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第一章

恋を成立させるための作戦

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 先日。入学式があった日。私は2年生の景太先輩に一目惚れし、何とか景太先輩と恋仲になる為にある計画を立てていた。
その名も、「運命の曲がり角」作戦。男の子と女の子が曲がり角でぶつかってそこから2人の恋が始まる…みたいな漫画みたいな出来事がある訳が無いが、やってみなければ結果は出ない。明後日、計画を実行するつもりだ。
それまでに、準備を整わせておかなければいけない。まあ準備といっても、前日しっかりと遅刻するように行く…みたいな事かな。遅刻するように行くって、変だけど。
私の問題は、そこにあった。当日、本当に遅刻してしまいそうなのだ。小学生の頃から幼馴染の優には私は「お茶目」と言われてきた。遅刻して大急ぎで学校に行ったら、階段で転んで大怪我したり。給食を運んでいたら間違って牛乳を友達の頭にかけちゃったり。そのせいで、私は何回も嫌な思いをしてきた。
でも、今回は違う。
今回は、絶対に失敗してはならない。お茶目な事をしてはいけない。せっかく、好きな人が出来たというのに。恋仲になるかもしれないのに。だからまずは、前日はしっかりと早めに寝る。それをすれば、色々上手くいくかもしれない。そう思っていた。

 次の日。計画実行の前日。高校生活1日目。私が優と廊下をあるいていたら、前から2年生の先輩達が。しかもその中に、憧れの景太先輩の姿が!景太先輩を見つめていたら、名札を付けていることに気がついた。名札には、「青芽 景太あおが けいた」と書いてあった。
…ついに、先輩のフルネームが分かった。次からは、青芽先輩と呼ぼう。

(計画実行は明日。フルネームも分かったことだし、明日は絶対に成功させるぞ…)

そう思っていた。

 そして、計画実行の日。
…私は、寝坊してしまった。本当に。目が覚めた時には、時計は7時15分を回っていた。

(やばい…)

私は大急ぎで支度をした。コンタクトもしないで、眼鏡をして行った。予定通り、食パンを咥えて家を出た。

(本当に拙い。急がないと)

家を飛び出し、高校へ駆けて行った。

 そして、高校の廊下。窓から見える教室では、先生は居ないがもう皆が席に着いて友達と話している。それを横目に見ながら、私は廊下を走る。

「はあ、はあ……」

息がもう大分切れている。
そして…廊下の曲がり角が見えた。その曲がり角を曲がれば、そこは1年の教室。2年生がいる事は少ないが、何かの用事で来ている事もあるかもしれない。

 そして運良く、曲がり角の先に誰かの気配が!私はそれが青芽先輩だと信じて、勢いよく曲がり角を曲がった…!

「ぐふぉっ!」

 …誰かと大きくぶつかった…そして倒れた。
そのせいで、私は口に咥えていたパンを吹いてしまった。

「うぅ……」

私はお腹を抑える。何故かわからないがお腹がギュルギュルと唸っている。苦し紛れに上を向き、ぶつかってしまった人にお礼を言おうとした…。

 そのぶつかった超本人は、私の好きな青芽先輩だった。

 「あ、あの…すみません、急いでて…」

…私は初めて見る青芽先輩に驚き、あたふたして答える。
予想通りの、超美男子だった。
茶色がかった髪が似合う茶色の瞳。鼻が高く、周りの先輩よりも背が一回り高い。
青芽先輩は、私に手を差し出してくれた。

「…大丈夫?保健室、一緒に行こうか?」

柔らかな声。私の脳に優しく響く。入学式の日と同じように、頬が赤くなる。

「だだだ、大丈夫です…」

一瞬夢を見た様になったが目を覚まし、我に返る。青芽先輩に手を握られている事に気付き、慌てて断る。
「そう?じゃあ、またね」
青芽先輩は私に手を振って先輩達と2階へ戻っていく。
まだ、心臓がバクンバクン鳴っている。私は胸を押さえ、目を瞑る。息を吸い込み、吐く。そして目を開き、心音も整ったら戻る。私がよくやっている、緊張を抑える為のおまじないだ。
丁度チャイムが鳴った。私は急いで教室へ戻る。

 授業をやっている時も、青芽先輩の事で頭がいっぱいで、先生の話も全く入ってこなかった。

 そして帰り道。優と帰っていた。
私は優に、本音…青芽景太という先輩が好きな事を言った。

「そうなんだ!春にも好きな人いるんだ!」

「すご~い」と言いながらパチパチと手を叩いてくれた。

「良かったじゃん。その先輩とは上手くいきそうなの?」
「う…」

優の言葉に私は押し黙る。

「その先輩とは接触できた?」
「うん、まあ。今日、私ちょっと遅れてきたでしょ。あの時に」
「成る程。」

優は顎に手を当て、少し考える。間を置いてから、言った。

「じゃあさ、明日の土曜、私の家に来て。色々言ってあげるから」

色々言ってあげるとは。上から目線だが、相談に乗ってくれる事は確か。優は
、こういう時に頼りになる友達。

「ありがとう。じゃあ、そうしてもらうよ」

そして、優と私は二手に分かれる道で手を振って別れた。
1人になってから、私は考えた。

(青芽先輩と恋に落ちるには、どうすればいいのか…)

目を細め、考え込む。私の背が夕日に照らされ、影が長く延びる。

(…他にも、恋愛を成立させる為の作戦を考えなければ…)

そう思いながら、私は家のドアを開いた。
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