突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ

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13.街へおでかけ8

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「リディ?!」



 刹那、名前を呼ばれると同時に、さっと抱きこまれ、ラデクの暴力から逃れることができました。

 そのままぎゅっと抱きしめられ、顔を上げると、レイが青い顔でこちらを見下ろしています。



「レイ・・・ありがとうございます。」

「ありがとうじゃないよ、ちょっと離れた間にどうして殴られてるの?!」

「いえ、貴方のおかげでまだ殴られてはいません。」

「そういうことじゃなくて。僕がいなかったら殴られてたよね?!何やってんですか!」



 最後はすぐそばに来ていたルカに向かって、レイが怒鳴りました。



「すまん、予想もしない急展開に動きが遅れた。お前は、よくも間に合ったものだな。」



 ルカは申し訳なさそうに頭に手をやり、謝罪しています。



「全力疾走させられましたよ。リディが殴られるところなんて見たくないんですよ。本当に心臓が潰れるかと思った。」

「ごめんなさい。」



 私も謝りました。





「それで、僕には状況がさっぱり分からないんですけど。」



 レイはそう言いながら息をついて私を離すと、ラデクの方へ向き直りました。



「どういうことか説明してもらいましょうかね。ラデク・ローマン殿。」



 レイの出現で場の空気が変わり、私達の組み合わせにローマン兄妹が不可解なものを見るような視線を向けてきています。



 突如、侯爵令嬢が、レイに縋りついてきました。彼はぎょっとして後ずさりますが、あっさり捕まっています。

 侯爵令嬢は彼の腕の中にいる私をすごい勢いで睨みつけ、ついでに腕を抓ってきました。痛い!



「ラインハルト様!お会いできて嬉しいですわ!この娘はたかが伯爵令嬢のくせに、ローマン侯爵家嫡男であるお兄様に逆らったのです。うちに逆らうなんてとんでもない人ですわ。」



 理解できないものを見るような目で、侯爵令嬢を見たレイは、絡められた腕を振り解いて、彼女を冷ややかに見おろしました。



「貴方は、例えば王族になら、自分が理不尽な暴力を振るわれてもいいとでも?僕はどのような身分であろうと、自分より弱い存在に手をあげるなどしてはならないと思いますが。」

「そ、それは・・・。」



 侯爵令嬢が言葉に詰まります。そりゃ、誰だって殴る方はいいけど、殴られるのは嫌ですよね。



「ラインハルト、緑の辺境伯家の次男だったな。お前のような男が、自分より身分の低い、親戚に庶民がいるような娘を庇う理由がどこにある?」



 侯爵令嬢に代わってラデクが出てきました。

 レイは何の話?というように後ろを振り返り、ルカとアイコンタクトをしました。

 それで理解したのかわかりませんが、にこりともせず、二人に向かって、

「彼女は僕の最愛の婚約者ですよ。一番に護るべき存在です。」

と宣った。



「なんですって!嘘よ、ラインハルト様が婚約だなんて、そんな話聞いていないわ!貴方、どんな卑怯な手を使ってラインハルト様を手に入れたの!」



 侯爵令嬢の顔は、青くなって赤くなってと忙しく移り変わり、最後に私へ扇を突きつけて、喚きました。



「勘違いしないで欲しいな。僕が、リーディアを、手に入れたんだよ。」



 間髪入れず、レイによってその扇は除けられ、ついでに冷たい声で、突き放されます。

 侯爵令嬢は悔しそうにこちらを睨んできました。

 そうしたら、妹をかばってラデクがレイの前に出てきました。

 レイの前にいる私を嫌悪感丸出しで睨みつけてきたので、思わずレイの腕を抜けて後ろに隠れます。

 私はあのような視線を向けられるのは怖いのです。

 背中に隠れ、思わず彼の服の裾を握りしめた私を安心させるように、レイは後ろに回した手でぽんぽんと叩いてくれました。



 それだけで、なんだかすごく安心しました。



 その様子を忌々しそうに見ていたラデクが、同じような表情を浮かべている妹の方をちらりと見遣り、不穏な笑顔を浮かべた。



「辺境伯の息子ともあろうものが、そんな一番劣等な赤い瞳の娘と婚約するなんて信じられん。そういえば、お前の一族には金の髪と青い目を持つ者がいないのではないか?幸い、ダニエラはお前に好意を持っているようだし、その娘はやめて、妹と婚約し直してはどうだ?うちと縁ができる方が辺境伯のためにもなるだろう。」

「まあ、お兄様!ラインハルト様、その子よりうちのほうが位が高いし、私のほうが美しいし、とてもいいお話ですわね?」



 ダニエラ嬢の声が嬉しそうです。



 でも、血統云々を言うのであれば、自分達と同じ髪と目の色の方と結婚されたほうがいいのでは?

 この方達は、どこまでも自分達の良いようにしか考えないのですね。





 ですが、そのラデクの言葉はレイの纏う空気を変えました。

 その冷たく鋭い雰囲気に、私は思わず服を掴んでいた手を離し、一歩後ずさりました。



「彼女の瞳のどこが劣等だって?僕には一番綺麗な色に思えるけど。大体、髪や瞳の色で、人を判断するなど愚の骨頂だよ。しかも、自分の色が一番優れていると?馬鹿馬鹿しい。そういう考えが最近王都で流行っているのは知っているが、ローマン侯爵家までもか。」



 レイはそこまで言うと大きくため息をついて、今度は侯爵令嬢の方を見ます。



「ダニエラ嬢、貴方が何をもって顔の美醜を決めているのか知りませんが、僕にとってリーディアが誰よりも美人でかわいいんです。正直に言うと、貴方は顔も好みじゃないし、気位ばかりが高くて僕は嫌いです。」

「ラ、ラインハルト様?!」



 そのあまりにも直球な断り文句に兄妹が絶句しています。

 レイはさらに、肩をすくめると追い打ちをかけました。



「ついでに言うとね、ラデク殿。うちはね、ローマン侯爵家と縁を結んでも何のメリットもないんだ。だって緑の辺境伯家はこの国最大の領地と収入があるし、現王家と縁続きだし。無理矢理にでも縁を結びたいのはそちらだけだろ。」



 侯爵家とプライドを傷つけられたラデクは顔を真っ赤にして、レイにくってかかります。



「そんなはずはない!うちが一番高貴なんだ。お前はこの話を断ったことをいずれ後悔するぞ!大体、私は次期ローマン侯爵だ。お前なんか、継ぐ爵位もないじゃないか。私にそんな口が聞けると思っているのか!」



「確かに僕は次男だし爵位を継がない。だが、いずれ緑の辺境伯代理か家の騎士団を継ぐんだ。お前と同じように人の上に立たねばならない立場だ。だからこそ、自分と違うものを排除しようとするのではなく、違いを認めて受け入れることこそ大事だと思う。いいか、僕の大事な婚約者を傷つけたことは許さない。これ以上、彼女を侮辱するなら、僕の全てを使ってお前が大事にしているものを奪ってやる。覚悟しとけ。」

「そこまでにしとかないか?」



 その時、頭をかきながら、ルカが二人の間に割って入りました。
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