貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
67 / 690
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

世紀末風味の人魚姫。

しおりを挟む
 しかし鳥達愚民共に人間の言葉が通じる筈も無く。

 奴等はその場をうろつき、一向に離れようとはしなかった。私は溜息を吐き、どうしたもんかと考える。
 その時サリーナがスッと出てきて、私に見覚えのある袋を渡して来た。も、もしかして。

 「こんなこともあろうかと。お食事中はこれを撒いてやった方が良いかと存じます」

 おおおお! 流石はサリーナ!
 私が礼を言うと、どういたしましてと言って下がる。本当に出来た侍女だ。ボーナスを弾まなければな。
 と、餌を撒く前に。私はグレイを振り返って詫びた。

 「騒がしくしてごめんなさい、グレイ。私、いつもここで鳥達に餌をあげているものだから……」

 「そうだったんだ。成程、僕達が食事をしたから貰えると思って集まって来ちゃったんだね」

 私の説明に彼は合点がいったようだった。

 「ええ、そうみたい」

 「だったら僕も餌やりをしてみてもいいかな」

 どの道今は釣れないだろうから、と笑うグレイ。私は快く承諾した。

 「ええ、どうぞ。餌は釣り竿から離れた場所に移動して、そこでやりましょう」

 「そうだね」

 私が提案したのは餌で別の場所に誘導しよう作戦である。
 二人で池の畔を十数メートル程歩いた。これぐらい離れていたら大丈夫だろう。

 「それっ!」

 グレイが鳥の餌をばら撒く。私達が歩いている間もついて来ていた奴等が騒ぎ出し、付いてこなかった奴等も飛んで移動してきた。

 「うわあ、僕こんな近くで鳥を見るの初めてかも。かなり人に慣れてるね」

 「うふふ、毎日やってるもの」

 言いながら私も餌を投げた。グレイも負けじと続く。

 「あっ、凄い! 飛びながら餌を食べたっ!」

 「たまにやるの。凄いでしょ、うふふ」

 「うん、これは面白いや。懐くと鳥も可愛いもんだなぁ。マリーが趣味だっていうの分かる気がする」

 「でしょう? 毎朝の楽しみなの」

 ……等と笑顔で言いながらも内心だらだらと冷や汗をかく私。『愚民共ぉ!』等とシャウトしている事は知らぬが花である。

 「これだけあげれば満足してしばらくは餌を狙ってこないと思うわ」

 餌に群がる鳥達を尻目に、そっとその場を離れて戻った私達。今度はサンドイッチを無事に完食出来、釣り場は元の静けさを取り戻していた。

 「昔、船にのってカモメに餌を上げた事を思い出すよ」

 お茶を飲みながら、しみじみと言うグレイ。

 「えっ、船? 海?」

 思わず私は食いつく。彼は笑って頷いた。

 「うん、海。大きな商会の船なんだ」

 「まあ! 素敵ね。私、海に行ったことが無いから憧れているの。大きなお船、一度乗ってみたいわ。カモメって海の鳥なのでしょう? 可愛いのでしょうね」

 一生懸命私は言い募った。勿論船に乗ってみたいのもある。ただ、一番の本音はカモメでも海への憧れでもなく、海鮮を食いたいという食欲だ。私の脳内は既に香ばしい魚料理でいっぱいである。匂いの幻覚までしそうだ。
 そんな煩悩が声にも出ていたのだろうか。グレイは「海に憧れてるなんて知らなかった。マリーは人魚姫みたいだね。だけどカモメは大きいよ? 目付きも鋭いし」と微笑む。

 「そうだね、いつか港町に旅行するのも良いかも知れない」

 「本当!? いつかじゃなくて、グレイ、絶対よ! 絶対連れてってね! 約束して!」

 ああ、サンマの塩焼き、ブリの照り焼き。私が人魚姫なら周囲の魚介類を狩りまくってさぞかし殺戮者として恐れられる事だろう。アニメに出てた、蛸足な海の魔女にさえも。ぷりぷりっと太った蛸足……じゅるり。寿司…は衛生上無理だろうけどタコ焼きタコ焼きタコ焼きタコ焼き……心の中でお題目を唱える。がしっと肩を掴んで言うと、グレイは声を上げて笑い出した。

 「そこまで行ってみたいのなら、僕は約束しないわけにはいかないじゃないか。良いよ。色々落ち着いたら時期を見て連れて行くよ、必ず」

 「ありがとう、グレイ! 嬉しいわ!」

 確約を得た私は彼に飛びつくと、頬っぺたにキスをした。
 楽しみが増えた。海に行ける、そしたら海鮮食い放題だ、やったね!


***


 さて、鳥達愚民共も居なくなり、釣り再開である。一応釣り餌を点検したら、グレイの竿に小さな魚が掛かっていたので、逃がしてあげる。一応二人とも釣り餌を付け替えて再度垂らした。

 海の幸について色々グレイに訊きながら釣り竿を揺らして待っていると、いきなりぐっと引っ張られた。小さな悲鳴を上げるも私は急いで踏ん張る。かなり強い。ビンビンと魚の暴れる振動が伝わって来た。

 「大丈夫!? 手伝おうか?」

 「ちょ、ちょっと助けて!」

 正直持ってかれそうだ。グレイは即座に後ろに回ると私の釣り竿を一緒に持ち、そのまま一緒に魚を引き上げてくれる。
 一緒に呼吸を合わせてせーのとやると、その姿が見えて来た。

 「でかい! 大物だ!」

 「竿が……折れそう」

 魚影はすぐそこにいるというのに竿がミチミチと嫌な音を立てている。後ろ脚シュテファンが持っているタモじゃきっと荷が重いだろう。前脚ヨハンが上着を脱ぎ、「失礼!」と言って池にざぶんと入った。暴れるその魚を上着に包むように抱き抱え、凄い勢いでぶん殴った。すると大人しくなったので持って上がって来る。ワイルドだな。
 勿論バケツに入りきらないのでそのまま草の上にどさりと転がした。

 「う、うわあ……」

 それはかなり大きなナマズだった。鯉よりも一回り二回りは大きい。

 「大きさ的にもこれはきっと美味でございます」

 というのは前脚ヨハンである。後ろ脚シュテファンはナイフを取り出すとナマズの鰓に突き刺している。
 私は少し考えた。先程の鯉でおかずは十分だし。ひとまず池に入ってくれた礼を言う。

 「ありがとう、ヨハン。お前が厨房に持って行って頂戴。このナマズは大きいから、皆で頂きましょう。それと濡れてるから風邪を引かない内にお風呂に入ってくると良いわ。私が許可を出したと伝えて……」

 これでよし、と。しかし前脚ヨハンはどこか不服そうな表情をしている。

 「ありがたきお言葉。ですが、いつものように『前脚』と呼んでは下さらないのですか?」

 「ちょっ、何を言うの?」

 私は仰天した。それはグレイの前だからに決まってるじゃないか!
 慌ててグレイをちらりと見る。「あの、グレイ。これは」

 な、何て言い訳しよう。

 ぐるぐると頭を悩ませていると。

 「マリー、僕は知ってるから大丈夫だよ」

 「えっ!?」

 まさかの返事に私はポカーンとした。
しおりを挟む
感想 925

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。