9 / 1,279
壁と障子
しおりを挟む
「…儂は多重人格だったのじゃ!」
中日如来が、食い入る様にパソコンのディスプレイを覗き込んでいる。
口に手を当て、アワワワワ、とでも言いそうなくらい口を大きく開けている。
それでも、綺麗に正座をして、背筋はピシッと伸びている。
我が家には、座布団なんて洒落たものは無いから地べたに座り、物置と化している棚に鎮座した、中古のパソコンに齧りついている。
「あー、まあ、通常、心理的要因があって、多重人格になるわけだが、仏になったら、3人になると思っていて、死んだら3人になっていたわけだよな。なら、関係ないのかも知れんが、一応。生前のけいしんは、どんなだった?」
「厳しい家庭で育ったのじゃ。母は礼儀に厳しく、父からは男らしくしろと、よく叱られておった。」
「どんな子供だったんだ?」
「物語を書くのが、好きじゃった。山に入って草木を眺めているのも楽しかったのう。」
「へえ…ほっとけ教とは、いつ関わったんだ?」
「村に修行僧がやって来て、話を聞いて感動したのじゃ。それから一人で寺に通って本を読みふけって14歳で寺に入って、一人で山で修行したのじゃ。」
「一人で…師匠、は確か居なかったんだよな。仲間とかは?」
「父になよなよしているとよく叱られておって、…儂が男に興味があったようなんじゃ。それで父に友達を遠ざけられたんじゃ。それから、ずっと一人じゃ…」
「そうなんか…」
カチカチとマウスを操作して、mytubeのページを開く。
「俺はよく知らんが、ニューハーフとかって、それで仕事したり、テレビに出たりしてる人も居るぞ、ほら。褒められることじゃないかも知れんが、今時、そんなに気にしなくてもいいんじゃ…ああ、そうだ。こんなのもあるぞ。BLCD。」
「これは何じゃ?」
声優のページも開いてやる。
「このアニメの声出してる男の人が、こんな可愛い声で演技してるんだ。同一人物だぞ。すごいだろう?」
「すごいのじゃ!可愛いのじゃ!」
「気に入ったか?」
「面白いのじゃ!もっと聞きたいのじゃ!」
「そうか、そうか。そりゃ、良かった。」
果たして良かったのか?
仏様を腐の道に引きずり込んで、一抹の不安は無きにしも非ず。
「儂は何がいいのか分からん。」
可動明王が腕組みをして、それでも律儀にBLCDを聞いている。
同一人物なのに、こんなに性格が違うのか。
「男らしくあれと父に言われて、儂が思う理想の男らしい姿が、可動明王なのじゃ。現実の儂の姿は、中日如来と近いのう。」
「へえ…」
生きている時の記憶があって、人と同じように、思考し、感情があり、視覚や聴覚もある。
半透明の姿で、俺は美少女に会う前は、全く悪霊も仏モドキの姿も見えなかった。
カチカチとマウスを操作して、心霊番組のページを開く。
「こういう風にさ、テレビでよく心霊番組っていうのをやってるんだけど、何百年前の落ち武者が、イタコと話して成仏するってことなら。霊の状態で、記憶、思考力、視覚、聴覚があるってことだろ?じゃないと、イタコと話して成仏するってことが出来ない。」
「何の話なんじゃ?」
「肉体が無くなっても、記憶、思考力、視覚などがある。しかも、何百年も。それは、幽霊全般に言えることで、中日如来達だけに限ったことじゃない。自分が何者かって聞いたろ?基本、存在としては幽霊なんかと同じじゃないか。」
「むう…」
「よく、こういう霊って、磁場に居るとかいうけど、何かが動くにはエネルギーが必要で、磁場からエネルギーを供給してるんじゃないか。」
「儂が普段居る場所も、霊的なエネルギーが密集しているのじゃ。」
「じゃあ、たまにそこに帰ってエネルギーの供給をしてると?」
「そうじゃ。」
「俺が思うに、霊体ってのは基本、電気なんじゃなかろうか。それで、磁場からエネルギーを供給して運動している。肉体とは別に、電気だけで情報処理が出来てるわけだ。」
「むう…」
「生霊っていうのもあるもんな。俺に取り憑いてた悪霊みたいに。昼間だったから、寝ていたとは考えにくい。ということは、肉体と霊体の両方で別々に思考などが出来ることになる。肉体が無い時は、霊体だけで思考などをしていて、生きている時は、肉体と霊体が重なって思考などしてるんじゃないか。オーラっていうのが、肉体の周りに見えるしな。肉体で得た情報は、霊体にも取り込まれて、輪廻転生でその情報は残ったままで、たまに、前世の記憶がある人なんかも居るけど、あれは霊体の情報が残ったってことかもな。漫画とかで魂が抜けるとか表現があるけど、あれは一部の霊体が肉体から離れたってことか。意外と珍しくもないことかもな。」
「儂は、儂は…」
「何だ?怒ったのか?偉い仏様なのに、幽霊と一緒だって言われればそりゃそうかもしれんが…」
「違うのじゃ。今まで長く思い悩んでおったのじゃが、まるで、霧が晴れるようじゃ!」
本人が霧みたいなもんだが。
「話は聞かせてもらったわ!」
頭に直接響く様に、聞き覚えのある声が聞こえる。
起きてる時まで聞こえるようになったか…
「ミナト…」
中日如来が、食い入る様にパソコンのディスプレイを覗き込んでいる。
口に手を当て、アワワワワ、とでも言いそうなくらい口を大きく開けている。
それでも、綺麗に正座をして、背筋はピシッと伸びている。
我が家には、座布団なんて洒落たものは無いから地べたに座り、物置と化している棚に鎮座した、中古のパソコンに齧りついている。
「あー、まあ、通常、心理的要因があって、多重人格になるわけだが、仏になったら、3人になると思っていて、死んだら3人になっていたわけだよな。なら、関係ないのかも知れんが、一応。生前のけいしんは、どんなだった?」
「厳しい家庭で育ったのじゃ。母は礼儀に厳しく、父からは男らしくしろと、よく叱られておった。」
「どんな子供だったんだ?」
「物語を書くのが、好きじゃった。山に入って草木を眺めているのも楽しかったのう。」
「へえ…ほっとけ教とは、いつ関わったんだ?」
「村に修行僧がやって来て、話を聞いて感動したのじゃ。それから一人で寺に通って本を読みふけって14歳で寺に入って、一人で山で修行したのじゃ。」
「一人で…師匠、は確か居なかったんだよな。仲間とかは?」
「父になよなよしているとよく叱られておって、…儂が男に興味があったようなんじゃ。それで父に友達を遠ざけられたんじゃ。それから、ずっと一人じゃ…」
「そうなんか…」
カチカチとマウスを操作して、mytubeのページを開く。
「俺はよく知らんが、ニューハーフとかって、それで仕事したり、テレビに出たりしてる人も居るぞ、ほら。褒められることじゃないかも知れんが、今時、そんなに気にしなくてもいいんじゃ…ああ、そうだ。こんなのもあるぞ。BLCD。」
「これは何じゃ?」
声優のページも開いてやる。
「このアニメの声出してる男の人が、こんな可愛い声で演技してるんだ。同一人物だぞ。すごいだろう?」
「すごいのじゃ!可愛いのじゃ!」
「気に入ったか?」
「面白いのじゃ!もっと聞きたいのじゃ!」
「そうか、そうか。そりゃ、良かった。」
果たして良かったのか?
仏様を腐の道に引きずり込んで、一抹の不安は無きにしも非ず。
「儂は何がいいのか分からん。」
可動明王が腕組みをして、それでも律儀にBLCDを聞いている。
同一人物なのに、こんなに性格が違うのか。
「男らしくあれと父に言われて、儂が思う理想の男らしい姿が、可動明王なのじゃ。現実の儂の姿は、中日如来と近いのう。」
「へえ…」
生きている時の記憶があって、人と同じように、思考し、感情があり、視覚や聴覚もある。
半透明の姿で、俺は美少女に会う前は、全く悪霊も仏モドキの姿も見えなかった。
カチカチとマウスを操作して、心霊番組のページを開く。
「こういう風にさ、テレビでよく心霊番組っていうのをやってるんだけど、何百年前の落ち武者が、イタコと話して成仏するってことなら。霊の状態で、記憶、思考力、視覚、聴覚があるってことだろ?じゃないと、イタコと話して成仏するってことが出来ない。」
「何の話なんじゃ?」
「肉体が無くなっても、記憶、思考力、視覚などがある。しかも、何百年も。それは、幽霊全般に言えることで、中日如来達だけに限ったことじゃない。自分が何者かって聞いたろ?基本、存在としては幽霊なんかと同じじゃないか。」
「むう…」
「よく、こういう霊って、磁場に居るとかいうけど、何かが動くにはエネルギーが必要で、磁場からエネルギーを供給してるんじゃないか。」
「儂が普段居る場所も、霊的なエネルギーが密集しているのじゃ。」
「じゃあ、たまにそこに帰ってエネルギーの供給をしてると?」
「そうじゃ。」
「俺が思うに、霊体ってのは基本、電気なんじゃなかろうか。それで、磁場からエネルギーを供給して運動している。肉体とは別に、電気だけで情報処理が出来てるわけだ。」
「むう…」
「生霊っていうのもあるもんな。俺に取り憑いてた悪霊みたいに。昼間だったから、寝ていたとは考えにくい。ということは、肉体と霊体の両方で別々に思考などが出来ることになる。肉体が無い時は、霊体だけで思考などをしていて、生きている時は、肉体と霊体が重なって思考などしてるんじゃないか。オーラっていうのが、肉体の周りに見えるしな。肉体で得た情報は、霊体にも取り込まれて、輪廻転生でその情報は残ったままで、たまに、前世の記憶がある人なんかも居るけど、あれは霊体の情報が残ったってことかもな。漫画とかで魂が抜けるとか表現があるけど、あれは一部の霊体が肉体から離れたってことか。意外と珍しくもないことかもな。」
「儂は、儂は…」
「何だ?怒ったのか?偉い仏様なのに、幽霊と一緒だって言われればそりゃそうかもしれんが…」
「違うのじゃ。今まで長く思い悩んでおったのじゃが、まるで、霧が晴れるようじゃ!」
本人が霧みたいなもんだが。
「話は聞かせてもらったわ!」
頭に直接響く様に、聞き覚えのある声が聞こえる。
起きてる時まで聞こえるようになったか…
「ミナト…」
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる