貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(34)

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 拳銃ピストルの研究要請や望遠鏡を作っている工房への確認、それに加え銀行や株式取引に関する人員の育成も始まった。試験的にマリーの言った馬車事業を株式にしてみようと父も動いてくれている。
 アールの銀行もそろそろ形になりそうだ。銀行となる建物も、キャンディ伯爵領に建設が始まっている。その隣に更に株の取引を行う場所も同時に作られる事になっていた。
 王都とリプトン伯爵領にはそれぞれの支店が置かれる予定だ。物件も何件か候補が絞られている。
 更には最盛期・繁忙期を迎えているラベンダーの事業。商会の仕事以外にも色々忙しくしていると何時の間にか月が変わっていた。

 正直に言えば多忙を極めている。しかし僕はマリーにはなるべく会うように時間を作っていた。勿論会えない日は手紙を書いたり花を贈ったりしている。あんな事があって彼女もまだ不安が癒えないだろうし、サイモン様や奥方様も僕にそれを望んでいるからだ。

 仕事が一段落したところで休憩がてらマリーから届いた手紙を開く。同時にほんのり薔薇の香りが漂った。
 紙に顔を近づけると、どうも香水を振っているらしい。なかなか洒落ている。

 『愛するグレイ

 こんにちは、お元気かしら。今日は嬉しい報告よ。

 とうとう小説が完成したわ!

 アールお義兄様に読んで頂く前に、どこかおかしい所がないかグレイに確認して貰いたいの。
 忙しいだろうけど、何とかまとまった時間を作れないかしら。
 たまにはゆっくり会いたいわ。

 マリー

 追伸 馬の蹄鉄は幸運を運んできてくれるんですって。グレイに幸運が訪れますように。』

 添えられていた馬の蹄鉄の形の焼き菓子を一口ほうばって、僕は返事を書いた。

 その数日後。

 僕はキャンディ伯爵家のテラスでマリーと共に居た。
 今しがた彼女の書いた原稿を読み終わったところである。

 これは……凄いな。

 「ど、どうかしら……」

 もじもじしながら聞いてくるマリー。

 「凄いね、普通の恋愛だけじゃない。謎解きとかハラハラする場面もあって刺激的で面白い。こういう小説ってなかなか無いと思うよ。きっと売れると思う」

 「ほ、本当? お世辞じゃなくて?」

 「お世辞じゃないよ。本当」

 掛け値なしに僕は褒めた。
 本気でそう思う。これと比べたらあの『初恋の野の花』なんてひたすら退屈だ。
 それに、赤毛の人間が蔑まれる苦悩も交えて上手く書いている。流行れば多少風当たりも弱くなるかも知れない。
 少しウェゲナー伯爵に感情移入してしまった。

 しかしマリー、このオール・ヴェゲナー伯爵はアールとはまるっきり別人だよ。

 僕自身はモデルじゃないから他人事で済ませられるけど、アールに読ませてみればさぞかし面白いものが見られるだろうな。
 楽しみだ。


***


 「うぅ、なかなか、これは……」

 僕は呻いた。手には二本の棒――クァイツ。原始的な道具なのに使うのは難しい。マリーが僕が悪戦苦闘する様子を見てクスリと笑った。

 「我が家の皆も最初はそんな感じだったわ。でも練習すればすぐに慣れると思うの。見て。こんな風に親指と人差し指、中指で挟んだ方を動かして、薬指で支えている方は固定する――そう、そんな感じよ」

 クァイツの持ち方を教えてくれた後は、その使い方を実演してくれている。僕もそれを見よう見まねで同じようにやってみるんだけど、なかなか難しい。

 「慣れたら割と大きなものを挟んで持ち上げてみるの。こんな風にね。お皿からお皿へ移動する練習も良いわ」

 言って、焼き菓子をクァイツで挟んで口に運ぶマリー。僕も試してみる。何とか持ち上げられた。しかし口にする前にポロリと落としてしまう。

 「あっ!」

 フォークを使いたての子供みたいな事になってしまった。情けない。
 ポンポンと僕の肩が慰めるように叩かれた。

 「気にしない気にしない。落とす内は食べられないものを。落とさないようになれば食べられるものを。大きさもだんだん小さくしていくと良いわ。ほら見て」

 「うぇっ、それは流石に難しいよマリー!」

 マリーが持ち上げてみせたものは小さな豆だった。それを一粒ずつ皿から皿へ移し替えていく。実際クァイツを使ってみると、それがどんなに凄い事か分かる。

 「大丈夫、絶対使えるようになるから。練習あるのみよ、グレイ」

 「うぅ…」

 何だか悔しい。絶対使えるようになってやる!
 その日から僕の猛特訓が始まった。

 毎晩寝る前に練習をする。
 幸い、それなりの大きさのものならすぐ掴めるようになった。
 落とさなくなれば実戦あるのみと、食事もなるべくクァイツを使うようにしている。

 カトラリーを切り替えてからは祖父や父にも教えている。眉を顰めてぎこちなく手を動かす様子は数日前の僕を見ているようだ。
 後から兄、母、祖母が参加。一番早く食事に問題ない程使いこなせるようになったのは意外にも母だった。
 僕も負けてられない。
 豆を皿から皿へ問題なく移せるようになったらマリーに手紙を書こう。
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