貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
25 / 754
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

お手手繋いで行きましょう。

しおりを挟む
 しかし、困惑は完全には隠しきれなかったようである。グレイが呆れたような溜息を吐いた。

 「お爺様もお婆様も何でそんな何十年も前の古い服を着てるんだよ。マリーが戸惑ってるじゃないか」

 「何をいうか、これは儂が一番気に入っている服なのじゃぞ」

 「ほほほほ、上等な服は長く着れるのよグレイ。お婆ちゃまはこれで国王陛下にもご挨拶したものよ」

 当時の国王は大変だな。きっと右を向いても左を向いても常に威嚇されてる状態だ。負けじと高速回転したら空の彼方に飛んで行けそうな一際デカい襟を付けたに違いない。

 「威風堂々としてらっしゃるわ。素敵な襟ですわね」

 戸惑ったのは事実だが、私は掛け値なしの賞賛の気持ちを込めて言った。
 というのもエリザベス女王襟を欲しいと思ってしまったのである。貴族令嬢は時として女王様のような威厳が必要なもの――というのは建前で、エリザベス女王ごっこがしてみたい。
 今度領地の祖母に聞いてみようか。まだ持ってたらお下がりが貰えるかもしれない。

 グレイが正気か、とでも言いたげな表情でこちらを見た。彼的にはあまり受け付けない模様。

 「ほら見ろ、マリアージュ姫の方がよほど分かっとるわい」

 「ありがとう、この襟は昔とても流行したの。何年も手が届かなくて悲しい気持ちになっていたのだけれど、エディが贈ってくれたものなのよ」

 成程、流行の付け襟が欲しいのに貧乏で買えなかったのを、プレゼントされたのか。それは大事なものに違いない。グレイの祖父は少し恥ずかしそうに鼻の脇を掻いている。
 仲の良い老夫婦だ。彼らの気持ちと過去にあっただろうロマンスの欠片に触れてじーんとする。ちょっと目頭が。
 グレイと私も年取ったらこんな風になりたいものだ。

 「そんな大事な品を今日この日にわざわざ身に着けて下さったのですね。そのお気持ち、嬉しいですわ」

 凄く歓迎されてるわ、これ。
 私は温かい気持ちになって深々と淑女の礼をする。顔を上げると、足音が近づいてきた。

 「こらグレイ、ぼさっとしてるんじゃない。俺達を忘れたのか」

 「あっ、ごめんお父様。マリー、こちらは僕の両親。父のブルック・ルフナー子爵と母のレピーシェ・ルフナー」

 グレイが慌てて紹介する。そちらを向くと、グレイの両親である中年の男女。

 見事な赤銅色の長めの巻き毛を後ろで束ねたグレイの父は、映画『風と共に去りぬ』に出て来るレット・バトラーを思わせるちょい悪系の渋かっこいいおじ様だった。実用的な物を好むらしく、黒を基調としたシンプルで上品な出で立ちである。

 グレイの母は栗毛で、ややぽっちゃりした小柄で優しそうな顔立ちのおば様。こちらもコンセプトはシンプルで、ベージュと黄色系のドレスに真珠のネックレスを合わせ、耳には一際大粒真珠のイアリングが下がっていた。髪を纏めて後ろに短目のベールが流れるレースキャップを被っている。

 ここが一番の勝負である。私は心中で3つ数えて落ち着くと、マナー講師に教えられたように心持ちゆっくりを心がけて先程と同じように挨拶をした。

 「――いずれ家族になる身。お爺様お婆様、お義父様お義母様も、私の事は気軽にマリーと呼び捨てて下さいまし。不束者ですがよろしくご指導の程をお願い申し上げます」

 ナチュラルにもう嫁に来たみたいな言い方で締めくくって微笑むと、義父ブルックは気にした様子も無く、「これはご丁寧に」とにかっと人懐っこい笑みを浮かべた。

 「お初にお目に掛かる、これの父親のブルック・ルフナーだ。キャンディ伯爵の掌中の珠たる三の姫のお噂はかねがね」

 「初めまして、グレイの母ですわ。まあ、まあ。嬉しいわ。こんな愛らしい方が娘になるなんて。私、実は娘が欲しかったの」

 特に結婚後一番関わりが深くなりそうな義母レピーシェが優しそうな人で本当に良かった、と思う。
 「私もお会いできて嬉しいですわ」と返しながら、義父ブルックの台詞について考えていた。
 グレイは一体何を義父に話したのだろうか。それとも本当に私に関する噂が巷に流れているのか。屋敷から一歩も出ず静かに生きて来たはずなのに。
 後で訊いてみよう。噂の内容によっては揉み消さないといけないからな。


***


 挨拶が一段落した所で義兄アールが声を掛けてきた。

 「マリー様、お久しぶりです。先日の事、ありがとうございました」

 「まあ、ご無沙汰しておりましたわ、アールお義兄様。お元気にしてらして? グレイから聞きましたが、何事も無く無事に解決出来て宜しかったですわ。そうそう、お義兄様。実はお土産として我が家のお菓子を持参致しましたの。食べるまで時間を置くと悪くなってしまいますので出来れば昼食と共に召し上がって頂きたいのですが」

 私は侍女サリーナにお土産のバスケットを持って来させた。義兄アールは使用人を呼んでそれを受け取らせ、食事の最後のお茶と共に出すようにと命じていた。

 「こら、アールにグレイ。何時までも外で立ち話をさせてはいけません。早くご案内しなさい」

 義母の叱責にルフナー子爵家兄弟は顔を見合わせて肩を竦める。その仕草が面白くて、「じゃあ二人でエスコートして下さいな」と両手を差し出した。笑いながらも手を取ってくれる兄弟。私達は三人でお手手を繋いで仲良く屋敷に入ったのであった。
しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。