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鶏蛇竜のカール。
鶏蛇竜は暁を待つ。【50】
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それとなく視線の主を探ったが、フードを目深に被っていて、顔が見えなかった。
次の日の薬草小屋で、カールはやってきたジルベリクに報告する。
また、酒場から帰った後でもう一つ気付いた事があった。
そう言ってカールはエリアスを見つめる。
「間違っているかも知れませんけどー。昨日酒場で声を掛けて来てくれた人って、もしかしてエリアス様ですかー?」
「おう……まさか見破られるとは思わなかったぞ」
変装術では一、二を争う人山羊のクリスタンのお墨付きなんだけどな、と驚くエリアス。ジルベリクも感心したような表情をしていた。
「声色も変えていたみたいですけれどー、後になって、ところどころエリアス様の声に似ているなって」
「観察力があるな。エリアスの他にも遠巻きに一人潜ませていた」
ひよっこ三人だけで放り出すような真似は出来んからな、と言うジルベリク。
そもそも任務は経験のある先達と組むものなのだそうだ。
「顔がはっきりと見えなかったのは仕方ないが、そ奴が『死神の三日月』である可能性は高い」
もっと攻めてみよう、と読唇術を使ってジルベリクは説明する。カールは分かりましたと頷いた。
***
結局、勝手な真似はするなと言いながら――猛牛と魔猿は諜報にあまり向かなかった。相手に警戒を抱かせるのである。
結局他者から聞き出すのはカールの仕事となっていった。笑顔を絶やさないカールの方が、人好きして相手の口が軽くなるものだ。
「あれだけ大口を叩いておいて、先輩方って案外役立たずですねー」
「何だと!?」
「怒るって事は図星なんですかー?」
「くっ、貴様……!」
カールは内でも外でも二人を煽って挑発し、人のいる場所では盛大に言い合いを繰り広げるように仕向けて餌をばら撒いていた。
夜の訓練時には、再戦を申し込んで来た猛牛達を容赦なく叩きのめしてプライドをずたずたにする。
あちらこちらの酒場を移動しつつ任務を行うも、猛牛達は目ぼしい成果を得ることは無かった。
自然、猛牛と魔猿はより一層の怒りを増幅させて行く。
そんな中、カールは行く先々で静かにこちらを窺い続ける存在を感じていた。
そしてとうとう三人は王都の花街へと向かう事を命じられる。
指定されたのは、ランクとしては高級ではなく、中の下程の娼館。
カール達が店の扉を開けると、食事処を兼ねたそこは淫猥な光景が繰り広げられていた。
そこに居る酌婦は娼婦を兼ねており、胸をはだけて煽情的な格好をしている。
三人共娼館は初めてだが、特に猛牛と魔猿はあまり免疫が無いらしく緊張しているようだった。
一方カールは蛇ノ庄で女を惨殺した経験があるので、特に何も感じていない。使い物にならない二人にこれ見よがしに溜息を吐いて見せたカールは、女の一人を捕まえた。
「そこの美しいお姉さん、僕達ここ初めてなんだけどどういう仕組みになってるのか教えてくれないかなー?」
「あらぁ、兄さんもあたし程じゃないけど綺麗な顔してるわねぇ」
その女は軽口を叩きながら空いているテーブルに案内してくれる。
カール達が座ると、胸の谷間を見せつけるように上体を屈めてにっこりと笑った。
「ここは食事も女も楽しめる場所なの。サービスは金額によって変わるけど、食事と酒の後で女を抱くもよし、食事と酒を楽しみながらお触りだけを楽しむもよし。金額は――」
女の説明が終わると、カールは猛牛と魔猿を振り返った。
「――だそうですけど、どうしますー?」
「あ、ああ……そうだな」
放心しつつもしっかりと女の豊かな胸に釘付けになっている二人。女は初心ねぇ、と笑って婀娜に首を傾げた。
「お任せでも良いかしらぁ? お兄さん達、予算はおいくらぁ?」
「先輩、しっかりして下さいよー」
「よ、予算は……っ」
上ずった声で生返事をする魔猿。
猛牛は言葉も出ない様子で身を固くしている。
結局割高な料金を払って後者を頼む事になった。
あちらこちらのテーブルから嬌声が響き痴態が繰り広げられる中、借りて来た猫のようになっている猛牛と魔猿。
そこへ、先程の娼婦が数人の娼婦を引き連れてやってきた。
次の日の薬草小屋で、カールはやってきたジルベリクに報告する。
また、酒場から帰った後でもう一つ気付いた事があった。
そう言ってカールはエリアスを見つめる。
「間違っているかも知れませんけどー。昨日酒場で声を掛けて来てくれた人って、もしかしてエリアス様ですかー?」
「おう……まさか見破られるとは思わなかったぞ」
変装術では一、二を争う人山羊のクリスタンのお墨付きなんだけどな、と驚くエリアス。ジルベリクも感心したような表情をしていた。
「声色も変えていたみたいですけれどー、後になって、ところどころエリアス様の声に似ているなって」
「観察力があるな。エリアスの他にも遠巻きに一人潜ませていた」
ひよっこ三人だけで放り出すような真似は出来んからな、と言うジルベリク。
そもそも任務は経験のある先達と組むものなのだそうだ。
「顔がはっきりと見えなかったのは仕方ないが、そ奴が『死神の三日月』である可能性は高い」
もっと攻めてみよう、と読唇術を使ってジルベリクは説明する。カールは分かりましたと頷いた。
***
結局、勝手な真似はするなと言いながら――猛牛と魔猿は諜報にあまり向かなかった。相手に警戒を抱かせるのである。
結局他者から聞き出すのはカールの仕事となっていった。笑顔を絶やさないカールの方が、人好きして相手の口が軽くなるものだ。
「あれだけ大口を叩いておいて、先輩方って案外役立たずですねー」
「何だと!?」
「怒るって事は図星なんですかー?」
「くっ、貴様……!」
カールは内でも外でも二人を煽って挑発し、人のいる場所では盛大に言い合いを繰り広げるように仕向けて餌をばら撒いていた。
夜の訓練時には、再戦を申し込んで来た猛牛達を容赦なく叩きのめしてプライドをずたずたにする。
あちらこちらの酒場を移動しつつ任務を行うも、猛牛達は目ぼしい成果を得ることは無かった。
自然、猛牛と魔猿はより一層の怒りを増幅させて行く。
そんな中、カールは行く先々で静かにこちらを窺い続ける存在を感じていた。
そしてとうとう三人は王都の花街へと向かう事を命じられる。
指定されたのは、ランクとしては高級ではなく、中の下程の娼館。
カール達が店の扉を開けると、食事処を兼ねたそこは淫猥な光景が繰り広げられていた。
そこに居る酌婦は娼婦を兼ねており、胸をはだけて煽情的な格好をしている。
三人共娼館は初めてだが、特に猛牛と魔猿はあまり免疫が無いらしく緊張しているようだった。
一方カールは蛇ノ庄で女を惨殺した経験があるので、特に何も感じていない。使い物にならない二人にこれ見よがしに溜息を吐いて見せたカールは、女の一人を捕まえた。
「そこの美しいお姉さん、僕達ここ初めてなんだけどどういう仕組みになってるのか教えてくれないかなー?」
「あらぁ、兄さんもあたし程じゃないけど綺麗な顔してるわねぇ」
その女は軽口を叩きながら空いているテーブルに案内してくれる。
カール達が座ると、胸の谷間を見せつけるように上体を屈めてにっこりと笑った。
「ここは食事も女も楽しめる場所なの。サービスは金額によって変わるけど、食事と酒の後で女を抱くもよし、食事と酒を楽しみながらお触りだけを楽しむもよし。金額は――」
女の説明が終わると、カールは猛牛と魔猿を振り返った。
「――だそうですけど、どうしますー?」
「あ、ああ……そうだな」
放心しつつもしっかりと女の豊かな胸に釘付けになっている二人。女は初心ねぇ、と笑って婀娜に首を傾げた。
「お任せでも良いかしらぁ? お兄さん達、予算はおいくらぁ?」
「先輩、しっかりして下さいよー」
「よ、予算は……っ」
上ずった声で生返事をする魔猿。
猛牛は言葉も出ない様子で身を固くしている。
結局割高な料金を払って後者を頼む事になった。
あちらこちらのテーブルから嬌声が響き痴態が繰り広げられる中、借りて来た猫のようになっている猛牛と魔猿。
そこへ、先程の娼婦が数人の娼婦を引き連れてやってきた。
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