20 / 175
【占】フレークシールの在処。
しおりを挟む 爺は猥雑に笑うと、慧一の吸いかけの煙草を取り上げ、携帯灰皿に放り込んだ。
「ああっ、まだ吸ってるのに!」
「いや、楽しかった。どっこらしょっと」
慧一がごねるのを無視して爺は立ち上がる。
「お前さんがどんな娘と一緒になるのか、しかと確かめるまで死ぬに死ねん。はよせい」
くしゃくしゃと慧一の髪をかきまぜてから、畑を横切っていく。慧一は苦笑するしかなく、そして、爺の慧眼に感服するほかなかった。
「風のような男……か」
◇ ◇ ◇
慧一が家に戻り手土産を返すと、両親は顔を見合わせて驚いた。
夕食の席でことの次第を話すと、さらに目を丸くした。
「川本さんと駄目になったのか」
コップ一杯のビールですっかり赤くなった父親が、テーブルに身を乗り出す。
「駄目も何も、彼女と俺は最初からなんでもないんだよ」
「あはは、やっぱりね。いいお嬢さんだけど……突然訪ねて来るのはねえ、変だと思ったのよ」
母親は納得顔だ。父親と違っていくら飲んでも平気らしく、ビール瓶を一人で空けている。
「石田の爺様に頼んでよかった。おれは女性関係はどうもね、分からんから」
父親がぽつりと漏らす。慧一を見て、情けなさそうに苦笑した。
「いや、助かったよ。ありがとう、親父」
息子の素直な感謝に照れたのか、父親は忙しない仕草でビールを注いだ。
母親は父子のやり取りを面白そうに眺めている。慧一と視線が合うと、乾杯するみたいにコップを掲げた。
◇ ◇ ◇
「風みたいな男。自由な風……」
慧一は自室に引き揚げると、窓際の椅子に腰掛け、夜空に浮かぶ月を眺めた。二十八年間生きてきて、さまざまな経験をしてきた。
自分では一人前のつもりでいたのに……
寄って来る女を拘りなく受け入れ、付き合い、そして次々に振られる。気ままな性格、気ままな物言い。子どものように正直と言えば聞こえがいいが、彼の言動は大人げなく率直すぎるのだ。
遠慮のない言葉やジョークに彼女達は傷つき、去って行った。そして、気ままと言うのは、落ち着きが無いといったマイナスの意味を含んでいる。
「唯のことも、結局は振られた恰好になったな」
両親や爺の手助けがなければ、彼女との関係をすっぱり終わらせるのは難しかっただろう。
「結局、俺は未熟者ってわけだ」
『お前さんがどんな娘と一緒になるのか、しかと確かめるまで死ぬに死ねん。はよせい』
爺の言葉を思い出し、頭を掻いた。
「俺に合う女なんているのかねえ」
とりあえず、自分の価値観を物差しに他者を選別するような、仕切り屋タイプは駄目だとわかった。
輝く月の表面に、怒りまくる唯の顔が浮かぶ。
強烈な一撃を頬に食らったが、彼女もそれ相応の傷を負ったはずだ。
「俺とは合わなかったが、君を生かせる男が、この世のどこかに必ずいる。そいつと出会えるよう、祈ってるよ」
カーテンを閉めると、ベッドに横たわり目を閉じた。
(俺は、一つところに留まると苦しくなる。自由にさせてくれる女がいいな)
どうしてか瞼の裏に、彼女の姿が現れた。
三原峰子――
その夜、彼女を抱く夢を見た。
「ああっ、まだ吸ってるのに!」
「いや、楽しかった。どっこらしょっと」
慧一がごねるのを無視して爺は立ち上がる。
「お前さんがどんな娘と一緒になるのか、しかと確かめるまで死ぬに死ねん。はよせい」
くしゃくしゃと慧一の髪をかきまぜてから、畑を横切っていく。慧一は苦笑するしかなく、そして、爺の慧眼に感服するほかなかった。
「風のような男……か」
◇ ◇ ◇
慧一が家に戻り手土産を返すと、両親は顔を見合わせて驚いた。
夕食の席でことの次第を話すと、さらに目を丸くした。
「川本さんと駄目になったのか」
コップ一杯のビールですっかり赤くなった父親が、テーブルに身を乗り出す。
「駄目も何も、彼女と俺は最初からなんでもないんだよ」
「あはは、やっぱりね。いいお嬢さんだけど……突然訪ねて来るのはねえ、変だと思ったのよ」
母親は納得顔だ。父親と違っていくら飲んでも平気らしく、ビール瓶を一人で空けている。
「石田の爺様に頼んでよかった。おれは女性関係はどうもね、分からんから」
父親がぽつりと漏らす。慧一を見て、情けなさそうに苦笑した。
「いや、助かったよ。ありがとう、親父」
息子の素直な感謝に照れたのか、父親は忙しない仕草でビールを注いだ。
母親は父子のやり取りを面白そうに眺めている。慧一と視線が合うと、乾杯するみたいにコップを掲げた。
◇ ◇ ◇
「風みたいな男。自由な風……」
慧一は自室に引き揚げると、窓際の椅子に腰掛け、夜空に浮かぶ月を眺めた。二十八年間生きてきて、さまざまな経験をしてきた。
自分では一人前のつもりでいたのに……
寄って来る女を拘りなく受け入れ、付き合い、そして次々に振られる。気ままな性格、気ままな物言い。子どものように正直と言えば聞こえがいいが、彼の言動は大人げなく率直すぎるのだ。
遠慮のない言葉やジョークに彼女達は傷つき、去って行った。そして、気ままと言うのは、落ち着きが無いといったマイナスの意味を含んでいる。
「唯のことも、結局は振られた恰好になったな」
両親や爺の手助けがなければ、彼女との関係をすっぱり終わらせるのは難しかっただろう。
「結局、俺は未熟者ってわけだ」
『お前さんがどんな娘と一緒になるのか、しかと確かめるまで死ぬに死ねん。はよせい』
爺の言葉を思い出し、頭を掻いた。
「俺に合う女なんているのかねえ」
とりあえず、自分の価値観を物差しに他者を選別するような、仕切り屋タイプは駄目だとわかった。
輝く月の表面に、怒りまくる唯の顔が浮かぶ。
強烈な一撃を頬に食らったが、彼女もそれ相応の傷を負ったはずだ。
「俺とは合わなかったが、君を生かせる男が、この世のどこかに必ずいる。そいつと出会えるよう、祈ってるよ」
カーテンを閉めると、ベッドに横たわり目を閉じた。
(俺は、一つところに留まると苦しくなる。自由にさせてくれる女がいいな)
どうしてか瞼の裏に、彼女の姿が現れた。
三原峰子――
その夜、彼女を抱く夢を見た。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セキトネリのエッセイ・単品集
セキトネリ
エッセイ・ノンフィクション
セキトネリのエッセイと単品の男と女の小説。チャットGPTさんとのやりとりなどを中心に書きますが、極めて狭い分野。noteがわりのものです。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる