6 / 6
実現
しおりを挟む
ーコンコンコン
面接室の扉がノックされる。
「どうぞ。」
部屋の中から面接官の声が聞こえて、入室する。
「失礼いたします。」
少し開けた窓からは、爽やかな風が吹き込み、春の日差しが面接室を照らしていた。
「神楽坂リンです。本日は宜しくお願い致します。」
「どうぞ、おかけ下さい。」
「失礼致します。」
「神楽坂リンさんですね。我が社への志望動機をお聞ききしてもいいでしょうか?」
「貴方が居るからです。」
「は?」
「生まれ変わって貴方に会いに来ました。」
「き、君、ふざけるのも…」
リンは椅子が大きな音をたてるのも構わず、立ち上がった。
「ふざけてるのはどっちなのさ、お兄さん?」
「き、君、面接中だぞ。座りたまえ…」
面接官は嗜めるが、目が泳ぎ、冷や汗をかいている。
「俺さ、ちゃんと約束守って、10年経って迎えに行ったんだよ。そしたら、直前で逃げやがって。自分から言った癖に。」
「こ、怖かったんだ…」
「ふうん。やっと認めたね。で?」
「ず、ずっと待ってたんだよ。だけど、もう俺の事なんて忘れてるかもしれない。君が来るかどうか知らなければ、ずっと来たかもしれないって思っていられるから…」
「それで、会えないけど思い合ってるって自己満足してた訳?都合のいい、織姫と彦星だねえ?」
「ゔ…」
「ずっとそうやって生きて来たんだ?俺みたいな純真な子供を傷つけて?」
「そんなことしたい訳じゃないんだ!ただ俺には眩しくて。側に居るのが辛かった。君は綺麗だと、妖精なんて言ってくれたけど、あれは俺の霊魂で…」
「知ってたよ。お兄さんに自信を持って欲しかったんだ。」
「…そうだったのか…すごいな君は…」
「で?俺と付き合うよね?」
「い、いや、今、面接中だし…」
リンは溜息をつく。
「大体、何であんな所に居たの?」
「何か、そう、思い上がっていたんだ。何も知らない癖に何でも出来るって。それで、何もかも失って、だけどそれを認めたくなかった。だから、逃げたんだ。自分は普通の人間じゃない、現実じゃない、失敗したのは自分じゃない、普通の人間より、高い所に居ると閉じ籠もって安心してた。けど、閉じ籠もれば閉じ籠もる程、自信が無くなって…」
「当たり前じゃん。馬鹿なの?」
「…そうか、そうだな、君からしたら、俺は只の馬鹿なのか…」
「それで、いつも中途半端で逃げて、起こってもいない事に恐怖して、ありもしないことを妄想して、その妄想に俺も使われてる、と。」
「…俺だって悩んでる。けど、怖いんだ。」
「臆病なんだね。」
ビクリと肩を震わせる青年を見て、リンは苦笑する。
「いいよ、それでも。」
リンは青年の頬に手を添えると、自分の方に向かせた。
「逃げたければ、逃げたらいいよ。何処に逃げたって必ず見つけてみせるから。いつか、愛されてるって信じさせてあげる。覚悟してよね?」
青年はリンの手に自分の手を重ねて、苦笑した。
いつの間にか流れていた涙で、二人の手が濡れていた。
「君には敵わないな、リン君。」
面接室の扉がノックされる。
「どうぞ。」
部屋の中から面接官の声が聞こえて、入室する。
「失礼いたします。」
少し開けた窓からは、爽やかな風が吹き込み、春の日差しが面接室を照らしていた。
「神楽坂リンです。本日は宜しくお願い致します。」
「どうぞ、おかけ下さい。」
「失礼致します。」
「神楽坂リンさんですね。我が社への志望動機をお聞ききしてもいいでしょうか?」
「貴方が居るからです。」
「は?」
「生まれ変わって貴方に会いに来ました。」
「き、君、ふざけるのも…」
リンは椅子が大きな音をたてるのも構わず、立ち上がった。
「ふざけてるのはどっちなのさ、お兄さん?」
「き、君、面接中だぞ。座りたまえ…」
面接官は嗜めるが、目が泳ぎ、冷や汗をかいている。
「俺さ、ちゃんと約束守って、10年経って迎えに行ったんだよ。そしたら、直前で逃げやがって。自分から言った癖に。」
「こ、怖かったんだ…」
「ふうん。やっと認めたね。で?」
「ず、ずっと待ってたんだよ。だけど、もう俺の事なんて忘れてるかもしれない。君が来るかどうか知らなければ、ずっと来たかもしれないって思っていられるから…」
「それで、会えないけど思い合ってるって自己満足してた訳?都合のいい、織姫と彦星だねえ?」
「ゔ…」
「ずっとそうやって生きて来たんだ?俺みたいな純真な子供を傷つけて?」
「そんなことしたい訳じゃないんだ!ただ俺には眩しくて。側に居るのが辛かった。君は綺麗だと、妖精なんて言ってくれたけど、あれは俺の霊魂で…」
「知ってたよ。お兄さんに自信を持って欲しかったんだ。」
「…そうだったのか…すごいな君は…」
「で?俺と付き合うよね?」
「い、いや、今、面接中だし…」
リンは溜息をつく。
「大体、何であんな所に居たの?」
「何か、そう、思い上がっていたんだ。何も知らない癖に何でも出来るって。それで、何もかも失って、だけどそれを認めたくなかった。だから、逃げたんだ。自分は普通の人間じゃない、現実じゃない、失敗したのは自分じゃない、普通の人間より、高い所に居ると閉じ籠もって安心してた。けど、閉じ籠もれば閉じ籠もる程、自信が無くなって…」
「当たり前じゃん。馬鹿なの?」
「…そうか、そうだな、君からしたら、俺は只の馬鹿なのか…」
「それで、いつも中途半端で逃げて、起こってもいない事に恐怖して、ありもしないことを妄想して、その妄想に俺も使われてる、と。」
「…俺だって悩んでる。けど、怖いんだ。」
「臆病なんだね。」
ビクリと肩を震わせる青年を見て、リンは苦笑する。
「いいよ、それでも。」
リンは青年の頬に手を添えると、自分の方に向かせた。
「逃げたければ、逃げたらいいよ。何処に逃げたって必ず見つけてみせるから。いつか、愛されてるって信じさせてあげる。覚悟してよね?」
青年はリンの手に自分の手を重ねて、苦笑した。
いつの間にか流れていた涙で、二人の手が濡れていた。
「君には敵わないな、リン君。」
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
カーマン・ライン
マン太
BL
辺境の惑星にある整備工場で働くソル。
ある日、その整備工場に所属不明の戦闘機が不時着する。乗っていたのは美しい容姿の青年、アレク。彼の戦闘機の修理が終わるまで共に過ごすことに。
そこから、二人の運命が動き出す。
※余り濃い絡みはありません(多分)。
※宇宙を舞台にしていますが、スター○レック、スター・○ォーズ等は大好きでも、正直、詳しくありません。
雰囲気だけでも伝われば…と思っております。その辺の突っ込みはご容赦を。
※エブリスタ、小説家になろうにも掲載しております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
独占欲強い系の同居人
狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。
その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。
同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる