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「桐は霧に通ず。桐の一族は霧を変幻自在に操るる」
何故私が霧の原因だと思ったのかと聞くと、巣守隆康はそう答えた。
桐の一族とやらは霧を自由自在に操る能力がある、と。
でも、それはもはや魔法や超能力ではないだろうか。
疑問を抱きつつも情報収集に努める。
苦労しながらなんとかかんとか聞き出して理解出来たのは、馬鹿殿が戦の真最中で戦っていたところ突如濃霧が発生して敵味方大混乱になってしまったという事だった。
敵味方の判別がつかなければ戦にならないのでいったん引く事になったものの、味方とはぐれ、道に迷って山道に入ってしまったとのこと。そこで私と出くわしてしまったということだ。
ちなみに化粧は戦でもし敵に討たれた時に顔が見苦しくないようにするためだそうで、武将の嗜みだとか…。
化粧している方がむしろ見苦しいと思うのは私だけだろうか?
そう言うと、巣守隆康は「雅を知らぬは御許、何処の鄙の出にや」と渋面を作った。
ああん、田舎者だってぇ?やかましいわ馬鹿殿の癖に。
などと、内心悪態を突きながら後を追う。
フル装備の甲冑を着ている割に巣守隆康の歩みは早かった。
あれって確か総重量何十キロとかあるんじゃ…それとも実は軽いのか?
ポニーも小柄の割に持久力と機動力は確かなようで、山道をポコポコ進んでいく。
「ちょ、ちょっと!」
進むのが速い。こちとら草履である。
木の根に躓いてこけそうになり、膝をついてしまった。
あーあ、喪服が…。
よろよろと立ち上がりながらしっかりついた土汚れを泣きそうになりながら払っていると、浮遊感を感じて悲鳴を上げた。
「静まられッ」
シッと言うように鋭く囁かれ、気が付くと馬の背に横座りに乗せられていた。
「馬より落ちぬやう」
何、と聞く暇もなく、馬が動き出したので、私は慌てて鞍を掴んだ。
巣守隆康の様子がなんだかおかしい。
じっと黙って黙々と歩き続けている。そして、周囲を気にしているようだ。
「あの、ありが――」
「あなや、こなたにおわすは巣守三郎隆康殿ではござらぬや。我が寿藤家の勧進せし藤川天神様が御導きにや。その首級この寿藤惟成が貰ひ受けむぞ!」
その声を皮切りに、山道の斜面の上から数人の人影がバラバラと姿を見せる。
その内の一人が、私達の行く道を塞ぐように飛び降りて刀を抜いた。
「馬鹿殿2号キター」
思わず呟いた私は悪くない。
緊迫している状況なんだろうけど、全てはその化粧のせいなんだ。
***
寿藤惟成と名乗ったそいつは巣守隆康とは違い、体型はすらりとしていた。
「何処からかどわかして来たかは知らねど、桐の女性も具しておるとは」
馬鹿殿2号は、こちらをジロジロと眺めて、蛇を彷彿とさせるイヤらしい笑みを浮かべた。
巣守隆康は警戒しながらじっとしている。
この包囲を逃れる方法を考えているのだろうが、私が足手まといなのは明らかである。
2号の言葉から察するに――私は辱められるかも知れないが、殺されはしないだろう。
けれど、彼は違う。
変な奴で会ったばかりだけれど、巣守隆康が目の前で殺されるのは見たくなかった。
二人とも生き残るにはどうすればいいか――私は覚悟を決めた。
「一人で逃げられるなら、逃げて」
【後書き】
「桐は霧に通ず。桐の一族は霧を変幻自在に操るる」
→「『桐』は(音的に)『霧』に通じる。(だから)桐の一族は霧を変幻自在に操れる」
「雅を知らぬは御許、何処の鄙の出にや」
→「(この)風雅な事が分からないとはご婦人、(あなたは)どこの田舎の出身なのか」
「静まられッ」
→「静かにッ!」
「馬より落ちぬやう」
→「馬から落ちないように」
「あなや、こなたにおわすは巣守三郎隆康殿ではござらぬや。我が寿藤家の勧進せし藤川天神様が御導きにや。その首級この寿藤惟成が貰ひ受けむぞ!」
→「おや、こちらにいらっしゃるのは巣守三郎隆康殿ではございませんか。(これも)我が寿藤家の信心する藤川天神様のお導きだろうか。その首をこの寿藤惟成が貰い受けてやるぞ!」
「何処からかどわかして来たかは知らねど、桐の女性も具しておるとは」
→「どこから誘拐して来たのか知らないが、桐の(一族)の女も連れているなんて」
何故私が霧の原因だと思ったのかと聞くと、巣守隆康はそう答えた。
桐の一族とやらは霧を自由自在に操る能力がある、と。
でも、それはもはや魔法や超能力ではないだろうか。
疑問を抱きつつも情報収集に努める。
苦労しながらなんとかかんとか聞き出して理解出来たのは、馬鹿殿が戦の真最中で戦っていたところ突如濃霧が発生して敵味方大混乱になってしまったという事だった。
敵味方の判別がつかなければ戦にならないのでいったん引く事になったものの、味方とはぐれ、道に迷って山道に入ってしまったとのこと。そこで私と出くわしてしまったということだ。
ちなみに化粧は戦でもし敵に討たれた時に顔が見苦しくないようにするためだそうで、武将の嗜みだとか…。
化粧している方がむしろ見苦しいと思うのは私だけだろうか?
そう言うと、巣守隆康は「雅を知らぬは御許、何処の鄙の出にや」と渋面を作った。
ああん、田舎者だってぇ?やかましいわ馬鹿殿の癖に。
などと、内心悪態を突きながら後を追う。
フル装備の甲冑を着ている割に巣守隆康の歩みは早かった。
あれって確か総重量何十キロとかあるんじゃ…それとも実は軽いのか?
ポニーも小柄の割に持久力と機動力は確かなようで、山道をポコポコ進んでいく。
「ちょ、ちょっと!」
進むのが速い。こちとら草履である。
木の根に躓いてこけそうになり、膝をついてしまった。
あーあ、喪服が…。
よろよろと立ち上がりながらしっかりついた土汚れを泣きそうになりながら払っていると、浮遊感を感じて悲鳴を上げた。
「静まられッ」
シッと言うように鋭く囁かれ、気が付くと馬の背に横座りに乗せられていた。
「馬より落ちぬやう」
何、と聞く暇もなく、馬が動き出したので、私は慌てて鞍を掴んだ。
巣守隆康の様子がなんだかおかしい。
じっと黙って黙々と歩き続けている。そして、周囲を気にしているようだ。
「あの、ありが――」
「あなや、こなたにおわすは巣守三郎隆康殿ではござらぬや。我が寿藤家の勧進せし藤川天神様が御導きにや。その首級この寿藤惟成が貰ひ受けむぞ!」
その声を皮切りに、山道の斜面の上から数人の人影がバラバラと姿を見せる。
その内の一人が、私達の行く道を塞ぐように飛び降りて刀を抜いた。
「馬鹿殿2号キター」
思わず呟いた私は悪くない。
緊迫している状況なんだろうけど、全てはその化粧のせいなんだ。
***
寿藤惟成と名乗ったそいつは巣守隆康とは違い、体型はすらりとしていた。
「何処からかどわかして来たかは知らねど、桐の女性も具しておるとは」
馬鹿殿2号は、こちらをジロジロと眺めて、蛇を彷彿とさせるイヤらしい笑みを浮かべた。
巣守隆康は警戒しながらじっとしている。
この包囲を逃れる方法を考えているのだろうが、私が足手まといなのは明らかである。
2号の言葉から察するに――私は辱められるかも知れないが、殺されはしないだろう。
けれど、彼は違う。
変な奴で会ったばかりだけれど、巣守隆康が目の前で殺されるのは見たくなかった。
二人とも生き残るにはどうすればいいか――私は覚悟を決めた。
「一人で逃げられるなら、逃げて」
【後書き】
「桐は霧に通ず。桐の一族は霧を変幻自在に操るる」
→「『桐』は(音的に)『霧』に通じる。(だから)桐の一族は霧を変幻自在に操れる」
「雅を知らぬは御許、何処の鄙の出にや」
→「(この)風雅な事が分からないとはご婦人、(あなたは)どこの田舎の出身なのか」
「静まられッ」
→「静かにッ!」
「馬より落ちぬやう」
→「馬から落ちないように」
「あなや、こなたにおわすは巣守三郎隆康殿ではござらぬや。我が寿藤家の勧進せし藤川天神様が御導きにや。その首級この寿藤惟成が貰ひ受けむぞ!」
→「おや、こちらにいらっしゃるのは巣守三郎隆康殿ではございませんか。(これも)我が寿藤家の信心する藤川天神様のお導きだろうか。その首をこの寿藤惟成が貰い受けてやるぞ!」
「何処からかどわかして来たかは知らねど、桐の女性も具しておるとは」
→「どこから誘拐して来たのか知らないが、桐の(一族)の女も連れているなんて」
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