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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

見ぃ~たぁ~なぁ~?

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 「愚民共よ、輝かしい朝である! 女帝マリーからの恵みの糧をありがたく受け取るが良い!」

 次の日の朝。私は早速いつもの運動着に付け襟をした状態で日課を楽しんでいた。いやー、エリザベス女王襟は良いわ。随分偉くなった気がする。

 エリザベス女王と言えばアレだ。大航海時代。
 航海と略奪と植民地主義、奴隷貿易等々。今私が生きる世界も既に冒険家が世界が丸い事を証明しているし、新大陸も発見されている。他の新たな大陸を求めて向こう見ずな旅に出る探検家や冒険家も後を絶たない――以前、キーマン商会の支店がある国ついて訊ねた時、そういう話も詳しくグレイから聞いた。彼も箸や醤油を手に入れているから、差異はあれど前世の歴史と同じような感じで競争は激化していくだろう。人の欲望には際限がないものだ。
 幸い今のトラス王国の国力は強い。植民地も南の海を越えたナトゥラ大陸に持っている。しかし他国が植民地を拡大して、先んじて肥え太ればそれも危うくなるかも知れない。
 銀行と株式制度によって国境を越えた独自の経済圏を獲得していく事で太刀打ちできれば良いけれど。
 きっと、人種差別等の問題も多く出て来るだろう。トチ狂ってアングロサクソン・ミッションのような事を考え出す連中も出て来るかもしれない。その場合の思想誘導の道具としては……前世では優生学等があったが、現時点では九割がた宗教だと思う。そんな風に使われる前に味方にしておいた方が良いかもな。

 なーんて難しい事は後でじっくり考える事にして。

 愚民共もいつもの私と違うと理解しているのか、動揺しているのが何となく分かる。それが証拠に一定以上の距離には寄って来ない。威嚇効果もあるようで大満足である。

 「朕は国家なり!」

 何となく天に両手を上げてその場のノリで言う。あれ、エリザベス女王なら『私は国家と結婚した』、だっけか。まあいいか。こっちのほうがカッコ良いもんな!

 馬の脚共も私の遊びに付き合ってか、「マリー様万歳!」「マリー様永遠なれ!」等と騎士の礼を取っている。それを見て満足げに頷いた私。
 サリーナは平常運転で死んだような目をしていた。
 と、ぷっと噴き出すような音が聞こえてくる。

 そちらを見ると、

 「何やってるんだ、マリー」

 とカレル兄が姿を現した。珍しいな。

 「おはよう、カレル兄。見ての通り女帝ごっこしてるの。ほら、この襟。昔流行ったんだって。お婆様のお下がり貰ったんだー! これ付けると何だか偉くなったような気分になれるの」

 ニコニコしながら自慢する。カレル兄は腹を抱えて笑い出した。

 「偉くなった気がするってお前、本当面白いな!」

 「だって本当だもん。鳥達だって恐れていつも以上に寄って来ないし、きっと威嚇効果があるんだよこの襟。カレル兄も着けてみる?」

 この襟が流行ってた頃の王様は威嚇されて大変だったろうと話すと、カレル兄の笑いがいよいよ止まらなくなった。

 「あは、はは……あー、朝から笑った笑った。いやいや、俺は遠慮しておくよ」

 「もー、そんなに笑わなくても良いじゃん!」

 「良かったな、良い玩具を貰って」

 「玩具じゃない! これは権威と力の象徴なの、象徴! ……ところでカレル兄が今の時間この辺りを通りがかるのは珍しいね」

 「ああ、ちょっと散歩してたんだ……」

 私の問いかけに少し挙動不審気味になるカレル兄。サリーナと馬の脚共がハッとしたようにある方向へ向けて使用人の礼を取った。

 「うふふふ~、残念。見つかっちゃったわ」

 えっと思ってそちらを見ると、お爺様とお婆様、ばあやが勢揃い。私は伝説のメデューサに睨まれて石化するが如くカチーンと固まった。


***


 「えっ、えっ、見られてたの? い、い、いつから!?」

 予想外の事態に狼狽え、カレル兄に食ってかかった。兄は薄ら笑いを浮かべる。

 「マリーに残念なお知らせがある。餌やりの最初からだ」

 「昔からおかしなことをなさる方でしたが、ちっとも変っていませんねぇ、マリー様は。おまけに作り物の馬も新しく立派なものになっていますし」

 ばあやが呆れたように言う。

 「うわああああ~!!」

 私は顔を両手で覆ってうずくまった。恥ずか死ねる。しかも今日は付け襟効果でいつも以上に演技に熱が入っていたのだ。

 「まあまあ。マリーちゃんが女帝になるぐらいに喜んで貰えてるならその襟を贈った甲斐があったわねぇ。見ていて大変面白かったわ」

 ねぇ、ジャル? と追い打ちをかけて来る祖母ラトゥ。

 「ああ、そうだなラトゥ。マリーには演劇の才能があるようだ」

 クスクス笑いながら止めを刺してくる祖父ジャルダン。ぐはぁ。やめて、私のライフはもう0よ。
 しかしここは何とか取り繕わねばなるまい。私はのろのろと顔を上げると、すっと淑女の礼を取った。

 「お爺様、お婆様、ばあやも。おはようございます……」

 しかしそれは悪あがきに過ぎず、ばあやは呆れたように「はぁ……今更ですよ、マリー様」と言い、祖父母もうんうんと頷いた。

 「そうだな」

 「まあそうねぇ。でもおはよう、マリーちゃんのお蔭で朝から笑顔になったわ」

 カレル兄がポン、と同情するように肩に手を置いてくる。

 「マリー、潔く諦めろ。手遅れだ」

 「はい……」

 私は力なく頷いた。鶴の恩返しでは正体を知られた鶴は何もかも置いて飛び去っていけるのに。
 ああ、空が青いなぁ。
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