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第一章
間で生きる
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「痛たた…」
私はベッドの上で足を押さえていた。3日前に気付いた怪我が、今になって痛くなってきたのだ。
「なんで今になって…」
足に加えて腕も痛い。ズキズキする。今までこんな痛み味わった事ない。
「そうだ…学校」
もう7時になる。早く支度を終わらせて登校しなければ。そう思い、私は急いで支度を終わらせた。
「行ってきまーす」
声が玄関に響く。と思った瞬間、母が来た。
「はい、行ってらっしゃい。お弁当持った?今日帰りは?」
「あーあー、昨日言った事と同じだから。もう行くよ」
私はそう言い放って強引に家を出た。
私は帰宅部に入った。元々運動系は大の苦手なのに、中学では人数が足りないからって無理矢理陸上部に入らされた。だが、高校では念願だった帰宅部に入れた。早く帰って夜にしている勉強に精を出したいののだ。
ボーっと高校への道のりを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
「おはよう、木青」
聞き覚えのある声。
ーー青芽先輩だ。
「あ、っ、青芽先輩…」
いきなり先輩に声を掛けられ言葉が詰まる。
…初めて先輩に名前を呼ばれた。
「あの後、調子はどう?何日か学校休んでたみたいだけど、大丈夫?」
先輩が私を心配してくれた…。
人見知りの私。知らない先輩や先生、ましてや後輩までもにも、声を掛けられない私。こうして体調の事を心配してくれるのは、母と優以外誰もいなかった。
「…大丈夫です。ちょっと足と腕痛いけど、これくらいなら、平気です」
そう言い終わると、先輩の方を向きニコッと笑って見せる。
ーー実際こんな事やった事も無かったから、心臓がバクンバクン鳴っている。
先輩は一度驚いた表情になったが、すぐに表情を緩める。
「大丈夫なら、良かった」
「は、はい…」
「行こうか」
先輩が私の手を取る。
脳内で「かーっ」という擬音が鳴る。恥ずかしい時や顔が赤くなる時のお決まりの音だ。
私は昔から、人と人との間で生きてきた。私は虐められる方と虐める方で分ければ、典型的な虐められる方。と、皆には思わせている。私は自分の為、人の為、私に与えられた仕事…善良な事をするというのなら、何だってする。私が子供の頃ああだったように、苦しんでいたり、何かを我慢しているかの様に見える人を見ると、何だかじっとしていられないのだ。
だけど私は17歳で死ぬ。だから、私がいなくなるって皆が悲しまないように、出来るだけ目立たずに生きてきた。
例えば、AとBが喧嘩をしている。私は喧嘩の相手にも出来ないし、喧嘩を叱る事も出来ない。かと言ってAとBの仲裁役にもなれない。
私が死ぬというのは、高校の校長先生も分かっている。だから、校長先生も出来るだけ私に配慮した…皆が暮らしやすい富椿高校を作っていきたいと言っていた。
私は友達の優にも、私が死ぬという事を明かしている。小学生の頃から大の仲良しだ。喧嘩したりすることも滅多に無く、いつも一緒に遊んでいた。優も、喧嘩したりしないようにしてくれているのだろう。優なりの優しさ。
話が逸れたが、そんな優が今日は休みだった。風邪をひいたらしい。帰ったらお見舞いに行こう。
そして、もう一つ。先程の話に出てきた、校長先生。名を田坂 谷津士という。
その校長先生から、何故か呼び出された。
「失礼します。1年1組の木青春です」
私は校長室のドアをノックし、入っても良いか聞く。
「ああ、入り給え。」
「失礼します」
ドアを開け、室内に入る。
右横の壁には歴代の校長の写真が飾られており、左横には何だか分からない大きな観葉植物がある。
校長先生は日がよく当たる、窓際の椅子に座っていた。
「そこに座り給え」
先生が指差した椅子に座る。と同時に、先生もテーブルを挟んだ私の目の前のソファに腰掛ける。
「…要件は何でしょうか?」
「ああ」
そう言うと先生は、私の側にぐっと寄ってきて、誰もいないのに小声で話し始めた。
「君、好きな子が出来たんだって?」
「……!?」
…一体何故それを知っているのか。それを何で私の前で言うのか。
謎が多すぎる。
「な、何故それを…」
「君のお母さんから聞いたんだよ。好きな男の子が出来たって」
「お母さん…」
確かに母は何でも話してしまうような性格だ。
「お母さんとは連絡を取り合っているのだよ。君に万一の事があったらすぐ伝えられるように」
決して好きな人が出来たのは万一の事では無いはずだが。
「そうなんですか…」
「良かったじゃないか。もう余命僅かの君を想ってくれる人が出来て」
「え、はい…」
「それに、お母さんも喜ぶと思うよ」
まあ、確かにそうだ。だけど、今は…
「私は…青芽景太先輩が好きです。これは、純粋な〝愛〟です。他の人の為に好きになったのではありません」
先生は驚いている。そして、少し間を置いて言った。
「そうだな。すまなかった。変な言い方をしてしまった」
先生は目を瞑って謝る。
「君の生き方は…君自身で決めるといい」
「…分かりました。ありがとうございます」
私はそう言って校長室を出て行った。
校庭の木々の木漏れ日が差す廊下を、足早に歩いて行ったーー。
その日の夜、学校。
理科室に2つの人影があった。
1つは、あの青芽先輩。
「では今日は、これで」
そしてもう1つはーー。
「そうだね…」
ロングヘアに綺麗な顔。女性のようだ。窓の縁に座って、何かを持っている。
「木青春。気になる子だねーー。」
その手に持っていたのは、私の写真だった。
私はベッドの上で足を押さえていた。3日前に気付いた怪我が、今になって痛くなってきたのだ。
「なんで今になって…」
足に加えて腕も痛い。ズキズキする。今までこんな痛み味わった事ない。
「そうだ…学校」
もう7時になる。早く支度を終わらせて登校しなければ。そう思い、私は急いで支度を終わらせた。
「行ってきまーす」
声が玄関に響く。と思った瞬間、母が来た。
「はい、行ってらっしゃい。お弁当持った?今日帰りは?」
「あーあー、昨日言った事と同じだから。もう行くよ」
私はそう言い放って強引に家を出た。
私は帰宅部に入った。元々運動系は大の苦手なのに、中学では人数が足りないからって無理矢理陸上部に入らされた。だが、高校では念願だった帰宅部に入れた。早く帰って夜にしている勉強に精を出したいののだ。
ボーっと高校への道のりを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
「おはよう、木青」
聞き覚えのある声。
ーー青芽先輩だ。
「あ、っ、青芽先輩…」
いきなり先輩に声を掛けられ言葉が詰まる。
…初めて先輩に名前を呼ばれた。
「あの後、調子はどう?何日か学校休んでたみたいだけど、大丈夫?」
先輩が私を心配してくれた…。
人見知りの私。知らない先輩や先生、ましてや後輩までもにも、声を掛けられない私。こうして体調の事を心配してくれるのは、母と優以外誰もいなかった。
「…大丈夫です。ちょっと足と腕痛いけど、これくらいなら、平気です」
そう言い終わると、先輩の方を向きニコッと笑って見せる。
ーー実際こんな事やった事も無かったから、心臓がバクンバクン鳴っている。
先輩は一度驚いた表情になったが、すぐに表情を緩める。
「大丈夫なら、良かった」
「は、はい…」
「行こうか」
先輩が私の手を取る。
脳内で「かーっ」という擬音が鳴る。恥ずかしい時や顔が赤くなる時のお決まりの音だ。
私は昔から、人と人との間で生きてきた。私は虐められる方と虐める方で分ければ、典型的な虐められる方。と、皆には思わせている。私は自分の為、人の為、私に与えられた仕事…善良な事をするというのなら、何だってする。私が子供の頃ああだったように、苦しんでいたり、何かを我慢しているかの様に見える人を見ると、何だかじっとしていられないのだ。
だけど私は17歳で死ぬ。だから、私がいなくなるって皆が悲しまないように、出来るだけ目立たずに生きてきた。
例えば、AとBが喧嘩をしている。私は喧嘩の相手にも出来ないし、喧嘩を叱る事も出来ない。かと言ってAとBの仲裁役にもなれない。
私が死ぬというのは、高校の校長先生も分かっている。だから、校長先生も出来るだけ私に配慮した…皆が暮らしやすい富椿高校を作っていきたいと言っていた。
私は友達の優にも、私が死ぬという事を明かしている。小学生の頃から大の仲良しだ。喧嘩したりすることも滅多に無く、いつも一緒に遊んでいた。優も、喧嘩したりしないようにしてくれているのだろう。優なりの優しさ。
話が逸れたが、そんな優が今日は休みだった。風邪をひいたらしい。帰ったらお見舞いに行こう。
そして、もう一つ。先程の話に出てきた、校長先生。名を田坂 谷津士という。
その校長先生から、何故か呼び出された。
「失礼します。1年1組の木青春です」
私は校長室のドアをノックし、入っても良いか聞く。
「ああ、入り給え。」
「失礼します」
ドアを開け、室内に入る。
右横の壁には歴代の校長の写真が飾られており、左横には何だか分からない大きな観葉植物がある。
校長先生は日がよく当たる、窓際の椅子に座っていた。
「そこに座り給え」
先生が指差した椅子に座る。と同時に、先生もテーブルを挟んだ私の目の前のソファに腰掛ける。
「…要件は何でしょうか?」
「ああ」
そう言うと先生は、私の側にぐっと寄ってきて、誰もいないのに小声で話し始めた。
「君、好きな子が出来たんだって?」
「……!?」
…一体何故それを知っているのか。それを何で私の前で言うのか。
謎が多すぎる。
「な、何故それを…」
「君のお母さんから聞いたんだよ。好きな男の子が出来たって」
「お母さん…」
確かに母は何でも話してしまうような性格だ。
「お母さんとは連絡を取り合っているのだよ。君に万一の事があったらすぐ伝えられるように」
決して好きな人が出来たのは万一の事では無いはずだが。
「そうなんですか…」
「良かったじゃないか。もう余命僅かの君を想ってくれる人が出来て」
「え、はい…」
「それに、お母さんも喜ぶと思うよ」
まあ、確かにそうだ。だけど、今は…
「私は…青芽景太先輩が好きです。これは、純粋な〝愛〟です。他の人の為に好きになったのではありません」
先生は驚いている。そして、少し間を置いて言った。
「そうだな。すまなかった。変な言い方をしてしまった」
先生は目を瞑って謝る。
「君の生き方は…君自身で決めるといい」
「…分かりました。ありがとうございます」
私はそう言って校長室を出て行った。
校庭の木々の木漏れ日が差す廊下を、足早に歩いて行ったーー。
その日の夜、学校。
理科室に2つの人影があった。
1つは、あの青芽先輩。
「では今日は、これで」
そしてもう1つはーー。
「そうだね…」
ロングヘアに綺麗な顔。女性のようだ。窓の縁に座って、何かを持っている。
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その手に持っていたのは、私の写真だった。
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