823 / 1,279
真似して心折れてた
しおりを挟む 久しぶりの隊はすっかり正月の準備ができていた。警備室の真新しい土嚢で囲まれた機関銃陣地の隣には門松が立っている。
「射撃場に来いって……なにすんだ?」
かなめは駐車場に停められたカウラのハコスカから降りるとそう言いながら伸びをした。
すでに射撃場には人だかりが出来ていた。訓練をサボって首からアサルトライフルをぶら下げた技術部員が背伸びをしている。手持ち無沙汰の整備班員はつなぎの尻をかきながら背伸びをしてレンジの中央を覗こうと飛び跳ねる。
「やってるな」
かなめはにんまりと笑って足を速める。それを見かけたブリッジクルーの女性隊員が人だかりの中央に向かって声をかけたようだった。
すぐに人垣が二つに割れて中央に立つ女性が誠達からも見えるようになった。
「あいつ……馬鹿だ」
立ち止まったかなめのつぶやき。こればかりは誠も同感だった。
テンガロンハット、皮のジャンバー、色あせたジーンズ。そして腰には二挺拳銃を下げる為の派手な皮製のガンベルトが光っている。西部劇のヒロインと言うよりもアメリカの田舎町の祭りに引っ張り出された女性である。
「ふ!」
わざと帽子のつばを下げたかと思うとすばやく跳ね上げてサラは誠達を見つめる。隣ではそんなサラをうれしそうに写真に取っているパーラの姿も見える。
「パーラ……溜まってたのよね」
さすがにあまりにも満面の笑みのサラとそれを夢中で撮影するパーラの態度にはアメリアも複雑な表情にならざるを得なかった。
「風が冷たいねえ……そういえばダコタで馬車強盗とやりあったときもこんな風が吹いていたっけ……」
そう言うとサラは射撃場の椅子にひらりと舞うようにして腰掛ける。手にしているのはかなめの愛用の葉巻。タバコが吸えないサラらしく、当然火はついていないし煙も出ない。
「何がしたいんだ?お前は?」
「お嬢さん?何かお困りで?」
そう言うとサラは胸に着けた保安官を示すバッジを誇らしげに見せ付ける。お嬢さん呼ばわりされたかなめはただ茫然とサラを見つめた。タンクトップにジーンズと言う明らかに常人なら寒そうな姿だが、それ以上にサラの雰囲気はおかしな具合だった。
「ああ、目の前におかしな格好の姉ちゃんがいるんで当惑しているな」
「ふっ……おかしな格好?」
「ああ、マカロニウェスタンに出てきそうなインチキ保安官スタイルの姉ちゃん」
そう言われてもサラはかなめから掠めたであろう火のついていない葉巻を咥えたままにんまりと笑って立ち上がるだけだった。
「そう言えばネバダで……」
たわごとをまた繰り返そうとするサラに飛び掛ったかなめがそのままサラの帽子を取り上げた。
「だめ!かなめちゃん!返してよ!」
サラがぴょんぴょん跳ねる。ようやく笑っていいという雰囲気になり、野次馬達も笑い始める。
「駄目よ!かなめちゃん!返してあげなさいよ」
上官と言うより保護者と言う雰囲気でアメリアはピシリとそう言った。ようやくその場の雰囲気が日常のものに帰っていくのに安心して誠達は射撃レンジに足を踏み入れた。
射撃場の机。サラが飛び跳ねている後ろには、小火器担当の下士官が苦い表情で手にした弾の入った箱を積み上げている。
「たくさん集めましたねえ」
誠も感心する。そこには時代物を装うようなパッケージの弾の他、何種類もの弾の箱が並んでいた。技術部の銃器担当班の下士官がそれを一つ一つ取り出しては眺めている。
「まあな。結構この手の銃は人気があるから種類は出てるから。特に今、サラの銃に入っている弾は特別だぜ。おい!サラ。いい加減はじめろよ」
下士官の言葉に渋々かなめは帽子をサラに返した。笑顔に戻ったサラはリラックスしたように静かに人型のターゲットの前に立つ。距離は30メートル。サラは一度両手を肩の辺りに上げて静止する。
「抜き撃ちだな」
カウラは真剣な顔でサラを見つめていた。
次の瞬間、すばやくサラの右手がガンベルトの銃に伸びた、引き抜かれた銃に左手が飛ぶ。そしてはじくようにハンマーが叩き落とされると同時に轟音が響き渡った。
「音がでけえなあ……それになんだ?この煙」
かなめがそう言うのももっともだった。誰もが弾の命中を確認する前にサラの銃から出るまるで秋刀魚でも焼いているような煙にばかり目が行った。風下に居た警備部員は驚いた表情で咳き込んでいる。
「これは?」
驚いているのはカウラも同じだった。ただ一人苦笑いの下士官にそう尋ねる。
「ブラックパウダーと言って、黒色火薬の炸薬入りの弾ですよ。時代的にはこれが正しいカウボーイシューティングのスタイルですから。このコルト・シングルアクション・アーミーの時代はまだ無煙火薬は発明されてないですからね。まあ俺も使ってみるのは初めてだったんですが……」
そう言う説明を受けて納得した誠だが、撃ったのはいいが煙を顔面にもろに浴びてむせているサラに同情の視線を送った。
「でもこれじゃあ……」
「ああ、ちゃんと無煙火薬の弾もあるから。ブラックパウダーはそちらの一箱だけ。あとはちゃんと普通に撃てる奴ばかりだよ」
誠はようやく安心する。だが、弾丸はどれもむき出しの鉛が目立つ巨大な姿。警察組織扱いになっている司法局実働部隊だから使えると言うような鉛むき出しのホローポイント弾に苦笑いを浮かべた。
「射撃場に来いって……なにすんだ?」
かなめは駐車場に停められたカウラのハコスカから降りるとそう言いながら伸びをした。
すでに射撃場には人だかりが出来ていた。訓練をサボって首からアサルトライフルをぶら下げた技術部員が背伸びをしている。手持ち無沙汰の整備班員はつなぎの尻をかきながら背伸びをしてレンジの中央を覗こうと飛び跳ねる。
「やってるな」
かなめはにんまりと笑って足を速める。それを見かけたブリッジクルーの女性隊員が人だかりの中央に向かって声をかけたようだった。
すぐに人垣が二つに割れて中央に立つ女性が誠達からも見えるようになった。
「あいつ……馬鹿だ」
立ち止まったかなめのつぶやき。こればかりは誠も同感だった。
テンガロンハット、皮のジャンバー、色あせたジーンズ。そして腰には二挺拳銃を下げる為の派手な皮製のガンベルトが光っている。西部劇のヒロインと言うよりもアメリカの田舎町の祭りに引っ張り出された女性である。
「ふ!」
わざと帽子のつばを下げたかと思うとすばやく跳ね上げてサラは誠達を見つめる。隣ではそんなサラをうれしそうに写真に取っているパーラの姿も見える。
「パーラ……溜まってたのよね」
さすがにあまりにも満面の笑みのサラとそれを夢中で撮影するパーラの態度にはアメリアも複雑な表情にならざるを得なかった。
「風が冷たいねえ……そういえばダコタで馬車強盗とやりあったときもこんな風が吹いていたっけ……」
そう言うとサラは射撃場の椅子にひらりと舞うようにして腰掛ける。手にしているのはかなめの愛用の葉巻。タバコが吸えないサラらしく、当然火はついていないし煙も出ない。
「何がしたいんだ?お前は?」
「お嬢さん?何かお困りで?」
そう言うとサラは胸に着けた保安官を示すバッジを誇らしげに見せ付ける。お嬢さん呼ばわりされたかなめはただ茫然とサラを見つめた。タンクトップにジーンズと言う明らかに常人なら寒そうな姿だが、それ以上にサラの雰囲気はおかしな具合だった。
「ああ、目の前におかしな格好の姉ちゃんがいるんで当惑しているな」
「ふっ……おかしな格好?」
「ああ、マカロニウェスタンに出てきそうなインチキ保安官スタイルの姉ちゃん」
そう言われてもサラはかなめから掠めたであろう火のついていない葉巻を咥えたままにんまりと笑って立ち上がるだけだった。
「そう言えばネバダで……」
たわごとをまた繰り返そうとするサラに飛び掛ったかなめがそのままサラの帽子を取り上げた。
「だめ!かなめちゃん!返してよ!」
サラがぴょんぴょん跳ねる。ようやく笑っていいという雰囲気になり、野次馬達も笑い始める。
「駄目よ!かなめちゃん!返してあげなさいよ」
上官と言うより保護者と言う雰囲気でアメリアはピシリとそう言った。ようやくその場の雰囲気が日常のものに帰っていくのに安心して誠達は射撃レンジに足を踏み入れた。
射撃場の机。サラが飛び跳ねている後ろには、小火器担当の下士官が苦い表情で手にした弾の入った箱を積み上げている。
「たくさん集めましたねえ」
誠も感心する。そこには時代物を装うようなパッケージの弾の他、何種類もの弾の箱が並んでいた。技術部の銃器担当班の下士官がそれを一つ一つ取り出しては眺めている。
「まあな。結構この手の銃は人気があるから種類は出てるから。特に今、サラの銃に入っている弾は特別だぜ。おい!サラ。いい加減はじめろよ」
下士官の言葉に渋々かなめは帽子をサラに返した。笑顔に戻ったサラはリラックスしたように静かに人型のターゲットの前に立つ。距離は30メートル。サラは一度両手を肩の辺りに上げて静止する。
「抜き撃ちだな」
カウラは真剣な顔でサラを見つめていた。
次の瞬間、すばやくサラの右手がガンベルトの銃に伸びた、引き抜かれた銃に左手が飛ぶ。そしてはじくようにハンマーが叩き落とされると同時に轟音が響き渡った。
「音がでけえなあ……それになんだ?この煙」
かなめがそう言うのももっともだった。誰もが弾の命中を確認する前にサラの銃から出るまるで秋刀魚でも焼いているような煙にばかり目が行った。風下に居た警備部員は驚いた表情で咳き込んでいる。
「これは?」
驚いているのはカウラも同じだった。ただ一人苦笑いの下士官にそう尋ねる。
「ブラックパウダーと言って、黒色火薬の炸薬入りの弾ですよ。時代的にはこれが正しいカウボーイシューティングのスタイルですから。このコルト・シングルアクション・アーミーの時代はまだ無煙火薬は発明されてないですからね。まあ俺も使ってみるのは初めてだったんですが……」
そう言う説明を受けて納得した誠だが、撃ったのはいいが煙を顔面にもろに浴びてむせているサラに同情の視線を送った。
「でもこれじゃあ……」
「ああ、ちゃんと無煙火薬の弾もあるから。ブラックパウダーはそちらの一箱だけ。あとはちゃんと普通に撃てる奴ばかりだよ」
誠はようやく安心する。だが、弾丸はどれもむき出しの鉛が目立つ巨大な姿。警察組織扱いになっている司法局実働部隊だから使えると言うような鉛むき出しのホローポイント弾に苦笑いを浮かべた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ナポレオンの妊活・立会い出産・子育て
せりもも
歴史・時代
帝国の皇子に必要なのは、高貴なる青き血。40歳を過ぎた皇帝ナポレオンは、早急に子宮と結婚する必要があった。だがその前に、彼は、既婚者だった……。ローマ王(ナポレオン2世 ライヒシュタット公)の両親の結婚から、彼がウィーンへ幽閉されるまでを、史実に忠実に描きます。
カクヨムから、一部転載
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる