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山猫のサリーナ。
山猫娘の見る夢は。【11】
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「皆、紹介しよう。彼女はサリーナ・コジー。コジー夫人の孫で、元はシンブリ姓、獅子ノ庄当主ハンス殿の娘御だ。ぎっくり腰になったコジー夫人の代わりを務めるべく先日当家に来たばかりだ。
彼女がここに居るのは、本人の希望による。隠密騎士の訓練に参加したいそうだ。勿論殿の許可を得ている」
庭師――隠密騎士筆頭を務める鳥ノ庄の隼のジルベリクがそう言って訓練着に身を包んだサリーナを紹介する。
念願の隠密騎士達に混じって訓練出来る事に心躍らせ、また緊張しながら、サリーナは頭を垂れて丁寧に挨拶をした。
「ご紹介に与りました、サリーナ・コジーと申します。獅子ノ庄では隠密騎士候補達に混じって長い事訓練に明け暮れておりました。未熟者ですが、何卒宜しくお願い申し上げます」
「サリーナの実力では侍女の訓練じゃ物足りないだろうな」
「うむ、女だてらに山猫と呼ばれていたぐらいだ、サリーナの事は俺も保証しよう」
サリーナが顔を上げると、二人の男が近付いて来た。見知った顔に緊張が少し解れる。
「レオポール叔父様、オーギー兄様、お久しぶりです!」
「久しいな、サリーナ。少し見ない間に大きくなった」
「暫くぶりだな山猫娘」
彼らはサリーナにとって馴染み深い身内だった。
一人は三頭獣の二つ名を持つレオポール・シンブリ。
父の弟であり、隠密騎士第一線で頑張っている。アン姫様の専属となる程の実力者で、サリーナが憧れている隠密騎士達の一人である。
そしてもう一人の白獅子の二つ名を持つオーギー・シンブリはサリーナと一番年が近い従兄弟であり、修行中は仲良くして貰っていた。
レオポールが隠密騎士達を見回した。
「初参加だし、サリーナの面倒は身内である俺達が見よう。慣れてきたら他の奴らも相手をしてやって欲しい」
先ずはサリーナの実力を見る、という事で模擬戦が行われる事になった。
相手はオーギー。修行中も何度か手合わせした事がある。
サリーナの武器は仕込み手甲武器である。力が無い分、技量でカバーしている。左右で違っており、右手は剣と小型クロスボウ、左手は爪であった。
基本、相手の武器を左手で受け流し、右手の一撃必殺で仕留める戦闘スタイルである。相手が距離を取れば即座にクロスボウの毒矢飛んで来る。
対するオーギーの武器は伸縮式の旋棍。握り手の所に小型の盾も付いており、手元を攻撃して武器を取り落とさせる事が困難。攻守両方に対応出来た。
今回は試合という事で飛び道具は使わない。仕込み武器もあらかじめ出した状態で行う事になる。
サリーナはオーギーには勝てた試しが無かった。
しかし負けっぱなしではいられない。オーギーが旅立ってからも、サリーナなりに血の滲むような努力と研鑽を積んで来たのだ。
「双方とも準備は良いか? では――始め!」
ジルベリクの号令が下された瞬間、サリーナは大地を蹴った。
***
「――そこまで!」
従兄弟のオーギーとの試合は、惜しいところでサリーナが負けた。
突き付けられたナイフの切っ先がそっと離れて行く。
「流石に冷や汗をかいたぞ。強くなったな、サリーナ」
オーギーはそう言って、サリーナに手を差し伸べて立たせてくれた。
「俺の武器を片方とはいえ、落とさせるなんて大したものだ」
自信があったのに、と頬を掻くオーギー。少し離れた場所には片方の旋棍が落ちていた。
「ありがとう、オーギー兄様。頑張ったかいがあったわ」
勝てこそはしなかったものの、自分は良い所まで追い詰める事が出来た。
オーギーの顔色を変え、本気を出させたのだ。
以前は武器を取り落とさせる事すら出来なかった事を考えれば大した進歩だと思う。
サリーナは自分の弱点を補う為、これまで体の柔軟性と素早さ、そして蹴り技を鍛えて来た。
女はどうしても筋肉や力に限界がある。
それはサリーナとて自覚していた。だからこそ、足の筋肉を活用する事を思いついた。
捕まってしまえば力では勝てない。逃げる為に素早さと体の柔軟性を必死で鍛える必要があった。
グルグルと回転して変幻自在に伸びて来る旋棍は厄介だ。サリーナはオーギーの攻撃を受ける振りをして機を伺った。
真っ直ぐ攻撃すると見せかけて地に滑り込み、下から僅かな隙目掛けて手元を蹴り上げる。その勢いのまま次の瞬間には転がって距離を取り態勢を整えた。
試合を見ていた隠密騎士達は歓声を上げ、口笛を吹いた事でサリーナはオーギーの武器を落とさせる事に成功した事を知った。
その後は武器を拾わせないよう猛攻撃を仕掛ける。堪りかねたオーギーは腰のナイフを抜いて応戦したのだった。
試合後、審判を務めた隠密騎士筆頭のジルベリクは勿論、叔父のレオポールにマリー様専属のシーヨク兄弟――隠密騎士達に口々に健闘を称えられたサリーナは上機嫌になっていた。
明らかに隠密騎士達のサリーナを見る目が変わっていた。
胡散臭い者を見る目から存在を認めた眼差しへ――事実、サリーナの身のこなしの軽さや戦いぶりは明らかに侍女達の行う訓練の範囲を逸脱した実力であった。
見える形で力を示した事で、彼らはサリーナの訓練参加を認めてくれたのである。
彼女がここに居るのは、本人の希望による。隠密騎士の訓練に参加したいそうだ。勿論殿の許可を得ている」
庭師――隠密騎士筆頭を務める鳥ノ庄の隼のジルベリクがそう言って訓練着に身を包んだサリーナを紹介する。
念願の隠密騎士達に混じって訓練出来る事に心躍らせ、また緊張しながら、サリーナは頭を垂れて丁寧に挨拶をした。
「ご紹介に与りました、サリーナ・コジーと申します。獅子ノ庄では隠密騎士候補達に混じって長い事訓練に明け暮れておりました。未熟者ですが、何卒宜しくお願い申し上げます」
「サリーナの実力では侍女の訓練じゃ物足りないだろうな」
「うむ、女だてらに山猫と呼ばれていたぐらいだ、サリーナの事は俺も保証しよう」
サリーナが顔を上げると、二人の男が近付いて来た。見知った顔に緊張が少し解れる。
「レオポール叔父様、オーギー兄様、お久しぶりです!」
「久しいな、サリーナ。少し見ない間に大きくなった」
「暫くぶりだな山猫娘」
彼らはサリーナにとって馴染み深い身内だった。
一人は三頭獣の二つ名を持つレオポール・シンブリ。
父の弟であり、隠密騎士第一線で頑張っている。アン姫様の専属となる程の実力者で、サリーナが憧れている隠密騎士達の一人である。
そしてもう一人の白獅子の二つ名を持つオーギー・シンブリはサリーナと一番年が近い従兄弟であり、修行中は仲良くして貰っていた。
レオポールが隠密騎士達を見回した。
「初参加だし、サリーナの面倒は身内である俺達が見よう。慣れてきたら他の奴らも相手をしてやって欲しい」
先ずはサリーナの実力を見る、という事で模擬戦が行われる事になった。
相手はオーギー。修行中も何度か手合わせした事がある。
サリーナの武器は仕込み手甲武器である。力が無い分、技量でカバーしている。左右で違っており、右手は剣と小型クロスボウ、左手は爪であった。
基本、相手の武器を左手で受け流し、右手の一撃必殺で仕留める戦闘スタイルである。相手が距離を取れば即座にクロスボウの毒矢飛んで来る。
対するオーギーの武器は伸縮式の旋棍。握り手の所に小型の盾も付いており、手元を攻撃して武器を取り落とさせる事が困難。攻守両方に対応出来た。
今回は試合という事で飛び道具は使わない。仕込み武器もあらかじめ出した状態で行う事になる。
サリーナはオーギーには勝てた試しが無かった。
しかし負けっぱなしではいられない。オーギーが旅立ってからも、サリーナなりに血の滲むような努力と研鑽を積んで来たのだ。
「双方とも準備は良いか? では――始め!」
ジルベリクの号令が下された瞬間、サリーナは大地を蹴った。
***
「――そこまで!」
従兄弟のオーギーとの試合は、惜しいところでサリーナが負けた。
突き付けられたナイフの切っ先がそっと離れて行く。
「流石に冷や汗をかいたぞ。強くなったな、サリーナ」
オーギーはそう言って、サリーナに手を差し伸べて立たせてくれた。
「俺の武器を片方とはいえ、落とさせるなんて大したものだ」
自信があったのに、と頬を掻くオーギー。少し離れた場所には片方の旋棍が落ちていた。
「ありがとう、オーギー兄様。頑張ったかいがあったわ」
勝てこそはしなかったものの、自分は良い所まで追い詰める事が出来た。
オーギーの顔色を変え、本気を出させたのだ。
以前は武器を取り落とさせる事すら出来なかった事を考えれば大した進歩だと思う。
サリーナは自分の弱点を補う為、これまで体の柔軟性と素早さ、そして蹴り技を鍛えて来た。
女はどうしても筋肉や力に限界がある。
それはサリーナとて自覚していた。だからこそ、足の筋肉を活用する事を思いついた。
捕まってしまえば力では勝てない。逃げる為に素早さと体の柔軟性を必死で鍛える必要があった。
グルグルと回転して変幻自在に伸びて来る旋棍は厄介だ。サリーナはオーギーの攻撃を受ける振りをして機を伺った。
真っ直ぐ攻撃すると見せかけて地に滑り込み、下から僅かな隙目掛けて手元を蹴り上げる。その勢いのまま次の瞬間には転がって距離を取り態勢を整えた。
試合を見ていた隠密騎士達は歓声を上げ、口笛を吹いた事でサリーナはオーギーの武器を落とさせる事に成功した事を知った。
その後は武器を拾わせないよう猛攻撃を仕掛ける。堪りかねたオーギーは腰のナイフを抜いて応戦したのだった。
試合後、審判を務めた隠密騎士筆頭のジルベリクは勿論、叔父のレオポールにマリー様専属のシーヨク兄弟――隠密騎士達に口々に健闘を称えられたサリーナは上機嫌になっていた。
明らかに隠密騎士達のサリーナを見る目が変わっていた。
胡散臭い者を見る目から存在を認めた眼差しへ――事実、サリーナの身のこなしの軽さや戦いぶりは明らかに侍女達の行う訓練の範囲を逸脱した実力であった。
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