とかでも無ければの話だけど。

 私がそう言うと、トーマス兄はホッとした顔になった。「大変な話だなぁ。ふむ、マリーならばどんな対策を取るのかな」と祖父ジャルダンが柔らかく訊いて来る。

 自分なら? 私は前世の事を思い出しながら考えた。

 「そうね……先ずは食べ物かしら。食料生産技術と保存技術の向上。ああ、医療技術も上げなければ。加えて医薬品の充実。それらの備蓄。
 そして、自給率と人口のバランス調整……平時ならば子供が沢山産まれて人口が増えるのは良い事なんでしょうけど、不作などによって食料自給率がガタ落ちするとあっという間に飢えるわ。かといって出生率を制限しすぎても今度は老人ばかりになって国としての体力が落ちる。
 どれだけ食料が減るか、未来の人口推移も含めて想定して、他国に食料を輸出出来るぐらい増産するしかないわね。それも、一人当たりの生産性を上げる形で」

 今思い付いてざっと言えるのはこれぐらいかしら、と言うと、ダディサイモンもそうだなと頷いた。
 人口抑制に食料増産――考えて見ると、奇しくも誰かさんと似たような結論になったことに苦笑する。

 「しかしそれをやるにはその修道士の言うとおり国王陛下や教皇猊下に奏上せねばなるまい。そうなると話の出所を必ず訊かれるだろう」

 ヤッパリソウデスヨネー。
しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。